カテゴリー「社会」の17件の記事

2020年6月30日 (火)

◆コロナ「感染確認者1000万人」の風景 2020.6.28

 新型コロナウイルスの感染確認者が1000万人を超えた。「確認者」の信頼性や意味には議論があるが、節目の数字としては重要だ。

▼大台到達

 新型コロナの感染が本格的に始まったのは1月。同月23日に中国の武漢が都市封鎖されたころから世界的な関心事になった。

 感染はその後、欧州から米国、さらに新興国に広がった。確認感染者数は、2月末に約10万人、3月末100万人、4月末300万人、5月末600万人、そして6月末に1000万人突破だ。

 実は確認の方法は国により異なるし、感染しても確認されない人も多い。実際の感染者は10倍という見方もある。そうだとすれば、現在の感染者は1億人だ。

▼感染拡大の風景~新興国・米国

 現在はブラジルなど新興国で感染拡大しているほか、米国では南部や西部の州を中心に感染の再拡大が始まった。

 ブラジルやインドなど、新興国の様子が映像で流れて来る。その人込みの風景をみると、感染拡大はもっともな感じがする。

 米国からはフロリダなどのビーチがにぎわい、人々が集会にマスクなしで集まる映像が流れる。マスクの共用は自由の侵害という人もいる。お国柄の違いと言えばそれまでだが、ここでも感染再拡大もうなずける。

 感染再拡大を受けて、テキサス州やフロリダ州では経済再開の中断に追い込まれ、逆に一部規制の再導入に踏み切った。

▼スペイン風邪との比較

 当初は新型コロナの感染をSARSや2009年の新型インフルエンザと対比して議論することもあったが、すでに感染規模はケタ違いになった。

 今では1910-20年代のスペイン風邪との比較が参考になる。スペイン風邪は感染者数億人、死者1700-5000万人と推定される。今のところはまだ背中を見ている状況だが、距離は接近している感じがする。

 ちなみにペストとの比較は規模的にも死亡率からみても、まだ遠い。今のところは話のための話で済む。

▼経済に打撃・基本システムは維持

 ワクチンや治療薬開発のニュースはあれこれ入ってくるが、メドは依然立っていない。新興国などでは第1波の拡大、欧米やアジアでは第2波、第3波の懸念が消えない。

 経済活動は打撃を受け、4半期ベースで見れば1-3月の中国のGDPが前年比マイナス6.8%、インドの4-6月GDPの推計は前年比約20%の落ち込みと推定される。ユーロ圏の1-3月は前4半期期比年率(前年比ではない)で10%以上落ち込んだ。

 ただ、少なくとも主要国では物流システムのマヒや食料不足など、経済崩壊をもたらす状況には陥っていない。

 コロナにより各国の政治、経済、社会の仕組みなどに様々な変化が起きている。テレワークやオンラインの活用が拡大し、政府の強権化の動きも目立つ。コロナの影響は始まったばかり、と認識すべきだろう。

◎ 月ごとに桁数繰り上げ感染者
◎ SARS並みからスペイン風邪級視野に入り
◎ 海水浴一時(いっとき)の歓声コロナの夏
◎ 「自由か死か」民主化ならば響くけど

2020.6.28

2020年4月 6日 (月)

◆コロナ:3か月の現実と各国の動向 2020.4.5

 新型コロナウイルスの感染拡大から3か月。世界の確認感染者は4月2日に100万人を超え、世界で移動制限などの規制を受けている人は30憶人を超える。事実関係と各国の動向をまとめてみる。

▼感染拡大の経緯

 中国・武漢で新型肺炎が確認されたのが昨年12月。新型コロナウイルスが報告されたのが2020年1月初旬だった。1月23日には武漢を封鎖し、感染は世界の行方を左右する出来事になった。その後の経緯は以下の通りである。

・1月30日 WHOが緊急事態宣言
・2月2日 フィリピンで感染者確認、初の中国外(1月23日から10日目)
・2月11日 中国で死者1000人
・2月21日 イタリアで感染者確認(29日目)
・2月23日 イタリアが北部の11自治体封鎖
・2月26日 5大陸で感染者を確認(34日目)
・3月2日 日本が公立学校休校
・3月7日 欧米で感染者が拡大、NY州が非常事態宣言【感染者10万人】(44日目)
・3月9日 イタリア全土に移動制限
・3月11日 WHOがパンデミック宣言、米が欧州からの入国禁止(48日目)
・3月12日 中国がピーク超えたと宣言
・3月13日 米が非常事態宣言、スペインが非常事態宣言、WHO「感染中心は欧州」
・3月17日 EUが外国人入国禁止【感染者20万人】(54日目)
・3月19日 イタリアの死者>中国
・3月20日 NY、イリノイなど外出禁止【死者1万人】
・3月22日 【感染者30万人】(59日目)
・3月24日 東京五輪・パラリンピック延期
・3月25日 インド全国封鎖
・3月26日 米国の感染者>中国
・3月27日 【世界の感染者50万人】、米国の感染者10万人(64日目)
・4月2日 【世界の感染者100万人】、30億人以上が移動制限(70日目)
(感染者数などはジョンズ・ホプキンス大のデータによる)

 ちなみに、4月5日現在の世界の感染者は122万人。多い国は(1)米国31万人(2)(2)スペイン13万人(3)イタリア13万人(4)ドイツ(5)フランス(6)中国など。死者は6万6000人で、(1)イタリア(2)スペイン(3)米国などである。

▼各国の対応

 各国の対応はおおむね3通りに分かれる。

(1)行動の規制:入出国の制限(禁止)、外出制限、店舗の開業規制など。いわゆるロックダウンも含み、10人以上の集会の禁止、学校の休校なども含まれる。感染の爆発的な拡大を防ぐ「封じ込め」作戦で、時間を稼ぐ面がある。

(2)医療体制の整備:病床の確保など。ワクチンの開発支援も急ぐが、メドは立っていない。

(3)経済的支援: 経済的な打撃→恐慌や経済破綻を防ぐために、財政、金融面から政策を総動員している。職場封鎖などで働けなくなった人への所得保証、企業の負債返済猶予なども含まれる。究極のバラマキにも近い政策。長期的に後遺症が出るのは避けられないが、将来に気を回すことなどできない状況だ。

▼予測・見通し

 今後の行方は見えていないのが現状である。各国・企業はワクチン開発に取り組むが、1年程度かかるとの見方もある(ジョンソン&ジョンソンは2021年初めに新ワクチンんを提供すると表明)。患者や死者数の予測もまちまちだ。トランプ米大統領は、米国内の死者が10万-24万人に恐れがあると発言した。メルケル独首相は、国民の6-7割が長期的に感染する可能性があると警告した。

▼世界の変化:社会システム維持のリスク

 欧米などの都市からは人通りが消えた。国際旅行者はほとんどいなくなり、世界中の空港は閑散としている。欧米やアジアでテレワークの人々が増え(不便ではあっても何とかこなしている)、学校ではビデオ授業が拡大している。

 人の移動は減っても物流は何とか維持され、食料もガソリンも提供されている。主要国では社会秩序も一応は保たれている。一方で、患者の拡大による医療崩壊の懸念が強まる。

 仮に物流、医療などのほころびから社会システムが崩れたら、影響は現在のレベルとは比較できないほどになる。そうした事態は、歴史的には戦争や革命などの時に出現した。

 アフリカの一部の国や中東の難民キャンプなどでの感染拡大も気がかりだ。通常の国以上に、社会崩壊のリスクがある。こうした地が感染の温床となり、第2波、第3波の感染が世界に戻って来る可能性もある。

 内向き傾向が強まりがちな状況だが、グローバルな視点が通常以上に必要ともいえる。

◎ 感染100万 世界は何とか 持ってるが
◎ 紛争地 他人事など言ってると

2020.4.5

 

2020年3月15日 (日)

◆コロナ:パンデミック宣言と広がる衝撃波 2020.3.15

 新型コロナウイルスの感染拡大が、引き続き世界を揺るがしている。今週は節目となる重要な出来事が連続した。

▼欧州が新しい震源地に

 WHOは11日パンデミックを宣言した。発表時で感染者は12万人を超え、死者は4600人を上回った。感染国は世界5大陸全てに及ぶ。パンデミック宣言は2011年の新型インフルエンザ以来である。

 死者数は13日に5000人を突破。感染者はイタリアやスペイン、フランスなど欧州で拡大している。感染者の数は発症国の中国以外が約4割に達した。記者会見したWHOのテドロス事務局長は、「今や欧州がパンデミックの震源地」と語った。

▼欧州各国で移動制限・レストラン営業停止

 イタリアが全国で移動を制限、レストランやバーの閉店を命じた。

 スペインはサンチェス首相が非常事態宣言を発令。外出も制限した。

 フランスは学校の休校を命じ、レストランやバー、映画館などの営業を禁止した。

 ドイツのメルケル首相は国民の6-7割が感染する恐れがあると、警戒を呼び掛けた。

 各地でまるで戦争時のような、非常態勢がとられている。

▼米欧の往来禁止

 米国のトランプ大統領は11日、欧州からの渡航を禁止すると発表した(当初は英国、アイルランドは除いたが、その後対象に加えた)。事前に欧州側に説明等もなく、いきなりTV会見で発表だった。いかにもトランプ流といえばその通りだが、事態を深刻に受け止めている表れともいえる。13日には連邦レベルで非常事態宣言を出した。

 米国ではプロバスケットやアイスホッケーがレギュラーシーズンの残り試合を中止。野球の大リーグもオープン戦を中止し、公式戦の開幕を延期した。NY州やカリフォルニア州は非常事態を宣言。ここ1-2週間で、急速に「巣ごもり」状況になった。

▼世界が分断

 世界各国が渡航制限や禁止、移動の制限、イベントの禁止などを発表し、人の移動が大幅に制限されている。これまで自由移動だった世界が、分断されている状況だ。

 経済活動も当然のことながら深刻な打撃を受けている。市場ではリスクからの逃避が起こり、株や新興国通貨などが下落している。急激な金融収縮である。「リーマン・ショック以来」という表現が連発される。

▼経済対策、新たなバブルの芽にも

   観光業やレストラン、スポーツ産業などが受ける影響は深刻だ。特に中小企業は資金繰りにも窮するようになり、悲鳴が上がる。

 各国政府や金融当局は、減税、財政支援、金融緩和などあらゆる手を使った支援を約束する。トランプ米大統領は11日、中小企業支援などに500億ドルの措置を提案。給与税の免除にも意欲を示した。

 財政出動や金融緩和は、経済の底抜けを防ぎ、社会不安を抑えるためには必要だろう。しかし財政赤字はさらに拡大し、金あまりはますます膨れ上がる。新たなバブルを生んでいるようにも見えるが、目をつぶらざるを得ない状況なのだろう。

▼昨日までと異なる常識

 前週の寸評で、「1か月半で、世界の風景は一変した」と書いたが、この1週間で風景はまた一変した。

 とにかく先行き不透明。昨日までの常識が通用しない局面に入っていることは、心すべきだろう。

◎ 感染の震源転々パンデミック
◎「米欧の行き来禁止」とさりげなく
◎ 支援策未来の懸念も今は無視

2020.3.15

2019年9月 8日 (日)

◆INCD1000号:この20年の世界の変化 2019.9.8

 INCDは2000年7月の創刊から1000号に達した。この間20年弱の世界の変化は、予想を超えるものだった。

▼グローバル化とIT革命、国の形の変化

 20年前に世界をどう見ていたのか。2000年12月30日号のINCD(年間回顧)は、『冷戦後の世界は、経済的には「新産業革命」や「グローバリゼーション」、政治的には「国の形の変化」をキーワードに動いてきた』と指摘している。世界の潮流を見るキーワードは、現在にそのまま通じる。

 ただ具体的な変化の内容となると、当時は想像できなかった形で世界は動いた。2001年の同時多発テロ、2008年のリーマン・ショック、スマホやSNSの普及、アラブの春、中国台頭のスピードなどは予想を超えていた。格差拡大などグローバル化の矛盾は、Brexitやトランプ米大統領の登場、難民危機などの形で顕在化した。

▼世界の枠組み:米国1強→「警察官」不在、テロ、中東混乱の時代

 2000年当時は「米国の1極支配」が論じられた。冷戦後の1990年代を通じ米国の軍事力やハイテクの力は突出。旧ユーゴ紛争などで米国が世界の安保を仕切る姿が目立った。

 しかし翌2001年9月11日の同時テロを契機に局面は変わっていく。世界はテロ戦争の時代に突入。米国はアフガン戦争、イラク戦争を仕掛けるが、中東情勢は泥沼化。米国の権威と指導力は揺らぐ。米国は次第に海外での役割を軽減する姿勢に転じ、「世界の警察官」の役割から降りていく。

 2011年のアラブの春で、中東の混乱の渦は拡大した。シリアやリビア、イエメンなどで内戦が拡大。混乱の中から「イスラム国」のようなテロ集団も台頭した。

 混乱の背景には、世界の安全保障体制とグローバルガバナンスの問題、格差、文明の衝突など様々な問題が指摘される。2019年の今は、イラン問題など新たな紛争リスクが持ち上がる。

▼IT革命

 ITを中心とした新産業革命は潮流としては20年前に予測されたものの、具体的中身は想像を超えた。2000年当時、すでにインターネットは普及していたが(Windows95の登場から5年目)、携帯は一部のユーザーが使うだけだった。Goodleなど検索サービスはまだ初期段階で、iPod(2001年発売)もWikipedia (2002年開始)もYouTube(2006年)もなかった。

 2000年代にはFacebookをはじめとするSNSが発展。2007年にはアップルがiPhoneを発売してスマホの時代に入る。UberやAirbnbなどシェアリングサービスも本格的に始まった。

 2010年代になるとこうしたサービスが急速に浸透。世界の過半数を超える人々がネットでつながり、様々なサービスを受けられる時代が到来した。

 一方でGAFAに代表される大手IT企業が情報を独占し、中国など国家が個人の情報や行動を厳しく監視するようになっている。SNSを通じた情報の流れは世論形成のメカニズムを変え、アラブの春や香港での抗議運動の原動力となる一方、フェイクニュースが横行しトランプ米大統領流の政治を拡大させた。光と影の両面を持って、IT革命は世界を変えている。

▼グローバル化新段階

 1990年以降、グローバル化は貿易や投資の拡大を通じた新興国経済の発展など、明るい面に光が当たった。しかし2000年代以降、負の側面も注目されるようになっていく。

 2001年の同時テロで焦点が当たった「格差」の問題は、その後も解決されることなく推移。「勝ち組」や「負け組」という言葉は世界でも強く意識された。紛争やテロの拡散(グローバル化)は各地の安定を揺るがし、地域紛争は大量の難民を生んだ。2015年の欧州難民危機はその代表だ。

 格差は世界各地でテロの温床となり、先進国ではポピュリズムや反移民・難民運動が横行するようになった。トランプ米大統領は中国に対し貿易戦争を仕掛け、関税引き上げ合戦が加速する。

 グローバル化は明らかに新段階に入った。これが一時の踊り場なのか、見極めは重要だ。

▼リーマン・ショックと世界経済

 2008年のリーマン・ショックとそれに続く世界金融危機を契機に、資本主義体制のあり方が問われた。世界経済を巡っては1980年の米レーガン大統領、英サッチャー首相の時代以降、新自由主義的な考え方が支配的だった。

 しかし世界金融危機では大手金融機関救済に大量の公的資金が使われ、市場万能主義の限界が明確になった。危機直後には資本主義の見直しが必要と強調されたが、議論は進まないまま年月が経過している。

 金融危機後、米国や欧州などは経済立て直しに大胆な金融緩和を実施した。その結果世界恐慌に陥る事態は防止したが、世界経済は大量の緩和資金を抱える構造になった。景気回復後もその資金は回収されず、新たなバブルが発生しているという指摘は多い。

▼中国の台頭

 中国経済はこの20年の間に急速に発展した。期間を通じ年率10%近い成長を維持。2010年には世界第2の経済大国に発展し、2020年代には米国を追い抜く可能性がある。

 1人当たりのGDPは1万ドル近くに到達し、アリババやテンセントなど世界的なハイテク企業も育った。

 リーマン・ショックで新自由主義やそれを中心としたワシントン・コンセンサス信頼が失われた。それに代わるかのような形で、開発独裁的な国家資本主義の元で急速な成長を続けた中国式のモデルが魅力を増した。

 その中国経済も、米トランプ大統領の仕掛けた貿易戦争で局面が変わる可能性がある。今後どう推移するか、注目点の一つだ。

▼環境、社会の変化

 この20年を振り返ると、その他にも重要な変化がある。地球温暖化などの環境問題が世界共通の問題という認識が広がり、様々な取り組みが進んだ。パリ協定など国際的な枠組みはトランプ米政権の離脱など曲折がある。しかし、電気自動車の開発や普及は加速し、欧米など先進国では食の安全(オーガニック食品の普及)やプラスチックごみの規制、エコシティの拡大など実体のある動きが広がっている。

 社会規範も変わった。LGBTの権利は着実に拡大。欧米では同性婚の受け入れが拡大する。安楽死は受け入れが広がり、女性の社会進出は曲折あるものの進展している。ネットの発展で、文化の変化も顕著だ。

▼新たな変化の方向は

 今後に向けた変化の兆しは多様で材料も多い。トランプ米政権は、貿易や安全保障、米中関係など他分野で従来のルールを否定し、新しいルール作りを目指している。第2次世界大戦後秩序の見直しとも言ってもいい。米中の争いは新たな派遣争いかもしれない。

 国家の姿も変わっていく。BrexitやEUの行方は、国民国家の行方を占う。中東の混乱やテロは、イスラムとの共存という問題を突き付ける。

 IT技術の発展は社会の仕組みを変えようとしているが、そのインパクトは未知数。歴史学者のハレリが指摘するような「ホモ・デウス」の時代に進むのであれば、その変化は人類というの存在にも関わる。

 変化は未知数だが、少なくとも、従来の変化を延長する「未来年表」的な予測で見通せるものではない。次の20年の変化が、過去20年の変化より大きいであろうことは間違いないだろう。

◎ メルマガに綴った「リーマン」「テロ」「スマホ」
◎ ネットありウーバーは想像外のふた昔
◎ アメリカの時代が続くと思ってた

20190908

2017年9月19日 (火)

◆自動車・スマホの革命と世界 2017.9.18

 中国がガソリン・ディーゼル車禁止の方向を打ち出した。英国やフランスが2040年禁止を打ち出したのに続く動き。自動車は20世紀初頭以来のガソリン、ディーゼル車中心で発展してきたが、大転換点を迎える。

 一方、スマホは発売から10年を経過し、「次の10年」が始まる。アップルは新製品「iPhoneX」を出した。行方から目を離せない。

▼相次ぐガソリン禁止

 現在世界の自動車保有台数は12.6億台強(2015年)。生産・販売台数は年間9400万台程度だ。ガソリン車やディーゼル車が主体で、EVなどエコカーは年間260万台と全体の3%以下だ(ハイブリッドカーは除く。カリフォルニア州は2018年モデルからハイブリッド車をエコカーの対象外にする予定)。

 しかし英仏や中国の政策もあり、今後急速にEVや他のエコカー化が進むと見るのが妥当だろう。

 主役も変わる。現在の自動車産業は、独VW(フォルクスワーゲン)、トヨタ、GMとルノー・日産連合が1000万台前後を生産。約300万台以上生産しているグループが10以上ある。

 しかしEVとなれば、主役が劇的に変化する可能性がある。EVで躍進するテスラや、グーグル、アマゾンなどのIT大手が絡んでくるのは確実だ。

 EVが本格的に登場してきたのは10年ほど前。欧州などで、半分試験的にプラグインEVの利用が始まり、徐々に普及した。テスラがEV車を投入し本格的に市場に参入したのは2008年。その後販売を拡大し、いまやそれほど珍しい存在ではなくなった。

▼自動運転とカー・シェリング

 自動車業界のパラダイム変化をもたらす動きは、他にもある。一つは自動運転、そしてもう一つはシェアリングエコノミーの動向だ。

 自動運転技術は各国、各社で実験が進み、高速道路などで実現するのはそう遠い将来の話ではない。

 カーシェアリング今や世界の新たな潮流になっている。ウーバーはもちろん、各社が新しいサービスを提供、普及に弾みをかけている。国により状況は異なるが、自動車を考えるキーワードがが「保有」から「利用」に変わっているのは外せないポイントだ。

▼スマホ10年

 9月12日にアップルがiPhoneの新機種「X」(テン)を発表した。誕生から10年を経過したスマホの、今後の発展を期した製品だ。

 アップルⅡが発売され、パソコンの時代が始まったのが40年前の1977年。1995年にはWindows95が登場しインターネットの時代に入った。その後の変化は加速度的だ。主なものを掲げれば以下の通りだ。

1998 グーグル創業
2001 アップルがiPod発売。音楽配信の革命
2004 グーグル上場、Web2.0の時代
2005 ユーチューブがサービス開始
2006 FBがサービス一般公開
2007 スマホ(iPhone)発売、アマゾンがキンドル発売、世界の携帯普及50%超
2010 iPad発売(タブロイド普及)
2011 アップル時価総額世界1に
2014 FB10年、Gメール10年、アリババ上場

▼社会に大きな変化

 スマホの出荷は2011年には通常の携帯(ガラ携)を抜き、2016年の出荷は15億台弱。現在世界では半数近い人がスマホを持ち、「携帯コンピューター」として検索やEコマース、決済などで使っている。
 2015年夏の欧州難民危機の際には、荒れ海をボートで渡る難民にドイツのNGOがスマホで安全航行の情報を提供していた。NYやロンドンの地下鉄で、乗客はスマホでニュースやメールチェックを行っている。ジャカルタやマニラの青空市場では、売り子がシマホを眺め時間を潰す。スマホ所有者は常にネットで世界とつながり、スマホに依存した生活を送るようになっている。

 今日では、「スマホのない生活」を想像するのは困難。スマホは社会の必要欠くべかざるインフラの一部となった。わずか10年前の「スマホのない世界」を想像するのは、だんだん難しくなっていく。

 過去20-30年あまりのIT革命の主役を(一時的に)演じたPCや携帯電話は、販売数字から見ればすでにピークアウトした。スマホの行方も明確ではない(たとえば衣服や身体組み入れの機器などができるかもしれない)。行方には要注意マークを外せない。

 技術革新が経済、社会に大きな変化をもたらす時代。自動車、スマホのニュースに、そうした流れを再度実感する。

◎ ガレージに車を入れてた時代あり
◎ SFに確かになかったガソリン車
◎ 10年でスマホの虜 便利だが

2017.9.18

2016年6月 6日 (月)

◆ムハマド・アリ氏の伝説 2016.6.5

 ムハマド・アリ氏が74歳で死亡した。ボクシングでスポーツ史に残る「キンシャサの軌跡」を演じたのはもちろん、公民権運動や反戦運動にも多大な影響を与えた人物。繰り返される報道は、改めて同氏の偉大さを感じさせる。
▼キンシャサの軌跡
 スポーツ雑誌などが、歴史上の「偉大なボクシング選手」のアンケート調査を実施すると、アリ氏は常に上位1-2位に入る。
 ローマ五輪金メダルからプロ入り。世界ヘビー級チャンピョンに就き19回の防衛した。業績はそうした数字面にとどまらない。巨漢が打ち合うスタイルだったヘビー級の世界に、「蝶のように舞いハチのように刺す」スピード感にあふれた新しいスタイルを持ち込み、新時代に導いた。
 そして1974年の「キンシャサの軌跡」。圧倒的に不利な予測の戦いで、象をも倒すといわれた強豪ジョージ・フォアマンを一発逆転でリングに沈めた。ボクシング史の最高の試合という評価も多い。その興奮と熱狂は、40年を経過した今日でも映像からよく伝わってくる。
 蛇足だが、当時キンシャサがこうした世界的な試合を開催できる状況にあったという事実も興味深い。コンゴ民主共和国は当時モブツ大統領独裁の下でザイールという国名だった。その後90年代に内戦に陥り、モブツ政権は崩壊。多数の難民流出や殺戮が繰り返され、現在も不安定な状況が続いている。
▼公民権運動の象徴
 しかし、アリ氏の存在はスポーツを超えていた。1960年、ローマ五輪直後に五輪の金メダリストになりながら黒人であるがゆえにレストランへの入場を拒否されることを経験。金メダルを川に投げ捨てた。このエピソードは人種差別の状況を今にも伝える。こうした行動で、アリ氏は公民権運動の象徴になっていった。
 1960年代後半にはベトナム戦争従軍を拒否し王座をはく奪され、4年間のブランク経験した。ベトナム反戦運動の事例として有名な話だ。
 アリ氏がキング牧師に次ぐ偉大な黒人と言われることがあったが、これも社会の不正義との闘いを実践したためだろう。
▼生きる姿
 同氏はマルコムXの影響を受けてイスラム教に改宗。カシアス・クレイからアリに改名した。
 1980年代からはパーキンソン病を患い、身体が不自由になった。その姿で1996年アトランタ五輪の聖火を点火するなど公の場に登場した。
 特に宗教をめぐる問題は、米社会でもまだ十分に咀嚼されたとは言い難い。しかし、生きる姿を晒し、人生と闘う姿勢を示し続けたことのインパクトは最後まで大きかった。
▼伝説
 2008年にオバマ氏が米大統領になったのは、アリ氏が金メダルを投げ捨ててから約半世紀後。アリ氏はどう感じたかなどを考えてしまう。トランプ氏が反イスラム的な発言をしたことに対しては、直接的な表現ではないものの開会する情報を発している。
 超一流のスポーツ選手は、言葉でなく行動で人々に感動を与え、思想や問題意識を伝える。アリ氏はそれをリング上ばかりか、社会とのかかわりの中でも示し、伝説になった。
 生ける伝説から歴史上の伝説に変わり、今後人々にどんなメッセージを伝えていくのだろうか。
◎ 蜂のごと世の不条理にパンチ刺す
◎ 動乱の報に想起すアリの奇蹟
◎ 捨てて問うメダルと王座の欺瞞性
2016.6.5

2016年4月10日 (日)

◆世界を揺るがすパナマ文書 2016.4.10

 パナマの法律事務所から世界の政治指導者らの節税実体を示す文書が流出。国際社会を揺るがしている。

 ICIJ(The International Consotium of Investigative Journalists=国際調査報道ジャーナリスト連合、本部ワシントン)を通じて流れている資料は1000万件を超える。

▼世界各国首脳の名

 法律事務所のモサック・フォンセカには1万を超える金融機関などからペーパー・カンパニー設立などの依頼があり、パナマやバージン諸島など21カ国・地域に設立した21万社のパーパーカンパニーにお金が流れていた。ここで節税などのほか、マネーロンダリングなどが行われていた可能性がある。

 取引が明らかになった各国首脳には、アイスランドのグンロイグソン前首相(今回の事件で辞任)、英国のキャメロン首相、アルゼンチンのマリク大統領、パキスタンのシャリフ首相周辺、中国の習近平主席の親族、ロシアのプーチン大統領の友人などが上がっている。

 表面化下情報は氷山の一角。今後どんな情報が出て来るか、現時点では予想がつかない。

▼英国民投票に影響も

 これら政治主導者の取引が違法とは限らない。しかし、道義的責任や自らが進めている政策との矛盾を指摘する声が各地で湧き上がっている。

 キャメロン英首相の場合、亡父が資産運用しており、首相が就任前に売却した。しかし、その事実を表明するまでに数日間曖昧な姿勢を取った。

 首相は企業などによる「税逃れ」を批判し、その対策を進めようとしている。こうした情勢下の事件だけに、当然批判は強い。政治指導力に影響しそうだし、英国が6月に控えるEU離脱を巡る国民投票にも影響しかねない。

 予期せぬ情報の暴露が世界を揺さぶる事件としては、2010年のウィキリークスによるアフガン文書などの暴露、2013年のスノーデン事件などがある。これらは政府による機密文書の暴露が中心だった。今回は、個人や企業による隠されていた取引の暴露である。また、ICIJのジャーナリストにより、情報の信ぴょう性や公共の利益とのバランスなどが検討されている模様だ。

 影響は今のところ予想がつかない。

▼批判を呼ぶ土壌

 企業による税逃れなどを批判し、その対策を強めているのは英国だけでない。欧州諸国やEUがアップルやグーグル、フェイスブックに対する税制優遇の問題を指摘、納税を拡大する動きも出ている。米財務省はM&Aによる節税への規則を強化、その結果大手製薬ファイザーはアイルランドの大手、アラガンの買収を断念した。

 国内では国民への課税逃れ防止を強化し、税制再建策を強めている。政治指導者による課税逃れなどの動きは、国民の激しい反発を呼ぶ土壌にある。

 中国では習近平国家主席が綱紀粛正の運動を進めている。主席周辺のスキャンダルは、反発する勢力への追い風になりかねない。途上国では事件一つで政権が交代しかねない国が少なくない。

▼問われる正統性

 指導者への信頼性、モラル、政策の理念、国家の体制。世界の枠組みを支える正統性が、機密文書で崩されることは、歴史上にも珍しくない。目が離せない。

 パナマ発 正義の虚構 揺さぶられ
 一束の 紙が揺るがす 国・体制
 改革も 俺は例外 さもありなん

2016.4.10

2015年6月19日 (金)

◆FIFA疑惑のインパクト 2015.5.31

 米司法省が27日、FIFA(国際サッカー協会)の副会長らを14人を贈収賄やマネーロンダリングの疑いで起訴した。これまでもくすぶっていたFIFA疑惑は、一気に世界の注目を集める事項となった。今後の展開次第では、ワールドカップ開催を巡る不正が表面化する可能性もある。世界の人々が熱狂し、巨大ビジネスとなったサッカー界の疑惑は、国際情勢をも揺るがしている。

▼会長選を狙ったタイミング

 米司法省が起訴に踏み切った27日は、19日に予定していたFIFA会長選(臨時理事会)の前々日。FIFA幹部は占拠のため、スイスのチューリヒに集まっていた。容疑者の動きをとらえやすいタイミングを狙った動きとみられる。

 米司法省の起訴を受け、スイス司法当局は7人を逮捕した。さらに、スイス当局は2018年と2022年のW杯の開催地決定を巡る疑惑で捜査を始めた。

 動きは捕り物帳的だが、米国やスイス当局の本気度が伝わって来る。

▼くすぶり続けた疑惑

 FIFAの金銭を巡る疑惑はくすぶり続けていた。欧州サッカー協会(UEFA)はかねてブラッター会長の体制を批判してきたが、中南米とアジア、アフリカの支持をえる会長の体制は揺るがず、批判をはねつけてきた。

 起訴を受けて、UEFAは会長選の延期を要求。UEFAのプラティニ会長はブラッター会長の退陣を求めた。英国のキャメロン首相も同調して退陣を求めた。

▼会長5選

 しかし、ブラッター会長は29日選挙を強行。5選を果たした。欧州が反対したものの、アジアやアフリカ、中南米のかなりの支持を受けた。FIFAのメンバーは209で、ブラッター氏は1回目で133票を得た。

 選任後、会長は改革を強調した。しかし、金権体質改革の具体策を述べた訳ではない。課題はそのままで、多くは期待できないとの見方も多い。

▼ガバナンスに問題

 ブラッター氏は事務局長から1998年にFIFA会長に就任した。当初から中南米やアジア、アフリカを基盤として来た。W杯を2002年の日韓共催、2010年の南ア、2014年のブラジル、2018年のロシア、2020年のカタールと、アジア他アフリカの途上国で開催。サッカー市場を広げた。反面、金権体質は長く指摘される。

 複数の現役副会長の起訴というショックにもかかわらず、会長選では順調に5選。これも長らく指摘されているが、FIFAの自浄作用は機能していなく、FIFAのガバナンスに問題があると言うしかない。

 サッカーは今や巨大な産業となった。W杯のテレビでの観戦者数は2006年大会で延べ263億人と、2008年北京五輪の47億人を圧倒している。W杯が世界最大のスポーツイベントと言われるのは誇張ではない。そうした巨大スポーツを牛耳るのが、ブラッター会長を中心とする少数のメンバー。そして組織の運営や資金の使用は、不透明感の漂うまま。これが、サッカーの実態だ。

▼国際情勢にも影響

 サッカーは巨大スポーツであるばかりでなく、時には国際情勢や各国の社会・文化にも影響を与える。新興国での開催は、経済効果のほか、その地域にサッカーを普及させる役割がある。

 メッシやロナウドなどのスーパースターが子供たちに与える影響は絶大。欧州や南米ではサッカーはパブや人々の集まりの話題であり、その傾向はアジアやアフリカにも広がっている。メルケル独首相はW杯や欧州選手権に必ずと言っていいほど出かけ、首脳外交を展開する。

 そうした影響力を持つサッカーの国際組織の不正を、国際社会はこれまで放置してきた。世界の実態と言えばそれまでだが、改めて課題を突きつけ、教訓を提供している。

 米司法当局やスイスの当局も、動いた以上は本気にならざるを得ない。今後も様々な動きが続くのは必至。予想もできないような結末になってもおかしくない。

2015.5.31

2014年10月13日 (月)

◆マララ氏ノーベル賞受賞の意味 2014.10.12

 2014年のノーベル平和賞が、パキスタンの17歳、マララ・ユスフザイ(Malala Yousafzai)氏らに決まった。2012年、パキスタン・タリバンによる狙撃で一躍有名になった少女。その後も活動を続け、女性への教育機会の拡大や人権の領域で世界的なアイコンになっていた。授賞には多くの意味が込められ、インパクトは大きい。

▼インド・パキスタン同時受賞

 マララ氏への授賞は事前の本命ではなかったが、意外ではない。英国のブックメーカーなどの事前予想では、最有力はローマ法王フランシスコ。次いで、紛争下のコンゴ民主共和国で性暴力を受けた女性の治療に携わったデニス・ムクウェゲ医師が有力視され、その次にマララ氏や元CIA職員のスノーデン氏らの名が挙がっていた。

 意外感を持って受け止められたのは、マララ氏への授賞より、インドの児童労働問題でNGOを展開してきたサトヤルティ氏への授賞だ。同氏の知名度は国際的にはそれほど高くなく、事前予測も少なかった。結果はパキスタンのマララ氏とインドのサトヤルティ氏の同時授賞となった。

▼授賞効果と反響

 授賞の効果はすでに各方面で表れている。授賞発表と同時に、世界のメディアはマララ氏が11歳の時から匿名でブログにパキスタンにおける女性への教育の状況や「女性にも教育を」という主張を発信していたこと、そして2012年にイスラム原理主義のタリバン運動に射撃されたこと、その後英国に運ばれ、奇跡的に助かったことなどを繰り返し報じた。報道は当時のニュースを知る人には記憶を呼び起こさせ、知らなかった人には改めて事実を伝えた。

 パキスタンのシャリフ首相は授賞を歓迎する声明を発表。女性への教育に取り組む姿勢を示した。国際社会も授賞を歓迎し、マララ氏
の活動を支持する姿勢を示した。

 一方、パキスタン国内には保守派を中心に反発する声も上がっている。女性への教育はイスラムの教えに反する西洋流価値観の押し付け、などとする理屈だ。タリバン運動は、マララ氏が帰国したら再び射殺を試みるという姿勢を変えていない。
 
▼ノーベル委員会のメッセージ

 ノーベル平和賞は、政治的立場と無縁であるどころか、強いメッセージが込められている。過去には南アのアパルトヘイト廃止に貢献したマンデラ氏らや、パレスチナ和平を推進したラビン元首相らに授賞した。異例ともいえる就任初年の米オバマ米大統領への授賞は、核なき世界推進の後押しだった。

 マララ氏は史上最年少17歳でもあり、話題性は十分。女性への教育推進や女性の権利擁護を後押しするメッセージが明確に込められていると解するべきだろう。

 同時に、サトヤルティ氏への同時受賞には、ノルウェー・ノーベル委員会の深謀遠慮がうかがえる。

 マララ氏のみの授賞だと、彼女を射撃したイスラム過激派への批判が必要以上に表に出る可能性がある。それは、委員会の望むメッセージではない。むしろサトヤルティ氏との同時受賞により、女性の教育や児童労働という社会問題への焦点を明確にし、さらにインドとパキスタンの両国への応援を込めることが可能になる。このような見方は、たとえばFT紙掲載のGideon Rachman氏の解説記事”The Nobel committee gets it right”(10月10日電子版参照)などに示されている。

 ノーベル賞の受賞式には、インドのモディ首相とパキスタンのシャリフ首相が出席する見通しになった。ここにも、ノーベル賞効果が出ている。
 
▼マララ氏の活動

 それにしても、マララ氏が弱冠17歳にして世界に及ぼした影響に、改めて印象を深める。彼女が2013年に国連で行った演説は、「銃ではなくペン」「女性の教育を」と明快。ノーベル賞受賞決定後も、活動継続の決意を語った。また、発言や態度からは、そうした運動のアイコンになっている自分の立場をよくわきまえているとの印象を受ける。

 昨年の国連演説は、次のアドレスが分かりやすい。
 http://www.aljazeera.com/video/asia/2013/07/20137126351897418.html

 ノーベル賞の機能、特にネット時代の市民運動やNGO運動の広がり方という面からも、有意義な材料を提供してくれる。

2014.10.12

2013年8月11日 (日)

◆ワシントンポストの身売りとメディアの変化 2013.8.11

 アマゾン創業者のベゾス氏がワシントンポスト社の新聞部門を買収した。同紙はウォーターゲート事件の報道でも知られる同国を代表する新聞。新興ネット企業による買収は、メディア業界の変遷と主役交代を象徴する事はもちろん、メディアと権力の関係や世論動向にも影響する。

▼世界に波紋

 ワシントンポスト社はワシントンポスト紙のほかに外交専門誌のフォーリン・ポリシーや教育事業部門などを保有している。今回売却するのは新聞部門。買収価格は2億5000万ドル。ベゾス氏はアマゾンを通じてではなく、個人としてポスト紙を買収する。

 8月4日付のポスト紙は"Grahams to sell The Post"という見出しで売却を報道。ニュースは米国はもちろん世界に波紋を投げかけた。

▼調査報道の金字塔

 ワシントン・ポストは1877年創刊。1930年代からグラハム家が経営を握ってきた。1970年代初めのウォーターゲート事件報道は、ニクソン大統領辞任につながった。

 同事件巡っては、政権からの圧力を社主のキャサリン・グラハム氏らが退けて報道を継続。米調査報道の金字塔とも言われる。こうした歴史に支えられ、同氏はNYタイムズと並び米国を代表する新聞と評されてきた。世論形成への影響力も大きい。

 一方でネット化などの影響で部数は減少。90年代の70万部から最近は40万部台に落ち込んでいた。

▼ネットの雄

 アマゾン・ドット・コムはネット時代を代表する新興企業の1つ。1994年にジェフリー・ベゾス氏が設立した。ネットを通じた書籍の販売という新しい市場を開拓し、その後書籍以外の通販、電子書籍端末のKindleの発売などに事業を拡大した。

 アマゾンの登場により世界の書籍販売の市場は一変。人々の生活を変えた。同社ビジネスモデルを説くキーワードの一つであるロングテールという言葉も広く使われるようになった。1997年にはナスダックに上場した。

 ベゾス氏はアマゾン開始当初から数年間は利益を出せないことを見通し、その上で長期的視点から事業を成功させた。現在アマゾンがGoogleやアップル、フェイスブック、マイクロソフトなどと並びネット時代を先導する企業の1つになっているのも、同氏のビジョンとリーダーシップ抜きには考えられない。

▼メディアの風景一変

 米国を中心とする世界のメディアは、過去20年あまりで風景が一変した。原動力になったのは、IT・ネット技術の発展と事業の国際化だ。

 90年代半ばからのインターネットの急速な普及で、世界の情報の流れは革命的に変化した。それ以前のニュース報道はテレビや新聞が中心だったが、今では「ニュースはネットや携帯から」という人は多い。2011年のアラブの春は、フェイスブックなどのSNSやツイッターが起爆剤になった。ネット広告市場は先進国ではすでに新聞を上回った。

▼加速する再編

 変化の中で、メディアの再編は加速している。

 1990年代には米国中心にテレビ局と映画制作スタジオなどの統合が進んだ。バイアコムのパラマウント買収(93年)、ディズニーのABC買収(95年)、バイアコムのCBS買収(99年、その前の95年にウェスチングハウスが買収したのを再度買収)、2000年のAOLとタイムワーナーの合併などが代表だ。

 21世紀に入ると、伝統的な新聞や報道機関を巻きこむ再編が加速した。2007年のニューズ社によるダウジョーンズ買収(ウォールストリートジャーナル紙発行)やトムソンによるロイター買収などが代表だ。

 米大手新聞社の経営危機が表面化し、シカゴ・トリビューン紙やロサンゼルス・タイムズ紙を発行するトリビューン社が経営破たんした。2009年のクリスチャン・サイエンスモニター紙に見られるように、紙の新聞発行を停止し、電子版だけにする動きも続いた。

 2010年代に入っても、この動きは基本的に変わらない。2013年からニュースウイーク誌は紙の発行を停止し、完全デジタル版に変わった。タイムワーナー社は出版子会社タイムの分離を発表した(実施は14年)。そして、今回のワシントンポストの売却だ。

▼体制は当面変えず

 2007年のニューズ社によるダウジョーンズ(WSJ)買収の際には、ニューズ社のマードック会長による編集介入などへの懸念が声高に叫ばれた。それに比べると、今回の買収への抵抗感などは少ないように見える。

 ドナルド・グラハムCEOはベゾス氏の人柄や手腕が決め手になったとコメント。ベゾス氏は買収後も当面ワシントンポストの経営や編集体制を変えず、編集に直接関与することもないとの姿勢を示した。

 一方で社員向けのメッセージで、「インターネットにより報道業界は様変わりしている」と指摘。時代の変化に応じた変革の必要性を訴えた。

▼EPIC2014の予言

 アマゾンと報道というテーマでは、10年前の2004年にネット上に公開された「EPIC2014」というビデオが話題になったことがある。このビデオは2014年から過去10年のメディアを解雇するという形をとったもの。

 その時には2008年にGoogleとアマゾンが合併して「Googlezon」が誕生。ニュース価値などまでを判断できるプログラムを開発し、優れたニュースサイトを作って市場を席巻していく。その結果、NYタイムズはネットの世界から撤退し、少数部数の紙媒体のみを発行するこじんまりとして存在になっている、という筋立てだ。

 ビデオの中では、SNSとネットサービスの発展、著作権、メディア再編など様々な問題が提起されている。そして何より「Googlezon」という言葉が、ネット時代の新勢力を象徴する言葉として広まった。

 実際の世界はビデオとは異なる展開になっているが、問いかけた問題の本質は変わっていない。

▼問われる報道機関の役割

 買収は報道の役割や国家と報道の関係という、古くて新たしい問題に改めて問いを投げかけた。

 買収決定後、ポスト紙オピニオン・ライターのEugene Robinsonは"Thanks, Graham family"と題する記事で同紙が果たした役割を強調。この他にもワシントンポストのこれまでの業績と、報道機関として求められる役割などに焦点を当てた記事がポスト紙をはじめ各紙に多数掲載された。

 「権力のチェック」という報道機関の伝統的かつ最重要の役割を語る上で、ウォーターゲート事件報道は欠かせない。スクープした記者、調査報道をリードした編集幹部はもちろん、権力との対立というぎりぎりの局面でリスクを負う決断ができた当時の社主キャサリン・グラハムが果たした役割は大きかった。

 ネット革命で情報の流れは変わり、報道機関の役割も問い直されている。アラブの春でみたように、いまやネットの世論形成力は時には新聞など伝統的メディアをしのぐ。しかしネットは情報の洪水になるだけのこともある。

 ネットと紙のコラボレーション、ビジネスモデルの組み替え、新しい企業形態--。伝統メディアは生き残りと時代に即した新しい役割を模索して試行錯誤している。

▼ネット時代のメディア

 従来想定外だった新たな問題も、次々に突きつけられる。米安全保障当局による個人情報の収集問題は、国家だけでなくネット企業やメディアに対しても「安全保障vs個人の権利」「個人情報管理」などの問いを突き付けた。2010年に起きたWikileaks問題も、本質は変わらない。

 中国などでは、ネット規制が一段と強まっている。サイバー攻撃はもはや一部専門家の話ではなく、皆の問題になった。問題意識は、ネット時代のメディア、ネット時代の社会という課題にも及ぶ。

 容易に答の出る問題ではない。買収は、そんなメディアを取り巻く実態や変化を改めて考えさせる。

2013.8.11

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