カテゴリー「世界の潮流」の115件の記事

2020年1月 5日 (日)

◆2020年の展望 2020.1.5

 2020年が幕を開けた。前年から続く米中対立、中東混乱、香港の抗議活動などはどう動くか。米大統領選は世界にどう影響するか。2020年を展望する。

▼主な日程

 2020年のすでに確定している主な日程は以下の通りだ。
・1月31日 英国がEUから離脱
・2月3日 米大統領選の予備選が始動(アイオワ州の党員集会)
・3月5日 中国全人代
・7月24日 東京五輪開幕、五輪、パラリンピック9月6日まで
・11月3日 米大統領選

▼米大統領選のインパクト

 2020年の世界は、米大統領選にらみで推移するのが確実だ。米中貿易交渉、対イランなどの重要政策は、選挙をにらんで決定が下される。それが世界を揺り動かす状況が続くだろう。

 それ以上に重要なのが、トランプ氏が再選されるかどうかだ。選挙結果は今後数年の世界の行方を左右する。米大統領選が世界にインパクトを与えるのは4年ごとのお決まりの出来事だが、2020年はその重要性がいつになく大きい。

 過去3年間、世界はトランプ米大統領の政策に揺れ動いてきた。トランプ氏は米外交政策の基本姿勢を、従来の多国間主義や国際協調重視から自国利益優先に変更。中国と貿易やハイテクを巡って対峙する姿勢を鮮明にし、関税の大幅引き上げを実施した。世界経済はその打撃で大幅減速した。

 安全保障面では、イラン核合意からの離脱でイランとの緊張が増した。在イスラエルの大使館のエルサレム移動やゴラン高原の主権容認などの親イスラエルの政策は、従来の秩序を覆した。こうした変更が必ずしも整合性のある戦略の下に決定されるのでなく、一貫性を欠くのもトランプ政権の特徴だ。

 米大統領選は11月の本選をにらみ、2月から予備選に入る。並行して、トランプ大統領の弾劾裁判も進む。大統領選の行方に、世界が注目する。

▼地政学リスク――中東、香港

 地政学リスクで最も緊迫しているのが中東だ。2020年早々、米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害。緊張が高まった。中東ではシリア、イラク、イエメン、パレスチナ、リビアなども紛争を抱えて推移する。

 香港情勢も混乱が続く。2019年6月から続く抗議活動は8か月目に入った。民主化を求める住民の抗議活動に、香港政府や中国は譲歩の姿勢を見せない。問題解決の出口は見えない。香港情勢は、中国による1国2制度の行方や中国の政治体制の行方をも占う。

 中南米では2019年、政府に対する国民の抗議活動が広がった。チリ、アルゼンチン、コロンビア、エクアドル、ボリビアなどだ。抗議は政権が左派、右派いずれの場合もある。ベネズエラはマドゥロ政権の下で経済破綻、国内の抗議活動と共に、大量の国民が国外に流出している。

▼ポストBrexitの欧州

 欧州では英国の1月末のEU離脱が確実になり、ポストBrexit時代に入る。EUの求心力の回復、経済改革の推進などが課題になる。それ以上に注目されるのが、欧州政治の行方だ。ポピュリズムや極右政党の台頭という流れに歯止めをかけることができるのか。民主主義の危機を回避する糸口が見つかるのか。世界全体の民主主義の行方にも影響する。

▼経済・IT革命

 2019年は米中貿易戦争の影響で世界経済が大幅に減速する一方で、株価や不動産価格などが上昇した。2018年の正常化(引締め)→2019年は緩和に転換した先進国の金融政策の影響が大きい。カネ余り下の株式・不動産価格の上昇は、バブルの兆候との指摘もある。中国や新興国では、企業や個人の負債が拡大している。経済の行方は予断を許さない。

 IT技術の進歩は加速し続け、世界の経済や社会を変えている。2019年はAIブームやデジタル通貨のリブラ計画などが注目を浴びた。技術革新は今年も様々な形で進むだろう。

 昨年は、GAFAなど巨大IT企業への規制強化議論が深まった。従来のEUに加え、米国も規制強化の方向に舵を切った。ただ、こうした議論には時間がかかる。その間に、巨大IT企業や国家による情報独占が進み、高度監視社会が推し進められていく。2020年という1年間に限る話ではないが、現代社会の在り方を問う上で避けて通れない問題だ。

▼FTの2020年展望

 英FT紙は毎年恒例で、新年の展望記事を掲載している(今年は2019年12月27日付)。ポイントを整理してみる。

(国際情勢・世界の政治)
・トランプ氏は米大統領選の一般投票で多数をとれるか――取れない(選挙に勝つかは別)
・米・イランは戦争になるかーーならない
・中南米の反政府デモは続くか――続く

(欧州情勢)
・ジョンソン英首相はEUと貿易協定で合意できるか――できる。
・英労働党は再び選挙で勝利し政権を担える政党になれるか――2020にはなれない
・メルケル独首相の大捩率政権は崩壊するか――する
・イタリアの「同盟」(極右)の政権復帰はーーある
・マクロン仏大統領はロシアのプーチン大統領と関係改善を実現できるか――できない

(経済・技術)
・米景気は後退するか――しない
・巨大IT企業に実効性のある規制を課すことができるかーーできない
・中国は5Gで世界をリードするか――する
・インド経済は主要経済で最高の成長率を回復できるか――できない
・南アは投資不適切国になるか――なる
・世界のCO2排出は減少するか――市内
・北海ブレントは年末1バレル=65ドルを超えるか――越えない

2020.1.5

 

 

 

2019年12月31日 (火)

◆2019年の10大ニュース 2019.12.31

 

 2019年が終了する。世界は今年もトランプ米大統領の政策に揺れ動いた。10大ニュースの形で、2019年をレビューする。

▼INCDの10大ニュース

 INCDが選ぶ2019年の10大ニュースは以下の通り。

(1)米中貿易戦争継続、世界経済減速
(2)米・イラン緊張と中東緊張拡大
(3)香港で抗議活動
(4)Brexitに道筋、英首相にジョンソン氏
(5)トランプ大統領を弾劾、ロシア、ウクライナ疑惑で
(6)温暖化対策求め世界中で大規模デモ、米はパリ協定離脱手続き
(7)IT大手への規制強化の動き、リブラ計画に警戒
(8)ベルリンの壁崩壊30年
(9)中国建国70年、習近平政権による締め付け、高度監視社会化が進む
(10)米欧関係の緊張高まる

▼トランプ大統領に揺れる世界

 2017、2018年に続き、トランプ米大統領の政策に世界が揺れる状況が続いた。

 具体的な事例を挙げれば、(1)対中関係=貿易戦争やハイテクを巡る対立、(2)中東政策=イランとの対立の深刻化、イスラエルによるヨルダン川西岸への入植容認など、(3)地球温暖化・環境問題=パリ協定からの離脱手続き開始など、(4)移民規制の強化=メキシコ国境の壁建設のため非常事態宣言、(5)欧州との関係悪化=貿易を巡る対立、安全保障での負担増要求など、(6)単独主義的色彩への一層の傾斜=G7サミットで総括的な合意文書なし、(7)FRBの金融政策に対する介入や圧力の強化、などだ。

 トランプ米大統領は就任以来、国際協調や多国間主義を重視する伝統的な姿勢を否定し、米国第1を前面に打ち出す姿勢をあらわにした。2019年もその延長線上で、スタンスを一層鮮明にした。

 キッシンジャー元国務長官はトランプ大統領の登場の歴史的意味について、第2次大戦後の秩序の再編という趣旨の指摘をした。2019年の行動も、その脈略で捉えるべきだろう。

 問題は、政策の一つ一つに必ずしも整合性がなく、時に思いつきのような決定な行われることだ。中東政策などに典型的に表れる。この傾向も、2017年の就任以来変わらない。

▼大統領弾劾と大統領選

 米国では野党民主党多数の下院がトランプ大統領をウクライナ疑惑で弾劾した。問題は年明け、上院での審議に入る。与党共和党多数の上院では大統領解任には至らない可能性が大きいが、米政治はこの問題に揺れ動く。

 米政治はもう一つ、2020年11月の大統領選をにらんだ動きが佳境に入りつつある。民主党の候補は乱立気味で、行方は混とんとしている。これがトランプ氏再選につながる可能性もある。

 トランプ大統領だけでなく、米国内の政治動向は世界に影響を与える。2020年の大統領選をにらんだ影響は、早くも世界に及んでいる。

▼経済不透明

 世界経済は米中貿易戦争の影響で減速が進んだ。一方、金融市場では2018年の欧米における正常化(引締め)→緩和に流れが変わり、再び大量の緩和資金が出回っている。これが株式や不動産などの価格上昇や、途上国の金融市場の乱高下などに結びついている。

 実体経済の減速+金あまりの状況で経済は2020年に入る。バブルの発生などリスクを指摘する声もある。

▼香港の抗議活動と中国の高度監視社会化

 香港では犯人引き渡し条例の改正をきっかけに6月から市民による抗議活動が拡大。同月には200万人デモが行われた。これに対し中国を後ろ盾にする香港政府は強硬姿勢を変えず、緊張が継続。1国2制度の在り方が改めて問われた。

 11月の地方選では民主派候補が圧勝、民主化を求める民意が示された。問題は7か月経っても解決の行方が見えないまま年を越す。

 中国は10月1日に建国70周年を迎えた。習近平政権は、米中経済摩擦で経済面で難しい問題に直面しながら、政治面では強硬な姿勢を崩さない。香港問題でも民主派への譲歩を否定している。

 こうした政治、経済情勢の中で、ネットにより人々の行動を監視する「高度監視社会」化は急速に進む。この問題は、世界全体にとっても2020年代の重要な課題になる。

▼IT大手規制強化 

 GAFAに代表されるIT大手への規制は、2019年曲がり角を迎えた。これまでも規制に前向きだったEUに加え、米国も規制強化の方向に舵を切った。相次ぐ個人情報流出の発覚やなどが背景にある。

 一方、環境問題では欧州が温暖化対策やプラスチックごみ対策を強化する一方、米トランプ政権はパリ協定からの離脱手続きを正式に取るなど、温度差が明確になった。

 9月20日には世界各地で数百万人が参加し、温暖化対策を求めるデモが繰り広げられた。この運動の鮮度訳の1人が16歳のスウェーデンの少女、グレタ・トゥンベルさん。環境運動の新しい旗手として注目が集まった。

▼ベルリンの壁崩壊30年

 2019年はベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終了して30年(1世代)の年だった。同時に、中国で民主化運動を弾圧した天安門事件からも30年を数えた。世界で過去30年を振り返る議論が行われた。

 30年前には世界の民主化が進み、グローバル化のプラスの面が実現していくと期待された。結果はそうはならず、格差の拡大、テロや地域紛争の拡大などの問題が深刻化した。2008年のリーマン・ショックは、資本主義の在り方に疑問を突き付け、問題は今も解決されない。

 30年目の節目は、こうした課題を再認識させた。

▼APの10大ニュース

 AP通信が世界の編集者を対象にアンケートしまとめた10大ニュースは以下の通り。米国内と国際ニュースを分けていない。

(1)トランプ大統領の弾劾  TRUMP IMPEACHMENT:
(2)トランプ政権の移民規制強化 IMMIGRATION
(3)ロシア疑惑 TRUMP-RUSSIA PROBE
(4)フロリダ州などの乱射事件 MASS SHOOTINGS
(5)オピオイド問題 OPIOIDS
(6)地球温暖化問題、米はパリ協定から正式に離脱手続き CLIMATE CHANGE
(7) BREXIT
(8)米中貿易戦争 US-CHINA TRADE WAR
(9)ボーイング737Maxの事故、安全問題 BOEING JETS GROUNDED
(10)香港情勢 HONG KONG
(番外)NZモスクでのテロ、民主党大統領選候補選び、ノートルダム寺院火災

◎ トランプに揺れる世界は4年目に
◎ 秩序という言葉を忘れて年回顧
◎ 16の少女が運ぶエコの新風

2019.12.31

 

 

2019年11月10日 (日)

◆ベルリンの壁崩壊30年と世界 2019.11.10

 ベルリンの壁崩壊から9日で30年を経過。ベルリンで記念式典が開かれた。30年と言えば1世代。世界の変化を振り返るのに良い機会だ。

▼分裂していた世界の統合

 1989年の壁崩壊は冷戦を終了させ、旧ソ連陣営は崩壊。東欧はその後ヨーロッパに復帰した。世界的には東西2大陣営に分かれていた体制の垣根が崩れ、全世界が1つのシステム下の体制となり、グローバル化が加速した。

 壁崩壊当初は民主主義と自由主義経済が世界の基準として定着していくという楽観論が強かった。しかし、事態はそう単純ではなかった。

▼世界金融危機とテロ・紛争

 経済グローバル化は世界の成長を加速し、人々の生活を豊かにしていくと期待された。しかし実際には格差拡大などの問題が深刻化。2008年のリーマンショックとそれに続く世界金融危機は、資本主義体制の欠陥を表面化させた。冷戦時代の東西対立に代わって地域紛争が各地で発生。世界の安全保障を揺るがした。

 2001年の同時多発テロは世界がテロ戦争の時代にある事をあらわにした。その後中東や欧州などでテロが続発する状況が続く。

 中東は混乱が止まず、世界の火薬庫であり続ける。テロの発生源である状況も変わらない。2011年のアラブの春は、結果的に混乱の拡大を生み、シリアやイエメンなどでは内戦が止まらない。混乱は「イスラム国」のような時代の鬼子も生んだ。

▼民主主義の危機

 欧米では成長の恩恵から取り残された人々の増加を背景に、ポピュリズムや反移民・難民政党が勢い付いた。民主主義が揺らいでいる。米トランプ政権の誕生、英国のEU離脱(Brexit)の動き、欧州のポピュリズムや極右政党の台頭、トルコなど強権色の強い政権の誕生などは、同根を持つ。

 民主主義に対する挑戦は、米国流の「ワシントン・コンセンサス」に対する開発独裁的な「北京コンセンサス」の挑戦という形でも表れる。共産党1党独裁の中国は、過去30年間に年率10%近い驚異的な成長を続け、2010年からは世界第2位の経済大国になった。

▼IT革命の影響、踊り場のグローバル化

 これからの世界がどう進むかを予測するのは難しい。ただ、ヒントはいくつか考えられる。

 ネットを中心としてIT革命はこの30年間加速し、人々の生活や経済を決定的に変えた。この流れが止まることはないだろう。ただし、これからは巨大IT企業や国家による情報独占や、IT技術が人の体やあり方を変えるような、非連続的な変化も想定できる。

 グローバル化は踊り場に差し掛かった。それでも、モノやサービス、情報の流れが国境を超えて加速する潮流は、長期的には変われないように見える。特に情報やサービスの国境を超えた移動は加速しそうだ。

▼消えたユーフォリア、改善点も

 民主主義が持ちこたえるのか。文明の衝突や、キリスト教徒イスラム教のような宗教の衝突はないのか。先行き不透明な「大問題」は数多く存在する。

 30年前のユーフォリア(幸福感)や楽観主義は、すっかり消え去った。それでも、30年間に世界が悪くなったとは言い切れない。技術革新の恩恵で、世界がよくなった点も多い。途上国伊置ける貧困率の減少などはそこに含まれるのだろう。

 ベルリンの壁の問いかけ。答えが見えない者は多く、問いは深く、重い。

◎ 30年(みとせ)前、世界は良くなったと思った日
◎ 冷めた夢それでも世界は持っている
◎ 民主主義「危機」と叫んでさてどう動く

2019.11.10

 

 

 

2019年10月13日 (日)

◆エチオピア首相にノーベル平和賞の意味 2019.10.13

 ノルウェーのノーベル賞委員会は11日、2019年のノーベル平和賞をエチオピアのアビー・アハメド首相に授賞すると発表した。国内の民族融和やエリトリアとの和平など地域安定に取り組んできた功績を評価した。

▼人口1億人、多民族のエチオピア

 エチオピアは人口1億人を超えるアフリカの大国の一つ。80以上の民族が暮らす。最大民族はオモロ人で、アムハラ人、ティグレ人などが暮らし、民族関係は複雑だ。

 宗教的にはエチオピア正教などキリスト教徒が半分を占めるのが特徴。その他にイスラム教徒や伝統宗教の信仰者がいる。

 1974年に皇帝を追放するクーデターで軍事政権が樹立されて以来、不安定な政情が続いた。1991年の政変以来エチオピア人民革命民主戦線が権力を掌握しているが、ここでは少数民族のティグレ人が政治・経済を掌握してきた。

▼若い指導者のアビー氏

 アビー氏は2018年4月に41歳で就任し、現在43歳という若い政治指導者。オモロ人のイスラム教徒として生まれ、エチオピア国内や英国で教育を受けた。博士号はエチオピアの開発問題で取得しているが、コンピューターなども学んでいる。

 与党であるエチオピア人民革命民主戦線で政治活動を始め、2018年に首相に就任した。国内では民族対立の緩和に努め、政治・経済改革を推進した。

▼エリトリアとの和平

 エチオピアは隣国エリトリアと1998年から国境紛争を抱え、2000年までに10万人が死亡。その後も緊張が続いた。アビー首相は就任から4か月の2018年7月に国交正常化で合意した。

 2019年には軍と市民グループの対立が続くスーダンで仲介を推進。民政以降に向けた合意形成に貢献した。

▼貧困と高度経済成長

 エチオピアは他のサハラ以南(サブサハラ)の国々と同じように経済発展が遅れ、1人当のGDPは1400ドル程度(2014年)。国連開発計画委員会の2017年発表のリストでも、後発開発途上国に留まる。

 しかし過去10年あまりの経済成長は顕著で、平均10%前後の成長を続ける。近年の経済発展の背景には、中国による投資も大きい。

▼ノーベル賞のメッセージ

 近年のノーベル平和賞授賞は、地域の和平促進や全地球的な問題(環境問題、女性の教育など)への取り組みを後押しする意味合いを込める事が多い。今回のアビー氏への授賞もそうした脈略で捉えられる。

 地域和平の促進は、ノーベル賞の授賞後に頓挫・後退したケースも多い。エチオピアやアフリカ情勢の今後に注目だ。

 参考に、過去10年のノーベル平和賞をリストアップする。

・2010 劉暁波(中国) 中国の人権活動家
・2011 エレン・ジョンソン・サーリーフ(リベリア)、レイマ・ボウィ(リベリア)、
    タワックル・カルマン(イエメン) 女性の権利
・2012 EU 欧州の発展と安定
・2013 化学兵器禁止機関 化学兵器排除の活動
・2014 マララ・ユスフザイ(パキスタン)、カイラシュ・サティーアーティ(インド)
    女性や児童などの権利の擁護、教育の権利
・2015 チュニジア国民対話カルテット 同国民主化に対し
・2016 サントス大統領(コロンビア) コロンビア内戦の和平推進
・2017 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN、スイス) 核兵器廃止条約への貢献
・2018 デニス・ムクウェゲ(コンゴ民主共和国)、ナーディーヤ・ムラード(イラク) 
    戦時の性暴力
・2019 アビィ・アハメド(エチオピア)

◎ノーベル賞ニュースにアフリカ考える
◎サブサハラ貧困と笑いが十重二十重

2019.10.13

 

2019年9月 8日 (日)

◆INCD1000号:この20年の世界の変化 2019.9.8

 INCDは2000年7月の創刊から1000号に達した。この間20年弱の世界の変化は、予想を超えるものだった。

▼グローバル化とIT革命、国の形の変化

 20年前に世界をどう見ていたのか。2000年12月30日号のINCD(年間回顧)は、『冷戦後の世界は、経済的には「新産業革命」や「グローバリゼーション」、政治的には「国の形の変化」をキーワードに動いてきた』と指摘している。世界の潮流を見るキーワードは、現在にそのまま通じる。

 ただ具体的な変化の内容となると、当時は想像できなかった形で世界は動いた。2001年の同時多発テロ、2008年のリーマン・ショック、スマホやSNSの普及、アラブの春、中国台頭のスピードなどは予想を超えていた。格差拡大などグローバル化の矛盾は、Brexitやトランプ米大統領の登場、難民危機などの形で顕在化した。

▼世界の枠組み:米国1強→「警察官」不在、テロ、中東混乱の時代

 2000年当時は「米国の1極支配」が論じられた。冷戦後の1990年代を通じ米国の軍事力やハイテクの力は突出。旧ユーゴ紛争などで米国が世界の安保を仕切る姿が目立った。

 しかし翌2001年9月11日の同時テロを契機に局面は変わっていく。世界はテロ戦争の時代に突入。米国はアフガン戦争、イラク戦争を仕掛けるが、中東情勢は泥沼化。米国の権威と指導力は揺らぐ。米国は次第に海外での役割を軽減する姿勢に転じ、「世界の警察官」の役割から降りていく。

 2011年のアラブの春で、中東の混乱の渦は拡大した。シリアやリビア、イエメンなどで内戦が拡大。混乱の中から「イスラム国」のようなテロ集団も台頭した。

 混乱の背景には、世界の安全保障体制とグローバルガバナンスの問題、格差、文明の衝突など様々な問題が指摘される。2019年の今は、イラン問題など新たな紛争リスクが持ち上がる。

▼IT革命

 ITを中心とした新産業革命は潮流としては20年前に予測されたものの、具体的中身は想像を超えた。2000年当時、すでにインターネットは普及していたが(Windows95の登場から5年目)、携帯は一部のユーザーが使うだけだった。Goodleなど検索サービスはまだ初期段階で、iPod(2001年発売)もWikipedia (2002年開始)もYouTube(2006年)もなかった。

 2000年代にはFacebookをはじめとするSNSが発展。2007年にはアップルがiPhoneを発売してスマホの時代に入る。UberやAirbnbなどシェアリングサービスも本格的に始まった。

 2010年代になるとこうしたサービスが急速に浸透。世界の過半数を超える人々がネットでつながり、様々なサービスを受けられる時代が到来した。

 一方でGAFAに代表される大手IT企業が情報を独占し、中国など国家が個人の情報や行動を厳しく監視するようになっている。SNSを通じた情報の流れは世論形成のメカニズムを変え、アラブの春や香港での抗議運動の原動力となる一方、フェイクニュースが横行しトランプ米大統領流の政治を拡大させた。光と影の両面を持って、IT革命は世界を変えている。

▼グローバル化新段階

 1990年以降、グローバル化は貿易や投資の拡大を通じた新興国経済の発展など、明るい面に光が当たった。しかし2000年代以降、負の側面も注目されるようになっていく。

 2001年の同時テロで焦点が当たった「格差」の問題は、その後も解決されることなく推移。「勝ち組」や「負け組」という言葉は世界でも強く意識された。紛争やテロの拡散(グローバル化)は各地の安定を揺るがし、地域紛争は大量の難民を生んだ。2015年の欧州難民危機はその代表だ。

 格差は世界各地でテロの温床となり、先進国ではポピュリズムや反移民・難民運動が横行するようになった。トランプ米大統領は中国に対し貿易戦争を仕掛け、関税引き上げ合戦が加速する。

 グローバル化は明らかに新段階に入った。これが一時の踊り場なのか、見極めは重要だ。

▼リーマン・ショックと世界経済

 2008年のリーマン・ショックとそれに続く世界金融危機を契機に、資本主義体制のあり方が問われた。世界経済を巡っては1980年の米レーガン大統領、英サッチャー首相の時代以降、新自由主義的な考え方が支配的だった。

 しかし世界金融危機では大手金融機関救済に大量の公的資金が使われ、市場万能主義の限界が明確になった。危機直後には資本主義の見直しが必要と強調されたが、議論は進まないまま年月が経過している。

 金融危機後、米国や欧州などは経済立て直しに大胆な金融緩和を実施した。その結果世界恐慌に陥る事態は防止したが、世界経済は大量の緩和資金を抱える構造になった。景気回復後もその資金は回収されず、新たなバブルが発生しているという指摘は多い。

▼中国の台頭

 中国経済はこの20年の間に急速に発展した。期間を通じ年率10%近い成長を維持。2010年には世界第2の経済大国に発展し、2020年代には米国を追い抜く可能性がある。

 1人当たりのGDPは1万ドル近くに到達し、アリババやテンセントなど世界的なハイテク企業も育った。

 リーマン・ショックで新自由主義やそれを中心としたワシントン・コンセンサス信頼が失われた。それに代わるかのような形で、開発独裁的な国家資本主義の元で急速な成長を続けた中国式のモデルが魅力を増した。

 その中国経済も、米トランプ大統領の仕掛けた貿易戦争で局面が変わる可能性がある。今後どう推移するか、注目点の一つだ。

▼環境、社会の変化

 この20年を振り返ると、その他にも重要な変化がある。地球温暖化などの環境問題が世界共通の問題という認識が広がり、様々な取り組みが進んだ。パリ協定など国際的な枠組みはトランプ米政権の離脱など曲折がある。しかし、電気自動車の開発や普及は加速し、欧米など先進国では食の安全(オーガニック食品の普及)やプラスチックごみの規制、エコシティの拡大など実体のある動きが広がっている。

 社会規範も変わった。LGBTの権利は着実に拡大。欧米では同性婚の受け入れが拡大する。安楽死は受け入れが広がり、女性の社会進出は曲折あるものの進展している。ネットの発展で、文化の変化も顕著だ。

▼新たな変化の方向は

 今後に向けた変化の兆しは多様で材料も多い。トランプ米政権は、貿易や安全保障、米中関係など他分野で従来のルールを否定し、新しいルール作りを目指している。第2次世界大戦後秩序の見直しとも言ってもいい。米中の争いは新たな派遣争いかもしれない。

 国家の姿も変わっていく。BrexitやEUの行方は、国民国家の行方を占う。中東の混乱やテロは、イスラムとの共存という問題を突き付ける。

 IT技術の発展は社会の仕組みを変えようとしているが、そのインパクトは未知数。歴史学者のハレリが指摘するような「ホモ・デウス」の時代に進むのであれば、その変化は人類というの存在にも関わる。

 変化は未知数だが、少なくとも、従来の変化を延長する「未来年表」的な予測で見通せるものではない。次の20年の変化が、過去20年の変化より大きいであろうことは間違いないだろう。

◎ メルマガに綴った「リーマン」「テロ」「スマホ」
◎ ネットありウーバーは想像外のふた昔
◎ アメリカの時代が続くと思ってた

20190908

2019年8月27日 (火)

◆G7首脳会議が映した世界の変化 2019.8.26

 G7首脳会議が24-26日、仏南西部ビアリッツで開かれた。会議は米トランプ大統領に掻き回され、通商や環境など多くの問題で意見の違いが際立った。40年以上に渡る会議で初めて包括的な首脳宣言の採択を見送るなど、世界の変化を映した。

▼包括的首脳宣言なし

 今年の会議は包括的首脳宣言の採択を見送った。採択見送りは前身のG5首脳会議が1975年に始まって以来初めてだ。

 首脳宣言は世界が直面する経済・政治問題全体をカバーし、G7首脳の共通認識や、協力して取り組むべき政策などを示してきた。向こう1年の世界の針路を示すものともいえた。内容は詳細で、2016年の伊勢志摩サミットの場合32ページだった。

 これに対して今年のサミットの「宣言」(G7 Leaders’ Declaration)は1枚。内容は、通商、イラン、ウクライナ、リビア、香港情勢の5項目で、いずれも1-4行のとどまる。宣言というよりメモのような形だ。

▼トランプ時代のサミット

 トランプ米大統領が2017年に登場してから3年。大統領はそれまで米欧など先進国の共通認識だった保護主義反対や多国間主義重視に異を唱え、自国利益第一(米国第一)の立場を鮮明にした。米国は地球温高防止のパリ条約や、イラン核合意からも脱退した。

 G7首脳会議に対しても懐疑的な姿勢を取り、不要論を公然を唱える場面もあった。昨年(2018年)のカナダでのサミットは首脳宣言にいったん合意したが、終了後に署名を拒否、混乱に陥らせた。

 こうした「トランプ時代の現実」を踏まえ、議長国フランスは最初から包括的首脳宣言の採択を前提としないで準備を進めた。その結果が包括的首脳宣言なしだ。

▼「保護主義反対」を言わない世界

 G7首脳会議は元々、世界経済を議論するために始まった会議。その世界経済を揺り動かすのが米中貿易戦争だ。会議で各首脳は米中貿易戦争に懸念を示したが、それ以上の具体的な議論は進まなかった。

 宣言には世界経済の安定希望など常識論を盛り込んだ。また米国の立場に配慮してWTOの抜本的な改革の必要性を指摘した。一方、トランプ大統領の登場以降、主要な国際会議の宣言から消えた「保護主義反対」の表現は今回もなかった。それどころか議論も行われなかった。

▼地球温暖化問題とアマゾン火災

 地球温暖化問題も米国と仏独などが対立したままだった。議長国フランスのマクロン大統領は温暖化問題を正面から取り上げて、トランプ米大統領と衝突するのを避け、からめ手で環境問題の議論を進めた。

 焦点を当てたのがアマゾンの火災。アマゾンは地球全体の酸素の5分の1を生み出していると推測されるが、今年に入り火災が急増している。ブラジルのボルソナーロ大統領が自然保護より開発優先の政策を打ち出し、その結果、農地開発や牧畜のため森林焼却が増えているためとされる。

 G7で取り上げたことから、この問題を巡る国際的な報道が急増。ブラジルに対する国際世論の批判が高まった。G7としても2000慢ドルの緊急支援など支援策を表明した。ボルソナーロ氏は支援を拒否したものの、国際世論に配慮し、軍隊を派遣し消火活動に動き出した。

▼イラン外相の電撃訪問

 マクロン氏はイラン問題でも独自色を出した。会議の場所にイランのザリフ外相を招き同氏の電撃訪問を実現。イラン核問題に新たな議論を引き起こした。訪問は、米国との事前調整などなしに進めたと報じられる。

 首脳会議にはアジアや中東、アフリカの首脳も招き、G7の枠組みの会合のほか、拡大版の会合も多数開催した。

▼首脳間の相性

 G7サミットの中継からは、首脳間の関係の良し悪しや相性も伝わってきた。夫人とともに各国首脳を迎えたマクロン氏は、メルケル独首相、トルドー・カナダ首相らとは親密に抱き合った上で話をし、良好な関係を示した。

 トランプ米大統領とはぎこちない握手の一方、会話に努めているように見えた。ジョンソン英首相とは、冷めた感じの握手ばかりが目立った。日本の安倍首相は緊密に迎えたが、直接の会話が難しいせいか共にいた時間は少なかった。

▼変化を映す場面

 米CNNは首脳会議について、"Trump's Chaos on full display at G7" (トランプが引っ掻き回したG7)と論じた。トランプ時代の現実をよく表現する。一方で、中国やロシアが不在であるのもG7の現実だ。

 今年のG7首脳会議は例年以上に話題が多く、見えてくるものも多かった。

◎ G7昔は世界を仕切ってた
◎ トランプで会議ゴタゴタ織り込み済み
◎ 「価値観を共有」と言った4年前
◎ アマゾンの火災に唸る10億人

2019.8.26

 

 

2019年7月23日 (火)

◆トランプ氏のGo Back発言の波紋 2019.7.21

 トランプ米大統領が野党民主党急進派の女性議員らに「国に帰ったら」とツイッターで発信。これに内外で批判が高まり、波紋を広げている。ドイツのメルケル首相は公然とトランプ氏を批判、米欧の首脳間で価値観を巡る対立が公然化するなど、事態は尋常ではない。

 ツイッター発信は14日に行われた。Huffington Post日本語版によれば、ツイートは「興味深いことがあります。いわゆる“進歩的“な民主党の女性議員たちはもともと、政府が完全に崩壊していて、最悪で、腐敗していて、世界中のどこにあっても機能しない国の出身です。(もしそれが政府と言えるならの話ですが…)」

 「そんな議員たちが、地球上で最も偉大で最も強力な国家であるアメリカ合衆国の人々に、私たちの政権運営への悪口を吹聴しています。なぜ彼女たちは政府が崩壊して犯罪が蔓延している出身地に戻って、手助けしないのでしょう?」

 「その後戻ってきて、どうやって解決したのか教えて欲しい。そうした国は、あなた方の援助をひどく必要としているから、簡単には戻って来れないがね。(民主党の)ナンシー・ペロシ下院議長が喜んで無料の旅券を手配してくれると確信しています!」

▼民主党4議員

 女性議員の名指しはしなかったが、幼少期にソマリアから移住したイルハン・オマル氏、プエルトリコ系のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏、パレスチナ系のラシダ・タリーブ氏、アフリカ系のアヤンナ・プレスリー氏の4人とみられている。

 ツイートは直ちに世界に拡散。トランプ氏の"Go back to your country"発言として認識された。

 4人は15日会見し白人至上主義の考えであるなどと批判。下院は16日大統領批判の決議を採択した。海外ではメルケル独首相が会見でトランプ発言(発信)を批判、自分は4人の議員側に寄り添うと表明した。

▼白人至上主義の影

 トランプ支持者は集会で発言を歓迎。トランプ氏の"Go back"をさらに強めて"Send back"などと連呼する動きも出た。これにはさすがにトランプ氏も距離を置いた。

 言葉の細かいニュアンスなどについては議論が分かれるところがあるだろう。しかし、米大統領がここまで人種差別に無警戒な発言をし、社会にインパクトを与えた例は少ない。トランプ支持層に、本音では白人至上主義の人々が多く含まれている表れと見ることも可能かもしれない。メルケル独首相が論争に参加するのも異例だ。

 トランプ氏はビジネスマン時代、テレビ番組で"You are fired"の発言で一段と有名になった。私企業(のモデル)ならとにかく、国が”Go Back"と言ったら基本的人権に抵触する問題だ。

 

 トランプ発言の一つとして、歴史的にも記録されるものになるだろう。しかし後味はかなり悪い。

 

◎ 「米国第1」も「国に帰れ」もはや定着
◎ "Go Back" トランプの姿に重なりぬ

2019年6月17日 (月)

◆香港の抗議デモと世界への問いかけ 2019.6.16

 香港で「逃亡犯条例」改正を巡り市民らの抗議活動が拡大。行政長官は改正の延期を表明した。しかし今後事態がどう展開するか、予断を許さない。香港の事態は、民主主義体制の経つを米欧などが中国とどう付き合っていくかなど、世界への問いも投げかける。

▼100万人の抗議デモ

 条例改正は、香港で逮捕した容疑者などを中国本土に送れるようにする内容。英語ではExtradition lawと表記されることが多い。親中派が多数の立法会は、20日ごろまでに採決の構えを見せていた。

 民主派は条例が改正されれば、中国にとって都合の悪い人物が不当逮捕され大陸に送られると懸念。同派が呼び掛けた9日のデモには、主催者発表で103万が参加した。この規模は、2003年の固化安全条例反対(50万人)や、2014年の雨傘運動(10万人)をはるかに上回る。

▼揺らぐ1国2制度

 香港は1997年の返還後、50年間は1国2制度を認められるはずだった。しかし現実には中国の支配が次第に強まり、自由な言論や政治活動が抑制されている。今回条例改正が実現すれば、司法や警察でも中国による支配がさらに強まりかねない。

 そうなれば、香港の法律体系の上に回っている経済活動にも影響が出てくる。実際、外資系企業の撤退や拠点縮小がささやかれる。

 こうした心配があるから、抗議活動には民主派だけでなく、一般市民が加わり、経営者も理解を示した。

▼延期表明後→200万人デモ

 林鄭月娥行政長官は15日、対立緩和のために規制の延期を発表した。しかしあくまで撤回ではないと主張した。

 これに対し民主派は撤回を求め、16日も抗議集会を継続。参加者は主催者側発表で約200万人に達した。行政長官の辞任を求める声も上がった。

▼雨傘運動の記憶

 今回の抗議活動の舞台は、香港島の立法院前とその周辺の道路。2014年に雨傘運動の中心になった地と同じだ。雨傘運動は2017年の香港行政長官選挙に事実上親中派のみしか立候補できず、自由選挙でなくなることに抗議する学生らが始めた。同年9月26日から12月15日まで80日あまり続いたが、結局要求を聞き入れられることなく終結した。

 今回は雨傘運動に比べ、市民の参加者も多く、とりあえず条例改正の延期を勝ち得た。しかし、香港当局屋中国がこのまま撤回に応じると見るのは楽観すぎる。今後の行方は全く不透明だ。

▼天安門事件30年の年

 抗議活動は、天安門事件30周年に起きた。6月4日、香港や台北などでは追悼式典や様々な行事が行われたが、北京は全くの平穏だった。中国では、事件について何も語られなくなった。これが香港の未来図か、と不安を抱く人も多い。

▼世界への問い

 実際大きな流れとしては、中国による香港支配の強化が進んでいるのが現実だ。この先、再び強硬策が導入されても不思議ではない。

 条例改正は、1国2制度の行方(まやかし)、中国による自由社会支配のあり様、住民の生き方など様々な問題に問いを突き付ける。それは、世界が中国とどう付き合うかという問題にも関係する。奥は深い。

◎ 雨傘の記憶再生 もう5年
◎ 自由なき大国の膨張どう生きる
◎ 怖いけどただ飲み込まれてなるものか

2019.6.16

2019年6月11日 (火)

◆天安門時代30年の問いかけ 2019.6.9

 中国で1989年の天安門事件から30年が経過した。中国はその後、世界の予想を大幅に上回る高成長を実現し、国際社会における存在感と影響力を大きく高めた。一方、民主化や政治的自由はむしろ後退。欧米とは異形の大国になった。

 中国の台頭は、様々な面で世界を揺るがす。開発独裁的な中国型の成長モデルは、途上国にとって一つの見本になった。冷戦後の規範になると思われた米欧流の「民主主義+市場経済」モデルに、中国モデルが挑戦している図式だ。天安門事件後の中国の30年の歩みは、世界の価値観をも揺るがしている。

▼香港・台湾で追悼、北京は厳戒

 天安門事件から30年の6月4日、香港や台湾では民主派団体らが追悼集会を開いた。香港のビクトリアパークの集会には主催者発表で18万人(警察発表は3万7000人)が参加。犠牲者を追悼するとともに、政治犯の釈放などを求めた。台北の自由広場でも集会が開催された。

 米国のポンペオ国務長官は、中国を国際社会に組み入れればより開かれた社会になると期待したが「希望は打ち砕かれた」と表明。EUのモゲリーニ外交安保上級代表も中国で「表現、集会、報道の自由への抑圧が続いている」と批判した。

 一方、中国・北京の天安門広場では、普段より多数の警官を配備し、多くの監視カメラを配置するなど厳戒態勢が敷かれた。当日、広場には普段通り観光客らが集まり、あたかも「何もなかった」かのように1日が過ぎた。

 30周年を前に中国当局は、インターネットやパソコンの監視を強化し警戒を強化。そこには当局が平静をよそに、神経質になっている面もうかがわせた。

▼30年間で経済規模30倍

 天安門事件の後、米欧は中国に対し経済制裁を実施。中国経済の先行きを危ぶむ見方も強まった。

 しかし、実際には事件直後の成長率こそ実質4%程度に落ち込んだものの、その後実質10%前後の成長を実現。名目のGDP(米ドル換算)は、事件前の1988年の4110億ドルから2018年には13兆4570億ドルに30倍に増えた(IMFのWEO2018年10月推計)。購買力平価のGDPは、2014年から世界1だ。

 30年の間に中国経済は「世界の工場」から「世界の市場」へと発展。アリババやテンセントなどの世界的なIT企業も育ってきた。中国政府は「一帯一路」構想を打ち上げ、世界的なインフラ開発などのプロジェクトでも主導権を取ろうとしている。

▼政治的抑制、凄まじい監視社会

 一方で、政治的には抑圧が強まった。天安門事件に参加した学生や知識人は厳しい監視下に置かれたり、自ら中国を去ったりした。メディアに対する規制は強まり、政治的な批判を載せる場はなくなっていった。

 インターネットやSNS時代になると、ネットの監視や検閲、ネットを使った世論誘導を強めた。2017年に施行したインターネット安全法は、事実上当局に対しネットの内容を検閲したり規制することを認めるもの。ビッグデータや監視カメラを使い、国民一人一人の行動やネットでの活動履歴を追跡することも可能になり、中国は凄まじいまでの監視社会になりつつある。

▼政治・軍事的膨張

 国際的には経済でなく、政治、軍事的な膨張も目立つ。
 
 南シナ海では南沙諸島(スプラトリー諸島)に軍事基地を建設するなど、実行支配を拡大。ベトナムやフィリピンなど周辺国との緊張を繰り返しながら、勢力を拡大している。一帯一路戦略に沿って、スリランカやギリシャの港湾の利用・運用権を獲得し、米国などの警戒を呼び起こした。アフリカ諸国との経済・政治面での結びつき着々と強化している。

 サイバー分野での戦略も進む。人民解放軍はサイバー軍の強化に努め、軍が抱えるハッキング集団は強力だ。米国などへのサイバー攻撃がしばしばニュースになる。

 米トランプ政権が中国に対し、貿易と並んでハイテク戦争を仕掛けているのも、中国のこうした動向を警戒するためだ。

▼異形の大国

 冷戦終了後、欧米では民主主義と市場経済が世界の規範となるとの見方が広がった。フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」に代表された歴史観だ。中国も経済発展が進めば、政治的な自由化も徐々に進み、いずれ民主化されると、楽観論を唱える識者も多かった。

 実際に起きたことは別。経済面は市場経済ルールを活用して大いに発展した。しかし政治では民主化が進まないどころか、ますます抑圧が強まった。「政治は独裁・経済は自由」という欧米とは異なる、「異形の大国」に育ったと言っていいかも知れない。これが天安門事件後30年(1世代)の中国の歩みだ。

▼北京コンセンサス

 民主主義と言う価値観を共有しない一方で、経済発展著しい中国に対し、米欧は心穏やかではない。米トランプ政権は、中国の位置づけを協調する相手から「覇権を争う競争相手」へと明確に変えた。欧州諸国も中国を競争相手とする位置づけを強めている。

 しかし途上国の中には、中国式のモデルに魅力を感じる国は少なくない。特に、政治面で強権体制を敷いていたり、独裁的な政治指導者には都合がいい。この開発独裁的な、北京コンセンサスとも呼ばれるモデルが、価値観の面でじわじわ広がっているようにも見える。

 天安門事件は、こうした流れの出発点だった。

▼リベラル・デモクラシーの試練 

 英FT紙のギデオン・ラックマン氏は、6月4日付紙面で"Beijing, Berlin and the two 1989s"というコラムを掲載した。1989年は天安門事件が起きたとともに、ベルリンの壁崩壊で冷戦が終結した年だ。後者は自由主義体制が共産主義体制に勝利した節目として、世界史上の重要な事件に位置付けられてきた。

 しかし、欧米の経済と民主主義と経済はいま、重要な危機直面している。経済は成長が鈍化しているうえ、格差の拡大など深刻な問題が目立つ。

 民主主義に関係する動きとしては、欧州でも米国でもポピュリズムや極右政党の台頭が顕著。人々は内向き思考を強め、反移民政党が力を得ている。フェイク・ニュースが蔓延し、一部の国では権力者による情報操作も強まっている。トランプ大統領らは移民問題などで、しばしば強引(強権的)な手法を使う。

 ラックマン氏は、「未来の歴史家は、1989年の重要な出来事はベルリンの壁の崩壊ではなく、天安門事件だったと判断するかもしれない」と指摘する。

 米欧の近年のポピュリズムや反移民の動きの台頭や内向き思考、一部で見られる強権的手法への傾きの背景には、もちろん様々な事情がある。しかし、中国の成功に影響された面はないのか。そうだとしたら、経済や政治のみならず、価値観の面でも中国の影響拡大が、予想を超えて進んでいると言えるかもしれない。

▼知った気にならずに
 
 中国の天安門事件30年を語る時に忘れてはいけないのは、30年前に中国がこれだけ(経済的に)成功すると予想した人はほとんどいなかったという事実だ。現在から振り返って、「中国がなぜ成功したか」を明快に語れる経済学者もほとんどいない。我々は、実はあまり分かっていない。この点を謙虚に認めることは重要と、つくづく思う。

◎「こんな矛盾 持つわけない」と一世代
◎ 好調な独裁国家に「どうしよう」
◎ 自由より内向きが受けてる、正念場

2019.6.9

 

 

2019年3月18日 (月)

◆NZテロ事件が投げかけるもの 2019.3.17

 ニュージーランド・クライストチャーチのモスクで乱射事件があり、移民のイスラム教徒ら50人が犠牲になった。世界でも平和で寛容な同国での事件は、世界に衝撃を与え、課題を突き付けた。

▼金曜礼拝の襲撃 

 犯行は15日昼に金曜礼拝が行われていたモスク2か所で行われた。押し入った男が銃を乱射。50人が死亡し、50人が負傷した。

 被害に遭ったのは、パキスタン、トルコ、サウジアラビア、バングラデシュ、インドネシア、マレーシアなどからの移民が多い。シリアからの難民もいた。NZは移民受け入れに比較的寛容な国として知られる。

 動向当局が逮捕した犯行の中心人物は、28歳の豪州人の男。本人の供述など詳細はまだ分からない。しかし、分かっている事実だけでもいくつかの重要な点がある。

▼反イスラム・反移民

 一つは容疑者がSNSサイトに、反移民や反イスラム、白人至上主義的内容の投稿していたという点だ。犯行の動機を反移民や反イスラムに短絡的に結び付けるのは、現時点では慎重であるべきだ。しかし、これらの言葉がキーワードであるのは間違いない。

 犯行後、様々なSNSやネット上に反イスラムなどを支持する投稿が寄せられた。世の中にそうした人々は、残念ながら少なくないようだ。そうした重い事実は、無視できない。

 世界金融危機と経済不況などを契機に、2010年代に入り世界的に反移民の動きが強まった。2016年の英Brexitや米トランプ政権誕生も、そうした流れの上に実現したとも指摘される。最近、欧州などで極右・反移民政党が台頭しているのも、そうした脈略でとらえられる。

 2001年の9.11以降、イスラム過激派によるテロが世界各地で起きた。そして「イスラム過激派」への対応は世界的な課題になった。欧米各国は、イスラム穏健派との協調などいくつかの課題を指摘するが、問題克服の展望は描けない。

 欧米などの一部には、反イスラムの感情をあからさまにする人々も表れ始めている。欧州の極右政党のいくつかは、反イスラムを公約に掲げる支持率を伸ばしている。

 今回の事件が今後どう解明されていくかは不明。しかし、反移民や反イスラムなど、現代の世界が抱える問題にイメージが重なるところがある点は否定できない。

▼犯行をネットで中継

 第2に容疑者が犯行の様子を、17分に渡りFB上に生中継した点も重要だ。ネットによる悪質な投稿の排除はここ数年、世界的に大きな課題になってきた。IT大手は対策の強化を強調する。

 しかし今回の事件では、極めて悪質といえる殺害の中継がそのまま映し出された。排除の難しさが改めて示されたともいえるし、FBはじめ大手ITがどこまで本気かを問いたくもなる。
 
 さらに、「銃」の問題だ。容疑者は銃を合法的な手段で取得していた。これが惨劇の一因にもなった。NZのアンダーン首相は早速、銃規制の強化を指示した。

 米国や欧州の一部、発展途上国の一部では、いまだに銃の野放しともいえる状態が続いている。こうした社会では、たびたび乱射事件が起きている。しかし本格的な規制は進まないのが現状だ。

▼問題の投影

 事件は、トランプ米大統領の言葉を使えば「頭のおかしい」人物が引き起こした問題かもしれない。しかし銃、イスラム、移民、ネットなどのキーワードが関連してくる。現在の社会が抱える重要な問題が投影されている。今後の展開に要注意だ。

◎ モスクの血 「平和の国」ではなかったか
◎ 移民、神、テロと繋がる言葉の連鎖
◎ 憎悪心広げるネット疾走中

2019.3.17

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