カテゴリー「IT・技術」の19件の記事

2019年9月16日 (月)

◆米、GAFA規制を強化へーー米IT政策の曲がり角 2019.9.15

 

 GAFAに代表されるIT大手に対する規制が、米国でも強まる。テキサス、NYなどの州政府は、グーグルとFBそれぞれに対し、独禁法違反の疑いで調査を開始すると発表した。IT業界のあり方を変える可能性がある。

▼州政府が調査開始

 テキサス州など50州・地域は9日、グーグルが広告事業で独禁法(反トラスト法)に違反している疑いがあるとして、調査開始を発表した。

 NY州など9州・地域は6日、FBが収集データを利用して利用者の選択を制限したり、広告価格を不当に引き上げた疑いで捜査開始を発表した。

▼欧州の規制

 大手IT企業の情報独占に対する批判は、欧州を中心に数年前から強まっていた。EUは2018年、グーグルに対しスマホのOSアンドロイドの抱合せ販売の疑いで43億ユーロの支払いを命じるなど、競争法を使った規制を強めている。また、優遇税率を利用した課税逃れ防止にも熱心で、アップルとアイルランド政府に143億ドルの支払いを命じている(欧州司法裁判所で係争中)

 こうした欧州の動きに対し、米国はこれまでIT産業の育成を優先し、規制には及び腰だった。しかし今年に入り独禁法適用の姿勢を厳格化すると表明するなど、規制強化の方向を打ち出していた。

▼GAFAの巨大化

 GAFAが世界のIT業界を牛耳る形になったのはここ10年余り。2010年代に入ると4社にマイクロソフトなどを加えた米大手の存在は圧倒的になり、過去数年は時価総額ランキングでも上位5社程度を独占する。グーグルやFBのユーザー数は数十億人。もはやGAFAなしには世界経済が成り立たないような状況になっている。

 一方で、後発の新興企業を早期に買収するなど、新たな新陳代謝の芽を摘んでいるとの弊害も指摘されるようになった。グーグルによるユーチューブの買収、FBによるWhat's upやインスタグラムの買収などが典型例だ。

 大手IT企業の創設年を見ると、マイクロソフトやアップルが1970年代。グーグルやアマゾンが1990年代。フェイスブックが2004年。創業15年のFBを除けば、他社は20年以上を経過する。挑戦者だった新興企業の文化が変わっていっても不思議ではない。

▼独禁法の威力

 当局の規制は、米IT産業の行方にとって決定的に重要だ。旧ATTは1970-80年代の係争を経て1984年に分割。米通信業界はそれまでの独占→競争の時代に入った。マイクロソフトは1990年代の独禁法を巡る司法省との争いでビジネスの制約を受け、アップルやグーグルなど新興企業が発達する背景になった。

 米当局によるGAFAなどへの規制が今後どう推移するかは、現時点では見通し難い。しかし、潮目が変わったのは間違いない。重要な動きだ。

◎ GAFA独占「でも便利」から「おかしいぞ」
◎ ITの お触書替え 3回目

 

2019.9.15

2019年9月 8日 (日)

◆INCD1000号:この20年の世界の変化 2019.9.8

 INCDは2000年7月の創刊から1000号に達した。この間20年弱の世界の変化は、予想を超えるものだった。

▼グローバル化とIT革命、国の形の変化

 20年前に世界をどう見ていたのか。2000年12月30日号のINCD(年間回顧)は、『冷戦後の世界は、経済的には「新産業革命」や「グローバリゼーション」、政治的には「国の形の変化」をキーワードに動いてきた』と指摘している。世界の潮流を見るキーワードは、現在にそのまま通じる。

 ただ具体的な変化の内容となると、当時は想像できなかった形で世界は動いた。2001年の同時多発テロ、2008年のリーマン・ショック、スマホやSNSの普及、アラブの春、中国台頭のスピードなどは予想を超えていた。格差拡大などグローバル化の矛盾は、Brexitやトランプ米大統領の登場、難民危機などの形で顕在化した。

▼世界の枠組み:米国1強→「警察官」不在、テロ、中東混乱の時代

 2000年当時は「米国の1極支配」が論じられた。冷戦後の1990年代を通じ米国の軍事力やハイテクの力は突出。旧ユーゴ紛争などで米国が世界の安保を仕切る姿が目立った。

 しかし翌2001年9月11日の同時テロを契機に局面は変わっていく。世界はテロ戦争の時代に突入。米国はアフガン戦争、イラク戦争を仕掛けるが、中東情勢は泥沼化。米国の権威と指導力は揺らぐ。米国は次第に海外での役割を軽減する姿勢に転じ、「世界の警察官」の役割から降りていく。

 2011年のアラブの春で、中東の混乱の渦は拡大した。シリアやリビア、イエメンなどで内戦が拡大。混乱の中から「イスラム国」のようなテロ集団も台頭した。

 混乱の背景には、世界の安全保障体制とグローバルガバナンスの問題、格差、文明の衝突など様々な問題が指摘される。2019年の今は、イラン問題など新たな紛争リスクが持ち上がる。

▼IT革命

 ITを中心とした新産業革命は潮流としては20年前に予測されたものの、具体的中身は想像を超えた。2000年当時、すでにインターネットは普及していたが(Windows95の登場から5年目)、携帯は一部のユーザーが使うだけだった。Goodleなど検索サービスはまだ初期段階で、iPod(2001年発売)もWikipedia (2002年開始)もYouTube(2006年)もなかった。

 2000年代にはFacebookをはじめとするSNSが発展。2007年にはアップルがiPhoneを発売してスマホの時代に入る。UberやAirbnbなどシェアリングサービスも本格的に始まった。

 2010年代になるとこうしたサービスが急速に浸透。世界の過半数を超える人々がネットでつながり、様々なサービスを受けられる時代が到来した。

 一方でGAFAに代表される大手IT企業が情報を独占し、中国など国家が個人の情報や行動を厳しく監視するようになっている。SNSを通じた情報の流れは世論形成のメカニズムを変え、アラブの春や香港での抗議運動の原動力となる一方、フェイクニュースが横行しトランプ米大統領流の政治を拡大させた。光と影の両面を持って、IT革命は世界を変えている。

▼グローバル化新段階

 1990年以降、グローバル化は貿易や投資の拡大を通じた新興国経済の発展など、明るい面に光が当たった。しかし2000年代以降、負の側面も注目されるようになっていく。

 2001年の同時テロで焦点が当たった「格差」の問題は、その後も解決されることなく推移。「勝ち組」や「負け組」という言葉は世界でも強く意識された。紛争やテロの拡散(グローバル化)は各地の安定を揺るがし、地域紛争は大量の難民を生んだ。2015年の欧州難民危機はその代表だ。

 格差は世界各地でテロの温床となり、先進国ではポピュリズムや反移民・難民運動が横行するようになった。トランプ米大統領は中国に対し貿易戦争を仕掛け、関税引き上げ合戦が加速する。

 グローバル化は明らかに新段階に入った。これが一時の踊り場なのか、見極めは重要だ。

▼リーマン・ショックと世界経済

 2008年のリーマン・ショックとそれに続く世界金融危機を契機に、資本主義体制のあり方が問われた。世界経済を巡っては1980年の米レーガン大統領、英サッチャー首相の時代以降、新自由主義的な考え方が支配的だった。

 しかし世界金融危機では大手金融機関救済に大量の公的資金が使われ、市場万能主義の限界が明確になった。危機直後には資本主義の見直しが必要と強調されたが、議論は進まないまま年月が経過している。

 金融危機後、米国や欧州などは経済立て直しに大胆な金融緩和を実施した。その結果世界恐慌に陥る事態は防止したが、世界経済は大量の緩和資金を抱える構造になった。景気回復後もその資金は回収されず、新たなバブルが発生しているという指摘は多い。

▼中国の台頭

 中国経済はこの20年の間に急速に発展した。期間を通じ年率10%近い成長を維持。2010年には世界第2の経済大国に発展し、2020年代には米国を追い抜く可能性がある。

 1人当たりのGDPは1万ドル近くに到達し、アリババやテンセントなど世界的なハイテク企業も育った。

 リーマン・ショックで新自由主義やそれを中心としたワシントン・コンセンサス信頼が失われた。それに代わるかのような形で、開発独裁的な国家資本主義の元で急速な成長を続けた中国式のモデルが魅力を増した。

 その中国経済も、米トランプ大統領の仕掛けた貿易戦争で局面が変わる可能性がある。今後どう推移するか、注目点の一つだ。

▼環境、社会の変化

 この20年を振り返ると、その他にも重要な変化がある。地球温暖化などの環境問題が世界共通の問題という認識が広がり、様々な取り組みが進んだ。パリ協定など国際的な枠組みはトランプ米政権の離脱など曲折がある。しかし、電気自動車の開発や普及は加速し、欧米など先進国では食の安全(オーガニック食品の普及)やプラスチックごみの規制、エコシティの拡大など実体のある動きが広がっている。

 社会規範も変わった。LGBTの権利は着実に拡大。欧米では同性婚の受け入れが拡大する。安楽死は受け入れが広がり、女性の社会進出は曲折あるものの進展している。ネットの発展で、文化の変化も顕著だ。

▼新たな変化の方向は

 今後に向けた変化の兆しは多様で材料も多い。トランプ米政権は、貿易や安全保障、米中関係など他分野で従来のルールを否定し、新しいルール作りを目指している。第2次世界大戦後秩序の見直しとも言ってもいい。米中の争いは新たな派遣争いかもしれない。

 国家の姿も変わっていく。BrexitやEUの行方は、国民国家の行方を占う。中東の混乱やテロは、イスラムとの共存という問題を突き付ける。

 IT技術の発展は社会の仕組みを変えようとしているが、そのインパクトは未知数。歴史学者のハレリが指摘するような「ホモ・デウス」の時代に進むのであれば、その変化は人類というの存在にも関わる。

 変化は未知数だが、少なくとも、従来の変化を延長する「未来年表」的な予測で見通せるものではない。次の20年の変化が、過去20年の変化より大きいであろうことは間違いないだろう。

◎ メルマガに綴った「リーマン」「テロ」「スマホ」
◎ ネットありウーバーは想像外のふた昔
◎ アメリカの時代が続くと思ってた

20190908

2018年4月16日 (月)

◆FB議会証言とIT規制の行方 2018.4.15

 フェイスブックのザッカーバーグCEOが米議会で証言を行った。テーマは先月発覚した個人情報漏洩事件から、同社のデータ管理体制、プラットフォーマーのビジネスのあり方、大手ITの規制論など幅広い範囲に及んだ。議会証言としては異例の注目だった。

▼プラットフォーマーの発展と特権

 世界を急速に変えるIT革命を推進する中心が、ビッグ5に代表される米大手IT企業。FBやグーグルはネットの情報基盤を提供し、プラットフォーマーと呼ばれる。プラットフォーマーは便利なサービスを無料で提供する代わりに、利用者の情報を入手し、それをベースに広告収入を得る。そんなビジネスモデルが成り立ったのも、プラットフォーマーは利用者が投稿する情報の内容に基本的に責任を負わなくてもよかったためだ(利用者は規制を受けることなく自由に記事を投稿できた)。この点は、掲載内容の責任を問われる伝統的なメディアとは異なる。

 プラットフォーマーが提供するSNSなどのシステムは人々の生活や経済活動を便利にし、人々の貴重な情報源になり、アラブの春のような民主化の動きを後押しした。

 しかし一方で大量の個人情報が吸い上げられ、利用者の知らないところで個人情報が使われることが日常化している。2016年の米大統領選などでは大量の偽情報(ファイクニュース)がSNSを通じて拡散された。個人情報の漏えい事件も多数発生している。ネットを通じて集められた膨大なデータは中国など国家による監視強化の材料にも使われている。

▼規制論

 大手IT企業への情報独占に対してはこれまでも規制論が議論され、EUは今年5月に新たな一般データ保護規則(GDPR)を導入する。これに加え、米国でも規制論が強まってきた格好だ。

 新しい規制のあり方はまだ見えない。規制を強めすぎて技術革新の芽を摘んだら本末転倒だ。ITのサービスは国境を超えて展開しており、1カ国だけの規制は限界がある。従来の競争法や経済学の理論では対応できない。

 それでも、何らかの形の規制が模索されていくのだろう。これまでの「技術革新は自由に」という流れに何らかの変化が出るのは間違いない。

 FBのCEOは個人情報流出問題については自らの責任を認めて陳謝。フェイクニュースの監視強化など対策を表明した。また、政府による何らかの規制が必要なことを認め、法的に規制ができればそれに従うと述べた。証言自体は驚くような内容があったわけでなく、何ら結論を導くものではない。

 しかし、時代の節目として重要な意味を持つ。ザッカーバーグ氏がいつものTシャツではなくスーツ姿だったのは、境遇の変化を印象付ける映像だ。

 蛇足だが、国家による情報独占は、民間企業によるものより実はもっと深刻な問題になり得る。これは常に意識しておく必要がある。

◎ プライバシー「そんなのあった?」と聞く時代
◎ 大小のビッグブラザーが覇を競う
◎ 世直しも扇動も手助けSNS

2018.4.15

2018年3月26日 (月)

◆FBの情報漏洩で鮮明化する「IT大手vs世界」

 米フェイスブックから5000万人以上の個人情報が流出したことが発覚。世界を揺るがしている。

 個人情報は英ケンブリッジ大学教授が学術研究目的で提供されたものを、英コンサル会社に不正に渡したとされる。この情報が2016年の米大統領選で活用された模様。流出は米Nタイムズと英ガーディアンの報道で表面化。FBが後講釈に負われるというよくある(?)パターンとなった。

 同社は当初、第3者による問題でありFBに責任はない、という態度だった。しかし、その後同社に対する批判が拡大。不利用運動も起きるに及び、ザッカーバーグ会長が「誤りを犯した」と謝罪した。

▼大手IT企業の社会的責任

 IT革命が進む中、米大手IT企業の巨大化が加速している。代表がアップルとアルファベット(グーグル)、アマゾン、FB、MSの5社。グーグルやFBはプラットフォーマーと呼ばれ、ネット・インフラで優越的な地位を占める。アマゾンはオンライン通販で独走する。

 成長の背後には制度的な面も見逃せない。FBなどはサービス状で流通する情報の中身について、責任を問われることなくビジネスを展開できた。これが急速な成長を支えてきた。

 しかし情勢は変わりつつある。2016年の米大統領選では、FBやグーグル、ツイッター上に大量のファイクニュースが流れ、選挙戦に影響を与えた。プラットフォーマーに集められた膨大な個人情報が不正使用されたり、本人の意図に反して商売のタネに使われることも数多い。畢竟、大手IT企業への風当たりが強まっている。今回の情報漏洩はそんな流れの中で表面化した。

▼EUのデジタル課税

 IT企業への課税も注目の論点だ。国境を超えたネット取引は急速に拡大。IT企業の売上・利益の把握は困難になっている。適切な課税も難しい。節税を狙った登記上の本社の移転が、世界の税制をゆがめているとの指摘も根強い。

 各国は共通国際ルール作りに向けて協議を始めたが、調整は容易ではない。取引実態が複雑であるだけでなく、各国間の利害対立も大きいためだ。

 EUの欧州委員会は21日、「デジタル課税」の導入を加盟国に提案した。アップルなど巨大IT企業を対象に、売上の3%を課税する。国際的な協議はエンドレスになりかねないと見越し、独自の課税を検討する動きだ。

 ムニューシン米財務長官は早速EU案などに反対する姿勢を表明した。EU内部でも利害対立があり、提案が簡単に実現する状況ではない。しかしEU提案は、新しい動きとして注目に値する。

▼新たなルール作り

 ITの大手5社が世界の時価総額の上位5位を占めたのは2017年。このころから新たな規制論やルール作りの議論が大きくなってきたのは偶然ではないだろう。

 IT大手vs世界の動きが、形を色々変えて出てくるのは必然だ。

◎ 色々なビッグブラザーがいる時代
◎ 個人データ一度出したらヤツらのもの

2018.3.25

2018年2月 4日 (日)

◆FBのICO広告禁止が映すもの 2018.2.4

 ファイスブックが仮想通貨のICOの広告を掲載しないと決めた。同社は昨年後半から偽ニュース防止などで相次ぎ対応策を打ち出しているが、今回は違法でない広告も含め、幅広に禁止する。偽ニュースを拡散させたなどという社会からの批判に応えるものだ。

▽基本戦略の転換

 同社は2004年設立で、SAS最大手。FBの利用者は20億人に上る。IT社会の社会インフラの存在になり、2011年のアラブの春を引き起こす原動力にもなった。同社は自らを「プラットフォーマー」と規定し、コンテンツの内容に対しては価値判断を行わない姿勢で急成長してきた。この基本戦略を転換する。

 同社は昨年後半から、偽ニュース対策などを相次ぎ打ち出してきた。今回の決定もそうした流れに沿うものだ。しかし、ICO広告禁止は同社の主要収入源である広告収入の減少も甘受する決定。禁止の対象としても、従来のように違法なもの(これは当然)だけではなく、「疑わしきは排除する」姿勢を打ち出した。そこに決定の大きな意味がある。

▽GAFAの時代とその社会的責任

 現在は、巨大IT企業が情報化革命を先導する時代と言ってもいい。時価総額の上位5社はアップル、グーグル(アルファベット)、FB、アマゾン、マイクロソフトが並ぶ。4社の名前を取ってGAFAともよく言われる。IT大手は技術革新で世界に大きな恩恵をもたらしてきた。

 しかしIT大手の存在感が大きくなるにつれ、社会的責任を問う声が高まっている。2016年の米大統領選では、偽ニュース(Fake News)の拡散が問題になった。米国の法律はこれまで、ネット業者(プラットフォーマー)に対しそこに掲載されるコンテンツの内容に責任を持たなくていい立場を与えてきた(米通信品位性230条)。しかし、この大原則が問われている。
 
 米議会は昨年11月公聴会を実施。FBとグーグル、ツイッターの幹部に証言を求めた。IT大手に対する世間の批判を背景にした動きだ。

▽難しい規制

 IT大手の情報独占に対する批判も大きくなっている。ただ、規制するにしてもその方法は簡単ではない。通信・表現の自由とのバランスをどうとるか、イノベーションを損なわない形で規制を導入する方法はあるのか、など難問が並ぶ。

 世界に目を広げれば、中国やロシアなど国家による情報規制や情報独占とどう向き合うかという問題にも直面する。既存のルールの延長上では解けない。AIでも解は容易に見つからないはずだ。

▽急速な変化

 旧メディアの世界でも変化は急ピッチだ。1月30日にはトムソン・ロイターがロイター(金融情報サービス)の株式55%を米投資ファンドのブラックストーン・グループなどに売却すると発表した。買収額は200億ドル。IT、メディアの世界では世界的ブランドのM&Aが日常茶飯事で起き、業界の再編が加速する。

 サービス、ルール、産業地図が、連日のように一瞬のうちに変化する。IT・メディアの分野では、世界の変化のダイナミズムが最もよく表れている。

◎ 偽ニュース政治に次いでIT揺れ
◎ GAFAとなり責任問われる時が来た
◎ AIも答えが見えぬ新ルール

2018.2.4

2017年9月19日 (火)

◆自動車・スマホの革命と世界 2017.9.18

 中国がガソリン・ディーゼル車禁止の方向を打ち出した。英国やフランスが2040年禁止を打ち出したのに続く動き。自動車は20世紀初頭以来のガソリン、ディーゼル車中心で発展してきたが、大転換点を迎える。

 一方、スマホは発売から10年を経過し、「次の10年」が始まる。アップルは新製品「iPhoneX」を出した。行方から目を離せない。

▼相次ぐガソリン禁止

 現在世界の自動車保有台数は12.6億台強(2015年)。生産・販売台数は年間9400万台程度だ。ガソリン車やディーゼル車が主体で、EVなどエコカーは年間260万台と全体の3%以下だ(ハイブリッドカーは除く。カリフォルニア州は2018年モデルからハイブリッド車をエコカーの対象外にする予定)。

 しかし英仏や中国の政策もあり、今後急速にEVや他のエコカー化が進むと見るのが妥当だろう。

 主役も変わる。現在の自動車産業は、独VW(フォルクスワーゲン)、トヨタ、GMとルノー・日産連合が1000万台前後を生産。約300万台以上生産しているグループが10以上ある。

 しかしEVとなれば、主役が劇的に変化する可能性がある。EVで躍進するテスラや、グーグル、アマゾンなどのIT大手が絡んでくるのは確実だ。

 EVが本格的に登場してきたのは10年ほど前。欧州などで、半分試験的にプラグインEVの利用が始まり、徐々に普及した。テスラがEV車を投入し本格的に市場に参入したのは2008年。その後販売を拡大し、いまやそれほど珍しい存在ではなくなった。

▼自動運転とカー・シェリング

 自動車業界のパラダイム変化をもたらす動きは、他にもある。一つは自動運転、そしてもう一つはシェアリングエコノミーの動向だ。

 自動運転技術は各国、各社で実験が進み、高速道路などで実現するのはそう遠い将来の話ではない。

 カーシェアリング今や世界の新たな潮流になっている。ウーバーはもちろん、各社が新しいサービスを提供、普及に弾みをかけている。国により状況は異なるが、自動車を考えるキーワードがが「保有」から「利用」に変わっているのは外せないポイントだ。

▼スマホ10年

 9月12日にアップルがiPhoneの新機種「X」(テン)を発表した。誕生から10年を経過したスマホの、今後の発展を期した製品だ。

 アップルⅡが発売され、パソコンの時代が始まったのが40年前の1977年。1995年にはWindows95が登場しインターネットの時代に入った。その後の変化は加速度的だ。主なものを掲げれば以下の通りだ。

1998 グーグル創業
2001 アップルがiPod発売。音楽配信の革命
2004 グーグル上場、Web2.0の時代
2005 ユーチューブがサービス開始
2006 FBがサービス一般公開
2007 スマホ(iPhone)発売、アマゾンがキンドル発売、世界の携帯普及50%超
2010 iPad発売(タブロイド普及)
2011 アップル時価総額世界1に
2014 FB10年、Gメール10年、アリババ上場

▼社会に大きな変化

 スマホの出荷は2011年には通常の携帯(ガラ携)を抜き、2016年の出荷は15億台弱。現在世界では半数近い人がスマホを持ち、「携帯コンピューター」として検索やEコマース、決済などで使っている。
 2015年夏の欧州難民危機の際には、荒れ海をボートで渡る難民にドイツのNGOがスマホで安全航行の情報を提供していた。NYやロンドンの地下鉄で、乗客はスマホでニュースやメールチェックを行っている。ジャカルタやマニラの青空市場では、売り子がシマホを眺め時間を潰す。スマホ所有者は常にネットで世界とつながり、スマホに依存した生活を送るようになっている。

 今日では、「スマホのない生活」を想像するのは困難。スマホは社会の必要欠くべかざるインフラの一部となった。わずか10年前の「スマホのない世界」を想像するのは、だんだん難しくなっていく。

 過去20-30年あまりのIT革命の主役を(一時的に)演じたPCや携帯電話は、販売数字から見ればすでにピークアウトした。スマホの行方も明確ではない(たとえば衣服や身体組み入れの機器などができるかもしれない)。行方には要注意マークを外せない。

 技術革新が経済、社会に大きな変化をもたらす時代。自動車、スマホのニュースに、そうした流れを再度実感する。

◎ ガレージに車を入れてた時代あり
◎ SFに確かになかったガソリン車
◎ 10年でスマホの虜 便利だが

2017.9.18

2017年7月 2日 (日)

◆香港返還・アジア危機・スマホ 2017.7.2

 香港が英国から中国に返還されて1日で20年を迎えた。アジア通貨危機表面化からも20年。6月29日は、アップルがiPhoneを発売し、スマホの時代に入って10年目だった。記念の節目から振り返ると、過去10年、20年の世界の変化がいろいろ見えてくる。

▼中国の拡大

 香港返還の1997年7月、香港は中国のはるかに先を行く存在だった。香港のGDPは中国全体の18%、1人当たりのGDPは中国の35倍だった。香港ドルは人民元に比べ約7%高かった。

 世界と中国の貿易の少なからぬ量が(契約などで)香港を通して行われ、海外から中国への投資は香港経由で行われるものが多かった。海外企業が香港に設立した企業が、中国国内の工場を管理するケースも多かった。文字通り、香港は中国の窓口だった。

 現在(2016年)、香港のGDPは中国の3%以下。1人当たりのGDPも5倍程度に過ぎない。香港ドルの価値は約10年前に人民元より安くなり、現在は約20%低い。

 「中国の高成長はいつか限界が来る」と経済専門家などは指摘した。しかし中国は過去20年間10%近い成長を維持。GDPは2010年に世界2位になり、上海など先進地域の1人当たりGDPは中心国並みだ。アリババやテンセントなど世界的な企業が育った。AIIB設立や一帯一路構想、南アジアへの海洋進出など、中国の拡張は留まるところがない。

 返還後20年で、香港の中国に対する優位性や存在感は、経済規模で見る限り相当縮小した。

▼問われる1国2制度

 香港返還時、中国は香港に対し高度な自治を認める「1国2制度」を向こう50年間維持すると約束した。しかし政治的な動きなどがあるたびに、香港の自由が脅かされる事例が相次いだ。

 代表は2014年の雨傘運動だ。2017年の行政長官線をにらみ、学生ら民主派が自由選挙を要求。中国の意向を受けた当局は、これを力で封じ込めた。

 その後、香港では無力感が高まる一方、中国からの独立を目指す強硬派の台頭も表面化した。

 中国当局は、こうした動きに強硬姿勢を示す。習近平国家主席は1日の記念式典に参加。「中央の権力に対するいかなる挑戦も絶対に許さない」と明言した。中国政府が、「1国」を「2制度」に優先させる立場を改めて示したともいえる。

 香港が中国にない特徴として保持しているのは「法治」を基礎とした経済や社会システム。そして相対的な「自由」だ。今後もこうした特徴を生かし、独自の存在感を示していけるのか。それとも中国の中に埋没してしまうのか。返還20年の節目は、香港が重大な岐路にあることを改めて明示した。

▼通貨危機から成長へ

 タイがバーツのドル連動を断念し、アジア通貨危機が表面化したのは香港変化の翌日の1997年7月2日だった。タイと韓国、インドネシアがIMF監視下に置かれ、フィリピンなどの通貨が混乱した。インドネシア・ルピアは米ドルに対し80%、タイ・バーツや韓国ウォンは50%低下した(その後現在に至るまで、水準は大きく下がったままだ)。インドネシアではスハルト政権が崩壊し、韓国では財閥が解体した。

 通貨危機前、アジア各国は経済成長を追求して海外からの借り入れを急増。金融システムの危機管理はおろそかになった。これが通貨危機の一因だ。

 危機後、各国は金融監視などを強化。アジア国間でも通貨相互融資のチェンマイ・イニシアティブを導入(2005年)するなど危機管理強化に努めた。2008年の世界金融危機の際にもアジアの金融システムが揺らぐことはなかった。

 アジア経済はこの20年、少なくとも数字的には順調な成長を実現している。中国だけでなく、他の地域も高い成長率を維持。近年の成長率はインドが7%以上、中国が6%台、東南アジアが4-5%だ。アジアが世界の経済成長を引っ張る時代が続く。

▼成長を支えた平和、改めて問われる政治

 アジアが成長を実現してきた要因として、平和の維持が大きい。アジアでは1950-70年代のベトナム戦争、その後のカンボジア紛争など1990年代前半まで戦争・紛争が続いた。「紛争のアジア」という言葉が時代を映し、経済の発展は損なわれた。しかし1990年代後半以降大規模な紛争はなく、状況は変わった。

 ただ、現在の平和や政治の安定が危うさを抱えているとの指摘も少なくない。中国は共産党1党独裁の国家。シンガポールやマレーシアも事実上1つの政権が政治を支配する体制が続いている。タイは軍事政権下にある。フィリピンには強権のドゥテルテ大統領が誕生した。

 反グローバリズムの高まり、トランプ米政権の誕生など、世界の枠組みは変わろうとしている。テロの中東からアジアへの拡散の兆候など、新たなリスクも噴出している。

 アジア通貨危機は、経済モデル、金融システムの監視体制のほかに、政治や社会の安定などの問いも突き付けた。それは現在まで引き継がれる。

▼スマホ時代

 iPhone発売から10年の6月29日、アップルのクックCEOはツイッターで「世界を変えた」と発した。iPhoneの累計販売台数は12億台。2016年の世界のスマホの出荷台数は16億台だ。今では世界中の2人に1人以上がインターネットでつながり、フェイスブックの利用者は20億人を超えた。

 世界はICT革命の最中にある。スマホ時代10年目は、時代を考えるのにふさわしい節目だ。

◎ 1国2制度、元々詭弁と知るけれど
◎ 自由より「大中華」響く香港の空
◎ 豊かさは鄧小平の夢に近付くが

2017.7.2

2016年2月21日 (日)

◆アップルvsFBIの意味 201.2.21

 米FBIがアップルに対し、テロ事件の犯人が所有していたiPhoneの個人情報を取り出すよう要求。アップルが拒否した。問題はテロ対策と個人情報保護のどちらを優先させるかというネット時代の大問題を凝縮しており、世界中の注目を集めている。

▼バックドア
 問題はアップルが16日に公開書簡を発表し明らかになった。FBIが求めたのは、2015年12月にカリフォルニア州サンバーナディーノで起きたテロ事件に関する情報。射殺された犯人が持っていたiPhoneの通話記録を解析するため、アップルに暗号解除のソフトを開発するよう命令した。現在のiPhone端末には暗号がかかり、間違ったパスワードを10回入力するとデータが破壊される。現状では、アップル自体も個々の通話情報を取り出すことはできない。

 FBIのアップルに対する要求は、利用者の情報を取り出す「バックドア」と言う仕組みを新たに開発すること。これができれば、これまで取り出せなかった個人情報も抜き出せる。

 アップルは顧客の個人情報保護などを理由に要求を拒否した。これを受けて、米司法省は裁判所に対し、アップルに対して解除を強制するよう求める申し立てを行った。

▼テロ対策vs個人情報保護

 問題の背景には、「テロ対策か個人情報保護か」というネット時代が抱える大問題が横たわる。

 テロ対策に、通話情報などの解析が役に立つのは否定できない。それによりいくつものテロを未然に防いできたことも明確だ。

 一方で、そのような対応が安易に個人情報侵害につながちがちだ。過去の事例が示している。9.11の後に成立した法律の下で、米政府は個人情報を国民の知らないうちに大量に集め、プライバシー侵害などの行為を重ねてきた。そうした実態は、2013年のスノーデン事件などで白日の下にさらされている。

 アップルが拒否した背景には、中国など非民主国家への対応もあったと指摘される。ひとたび「バックドア」追加を認めれば、中国政府などに同様の要求を求められた時に断る根拠を失う。「個人情報保護」は「表現・言論の自由」とも結びつく。

▼割れる見解

 事件に対し世論は割れている。グーグルなどの米IT企業はアップル支持を表明した。一方、大統領選出馬のトランプ氏などはFBIや司法省支持を打ち出している。

 面白いのがメディアの反応だ。米NYTは”Why Apple is Right to Challenge an Order to Help the FBI"という社説を掲載(18日)。米憲法や国内法との関係などから、アップル支持を打ち出している。

 一方英FTは、”Apple's misjudgement over San Bernardino”という社説(18日)で、バックドア開発が中国や中東政府の新たな要求を呼ぶことになるという懸念を認めながらも、テロの懸念をより重視(ただし、ひとことで片づけている)。アップルのクックCEOに反対を取り下げるように要求している。同時に、アップルなど巨大IT企業の影響量の大きさを改めて指摘、その責任を(具体的な形ではないが)追及している。

 メディアの世界でも、評価は分かれている。

▼歴史的位置づけ

 9.11、その後の各国政府による盗聴などの活動強化、ウィキリークス事件、スノーデン事件、「イスラム国」など大きな事件があるたびに、「テロ対策」と「個人情報保護」の関係が議論されてきた。結論は簡単に出る者ではない。また、表に現れない部分ではさらに生々しい動きがあることも容易に想像できる。

 アップルvsFBIの真相もまだ不明なところがある。ただ、この事件がネット時代のあり方を巡る重要な事例として位置付けられることは間違いない。そうした認識で、推移を見守るべきだろう。

2016.2.21

2013年8月11日 (日)

◆ワシントンポストの身売りとメディアの変化 2013.8.11

 アマゾン創業者のベゾス氏がワシントンポスト社の新聞部門を買収した。同紙はウォーターゲート事件の報道でも知られる同国を代表する新聞。新興ネット企業による買収は、メディア業界の変遷と主役交代を象徴する事はもちろん、メディアと権力の関係や世論動向にも影響する。

▼世界に波紋

 ワシントンポスト社はワシントンポスト紙のほかに外交専門誌のフォーリン・ポリシーや教育事業部門などを保有している。今回売却するのは新聞部門。買収価格は2億5000万ドル。ベゾス氏はアマゾンを通じてではなく、個人としてポスト紙を買収する。

 8月4日付のポスト紙は"Grahams to sell The Post"という見出しで売却を報道。ニュースは米国はもちろん世界に波紋を投げかけた。

▼調査報道の金字塔

 ワシントン・ポストは1877年創刊。1930年代からグラハム家が経営を握ってきた。1970年代初めのウォーターゲート事件報道は、ニクソン大統領辞任につながった。

 同事件巡っては、政権からの圧力を社主のキャサリン・グラハム氏らが退けて報道を継続。米調査報道の金字塔とも言われる。こうした歴史に支えられ、同氏はNYタイムズと並び米国を代表する新聞と評されてきた。世論形成への影響力も大きい。

 一方でネット化などの影響で部数は減少。90年代の70万部から最近は40万部台に落ち込んでいた。

▼ネットの雄

 アマゾン・ドット・コムはネット時代を代表する新興企業の1つ。1994年にジェフリー・ベゾス氏が設立した。ネットを通じた書籍の販売という新しい市場を開拓し、その後書籍以外の通販、電子書籍端末のKindleの発売などに事業を拡大した。

 アマゾンの登場により世界の書籍販売の市場は一変。人々の生活を変えた。同社ビジネスモデルを説くキーワードの一つであるロングテールという言葉も広く使われるようになった。1997年にはナスダックに上場した。

 ベゾス氏はアマゾン開始当初から数年間は利益を出せないことを見通し、その上で長期的視点から事業を成功させた。現在アマゾンがGoogleやアップル、フェイスブック、マイクロソフトなどと並びネット時代を先導する企業の1つになっているのも、同氏のビジョンとリーダーシップ抜きには考えられない。

▼メディアの風景一変

 米国を中心とする世界のメディアは、過去20年あまりで風景が一変した。原動力になったのは、IT・ネット技術の発展と事業の国際化だ。

 90年代半ばからのインターネットの急速な普及で、世界の情報の流れは革命的に変化した。それ以前のニュース報道はテレビや新聞が中心だったが、今では「ニュースはネットや携帯から」という人は多い。2011年のアラブの春は、フェイスブックなどのSNSやツイッターが起爆剤になった。ネット広告市場は先進国ではすでに新聞を上回った。

▼加速する再編

 変化の中で、メディアの再編は加速している。

 1990年代には米国中心にテレビ局と映画制作スタジオなどの統合が進んだ。バイアコムのパラマウント買収(93年)、ディズニーのABC買収(95年)、バイアコムのCBS買収(99年、その前の95年にウェスチングハウスが買収したのを再度買収)、2000年のAOLとタイムワーナーの合併などが代表だ。

 21世紀に入ると、伝統的な新聞や報道機関を巻きこむ再編が加速した。2007年のニューズ社によるダウジョーンズ買収(ウォールストリートジャーナル紙発行)やトムソンによるロイター買収などが代表だ。

 米大手新聞社の経営危機が表面化し、シカゴ・トリビューン紙やロサンゼルス・タイムズ紙を発行するトリビューン社が経営破たんした。2009年のクリスチャン・サイエンスモニター紙に見られるように、紙の新聞発行を停止し、電子版だけにする動きも続いた。

 2010年代に入っても、この動きは基本的に変わらない。2013年からニュースウイーク誌は紙の発行を停止し、完全デジタル版に変わった。タイムワーナー社は出版子会社タイムの分離を発表した(実施は14年)。そして、今回のワシントンポストの売却だ。

▼体制は当面変えず

 2007年のニューズ社によるダウジョーンズ(WSJ)買収の際には、ニューズ社のマードック会長による編集介入などへの懸念が声高に叫ばれた。それに比べると、今回の買収への抵抗感などは少ないように見える。

 ドナルド・グラハムCEOはベゾス氏の人柄や手腕が決め手になったとコメント。ベゾス氏は買収後も当面ワシントンポストの経営や編集体制を変えず、編集に直接関与することもないとの姿勢を示した。

 一方で社員向けのメッセージで、「インターネットにより報道業界は様変わりしている」と指摘。時代の変化に応じた変革の必要性を訴えた。

▼EPIC2014の予言

 アマゾンと報道というテーマでは、10年前の2004年にネット上に公開された「EPIC2014」というビデオが話題になったことがある。このビデオは2014年から過去10年のメディアを解雇するという形をとったもの。

 その時には2008年にGoogleとアマゾンが合併して「Googlezon」が誕生。ニュース価値などまでを判断できるプログラムを開発し、優れたニュースサイトを作って市場を席巻していく。その結果、NYタイムズはネットの世界から撤退し、少数部数の紙媒体のみを発行するこじんまりとして存在になっている、という筋立てだ。

 ビデオの中では、SNSとネットサービスの発展、著作権、メディア再編など様々な問題が提起されている。そして何より「Googlezon」という言葉が、ネット時代の新勢力を象徴する言葉として広まった。

 実際の世界はビデオとは異なる展開になっているが、問いかけた問題の本質は変わっていない。

▼問われる報道機関の役割

 買収は報道の役割や国家と報道の関係という、古くて新たしい問題に改めて問いを投げかけた。

 買収決定後、ポスト紙オピニオン・ライターのEugene Robinsonは"Thanks, Graham family"と題する記事で同紙が果たした役割を強調。この他にもワシントンポストのこれまでの業績と、報道機関として求められる役割などに焦点を当てた記事がポスト紙をはじめ各紙に多数掲載された。

 「権力のチェック」という報道機関の伝統的かつ最重要の役割を語る上で、ウォーターゲート事件報道は欠かせない。スクープした記者、調査報道をリードした編集幹部はもちろん、権力との対立というぎりぎりの局面でリスクを負う決断ができた当時の社主キャサリン・グラハムが果たした役割は大きかった。

 ネット革命で情報の流れは変わり、報道機関の役割も問い直されている。アラブの春でみたように、いまやネットの世論形成力は時には新聞など伝統的メディアをしのぐ。しかしネットは情報の洪水になるだけのこともある。

 ネットと紙のコラボレーション、ビジネスモデルの組み替え、新しい企業形態--。伝統メディアは生き残りと時代に即した新しい役割を模索して試行錯誤している。

▼ネット時代のメディア

 従来想定外だった新たな問題も、次々に突きつけられる。米安全保障当局による個人情報の収集問題は、国家だけでなくネット企業やメディアに対しても「安全保障vs個人の権利」「個人情報管理」などの問いを突き付けた。2010年に起きたWikileaks問題も、本質は変わらない。

 中国などでは、ネット規制が一段と強まっている。サイバー攻撃はもはや一部専門家の話ではなく、皆の問題になった。問題意識は、ネット時代のメディア、ネット時代の社会という課題にも及ぶ。

 容易に答の出る問題ではない。買収は、そんなメディアを取り巻く実態や変化を改めて考えさせる。

2013.8.11

2013年2月24日 (日)

◆中国人民解放軍のハッカー関与と世界サイバー戦争の実態 2013.2.24

 米メディアやIT企業へのサイバー攻撃が相次ぎ表面化。米調査会社は中国人民解放軍が関与しているとの報告を発表した。サイバー攻撃への国家関与は専門家の間では半ば常識だが、ここまで明確な形で指摘したのは異例。世界サイバー戦争の一端が浮かび上がってくる。

▼中国を名指し

 米情報セキュリティー会社マンディアント社(Mandiant社)は18日報告を発表。過去数年に起きた、米国を中心とするメディアや企業、組織などへのサイバー攻撃が、中国人民解放軍の関連部隊によって行われたと結論付けた。2006年以降、米国など140以上の企業・組織から情報が盗み出されたとしている。

 今回の報告は、調査が長期かつ専門的に行われたのが特徴。数年におよび追跡調査の結果、攻撃の発信源は上海の特定地域であったと絞り込んだ。そして人民解放軍の「61398部隊」が攻撃を仕掛けている可能性が大きいと名指しした。

 中国は当然ながら反論。中国も多数のサイバー攻撃を受け、米国からのものが多いなどと主張した。しかし中国人民解放軍の関与を公式に指摘したインパクトは大きい。

▼米メディア、IT企業へのサイバー攻撃

 報告書の発表と時期を合わせるかのように、米メディア、IT企業へのサイバー攻撃の発表が相次いだ。1月にはNYTとWSJ、ワシントンポストが、中国からサイバー攻撃を受けたと発表した。NYTへの攻撃は、同紙が温家宝首相一族の蓄財疑惑を報じた時期から始まったという。

 アップルやファイスブック、マイクロソフトもハッキング攻撃を受けたと発表した。ツイッターはサイバー攻撃を受け、個人情報25万人分が流出した。 

▼サイバー戦争の時代

 中国の関与は今回報告書が発表されたことで脚光を浴びたが、サイバー攻撃への国家関与は専門家の間ではずっと前から常識だ。これまでに起きたサイバー攻撃は、主なものだけでも以下のような事例がある。

・1999年:空軍基地の情報盗まれる。ロシアからのハッキングが疑われる。
・1999年:米国やNATOのウエブサイトに攻撃。米国によるベオグラード中国大使館「誤爆」事件の後。事件後米国やNATOのウエブサイトが攻撃の標的となる。
・2003年:イラク戦争で米国がイラクの軍事ネットワークに侵入。
・2007年:エストニアへのサイバー攻撃。主要サイトが使用不能になり銀行決済などが麻痺した。ロシアからのサイバー攻撃が疑われる。
・2007年:イスラエルがシリアの核施設を攻撃。攻撃前にシリアの防空システムにサイバー攻撃。防空システムを無力化する。
・2009年:グルジアに対しサイバー攻撃、グルジアからのネットアクセスが麻痺。グルジア紛争に際して。
・2009年:米国や韓国のコンピューターにサイバー攻撃。北朝鮮からの関与が疑われる。
・2009年:中国からグーグルなどにサイバー攻撃。これを機にグーグルは2010年中国市場からの撤退を発表。

▼サイバー軍

 こうした事態に、各国は対応を急いでいる。

 米国は2009年にサイバー軍を創設した。サイバー空間が陸海空に続く安全保障の第4の領域になったと認識。その上で軍事組織の面でも対応した。中国もサイバー軍を創設。各国も同様だ

 軍の創設に加え、民間の専門家との連携も強めている。元ハッカーの活用も常識。専門知識が何よりものをいう分野であるからだ。

▼インフラへの脅威

 オバマ大統領は2月12日の一般教書で、米国の配送電システムや金融システム、航空管制システムなどインフラがサイバー攻撃の脅威にさらされていると指摘。サイバーセキュリティ強化に関する大統領令を発表した。

 現代社会はネット依存の度合いを深めている。電力もネットで制御されるし、金融取引もネットなしでは機能しない。そうしたインフラがサイバー攻撃を受ければ麻痺する。オバマ大統領の演説も、危機感の強さを表わしている。

▼サイバー戦争の時代

 米政権でサイバー戦略に携わったリチャード・クラークろロバート・ネイクの「世界サーバー戦争」によれば、サイバー戦争はすでに現実のものになっている。ただし、これまでは局地戦しか起きていない。

 これが全面戦争になった場合どうなるか。大混乱に陥る可能性はもちろんだが、混乱にとどまる保証はない。SF小説よろしく、現代社会の枠組み自体が崩壊する懸念も否定できない。

 確実に言えることは、世界はすでにサイバー戦争の時代に入っていること。そしてその実態は、まだ一部垣間見えただけということだ。

2013.2.24

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