カテゴリー「欧州・EU」の77件の記事

2020年8月24日 (月)

◆ベラルーシ混乱とロシアの反体制派暗殺未遂ーー旧ソ連崩壊30年の動き 2020.8.23

 1991年のソ連崩壊から間もなく30年。ベラルーシでは大統領選を受けた混乱が続き、ロシアでは反体制派指導者の暗殺未遂事件が起きた。旧ソ連ではこの手のニュースが弾発的に起きている。

▼ベラルーシ:混乱が継続

 ベラルーシの混乱が続く。きっかけは8月9日の大統領選。選管はルカシェンコ大統領の6選を発表したが、反体制派は不正があったとして抗議活動を展開。1週間を経て事態の行方は見えない。

 ルカシェンコ氏は17日、憲法改正の後に政権を移譲する案を述べるなど、一見柔軟な姿勢も見せた。一方、20日には反対派の評議会を捜査するなど、強硬な態度も崩さない。

 ロシアのプーチン大統領は表立った介入を避けている。一方、ルカシェンコ氏と連絡を取り、必要なら支援する構えを見せている。

 EUは19日オンラインで首脳会議を開きベラルーシ制裁を決めたが、直接介入は見送っている。情勢の行方は不透明だ。

▼独特な歩み

 ルカシェンコ氏は旧ソ連崩壊・ベラルーシ成立からほどない1994年に大統領に就任。以後5期、26年の間、権力を掌握してきた。欧州最後の独裁者とも評される。

 東西冷戦終了後、東欧には民主化の波な押し寄せた。旧ソ連のウクライナやジョージアなどは民主化革命で政権が転覆した。しかしベラルーシは独裁体制を維持してきた。ロシアと強い関係を持つ一方、必ずしも言いなりになっているわけではない。その動きはユニークだ。

 この傾向がまだ続くのか。それとも体制や政治の変化につながるのか。判断の材料も限られており、予断は禁物だ。

▼暗殺未遂:反体制派指導者はドイツに

 ロシアでは著名な反体制派指導者でアレクセイ・ナワリヌイ氏に対する毒殺未遂と思われる事件が発生した。同氏はシベリアからモスクワに戻る航空機内で容体が悪化。緊急着陸し西シベリアの都市の病院に運ばれた。その後、独仏が同氏受入れを表明。ドイツに搬送された。

 同氏の報道課によれば、空港で飲んだお茶に毒が入っていたという。公共の場でこうした事件が起きたことは驚きというほかない。一方、事件が迅速に報道され、ロシアからドイツへの移送が実現したのも驚きだ。

 ロシアではこれまでも、反体制派やジャーナリストなどの暗殺、毒殺事件が多数起きている。さながらスパイ映画のような状況だ。

▼暗部と混沌、情報の圧倒的欠如

 上記ベラルーシの混乱と、ロシアの反体制派毒殺未遂。ソ連解体から約30年を経て、今なお残る暗部や混沌を感じる。同時に、旧ソ連国家の情報をほとんど知らないことに改めて気付く。

 

◎ 30年経てソ連の亡霊なお徘徊 
◎ なお日常、暗殺毒殺ハッキング
◎ 国転覆デジャブのように起きてきた

2020.8.23

 

2020年7月26日 (日)

◆EU復興基金合意の意味 2020.7.26

 EU首脳会議が21日、7500億ユーロの復興基金設立で合意した。新型コロナ被害が深刻な南欧諸国支援などに活用するものだが、(1)EUとして初めて共通債を発行し資金を調達する(2)支援の一部は融資ではなく、返済義務のない補助金となる、などこれまでにない特徴を備える。

 合意によりEUは、コロナ危機で亀裂が深まった危機を回避する。さらに、財政面での協調を一層深め、EUの歴史にとっても重要な節目になる。

▼歴史的な決定

 今回のEU首脳会議は7月17日に開幕。総計5日のマラソン会議を経て21日に合意に達した。

 主な合意内容は、(1)総額7500億ユーロの復興基金を設立する(2)そのうち3900億ユーロは返済義務のない補助金、3600億ユーロは融資とする、(3)基金の原資は欧州委員会が債権を発行して市場から調達する、(4)復興基金は2021-27年のEU中期予算に組み込む、(5)援助を受けた国が適切に使っていない場合はEU首脳会議で協議するーーなど。

 復興基金は、新型コロナ被害の大きかった国の支援を目的としており、総額3900億ユーロはEUのGDPの3%程度に相当する。イタリアやスペインはGDPの5%程度程度の支援を受ける見通しだ。

 欧州委員会がEU共通の債務となる債権を発行するのは初めてで、財政面での協調が進む。これが将来の財政統合への第1歩となる可能性もある。

 そうした意味合いを踏まえ、欧州のメディアは歴史的(ロイター通信)、画期的(landmark)(FT紙)などと報じた。

▼EUの危機を回避

 新型コロナの感染拡大で、EUは深刻な危機に直面した。2月下旬-3月にかけ、まず感染が拡大したイタリアやスペインは医療崩壊など深刻な事態に陥った。しかし他のEU諸国は伊西への支援より自国の感染拡大防止を優先。両国が医療品の支援要請をしても十分に応じない状況だった。

 イタリアやスペインは「何のためのEUか」と批判。マスクなど医療機器支援で外交的攻勢をかける中国に接近する動きも見せた。EU内の亀裂が深まり、南欧などでは反EU感情が高まる危機が強まった。

 EU共通債券を活用した支援は、かねてイタリアなどが要求していたもの。今回の決定で反EU感情の高まりなどの危機はひとまず回避できる情勢になった。

▼メルケル首相の決断

 今回の決定のベースになったのが、5月18日のメルケル独首相とマクロン仏大統領の合意(テレビ会議)である。両者はコロナで被害を受けた経済復興のために、5000億ユーロ規模の基金設立で合意した。

 復興基金は簡単に言えば、「借りる(資金調達する)のはEU、使うのは各国」という仕組み。放漫財政になるリスクも指摘される。

 ドイツは元々財政規律に厳しい立場で、こうした仕組みの基金には慎重だった。2010年代前半-中盤のユーロ危機の際に、ギリシャなどに対し安易な援助を行うことに反対し、支援の際には厳しい条件をつけるよう主張してきた。

 しかし、今回のイタリアやスペインなどの危機は放漫財政から起きたものではなく、新型コロナという予期しない災害から生じたもの。EUが支援を渋れば、南欧などで反EU感情が拡大し、EUそのものの危機にもつながりかねない。メルケル首相はこんな状況を的確に嗅ぎ取り方針転換した、との見方が多い。

▼財政統合への一歩

 復興基金合意には、EUの危機回避の他に、財政面での協調が一歩進んだ意味がある。EU主要国は1999年に共通通貨ユーロを導入し、通貨統合を実現した。しかし、財政面の統合は進まず、「金融政策は共通だが財政策はバラバラ」という状況が続いていた。

 これが2010年代のユーロ危機の一因になったという指摘は多い。EUが将来さらに統合を進め、経済の安定的発展を維持していくためには、財政統合が欠かせないとの見方は根強い。

 今回の復興基金は、EUが共通で債務を負うもので、財政面の協調を一歩進めたものになる。将来の財政統合に向けた一里塚になるという見方もできる。

▼EU内の対立も

 ただ、首脳会議はEU内の対立にも改めて焦点を当てた。財政規律を重視するオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンは、返済義務のない補助金にするとモラルハザードが起き、放漫財政が進むと懸念。補助金ではなく融資にするよう主張した。これらの国は「倹約4カ国」呼ばれた。

 ポーランドやハンガリーなど、東欧諸国の一部が民族主義的な色彩を強め、反民主主義的な傾向を強めていることに対する懸念も指摘された。オランダやデンマーク、フィンランドなどは復興基金からの支援ん決める際、「法の支配」が守られているかを条件にすべきだと主張した。

 会議は倹約4カ国の立場にも配慮し、当初計画より融資の割合を拡大したり、援助が適切に使われていない場合はEU首脳会議で協議する、などの条件を加えた。法の支配を重視する姿勢も打ち出した。

 合意にはこぎつけたものの、北対南、西対東などの対立が改めて浮き彫りになった。

▼EUの将来戦略と世界

 EUはこれまでも、危機をばねに統合を深め、発展してきた。1970-80年代の経済低迷をバネに、1980年代後半の市場統合計画を推進し、1993年に単一市場を発足した。1989年の東西冷戦終了と欧州の流動化を受けて、1990年代に統合を強化し、通貨統合(1999年)や加盟国拡大(2004年の東方拡大など)を実現した。

 英国のEU離脱(2016年の国民投票で決定)を受け、EUは将来に向けた新たな統合戦略を求められているところだった。そこに現在のコロナ危機だ。EUはその機能、能力、統合の将来戦略を問われている。

 復興基金設立では、とりあえず危機のばねが働いた。メルケル独首相らのリーダーシップも発揮された。しかし今後も、困難な課題が相次ぐのは間違いない。

 EUは既存の国民国家の枠組みを超えた歴史的な実験でもある。現在は世界の枠組みが大きく変わり、米国も中国も、国家のあり方や世界における役割を問われている時代。EUの行方は、将来の国際システムや国のあり方といった視点からも興味深い。今回の復興基金合意の意義もそうした脈略の中で捉えたい。

◎ コロナ下でかろうじて利いた危機のばね 
◎ 独宰相の転身に知る危機の淵
◎ 見えぬ未来まずは統合の補強から
◎ 同床異夢で進むしかない新時代

2020.7.26

2020年2月 2日 (日)

◆英国のEU離脱の意味 2020.2.2

 英国が2020年1月31日をもってEUを離脱した。創設以来拡大を続けてきたEUにとって、加盟国の減少は初。戦後の欧州秩序の転換点となる出来事だ。影響は多方面に及ぶ。

▼混乱ない離脱

 英国の離脱は欧州大陸時間の2020年2月1日午前零時(英国時間で2020年1月31日午後11時)に効力を持った。英国では離脱支持者が英国旗(ユニオンジャック)を掲げて離脱達成を祝った。EU本部のあるブリュッセルでは、閣僚理事会や欧州議会などのビルから英国旗が降ろされた。

 離脱はすでに既定事実となっていたので、混乱などはなかった。EU加盟国は静かに、28から27に減少した。

▼移行期間入り、当面焦点の通商交渉

 離脱により、英国とEUは「移行期間」に入る。期限は今年末まで。この期間中は、従来の通商などのルールが維持される。移行期間を遣い、今後の通商関係などを定める新協定の交渉を進める。両者はFTAなどの協定締結を目指す。

 ただし、両者の立場は多くの面で異なる。英国は関税ゼロの維持を目指す一方で、製品の基準(環境規制なども含む)や企業の税制、雇用規則などは自由にしたい考え。これにより、経済の活性化を目指す狙いだ。

 一方のEUは、英国が関税ゼロを目指すのであれば、基準認証や規則をEUに近いものにすべきと主張する。環境や労働規制の甘い国からの商品を自由に流通させるわけにはいかない。「いいとこ取りは許さない」という立場だ。

 関税や基準認証などのルールは複雑で、通常は数年かかる。しかし、ジョンソン英首相は移行期間の延長を排除している。年内に決着しなければ、合意がないまま移行期間切れとなり、「合意なし離脱」と同じような状況になるリスクがある。難しい交渉になるのは間違いない。 

▼EUの転換点

 EU側にとっては、英国の打撃が打撃になることは否定のしようがない。

 第2次大戦後、EUは統合と拡大を進め、欧州安定の核になってきた。1958年に6カ国で成立したEU(当時はEEC)は、合計7回の拡大を経て2013年に28カ国に拡大。5億人を超える人口を抱え、GDPでは米国と並ぶ規模を誇った。1968年に関税同盟、1993年に市場統合を実現。1999年には独仏などが単一通貨ユーロを実現した。

 EUの役割を示す言葉として、よく3つのPが使われる。Peace(平和、安定の基盤)、Power(国際的な存在感、影響力)、Prosperity(統合による経済の発展)の3つだ。

 英国の離脱により、EUの人口は4.4億人程度に、GDPは米国の8割程度に低下する。国際的な政治の影響力などPowerの面でも存在感が低下するのは避けられない。何よりも、「1つの欧州」のイメージが壊れ、欧州が分裂した印象を与えかねない。

▼問われるEUの改革 

 EUは英国の国民投票が2016年に離脱を決めて以降、立て直しに向けた様々な戦略を打ち出してきた。2017年3月には首脳会議で「ローマ宣言」を採択、加盟国により統合へのスピードの違いを認めるマルチスピードによる柔軟な統合促進を打ち出した。2019年12月に就任したフォンデアライエン欧州委員長は、環境対策やデジタル経済育成などの新戦略を打ち出している。従来の枠組みにとらわれない改革を実行し、EUの求心力を高めようという考えだ。

 英国のEU離脱に際し、マクロン仏大統領は「大胆な改革を進めることによってのみ欧州は前進できる」と改革を強調した。EU内には、他の加盟国と異なる意見が多くEUの異分子ともいえた英国の離脱を、EU改革のきっかけにしたいという声が多い。

 問題はどこまで実行できるかだ。EUは加盟各国でのポピュリズムの台頭や、難民・移民問題、硬直的な経済構造など難問を抱えている。真価が問われる。

▼多くの不確定要因

 英国、EUのどちらも不確定要因を抱える。

 英国では、まず経済的な影響が注目される。すでに自動車業界など、生産拠点を英国から大陸欧州に移す動きも出ている。たとえEUとFTAを結んだとしても、「原産地証明」などの書類が必要になる。国境を超えたモノの移動が、これまでより制約されるのは間違いない。

 経済的な面に限られない。スコットランドはEU残留派が多数を占めた地域。離脱の決定で、同地の英国からの独立運動に再度火が付いた。

 英国本当との間に境界ができる形になる北アイルランドの立場も微妙だ。カトリック系住民は、南部のアイルランド共和国との統合強化を望むだろうし、それがプロテスタント系住民との新たな軋轢を生む懸念もある。

 Brexitを巡り2つに割れた国民の分断も解消されない。今後も根強く残ることになる。

 EUが改革を狙ったように進められるかも不透明だ。欧州大陸諸国は、政治動向(各国のポピュリズムや極右政党の台頭)、経済格差(ドイツなど北方の豊かな国と南欧、東欧諸国など)、難民・移民問題など多数の課題を抱える。加盟国の利害、思惑も異なる。

▼欧州の地殻変動

 欧州では東西冷戦の終了後の1990年代初めに、多くの国の体制が変わったり、国家が分裂する地殻変動の時代を経験した。東欧諸国が旧社会主義国から自由主義体制に変わり、旧ユーゴスラビアが分裂した。バルト3国やウクライナがソ連から独立し、チェコスロバキアが円満離婚した。

 今回EUの境界が、初めて縮小という形で変わった。スコットランドなど独立運動に火が付く可能性がある。ポピュリズムや極右政党の台頭で、従来の民主主義の政権とは違う形の政府が出現する可能性もある。それは、世界の民主主義の動向にも影響する。

 Brexitが投げかける課題た幅広い。目を凝らしていく必要がある。

(欧州を見て)
◎ 合意でも離婚は離婚別れ歌 
◎ 大欧州3本の矢がばらけた日

(英国を見て)
◎ 半分だけ笑顔で国旗 離脱の日
◎ 離脱派が舌を返して「連合こそ」
 

※過去に掲載したBrexit関係の記事は以下の通り。
◆英総選挙のインパクトーーBrexitの確定とEUの行方 2019.12.15
http://incdclub.cocolog-nifty.com/blog/2019/12/post-3ba492.html
◆Brexitから1年の世界 2017.6.24
http://incdclub.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/brexit1-2017624.html
◆英総選挙の衝撃―混迷拡大は必至、EU離脱交渉に暗雲 2017.6.11
http://incdclub.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/eu-2017611-c0d0.html
◆英EU離脱の余波 2016.7.3
http://incdclub.cocolog-nifty.com/blog/2016/07/eu-201673-978a.html
◆英国のEU離脱の影響 2016.6.26
http://incdclub.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/eu2016626-851c.html

2020.2.2

 

2019年12月15日 (日)

◆英総選挙のインパクトーーBrexitの確定とEUの行方 2019.12.15

 英国の総選挙(12月12日)で保守党が過半数を制し、2020年のEU離脱に道筋がついた。Brexit後の欧州と英国はどちらの方向に進むのか。

▼保守党勝利でEU離脱に道筋

 選挙は保守党が650議席中365議席を獲得し、選挙前の298議席から67議席増やし過半数(326議席)を大きく上回った。野党第1党の労働党は243→203議席に減らし惨敗した。

 選挙では保守党のジョンソン首相が、2019年10月に決まったEUとの合意に基づき来年1月末に離脱すると主張。これに対し労働党は再度の国民投票を掲げ、離脱か残留かの主張を明確にしなかった。

 現地メディアの報道などによると、労働党の煮え切らない態度に支持離れが進んだ。従来同党の牙城だったイングランド北部の選挙区で、労働党→保守党へ投票を変えた有権者も多い。

 選挙の結果、英国のEUからの2020年1月離脱がほぼ確定した。

▼3年半の迷走

 英国は2016年6月の国民投票でEU離脱を選択した。しかし、その後の対応は混乱を極めた。

 国民投票では離脱支持と残留支持で国民が2分し、離脱の内容も曖昧なままだった(関税同盟や単一市場からも離脱するかどうかなど)。国内はEUとの合意なしの離脱も辞さない強硬派や、合意あり離脱に固執する穏健派、さらには再度の国民投票を求める立場などに分断された。

 国民投票後の2016年7月に発足したメイ政権は、保守党内のとりまとめに腐心。2017年5月に総選挙に打って出たが、過半数を失い政治基盤が弱体化した。その後、強硬離脱と穏健離脱の間を揺れ、苦労して2018年11月にまとめたEUとの合意は議会で再三否決された。その結果、2019年5月に辞意表明に追い込まれた。

▼ジョンソン政権誕生→Brexitにメド

 その後2019年7月にジョンソン政権が発足。同首相は2019年10月、EUとの間で新合意にこぎつけた。

 合意内容は離脱のボトルネックになっていた北アイルランドとアイルランド共和国の国境管理問題で、英国と北アイルランドの一体よりも国境の自由移動を重視したもの。北アイルランド切り捨てともいえる内容だ。

 この合意を巡っても国会で承認が得られない状況が続いたが、総選挙の勝利で合意承認→来年1月の離脱がほぼ確定した。

▼今後の通商関係は流動的

 Brexitにより英国はEUの単一市場や関税同盟から抜けるが、2020年末までは、暫定措置としてこれまで通りの立場を維持する。その期間中に、離脱後の新しい通商関係の協議をする。

 両者は自由貿易協定の締結などを想定するが、交渉は複雑で短期間にどこまでまとまるか定かではない。お互いに相手に一方的に有利な内容は受け入れないとの立場がある。期限内に合意できず、合意なし離脱に近いような状況に陥るリスクはまだ消えていない。

 英国民投票からすでに3年半を経過し、民間企業などでは「離脱後」を見越した準備も進んでいる。大手自動車メーカーは相次ぎ、英国の制裁拠点の縮小や撤退計画を打ち出した。

▼スコットランド独立の動き?

 そうした経済的な影響はもちろん重要だが、それ以上に大きな影響があり得るのが政治的な動きだ。

 英国では今回の総選挙で、スコットランド民族党が躍進した。スコットランドは元々EU残留派が多く、独立運動に火が付く可能性がある。同党のスカージョン党首は13日、スコットランド人には将来の選択をする自由があると強調した。

 北アイルランドのプロテスタント系住民が支持する民主統一党(DUP)は、保守党に閣外協力してきた。しかし10月の合意が事実上北アイルランド切り捨てになったことからジョンソン政権を「裏切り」と批判する。アイルランド系住民は元々、南のアイルランド共和国との一体化に前向きだ。EU離脱で不測の事態発生や構図が変わる可能性が生じる。

 英国でスコットランド独立などの動きが出てくれば、それはスペインのカタルーニャなど欧州の他の地域独立運動に影響する。

▼縮小に転じるEU

 EUは1958年の創設以来、拡大を続け28カ国にまで拡大した。しかし英国の離脱で初の縮小に転じる(1985年に自治領だったグリーンランドが脱退した事例はある)。

 EUは単一市場を形成し、ユーロ圏においては共通通貨を発行するなど、経済統合を進めてきた。また共通の外交、安保政策を強化するなど、欧州の枠組みの中心の存在になった。冷戦終了期に混乱が回避でき、東欧諸国が比較的円滑に西欧と融合したのも、EUがあったためだ。

 2010年代にEUはユーロ危機や欧州通貨危機を経験し、求心力低下が叫ばれる。それでもEUは欧州という枠組みの核だ。

 国際的な舞台でEUが発言力や影響力を発揮できる背景には、欧州のほぼすべての主要国が加わる規模の力もあった。加盟国の縮小は、力や影響力の低下につながる。

▼問われるEUの存在意義

 EUは2016年の英国民投票まで、加盟国の離脱を事実上想定しない運営をしてきた。初の離脱で、基本的な仕組みや考え方に問いが突き付けられている。

 具体的な課題としても、難民問題への対応、極右やポピュリスト政党台頭への対処などEUの基本理念や戦略を問われる問題が多い。

 EUは英国民投票以降、こうした問題への協議を繰り返した。しかし人々を引き付ける、具体的な青写真は示せていない。

▼欧州の地殻変動

 欧州の枠組み、線引きは、冷戦が終了した1990年代前半以来の変動の時期を迎えた。

 Brexitの意味として、格差拡大への不満の発露やポピュリズムの台頭、移民問題などが指摘されることが多い。加えて、欧州の地政学に与える影響は甚大だ。今後、玉突きのように様々な変化が起きると心した方がいいだろう。

◎ Brexit 分断の時代の鍵言葉
◎ 英国と大陸の距離改めて
◎ 欧州の地図の塗り替え再号令

2019.12.15

 

 

2019年12月 8日 (日)

◆NATO首脳会談と冷戦後30年 2019.12.8

 NATO首脳会談が3-4日、ロンドンで開催。NATOと世界の置かれた現状を映した。

▼米欧の軋轢

 今回の首脳会議は、創設70年と冷戦終了30年を記念するもの。節目を機に、加盟国の結束や新時代に向けた戦略を示すのが本来の目的だった。

 実態は、全く異なる。米トランプ政権の誕生をきっかけに米欧の亀裂が安全保障、通商など様々な分野で拡大している。今回の首脳会議でも、結束よりも軋みばかりが目立った。 

 カナダのトルドー首相はトランプ米大統領のメディア対応などを揶揄。これを知ったトランプ氏がツイッターでトルドー氏を「2枚舌」と攻撃するなど、同盟国の外交舞台と思えないような軋轢が表面化した。

▼中国、ロシア、サイバー

 会議に先立ち、マクロン仏大統領は英Economist誌とのインタビューでNATOは「脳死状態」と表現。問題の深刻さを際立たせた(マクロン発言の背景には、NATOに頼らない欧州の安保機能強化の狙いもある)。

 首脳会議が採択した宣言は、ロシアの脅威や中国台頭への対応を重視。サイバー攻撃対応を強調した。テロや拡散などへの備えや、アフガニスタンなど地域問題にも言及した。しかし、米欧間で姿勢の違いが目立つイラン核問題やパレスチナ問題は触れなかった。

 宣言は、欧州諸国が軍事費拡大に努める旨を記述した。米国の意向を受けたものだ。これが第2項目に記述され、上記の世界的な課題や戦略より前に来た。印象的な構成だ。

▼存立基盤の揺らぎ

 1949年創設のNATOは、冷戦を勝利に導いた。冷戦後は機能を地域紛争対応などに転換し、西側同盟の安全保障の基盤として存在価値を維持してきた。

 しかし、近年米欧の対立が激しくなり、その存立基盤の揺らぎも指摘される。

 首脳会議は、世界の行方の不確実性を改めて映したようにも見える。

2019.12.08

 

 

2019年11月10日 (日)

◆ベルリンの壁崩壊30年と世界 2019.11.10

 ベルリンの壁崩壊から9日で30年を経過。ベルリンで記念式典が開かれた。30年と言えば1世代。世界の変化を振り返るのに良い機会だ。

▼分裂していた世界の統合

 1989年の壁崩壊は冷戦を終了させ、旧ソ連陣営は崩壊。東欧はその後ヨーロッパに復帰した。世界的には東西2大陣営に分かれていた体制の垣根が崩れ、全世界が1つのシステム下の体制となり、グローバル化が加速した。

 壁崩壊当初は民主主義と自由主義経済が世界の基準として定着していくという楽観論が強かった。しかし、事態はそう単純ではなかった。

▼世界金融危機とテロ・紛争

 経済グローバル化は世界の成長を加速し、人々の生活を豊かにしていくと期待された。しかし実際には格差拡大などの問題が深刻化。2008年のリーマンショックとそれに続く世界金融危機は、資本主義体制の欠陥を表面化させた。冷戦時代の東西対立に代わって地域紛争が各地で発生。世界の安全保障を揺るがした。

 2001年の同時多発テロは世界がテロ戦争の時代にある事をあらわにした。その後中東や欧州などでテロが続発する状況が続く。

 中東は混乱が止まず、世界の火薬庫であり続ける。テロの発生源である状況も変わらない。2011年のアラブの春は、結果的に混乱の拡大を生み、シリアやイエメンなどでは内戦が止まらない。混乱は「イスラム国」のような時代の鬼子も生んだ。

▼民主主義の危機

 欧米では成長の恩恵から取り残された人々の増加を背景に、ポピュリズムや反移民・難民政党が勢い付いた。民主主義が揺らいでいる。米トランプ政権の誕生、英国のEU離脱(Brexit)の動き、欧州のポピュリズムや極右政党の台頭、トルコなど強権色の強い政権の誕生などは、同根を持つ。

 民主主義に対する挑戦は、米国流の「ワシントン・コンセンサス」に対する開発独裁的な「北京コンセンサス」の挑戦という形でも表れる。共産党1党独裁の中国は、過去30年間に年率10%近い驚異的な成長を続け、2010年からは世界第2位の経済大国になった。

▼IT革命の影響、踊り場のグローバル化

 これからの世界がどう進むかを予測するのは難しい。ただ、ヒントはいくつか考えられる。

 ネットを中心としてIT革命はこの30年間加速し、人々の生活や経済を決定的に変えた。この流れが止まることはないだろう。ただし、これからは巨大IT企業や国家による情報独占や、IT技術が人の体やあり方を変えるような、非連続的な変化も想定できる。

 グローバル化は踊り場に差し掛かった。それでも、モノやサービス、情報の流れが国境を超えて加速する潮流は、長期的には変われないように見える。特に情報やサービスの国境を超えた移動は加速しそうだ。

▼消えたユーフォリア、改善点も

 民主主義が持ちこたえるのか。文明の衝突や、キリスト教徒イスラム教のような宗教の衝突はないのか。先行き不透明な「大問題」は数多く存在する。

 30年前のユーフォリア(幸福感)や楽観主義は、すっかり消え去った。それでも、30年間に世界が悪くなったとは言い切れない。技術革新の恩恵で、世界がよくなった点も多い。途上国伊置ける貧困率の減少などはそこに含まれるのだろう。

 ベルリンの壁の問いかけ。答えが見えない者は多く、問いは深く、重い。

◎ 30年(みとせ)前、世界は良くなったと思った日
◎ 冷めた夢それでも世界は持っている
◎ 民主主義「危機」と叫んでさてどう動く

2019.11.10

 

 

 

2019年8月27日 (火)

◆G7首脳会議が映した世界の変化 2019.8.26

 G7首脳会議が24-26日、仏南西部ビアリッツで開かれた。会議は米トランプ大統領に掻き回され、通商や環境など多くの問題で意見の違いが際立った。40年以上に渡る会議で初めて包括的な首脳宣言の採択を見送るなど、世界の変化を映した。

▼包括的首脳宣言なし

 今年の会議は包括的首脳宣言の採択を見送った。採択見送りは前身のG5首脳会議が1975年に始まって以来初めてだ。

 首脳宣言は世界が直面する経済・政治問題全体をカバーし、G7首脳の共通認識や、協力して取り組むべき政策などを示してきた。向こう1年の世界の針路を示すものともいえた。内容は詳細で、2016年の伊勢志摩サミットの場合32ページだった。

 これに対して今年のサミットの「宣言」(G7 Leaders’ Declaration)は1枚。内容は、通商、イラン、ウクライナ、リビア、香港情勢の5項目で、いずれも1-4行のとどまる。宣言というよりメモのような形だ。

▼トランプ時代のサミット

 トランプ米大統領が2017年に登場してから3年。大統領はそれまで米欧など先進国の共通認識だった保護主義反対や多国間主義重視に異を唱え、自国利益第一(米国第一)の立場を鮮明にした。米国は地球温高防止のパリ条約や、イラン核合意からも脱退した。

 G7首脳会議に対しても懐疑的な姿勢を取り、不要論を公然を唱える場面もあった。昨年(2018年)のカナダでのサミットは首脳宣言にいったん合意したが、終了後に署名を拒否、混乱に陥らせた。

 こうした「トランプ時代の現実」を踏まえ、議長国フランスは最初から包括的首脳宣言の採択を前提としないで準備を進めた。その結果が包括的首脳宣言なしだ。

▼「保護主義反対」を言わない世界

 G7首脳会議は元々、世界経済を議論するために始まった会議。その世界経済を揺り動かすのが米中貿易戦争だ。会議で各首脳は米中貿易戦争に懸念を示したが、それ以上の具体的な議論は進まなかった。

 宣言には世界経済の安定希望など常識論を盛り込んだ。また米国の立場に配慮してWTOの抜本的な改革の必要性を指摘した。一方、トランプ大統領の登場以降、主要な国際会議の宣言から消えた「保護主義反対」の表現は今回もなかった。それどころか議論も行われなかった。

▼地球温暖化問題とアマゾン火災

 地球温暖化問題も米国と仏独などが対立したままだった。議長国フランスのマクロン大統領は温暖化問題を正面から取り上げて、トランプ米大統領と衝突するのを避け、からめ手で環境問題の議論を進めた。

 焦点を当てたのがアマゾンの火災。アマゾンは地球全体の酸素の5分の1を生み出していると推測されるが、今年に入り火災が急増している。ブラジルのボルソナーロ大統領が自然保護より開発優先の政策を打ち出し、その結果、農地開発や牧畜のため森林焼却が増えているためとされる。

 G7で取り上げたことから、この問題を巡る国際的な報道が急増。ブラジルに対する国際世論の批判が高まった。G7としても2000慢ドルの緊急支援など支援策を表明した。ボルソナーロ氏は支援を拒否したものの、国際世論に配慮し、軍隊を派遣し消火活動に動き出した。

▼イラン外相の電撃訪問

 マクロン氏はイラン問題でも独自色を出した。会議の場所にイランのザリフ外相を招き同氏の電撃訪問を実現。イラン核問題に新たな議論を引き起こした。訪問は、米国との事前調整などなしに進めたと報じられる。

 首脳会議にはアジアや中東、アフリカの首脳も招き、G7の枠組みの会合のほか、拡大版の会合も多数開催した。

▼首脳間の相性

 G7サミットの中継からは、首脳間の関係の良し悪しや相性も伝わってきた。夫人とともに各国首脳を迎えたマクロン氏は、メルケル独首相、トルドー・カナダ首相らとは親密に抱き合った上で話をし、良好な関係を示した。

 トランプ米大統領とはぎこちない握手の一方、会話に努めているように見えた。ジョンソン英首相とは、冷めた感じの握手ばかりが目立った。日本の安倍首相は緊密に迎えたが、直接の会話が難しいせいか共にいた時間は少なかった。

▼変化を映す場面

 米CNNは首脳会議について、"Trump's Chaos on full display at G7" (トランプが引っ掻き回したG7)と論じた。トランプ時代の現実をよく表現する。一方で、中国やロシアが不在であるのもG7の現実だ。

 今年のG7首脳会議は例年以上に話題が多く、見えてくるものも多かった。

◎ G7昔は世界を仕切ってた
◎ トランプで会議ゴタゴタ織り込み済み
◎ 「価値観を共有」と言った4年前
◎ アマゾンの火災に唸る10億人

2019.8.26

 

 

2019年7月29日 (月)

◆英ジョンソン新首相の意味 0219.7.28

 英国首相にボリス・ジョンソン元外相(55)が就任した。英国のEU離脱をリードした強硬離脱派の中心人物。型にはまらない言動で国民の人気が高い一方、言動の幅が大きくポピュリスト的な面もある。ジョンソン首相誕生で合意なし離脱のリスクが高まったが、Brexitの行方はなお不透明だ。英国の政治的混乱も続く。英政治の劣化を指摘する意見も多い。

▼離脱強硬派の新政権

 ジョンソン氏は、メイ前首相(前保守党首)辞任に伴う与党保守党の党首選を制して首相就任が決まった。約16万人の保守党員による選挙は、ジョンソン氏が9万2000票でハント外相(4万6000票)に圧勝した。これを受けてジョンソン氏は24日、エリザベス女王から首相に任命された。

 ジョンソン氏は24日、新政権の閣僚を発表。ほぼ全員を離脱強硬派で固めた。与党保守党からはBrexitを巡り離党者が相次ぎ、閣外協力を得ている北アイルランドのDUP(民主統一党)を合わせても実質過半数ギリギリ。政権基盤が脆弱な形での船出だ。

▼ポピュリスト的な側面?

 ジョンソン氏は新聞記者出身。保守党下院議員を経て2008-16年にロンドン市長を務めた。その後、下院議員としてEUからの離脱キャンペーンを先導。国民投票後に成立したメイ前首相の政権では外相を務めた。しかしメイ首相が2018年夏にEUとの関係を重視する離脱(穏健離脱)に転じると外相を辞任した。

 イートン→オクスフォードの典型的なエリート。しかし、歯に衣着せぬ発言と型破りな言動で庶民の人気をつかむカリスマ政治家の要素がある。ロンドン市場時代には自転車で通勤し話題になった。

 一方で主義主張に一貫性がなく、ポピュリスト的な側面があるとの批判も多い。元々反EUの色彩は強かったが、一貫してEU離脱派の先頭に立っていたわけではない。国民投票で離脱支持を鮮明にしたのは投票の4か月前だ。それも、ライバル関係にあったキャメロン元首相との関係を考えた判断、との報道がある。道化師的との評価は、定着していると言ってもいい。

▼Brexitの先行きは不透明

 ジョンソン氏は首相就任後、10月31日に離脱を何が何でも実現すると強調。EUとの交渉に期待を寄せつつも、交渉が不調な場合合意なし離脱も辞さないと述べた。しかし、実際に交渉をどのように進めたいかなど、具体策は示さなかった。

 懸案の北アイルランドの国境問題は、解決のめどがつくまで英国全体を関税同盟に残すという「バックストップ」に反対すると強調した。しかし、具体性のある代替案は示していない。

 EU側はメイ政権と合意した離脱案の微調整はあっても、再交渉には応じないとのスタンスを変えない。Brexitの行方は全く不透明なままだ。

▼解散や再度の国民投票の観測も

 保守党内にも合意なし離脱派避けるべきだ、との意見が多い。ジョンソン首相が強硬離脱で突っ走ろうとしても、下院が認めない可能性もある。そうなれば、解散・総選挙や2度目の国民投票が避けられない、という観測も出ている。

 Brexitの行方は、英国政治の行方とも表裏一体。ともに、先行き不透明の状態が続く野は避けられない。

▼英国の政治の劣化

 それにしても、英国政治の混乱は目を覆う。Brexitから3年以上を経過し、何も決められない状況が続く。国民の意見は分裂したまま。無責任なポピュリズム的な訴えに支持が集まる状況が続く。5月の欧州議会選では反移民のBrexit党が英国で最大の議席を獲得した。 

 仮に合意なし離脱になれば、経済的な混乱が拡大するだけにとどまらない。北アイルランド情勢の悪化や、悪くすれば紛争再燃の懸念も増す。スコットランドの独立問題が再燃する可能性も高い。

 強硬離脱派は「主権の回復が第一」と強調するが、こうしたリスクを十分に考えて対応しているのか。どうも、そうでないように思えてならない。

 もちろん、政治の劣化が指摘されるのは英国だけではない。フランスやドイツもポピュリスト政党や極右・反移民政党の台頭に悩む。イタリアではポピュリストと極右の連立政権が誕生した。米国はトランプ政権を選択した。しかし、英国の場合、小選挙区制に基づく議院内閣制に支えられて政治はここ30-40年、比較的安定していた。これがBrexitを契機に急速に揺らいだように見える。

 英国が保守党と労働党を2大政党とする政治体制に入ったのが1920年代(それまでは保守党と自由党の2大政党)。女性参政権が完全な形で実現したのは1928年だ(制限付きは1918年から)。それから100年近くを経過し、制度疲労を起こしているのだろうか。

◎ 道化師に宰相託す老大国 
◎ 混乱の上乗せの予感 新首相

 

 

 

 

 

 

 

2019年7月23日 (火)

◆トランプ氏のGo Back発言の波紋 2019.7.21

 トランプ米大統領が野党民主党急進派の女性議員らに「国に帰ったら」とツイッターで発信。これに内外で批判が高まり、波紋を広げている。ドイツのメルケル首相は公然とトランプ氏を批判、米欧の首脳間で価値観を巡る対立が公然化するなど、事態は尋常ではない。

 ツイッター発信は14日に行われた。Huffington Post日本語版によれば、ツイートは「興味深いことがあります。いわゆる“進歩的“な民主党の女性議員たちはもともと、政府が完全に崩壊していて、最悪で、腐敗していて、世界中のどこにあっても機能しない国の出身です。(もしそれが政府と言えるならの話ですが…)」

 「そんな議員たちが、地球上で最も偉大で最も強力な国家であるアメリカ合衆国の人々に、私たちの政権運営への悪口を吹聴しています。なぜ彼女たちは政府が崩壊して犯罪が蔓延している出身地に戻って、手助けしないのでしょう?」

 「その後戻ってきて、どうやって解決したのか教えて欲しい。そうした国は、あなた方の援助をひどく必要としているから、簡単には戻って来れないがね。(民主党の)ナンシー・ペロシ下院議長が喜んで無料の旅券を手配してくれると確信しています!」

▼民主党4議員

 女性議員の名指しはしなかったが、幼少期にソマリアから移住したイルハン・オマル氏、プエルトリコ系のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏、パレスチナ系のラシダ・タリーブ氏、アフリカ系のアヤンナ・プレスリー氏の4人とみられている。

 ツイートは直ちに世界に拡散。トランプ氏の"Go back to your country"発言として認識された。

 4人は15日会見し白人至上主義の考えであるなどと批判。下院は16日大統領批判の決議を採択した。海外ではメルケル独首相が会見でトランプ発言(発信)を批判、自分は4人の議員側に寄り添うと表明した。

▼白人至上主義の影

 トランプ支持者は集会で発言を歓迎。トランプ氏の"Go back"をさらに強めて"Send back"などと連呼する動きも出た。これにはさすがにトランプ氏も距離を置いた。

 言葉の細かいニュアンスなどについては議論が分かれるところがあるだろう。しかし、米大統領がここまで人種差別に無警戒な発言をし、社会にインパクトを与えた例は少ない。トランプ支持層に、本音では白人至上主義の人々が多く含まれている表れと見ることも可能かもしれない。メルケル独首相が論争に参加するのも異例だ。

 トランプ氏はビジネスマン時代、テレビ番組で"You are fired"の発言で一段と有名になった。私企業(のモデル)ならとにかく、国が”Go Back"と言ったら基本的人権に抵触する問題だ。

 

 トランプ発言の一つとして、歴史的にも記録されるものになるだろう。しかし後味はかなり悪い。

 

◎ 「米国第1」も「国に帰れ」もはや定着
◎ "Go Back" トランプの姿に重なりぬ

2018年12月11日 (火)

◆仏・反マクロン大統領デモの衝撃 2018.12.10

 フランスでマクロン大統領の進める改革に抵抗するデモが拡大。仏社会を揺るがしている。

▼週末の連続デモ

 直接のきっかけは燃料費の値上げ。政府は2019年1月からガソリンなど燃料費を引き上げる政策を打ち出した。これに対し11月中旬から週末に全国的なデモが発生。パリなどでは一部が暴徒化し、治安部隊と衝突して死傷者も出た。

 12月1日のデモには13万人あまりが参加。南仏で1人が死亡し、パリでは130人以上が負傷した。凱旋門に落書きがされ、自動車が焼き討ちに遭った。12月8日のデモには12万人以上が参加。1700人が逮捕されたと報道される。

 デモ発生以来、パリの中心部では週末になると店舗がシャッターを降ろして閉店。ルーブル博物館やオルセー美術館など観光地も閉鎖された。観光や経済への影響も広がっている。

▼SNSで拡大

 デモは中心になって組織した団体などがあるわけでない。SNSの呼びかけに人々が集まる格好だ。具体的な要求も整理されているわけではない。燃料費値上げ反対のほか、賃金引上げ、マクロン退陣、格差反対など様々だ。

 人々の不満が反マクロンのデモに表れた格好だ。加えてデモ隊の中にはカサーと呼ばれる過激派が入り込み、破壊活動を扇動している。極右や極左政党はデモをマクロン政権攻撃の材料にしている。

▼遅い成果、高まる不満

 2017年5月の就任後、マクロン大統領は経済改革を推進した。公務員12万人の削減を計画。硬直的と言われる労働市場の改革も打ち出し、雇用・解雇をしやすくする労働法改正を決めた。社会保障改革や社会保障増税を決定し、環境対策を狙い燃料税増税も打ち出した。一方、経済活性化のために「富裕税」と呼ばれる税の廃止も実施した。

 しかし改革の成果はたやすく出てくるものではない。負担増ばかりが先行していると受け止められ、富裕税廃止などで「金持ち優先」の批判も高まった。

 マクロン氏の支持率は就任当初の60%超から最近は20%程度にまで低下している。

▼親EU、国際協調の旗振り

 マクロン大統領はEUや国際政治の世界でも存在感を増していた。

 そもそもマクロン大統領は、反EUや反移民を打ち出す国民戦線のルペン候補を破って大統領に当選した。EU政策のスタンスは、常に親EU。難民問題などでEUが困難に直面すると、メルケル独首相と共にまとめ役として奔走した。

 欧州では近年、反移民や反EUを掲げる極右政党やポピュリスト政党が台頭し、内向き傾向が強まっている。こうした中でマクロン氏は、リベラルな価値観を打ち出し、親EUを唱える人々の中心となっている。

 世界ではトランプ米大統領が米国第1を唱え、保護主義的な貿易政策やパリ協定からの脱退、イラン核合意離脱など国際協調に背を向ける政策を進めている。マクロン氏はこれに対し、国際協調路線の重要性を説き、自由貿易を強調してきた。

 9月の国連演説や11月の第1次世界大戦終戦100年の式典でもこうした姿勢を鮮明にし、トランプvsマクロンの構図が映し出された。

▼正念場

 そのマクロン氏が改革への抵抗に遭い窮地に陥っている。

 フランスではこれまでもデモにより政治が大きく動いた事例がある。1968-69年にゼネストやデモがきっかけになってドゴール大統領時代が終わったのは代表だ。

 マクロン大統領は10日午後に国民向けに演説。最低賃金の引き上げなどを約束した。しかし効果は未知数で、事態収拾の道筋は見えない。

 39歳の若さで大統領に就任して1年半。マクロン氏の求心力低下が進めば、フランスのみならず欧州全体や世界にも影響する。正に正念場だ。

◎ 催涙弾の向こうに揺らぐ改革案
◎ 混乱に極右の笑い背が凍る
◎ パリ燃えて欧州揺れる冬来たる

2018.12.10

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