カテゴリー「世界の潮流」の127件の記事

2021年1月11日 (月)

◆2021年の展望 2021.1.9

 2021年が始まった。新型コロナの感染拡大が続き、米国ではバイデン政権が始まる。中国は香港問題などで強硬姿勢を強め、米中対立は続く。2021年の世界を展望する。

▼コロナ、米新政権、中国

 2020年の世界を振り返ると、(1)新型コロナの感染拡大と世界の経済・社会への影響、(2)米大統領選バイデン氏勝利、トランプ時代幕引きへ(3)英国がEU離脱、(4)香港国家安全法で1国2制度空洞化――などが大きな動きだった。2021年の注目も、この延長線上に集中する。

 新型コロナはワクチン接種が始まったものの、普及までにはかなりの時間がかかる。実際、足元の感染拡大は加速し、欧米諸国は都市封鎖の再導入をしているところだ。

 2020年は行動規制で人々の動きが止まり、経済が大きく落ち込んだ。しかし、世界の物流網は維持され、金融システムの安定は保たれた。社会不安も限定的に留まった。

 しかし長引く危機で、経済不安や社会不安などのリスクが顕在化する恐れは否定できない。感染の行方そのものと共に、経済・社会システムの動向も2021年の焦点になる。

▼バイデン政権

 米国は4年間のトランプ時代が終わり、1月20日にバイデン政権が発足する。バイデン氏は「米国第1主義」を強調したトランプ時代の姿勢を改め、国際協調路線を強調する。しかし、外交政策で最も注目される対中関係のスタンスは現時点では不透明だ。中国を警戒する姿勢は党派を問わず強まっており、トランプ時代に決定的になった米中対立をどこまで修正するかは未知数だ。

 1月5日のジョージア州補選により民主党は上院も制することになった。しかし、バイデン政権は「弱い政権」になるという見方が強い。国内的には、社会の分断が一層決定的になった。多くの不透明要因を抱えてバイデン政権は発足する。

▼中国の行方と米中関係

 中国は当面コロナの封じ込めに成功し、先進国で例外的に2020年の経済成長でプラスを記録した。習近平主席は3期目に向けて権力を固めているとの情報が多い。香港問題での強硬姿勢に見るように、強権色を強めている。

 米中対立は貿易からハイテク、安保の分野に拡大し、「新冷戦」や「デカップリング」などの言葉も聞かれる。中国の動向は、世界の枠組みの行方を左右する重要な要素の1つだ。

▼ユーラシア・グループのリスク・ランキング

 米シンクタンクのユーラシア・グループは毎年、今年のリスクを発表している。2021年の10大リスクは以下の通り(カッコ内は同グループの日本語HPの表現)。サイバーリスクなどを含むところが特徴だ。

1.米バイデン政権の行方・米国の分断(46* (注釈付き第46代アメリカ大統領))
2.コロナ問題(コロナ後遺症)
3. 気候変動問題(気候問題:ネットゼロとGゼロの交差)
4.米中関係(米中の緊張は拡大する)
5.データを巡る主導権争い(グローバルデータの因果応報)
6.サイバーリスク(サイバーリスクサイバースペースの転換点)
7.トルコ情勢(孤立無援のトルコ)
8.原油情勢と中東(中東:原油価格の低迷が打撃をもたらす)
9.メルケル独首相退陣後の欧州(メルケル後の欧州)
10.中南米情勢(混迷が続く中南米)

▼FTの2021年展望

 英Financial Timesは毎年専門記者による新年展望を特集している。2021年の展望の主な内容は以下の通りだ。
 
>>コロナ・グローバル
・WHOはコロナの非常事態終結を宣言するか:しない
・世界の成人(50億人)の半数にワクチン接種ができるか:できない
・米中は貿易問題で合意に達するか:達しない

>>米国・バイデン政権
・バイデン米大統領はレームダック状況の大統領になるか:そうはならない
・米国はイラン核合意に復帰するか:する

>>欧州
・ジョンソン英首相の保守党は労働党に支持率で明確なリードを達成できるか:できない
・スコットランド独立の住民投票は実現するか:2021年は実現しない
・ドイツの緑の党は連立政権入りするか:する
・EUはポーランドなどに対し「法の支配」が不十分なことを理由に復興基金の供与を止めるか:止めない

>>アジア、世界各地
・香港で大規模な民主化デモが再発するか:しない
・インド経済はコロナ前の水準に回復するか:する

・ベネズエラのマドゥロ大統領は権限を維持するか:する
・エチオピアのアビィ首相は再選されるか:される

>>経済
・米経営者に少数民族は増えるか:それほど増えない
・2012年は電気自動車普及の節目の年になるか:なる
・IT大手5社の時価総額の合計は8兆ドルを超えるか:超える
・欧州の会社印の半分以上がオフィス勤務に戻るか:戻る
・S&P500は年末4000の水準を超えるか:超える
・世界的な温暖ガスの排出量はコロナ前の水準に戻るか:戻る
・原油価格は50ドル以上を維持するか:する

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◎ 全地球で「元気に」の挨拶 年変わる
◎ 年賀状「コロナ2年」と書き違う
◎ 不確かさ トランプ要因は消えたけど
◎ コロナ禍もリストの1つリスク表
◎ 課題山積、世界はそれでも回っている
◎ 冷めた目で新大統領の来るを待つ

2021.1.9

 

 

2020年12月31日 (木)

◆2020年の世界10大ニュース 2020.12.31

 2020年が終了する。今年の世界は新型コロナの感染に揺れ動き、風景は一変した。感染終息のメドは立たず、衝撃波はなお広がる。コロナを中心に2020年の世界を10大ニュースの形で振り返る。

▼INCDが選ぶ10大ニュース

 INCDが独断と偏見で選ぶ10大ニュースは以下の通り。

1.新型コロナ感染世界に拡大、経済・社会を揺るがす
2.米大統領選バイデン氏勝利、トランプ時代幕引きへ
3.英国がEU離脱、EU加盟国初めて減少
4.香港国家安全法、1国2制度空洞化
5.人種差別抗議運動、米から世界に拡大
6.イスラエルとUAEなど国交、中東の枠組み変化
7.米司法省がグーグル提訴、大手IT規制強化
8.米や豪で森林火災、脱CO2の動きも加速
9.コロナでオンライン化加速、個人の行動監視強化も進む
10.米中対立、ハイテクや安保で一段と進む

(番外)
・世界的なカネ余りで不況下の株高、NYダウ3万ドル突破
・ロシア憲法改正、プーチン長期政権に道
・スペースXが初の民間有人宇宙船
・ベラルーシで反体制デモ
・アルメニア・アゼルバイジャン紛争

▼コロナの感染拡大

 世界は2020年を通して新型コロナ感染に揺れ動いた。最初に大規模な感染が表面化したのが中国の武漢で、1月下旬に都市封鎖した。その後感染は欧州や米国に伝播し、3月にはWHOがパンデミックを宣言。欧州や米国は3-4月の感染の第1波で、大規模なロックダウン(都市封鎖)に追い込まれた。イタリアなど一部の国は、医療崩壊に直面した。

 感染は新興国にも拡大。世界各国は感染封じ込めのための行動規制強化と、経済活動維持のための緩和を繰り返した。世界各国の感染は拡大の加速と一服を繰り返しながら、全体としては増加。2020年末現在、感染確認者は8000万人を超え、死者は約180万人に達している。実際の感染者は数億人以上という推測もある。

 各国はワクチン開発を急ぎ、12月からは欧米など一部の国で本格的な接種が始まった。しかし、接種が広く普及するまでには、数か月-1年以上かかるとの見方が強い。この間も、感染拡大が続いている。

▼世界の風景が一変

 コロナの感染拡大で世界の風景は一変した。変化は経済、社会、政治、人々の暮らし、世界の枠組みなど多岐に及ぶが、主なものをまとめれば以下のようになる。

○暮らし
・人々の行動規制が進み、海外旅行はほぼ全面的に停止
・飲食店や観光業が大幅な打撃、巣ごもり需要拡大など消費行動の変化
・テレワークやオンライン教育の急速な普及
・マスク着用の普及など衛生概念の変化

○経済
・経済活動の大幅な縮小、世界のGDP成長率はマイナス4-5%に落ち込む
・財政支出拡大や金融緩和でカネ余りに、株価など上昇、財政赤字リスクの拡大

○IT化、監視社会
・IT化の加速
・感染追跡ソフトの活用などで個人情報監視が強化

○社会・政治
・格差の拡大(社会的弱者にコロナの被害が一層重くのしかかる)
・コロナ対策を理由にした国家権限の強化(一部の国で)

○国際関係・世界の枠組み
・グローバル化のあり方の変化(人の移動の縮小、オンラインによる情報交換の拡大)
・米中関係など国際関係の変化(米国の中国批判、マスク外交を通じた中国の影響拡大など)

▼一層の変化

 コロナの影響はすでに多方面に及んでいるが、世界的な物流網は維持され、金融システムの安定も損なわれていない。しかし潜在的リスクとして拡大していることは間違いない。財政赤字の拡大やカネ余り、格差拡大に伴うリスクなども無視できない。

 2021年に入っても、感染拡大は続く可能性が大きい。さらなる変化が起きるのは不可避だろう。

▼米大統領選

 米大統領選は通常ならトップ級のニュースになが、今年はコロナの陰に隠れた感がある。それでも、世界の今後を占う動きとして重要だ。

 民主党のバイデン前副大統領の当選が確定し、4年間のトランプ時代が終わる。トランプ時代に米国は国際協調より自国利益を優先し、内向き化が進んだ。米中関係の対立が深刻化し、世界はハイテクなどの分野で米中両陣営に分かれる「デカップリング」の傾向が強まった。米国内的には国民の分断が一層進んだ。

 バイデン氏は欧州など同盟国との協調路線への復帰を強調する。ただ、中国に対しては強硬姿勢は維持する構えを基本としつつ、具体的な政策は明確でない。大統領選を通じ国内の分断が一層明確になり、バイデン政権の基盤が強くないとの指摘もある。

 バイデン氏当選は、政策への期待というより反トランプに支えられた面が強い。ポスト・トランプの米国がどう動くか。それは当然ながら、世界に大きな影響を与えるが、行方はなお不透明なところが多い。

▼Brexitと欧州の行方

 欧州では1月末に英国がEUを離脱。EUの加盟国は初めて減少した。その後11カ月の移行期間を経て、英国は2021年1月からEUのルールから離れるアウトサイダーとなる。

 英国は2016年、EUから主権を取り戻したいという意識や対EU不信など様々な理由から離脱を決めた。ただ、離脱に伴い経済的なマイナス効果は避けられない。長期的には、スコットランドの独立運動などが出て来る可能性もある。こうした懸念を払しょくできるだけの新戦略を打ち出せるか、真価が問われる。

 EUにとって、英国の離脱で規模が縮小し、国際的影響力低下の懸念が生じる。Brexitで突き付けられたEU求心力の低下への対応も待ったなしだ。EUは統合戦略の再構築を目指すが、今のところ明確に描き切れているとは言い難い。

▼香港1国2制度の黄昏

 香港では6月末に国家安全法が施行された。中国による直接統治が強まり、民主派の活動は厳しく制限されるようになった。1997年の返還時に約束された1国2制度は、空洞化が決定的になった。

 中国は香港の民主化運動に断固たる態度で対応をすることを改めて示した。こうした対応に、欧米などは批判を強める。欧米と中国の関係は一筋縄ではないが、経済やハイテク、安全保障など様々な分野で対立が広がっているのは間違いない。香港問題は関係の行方にとって重要なテーマの1つだ。

▼ITの進化と大手IT企業規制

 新型コロナの感染拡大で、ITの活用・普及は加速した。テレワークやオンライン授業が急速に普及し、9月の国連総会首脳演説もオンライン化した。Zoomなど新興IT企業が躍進した。GAFAなど大手IT企業の株価は上昇、アップルの時価総額は2兆ドルを超えた。

 一方で、大手IT企業に対する批判や規制強化の動きも目立った。米司法省は10月、グーグルを独禁法(反トラスト法)違反の容疑で提訴。米FTA(連邦取委員会)は12月にフェイスブックを提訴し、インスタグラムなどの米客を求めた。

 中国はアリババなどの調査をはじめ、EUの欧州委員会は12月新デジタル規制案を発表した。

▼世界の枠組み

 冷戦が終わった1989年以降、世界はグローバル化が進み経済の一体化が進展した。米トランプ政権の誕生によりこの流れに変化が目立つようになり、貿易やハイテク、安保などの分野で米中対立が際立った。米中デカップリングや新冷戦などの言葉も使われるようになった。

 そこにコロナの流行。香港問題に象徴される中国の姿勢、米中と並ぶ第3の極になり得る欧州(EU)の動向も、世界の枠組みの行方に影響する。10大ニュースにはそんな世界の枠組み変化を映し出す。

 

◎ 疫病が世界を変えるを忘れてた
◎ 超大国の選挙も脇役コロナの年
◎ ネット越し世界の変化を話し合う

2020.12.31

 

 

2020年12月 6日 (日)

◆コロナ感染拡大とワクチン接種開始 2020.12.6

 新型コロナのワクチン接種が始まった。世界の待望の動きで、感染防止の切り札として期待される。ただ承認は見切り発車の色彩もあり、有効性、副作用など課題も指摘される。

▼英などで承認

 ワクチン利用でまず動きを見せたのが英国。ジョンソン首相が2日使用を承認すると発表。8日から医療関係者などを皮切りに接種を始める。

 間髪をおかず、ロシアが5日から接種を開始すると発表。実際に接種が始まった。ロシアは8月に世界で初めてワクチンの承認したが、接種には至っていなかった。最終試験を重ねていたとみられる。英国の発表で、使用開始を前倒ししたとの指摘がある。

 米国は12月上旬-中旬にも接種開始と見られる。フランスなど欧州諸国は年明けの接種開始が見込まれる。

 各国とも通常の新薬承認に比べてスピードが速く、安全性や効果への疑問が完全に払しょくされたわけではない。それでもとにかく使用を優先させた格好だ。

▼一般接種までに数か月?

 接種はまず医療関係者や高齢者を優先し、一般の人々に広く使用できるまでには数か月を要する見通しだ。

 ワクチン接種開始は明るいニュースだ。ただ、予防効果がどれだけあるかなど不透明な要素も多い。ウイルスの突然変異にどこまで対抗できるかという指摘もある。効果が出るまでにはなお時間がかかると認識すべきだろう。

▼感染拡大

 足元の感染はむしろ拡大している。世界の感染確認者は3日、1日当たり60万人を突破。感染者は6300万人を超えた。

 1日当たりの死者も1万人を超え、累積の死者は4日に150万人に達した。

 秋に感染の「第2波」を経験した欧州は新規感染の山をひとまず越えたが、米国では引き続き「第3波」の感染が拡大している。カリフォルニア州など各州は自宅待機など行動規制を強化した。ブラジルなどでも感染拡大が続く。

▼反応様々ン、緩みに懸念も

 ワクチンの使用開始を歓迎し、接種を希望する人ばかりかと思えば、豈に図らんや、米国などではワクチン接種を拒否する人も少なくない。世界の人々の現状認識や価値観の違いが大きいことを改めて認識する。

 WHOなどは、ワクチン接種開始で感染防止の警戒が緩むことを警戒する。警戒と期待の材料を抱えて、コロナの1年は最終月に入った。

 

◎ 「ワクチンができた」にひとまず安堵の息
◎ 見切り発車それでも年末プレゼント
◎ 歓迎のニュースで忘れる時間軸

 

2020.12.6

2020年11月 8日 (日)

◆米大統領選をどう読む――トランプ時代の4年間と世界の今後 2020.11.8

 米大統領選は民主党のバイデン元副大統領の当選が確実になった。ただ開票を巡る混乱はなお続いている。選挙結果から読み取るべきものは何か。トランプ大統領時代の4年間で米国と世界はどのように変わり、今後どうなっていくのか。

▼バイデン氏当選の見通し、混乱は続く

 11月3日投票の大統領選は、まれに見る大接戦になった。勝敗の行方を左右するペンシルベニア、ジョージアなどの激戦区は、いずれも得票率の差が1%未満。投票から4日後の11月7日になって主要メディアは一斉にバイデン氏当確を打ち、同氏は勝利宣言をした。ドイツのメルケル首相や英国のジョンソン首相など海外の首脳はバイデン氏に祝電を送った。しかしトランプ氏は開票に不正があったとして裁判に訴える姿勢で、混乱はなお続く見通しだ。

 混乱の理由の1つが郵便投票。今回の選挙は新型コロナ流行拡大の影響で事前投票が多く、郵便投票は相当の割合を占める。しかし郵便投票のルールは、州により規程が異なり、例えば選挙当日の消印があれば選挙後でも受領する州がある。トランプ大統領は選挙前から郵便投票が不正の温床と主張し、実際不正があったなどと主張する。ちなみに、今回選挙は約1億6000万人が投票し、投票率は66%。事前投票は1億を超え、うち6500万が郵便投票だった模様だ。

▼トランプ氏の予想外の健闘

 事前予想ではバイデン氏が圧倒的にリードしていた。全米平均の世論調査では一時約10%、投票直前でも5%を大きく上回ってリードしており、民主党内には地滑り的な圧勝を期待する声もあった。

 しかし蓋を開ければトランプ氏が健闘。バイデン氏は民主党支持者が多く投じたと言われる郵便投票の上積みで、ようやく得票をひっくり返した格好だ。英FT紙は”Biden landslide hopes turn to nail-biting finish"(地滑り的勝利の期待は、ハラハラの結果になった)と描写した。議会選でも元々過半数を得ていた下院は制したものの、上院は困難だ(一部再決戦投票になるため、最終結果は現時点では未定)。

▼国民の分断

 バイデン氏勝利の理由を分析すれば、「反トランプ」の言葉に尽きる。中でもコロナ対策の失敗と、人種間の対立は批判の対象になった。しかし、それでも有権者の約半分はトランプ氏に投票した。米有権者はバイデン氏支持とトランプ氏支持に2分されたと言っていい。

 トランプ支持者は選挙後も、開票を巡り不正があったというトランプ氏の主張を支持し、抗議活動を展開する。衝突の懸念も消えない。米国では過去数十年間、社会の分断が指摘されてきたが、トランプ時代に亀裂が一層深まり、今回の大統領選でさらに深刻化したという分析が多い。

▼トランプ時代の4年間

 トランプ氏の4年間の政策やその影響を振り返ると、以下のような点を指摘できるだろう。

(1)米国社会の分断が加速
(2)米中対立が激化
(3)国際協調→自国利害優先への転換、世界のリーダーとして役割低下
(4)コロナへの不十分な対応(統治能力やリーダーシップの欠如)
(5)世界的に、民主主義が危機に直面

 トランプ大統領は就任時から「米国第1」を掲げ、自らの支持基盤である白人の保守層や貧困層らの利益を重視する政策を進めた。雇用確保の名の下に、移民規制の強化や関税の引き上げなどを実施した。一方で、人種差別問題への対応などには後ろ向きだった。結果、社会の内向き化傾向に拍車がかかり、米社会の分断が進んだ。

▼米中対立

 国際的には、米中対立激化のインパクトが最も大きいだろう。米国は1990年代-2000年代にかけて、中国を国際社会に受け入れることが世界の利益になるという「関与政策」を取ってきた。しかし、2010年代に入ると中国とを競争相手として捉える見方が強まってきた。トランプ氏はそうした変化を政策として具体化し、対中強硬策を相次ぎ打ち出した。

 2018年には中国からの輸入品に相次ぎ高率関税を導入し、貿易戦争を仕掛けた。その後ハイテク分野でも強硬策を強め、ファーウェイとの取引禁止などの措置に踏み切った。さらに南シナ海問題で中国の主張を違法と非難したり、欧州諸国に対中同盟を呼び掛けるなど、安保やイデオロギー面でも対中対立姿勢を明確にした。

 米中の対立が、経済面での分断を拡大していくという「デカップリング」の見方も強まってきた。米中の新たな対立を「新冷戦」と見る分析もある。

▼国際協調→自国利益、欧州、中東政策の変化

 米国は従来、国際協調や多国間主義を外交の基本にしてきたが、トランプ政権は自国利害優先に軸足を移した。イランとの核合意やパリ協定から離脱。欧州との関係は、第2次大戦後最悪とも言われるまでに冷え込んだ。

 中東では反イラン、親イスラエルの姿勢を強め、イスラエルの首都としてのエルサレム認定、イスラエルとUAE、バーレーンなどの国交樹立なども演出した。中東で築いた既成事実は、バイデン大統領になっても元に戻すのは困難だろう。
 
▼コロナが投げかけた問題ーー統治能力やリーダーシップ

 新型コロナの流行拡大は、トランプ政権と米国の問題を図らずも浮かび上がらせた。米国の感染確認者は間もなく100万に達し、死者は20万人を超えるなどいずれも世界最大。世界最高の医療技術を持ちながら、被害も最大という矛盾をさらけ出す。

 背景には、先進国でもまれな国民皆保険でない医療体制、特定の仕事に就く一部の人々に感染のリスクがのしかかる社会構造の矛盾、連邦政府と州政府の思惑の違い、国民の意識など様々な要因がある。しかし、トランプ政権の政策に問題があったのは否定できない。

 トランプ政権は、発足以来人事を巡りいざこざが絶えず、統治上の問題点が指摘された。またコロナ感染など非常時に最も問われるのは、トップのリーダーシップだ。コロナは統治能力やリーダーシップの問題点を露呈したと言っていいだろう。

▼「民主主義の危機」と「世界の枠組み変化」--トランプ時代の世界

 米国が世界のリーダーとして民主主義や開かれた経済などの価値観を守っていこうという姿勢は、トランプ時代に大きく後退した。内向き志向は世界的にも顕著になっている。

 コロナ流行という状況もあり、中国、ロシア、トルコなど強権国家の増加も指摘される。世界中で、民主主義の危機が叫ばれる。これに対し米国が歯止めになるのでなく、トランプ政権がむしろ民主主義の混乱を助長したとの批判が噴出する。

 米中関係の変化。世界の分断。米国のリーダーシップの後退。民主主義の危機ーー世界の枠組みは大きく変わろうとしている。第2次大戦後の世界の秩序がの変更と言ってもいいかも知れない。

 そうした点があらわになったのが、トランプ時代の4年間だった。

▼バイデン時代の課題ーー国際協調の姿勢

 こうした状況の中で、バイデン大統領が誕生する。

 国際的にはトランプ時代の米国第1主義から国際協調主義に軸足を戻し、対欧州関係の改善、パリ協定への復帰などを推進しそうだ。しかし対中関係を以前のような融和姿勢に戻すことはあり得ない。ハイテク摩擦など譲れない部分を守りながら、トランプ氏の強硬姿勢より有効な政策を打ち出せるのか。スタンスは難しい。

 国内的には分断の修復が大きな課題の1つ。バイデン氏は7日の勝利宣言でも国民に団結を訴えた。しかし、今回の大統領選派むしろ亀裂の深さを印象付けた。バイデン氏はトランプ氏と異なり、人種差別問題で人々を煽るような発言はしないだろう。しかし、それが逆に、白人の権利を重視する人などの不満を招可能性すらある。

▼問われるリスク管理能力

 目先、何より重要なのはコロナ対応。そしてコロナで悪化した経済対策だ。コロナについては、マスクの着用強化など簡単にできることもある。しかし、対応はその程度のレベルにとどまらない。

 今後、予測できないリスクが顕在化する可能性もある。感染の再拡大、医療崩壊、金融や経済危機の発生など様々だ。コロナが切っ掛けになって、国際的な紛争が起きる事態もあるかも知れない。そんな非常時にどうするのか。問題は、政策遂行やリスク管理の能力、そしてリーダーシップにかかる。

 大統領選で、国際情勢や非常時のリスク管理が議論されることはほとんどなかった。就任時に78歳となるバイデン氏に問われる責任の重い。そしてそれが、世界の枠組みや民主主義の行方にも直結する。

◎ 型破りと予測不能の4年過ぎる
◎ コロナ禍でもファンが離れぬポピュリスト
◎ 分断の時代が生んだか異端の士
◎ 「民主主義の戦線後退」「放置せよ」
◎ 米中が号砲なしに開戦す
◎ 地球儀の上塗り部分はもう消えぬ
◎ 政治的正しさ(political correctness)戻るか、ふと笑う

2020.11.8

2020年11月 2日 (月)

◆テロに揺れるフランスーー問われる対策、イスラムとの関係 2020.11.1

 フランスがイスラム過激派のテロに揺れる。9月以来テロが続発し、仏政府は取締強化策を打ち出した。しかし社会の分断は一層深まり、海外のイスラム諸国からは反発が強まる。「イスラムとの関係」という根深いにも改めて直面する。

▼相次いだテロ

 9月以降、フランスで起きたイスラム過激派によるテロは以下の通りだ。

・9月25日:パリの風刺週刊紙のシャルリエブドの旧本社前で、男女2人が刃物で襲われ負傷。
・10月16日:パリ郊外で中学教師が斬首される。犯人はチェチェン人の18歳。
      教師は授業で、シャルリエブドが掲載したモハンマドの風刺画を生徒に見せた。
・10月29日:ニースの教会でナイフによる襲撃事件。3人死亡。

▼マクロン政権が対応強化

 テロを受けてマクロン大統領は対策を強化した。

 29日にニースでテロがあると直ちに現地を訪問し、犯行を非難。政権は同日、テロ警戒水準を三段階の最高に引き上げた。

 翌30日には、治安部隊7000人を全国に配置し警備を強化すると発表した。

▼ひるまぬ決意、表現の自由

 マクロン大統領は21日の演説で、「フランスは風刺画をやめない」と表現の自由を重視する立場を強調した。その上で「我々はひるまない」とテロとの戦いの決意を述べた。

 大統領は、イスラムの過激思想がフランスの法体系より優先するとの考え方を「分離主義」と呼び、取締りを強めている。人の尊厳を犯すような宗教団体に対し、当局が解散をしやすくするよう法律改正を計画。モスクの資金源の監督も強化する予定だ。

 先立つ10月2日には、子どもが学校の代わりに家で義務教育を受けることを原則認めない方針を打ち出した。イスラム過激派を念頭に、不適切な教育をする保護者がいるためと指摘した。 

 直接のテロ対策強化だけでなく、表現の自由や教育制度などからも対応策を打ち出したーー一連の対応からこんな特徴が浮かび上がる。

▼イスラム諸国の反発

 こうした対応に、海外のイスラム諸国は反発を強める。フランスの動きが、過激派のみならず一般のイスラム教徒の生活やモスクの活動なども圧迫するという批判だ。

 トルコのエルドアン大統領は、マクロン大統領は「精神治療が必要」などと個人批判を展開。そのうえで、フランス製品の不買を呼び掛けた。インドネシアのジョコ大統領は「世界中のイスラム教徒の精神を逆なでした」と非難した。

 エジプトのシシ大統領、サウジアラビアの外務相なども同様の批判を表明した。レバノンなどでは反フランスの抗議デモが起きた。

▼宗教・文化の相違

 このように動きが人がっているのは、問題が単なるテロに留まらず、背後にある宗教や文化の違いに及んでいるためと見るべきだろう。

 フランスなど欧州諸国には、第2次世界大戦後、旧植民地などから多数のイスラム教徒が移住。フランスやドイツでは全人口の10%近い人口を占めるとみられる。

 こうした人々が、社会にうまく溶け込んでいるとは言い難い。生活スタイルや文化の違いもありなかなか溶け込めない。居住区も異なる場合が多い。社会の分断が一段と大きくなっているのが現状だ。

 宗教的な理由から軋轢が表面する事例もある。フランスは政教分離を基本理念とし、学校でスカーフで顔を隠すは認めない。宗教上の理由からスカーフ着用求める人との問題が、繰り返し表面化してきた。

 表現の自由m対立の材料になる。フランスが基本理念とする表現の自由には、風刺画も含まれる。これに対し、イスラム教は偶像崇拝を禁止しており、ムハンマドの風刺画など冒涜以外の何物でもない。2015年のシャルリエブド襲撃テロや、今年の9-10月のテロもそうした脈略で起きた。

 社会の分断や相互不信は、今回の一連のテロや対策で一層深まったとの指摘がある。

▼文明の衝突

 欧州は2015年、100万人を超える難民が中東から流入し、難民危機を経験した。その後各国で反難民、反イスラムの動きが拡大した。フランスの国民連合、ドイツのAfDなど反イスラムの色彩を帯びる政党は、一定の支持を維持している。2019年の世論調査によると、フランスでは「イスラム教の価値観はフランス社会と相いれない」と考える人が6割を占めた。

 一連のテロとフランス政府の対応、それに対するイスラム諸国の反応は、「イスラム過激派のテロ」という問題の範囲を超えて、欧州社会とイスラムとの関係というより根源的な問題を再び突き付けている。「宗教・価値観や衝突」や「文明の衝突」という切り口で見ることも可能かも知れない。問題の根は幅広く、深い。それは世界の今後の行方に、大きくかかわってくる。

◎ コロナ下にテロのニュースがまた届く
◎ 「過激派の仕業」と蓋しても終わらない
◎ テロの報 宗教戦争の影浮かぶ
 
2020.11.1

 

2020年10月20日 (火)

◆コロナ感染拡大と政治・外交の緊張 2020.10.18

 新型コロナの感染拡大が続く。欧米で感染の再拡大が加速し、欧州諸国は行動規制の再強化に動く。こうした中、体制派と反体制派の政治対立の激化や、国際紛争も目立つ。

▼感染第2波、今後も不透明

 新型コロナの確認感染者は19日、4000万人を超えた。中南米、インドなど新興国で拡大しているほか、欧米の感染再拡大が加速する。

 欧州主要国では1日当のり感染確認者が、春の感染時ピークを上回る勢い。スペイン、フランス、英国、ベルギーなどは夜間外出禁止や飲食店休業など相次ぎ規制強化に動いた。

 欧州各国は春先に全国レベルでのロックダウンを実施し、感染は一時ペースダウンした。しかし結局、封じ込めはできず、第2波の到来に至っている。

 米国では感染確認氏が800万人を超えた。コロナ感染下でも、大統領選の大規模集会が開催され、行動規制に反対する人は少なくない。

 ワクチンや治療薬開発のメドは見えてこない。こんな感じで第3波、第4波が繰り返されるのか―。目先の冬場はもちろん、来年も油断できない。

▼コロナ下の政治・外交混乱

 世界各地で紛争や政権、政治・外交の混乱が目につく。

 米国では大統領選が泥仕合の様相を呈している。トランプ、バイデン両陣営の間で建設的な政策論争は乏しく、批判合戦に終始。コロナ感染下でも大規模集会が相次ぎ開かれる。

 英・EUは通商関係を巡りチキンゲームの交渉を続け、合意なしで年末の移行期間終了を迎える可能性も消えない。コロナで悪化している経済にさらに悪影響が出るのは必至だ。しかし今のところ「交渉はウィン・ウィンが大原則」という姿勢は見えてこない。

 タイ経済はコロナに加え政治混乱により、さらに悪化の兆しを見せている。政治対立は過去数十年に及ぶ構造的なものだが、足元の混乱は政権の強硬姿勢や、国王のふるまいなども影響推している。

 キルギスでは10月4日の総選挙で不正があったとの疑惑から反体制派が決起。大統領辞任・年末再選挙へと発展した。アルメニアとアゼルバイジャンの紛争は決着が見えない。ベラルーシでは9月の大統領選を受け、反体制派の抗議か活動が続く。トルコ・ギリシャは東地中海の天然ガス資源開発を巡り対立を深め、そこに北キプロス(トルコだけが承認の国家)の大統領選が絡む。

▼高まる不満が転化?

 世界中で、コロナにより国民の生活は苦しくなり、不満が高まっている。政治への批判が爆発する発火点は低くなっている。権力者が、国内で対立を煽ったり、海外に敵を仕立て上げ、人々の不満のはけ口にするのも常套手段だ。

 対立や混乱の多発は、コロナの感染拡大と相関しているようにも見える。

 こうした時に真価を問われるのは政治家のリーダーシップだ。

 ニュージーランドの総選挙(17日)では、アーダーン首相の労働党が圧勝した。首相の尾コロナ対策などが評価されたためと地元メディアなどは分析する。こうした知らせを聞くと、少し安心する。
 
◎ パリの街灯(あかり)、戦時はしょっちゅう消えていた
◎ 感染と政治の混迷がよくコラボ

2020.10.18

2020年9月20日 (日)

◆米中対立:戦線拡大・複合化ーTikTok、ファーウエイ、台湾 2020.9.20

 米中対立が激しく揺れた。動画投稿アプリのTikTokの米国での活動を巡り、両国は水面上・水面下で攻防を展開。米国はファーウエイへの禁輸措置を強化した。台湾を巡る駆け引きも動いた。米中対立は領域を広げ、複雑に絡みながら動き、両国関係は分断(デカップリング)が進んでいる。

▼トランプ政権が規制の動き、中国も対抗

 動画投稿サイトのTokTokを巡る情勢が目まぐるしく動いた。

 同サービスは、中国の北京字節跳道科技(バイトダンス)が2017年から提供している。全世界のユーザーは8億人、米国で1億人が利用する。

 トランプ米大統領はTikTok利用者の個人情報が中国政府に流れているとして、7月末にTikTOkの禁止を表明。その後、米企業による買収かサービス禁止を迫り、9月15日までと期限を定めた。こうした中、米マイクロソフト、オラクル、ウォルマートなどが交渉に乗り出していた。

 中国は米国の動きに反発、8月には対抗策として自国の輸出規制を強化した。輸出規制の対象にはAI関係の技術やサービスも含まれ、米社とTikTokの交渉に中国がストップをかける可能性も生じていた。

▼二転三転、今後の展望なお不透明

 トランプ政権の定めた期限が迫る中、マイクロソフトは13日までに交渉中断を表明。オラクルとTikTokは14日までに、買収ではなく提携案をまとめ、米政府に示した。オラクルがTikTokのグローバル事業に資本出資し、サービスのアルゴリズムはTikTokが保有する一方、顧客データの管理はオラクルが実施するという内容。ウィルマートもオラクルと共に出資に加わる。

 提携案を受けて米商務省は18日、TikTokの米国内での新規ダウンロードや更新を20日に禁止すると発表。一方、サービス自体は11月12日まで認めるとした。

 翌19日、トランプ大統領は提携を原則承認すると発表した。商務省は新規配信の禁止を20日から27日に延期した。

 米政府の対応は二転三転している。判断の背後には、もちろん11月野大統領選をにらんだ思惑もある。中国側の反応もはっきりしない点が残る。TikTok問題がどう推移するか、なお流動的だ。

 ちなみに、ピーターパンの人食いワニは、Tick Tockと表記される。

▼テンセントやファーウェーも

 当面の焦点になっているのはTikTokだけではない。米国は中国大手ITのテンセントが提供する微信(ウィ―チャット)の利用も禁止した。

 大手通信機器、スマホのファーウェイに対しては、2018年以降何度かの決定で取引規制を京っかしている。米国から技術を盗んだなどという理由。

 9月15日には、同社に対する禁輸措置を強化。米国の技術が絡んだ半導体の同車への輸出を事実上全面禁止した。同社への直接輸出だけでなく、外国企業による輸出も制限する内容だ(同車に米国技術が絡んだ半導体を輸出した企業は、米国の制裁対象とする)。

▼米中ハイテク摩擦

 米中のハイテク分野での摩擦が強まったのは、トランプ政権2年目の2018年から。米国は中国のハイテク企業が知的所有権や侵害や技術の窃盗などをしていると主張、締め付けを強化した。次世代通信ん5Gの通信機については、ファーウェイからの導入禁止を打ち出し、欧州や日本、豪州などにも同調を求めた。

 米国は今年8月、ファーウェイ以外に通信基地やスマホのZTE、監視カメラのハイクビジョンなどとの取引を制限する法律を施行した。TikTokやテンセントへの規制強化も、同じ戦略上にある。

▼台湾との関係強化

 TikTok問題が揺れた同じ週、台湾を巡っても注目すべき動きがあった。米国のクラック国務次官が台湾を訪問。7月末に死去した李登輝元総統の告別式に参加し、蔡英文総統と会談した。行政院長(首相)や経済部長(経済相)とも会談し、米台関係経済関係の強化などを話し合った。

 米国からは8月厚生長官が訪台したばかり。相次ぐ政府高官の訪問で、米台関係強化の動きを誇示する戦略だ。

 中国は反発し、米国への批判と警告を繰り返す。19日には戦闘機19機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側に侵入、圧力をかけた。

▼安全保障の対立

 米中関係はトランプ政権の発足以来、急速に対立を深めた。米国は2018年以降、中国からの輸入品に高率関税を導入。まず貿易戦争が勃発した。次いでハイテク分野で対立を深めた。

 加えてここに来て、安全保障分野でも対立が強まっている。6月末に香港に国家安全法が導入されると、米国は中国を厳しく批判。香港への制裁を強化するなど、警戒の姿勢をあらわにした。7月には南シナ海問題を巡り、中国側の主張は国際法的に見て違法であると初めて明言した。9月の東アジアサミット閣僚会議(ビデオ)では、ポンペオ国務長官が南シナ海問題で中国を激しく批判した。

 台湾との関係強化の動きも、この脈略にある。香港の1国2制度は国家安全法により空洞化し、香港が中国に飲み込まれつつある。台湾が同様の姿にならないように、米国は支援強化を見せつけている。

▼デカップリング

 米中関係の行方には、不透明要因も多い。11月の米大統領選で民主党のバイデン候補が当選すれば、対中政策はトランプ時代のやり方とは変わるだろう。それでも、対中警戒感の高まりは、野党民主党も含め米国に広く浸透している。

 1990-2000年代、米国は中国を国際社会に受け入れることが中国の民主化や世界の安定に繋がるという見方を取り、関与政策を推進した。この考え方はいまや完全に後退している。

 米中の分断ともいえる「デカップリング」が、経済のみならず科学技術、人的交流など様々な分野で進んだ。全世界的なサプライチェーンは、中国外しの動きが広がる。ハイテク分野では、米中それぞれが相手企業の活動を制限し、締め出す動きが加速する。新型コロナの流行は、心理的に経済的効率優先主義より製品供給の確保や安全性が重要という流れを強めた。

 新冷戦という言葉もすっかり定着した。今後の米中関係を見るうえで、対立の拡大や深まりはすでに所与の事実となっている。

◎ Tick Tockと紛争刻む時の音
◎ 戦争は「貿易」だけだった2年前
◎ 「冷戦」に違和感消えるコロナの夏

2020.9.20

 

 

2020年7月 5日 (日)

◆香港1国2制度の黄昏 2020.7.5

 香港で国家安全維持法が施行された。中国の直接統治が強まり、1国2制度の形骸化の懸念が強まる。自由な自治を前提としてきた香港は、重大な曲がり角を迎えた。政治体制や価値観を巡る米欧と中国の対立にとっても、重要な節目になる。

▼中国が直接関与

 国家安全法は6月30日に中国が交付し、同日午後11時に香港で施行された。主な内容は、(1)国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託を犯罪を規定、(2)中国政府は香港に治安維持期間を新設する、(3)香港の他の法律と国家安全法が矛盾する場合は、国家安全法を優先する、などだ。

 (1)の犯罪の規定は、反中的な抗議活動や民主化デモなどを念頭にしているとみられる。(2)は、これまでの香港政府を介した間接的な関与ではなく、中国が香港に直接関与することを意味
する。(3)は、香港法が中国法の下に置かれことを鮮明にする

 

▼1国2制度の骨抜き

 

 香港は1997年の返還から50年間、「1国2制度」を約束されてきた。香港は中国の領土でありながら、法律や司法などは香港独自の制度を維持する仕組みだ。香港のビジネスは英国法の影響下に作られた香港法の下で運営され、金融業などは返還前と変わらず繁栄を維持してきた。

 国家安全法は、香港法が中国法の下に位置づけられると明確化した。1国2制度が骨抜きされると言ってもいい。

▼中国と同じ状況に

 安全法は外国人にも適用される。外国人であっても、「国家分裂」をみなされる発言は許されないし、違反を理由に逮捕されることもある。

 いわば、中国国内に居るのと同じ状況になる。これまで香港は、「言論や通信の自由がある地域」だったが、中国と同じようになる、と考えるのが分かりやすい。

▼中国は民主化に危機感

 中国が国家安全法制定に動いたきっかけの1つが、昨年の抗議デモと言われる。香港の議会が、香港で犯罪を犯した犯人を中国に送ることを可能にする「逃亡犯条例」の制定に動いたことに、民主派の住民らが反発。昨年6月以降、100万人、200万人以上が集まる大規模抗議活動が続いた。

 抗議活動の要求は民主化拡大の要求にもつながり、11月の区議会選(権限は小さいが、民意のバロメータと位置付けられる)でが民主派が圧勝した。

 この間、香港政府は有効な対抗策を打ち出せず、中国政府は危機感を強めた。結果、直接統治に繋がる香港安全法制定に動いた、という見方だ。

▼「香港の自由の死」

 香港の民主派住民らは7月1日以降、安全法に対し反対活動を展開。これに対し香港警察は取締りを強化し、安全法に対する逮捕者を出した。報道機関やネットに対する監督も強化している。香港の民主派団体も解散を余儀なくされるなど、統制が強まっている。

 元々香港の社会から自由が失われていくという見方は、幅広くあった。例えば2015年に政策された映画「十年」は、自由が失われてた10年後の香港の日常を淡々と描いている。

 しかし、今回は、1国2制度が急激に覆される展開。民主派からは(例えば蘋果日報=アップルデイリー=代表など)は、「香港の自由は死んだ」などの発言も出る。

▼経済にはダメージ、中国は想定済み

 米欧など国際社会は安全法制定に反発。米国は香港や中国に対する制裁措置を発表した。香港に進出している企業は、香港法による財産の保護などが保証されなければビジネスも展開しにくい。事業の撤退などの動きもでてくるだろう。実際、ヘッジファンドなど金融機関には、拠点を香港からシンガポールに移す事例もある。

 経済的なダメージは避けられないだろう。しかし、中国政府もその辺は十分に理解した上での決断だろう。香港が中国経済に占める割合が、返還時とは比べ物にならないほど縮小した(1997年には香港のGDPは中国の7%程度、現在は2%程度)。これも、中国が思いきった決断ができる理由の1つだろう。

▼香港住民の受入れ

 民主派の住民らが、香港から海外に流出する動きもある。旧宗主国の英国や豪州、台湾などは、香港住民を受け入れる姿勢を表明している。

 ただし、百万人単位の流出になれば、簡単に対応できるものではない(香港の人口は750万人)。欧米などの中国批判・民主派支持が、単なる言葉だけのものか。それ以上のものになるかも問われる。

▼欧米vs中国の最前線

 香港問題は、香港個別の問題であるほか、国家体制や価値観などを巡る米欧と中国の対立(競合)の最前線でもある。欧米は自由や民主主義、法の支配を尊重する体制が、人々の幸福や経済発展という観点から見て相対的に優れていると主張してきた。香港のあり方でも、中国が「1国2制度」を尊重する方が利益になる、という読みがあった。

 ただ中国は、欧米のモデルにとらわれない国家のあり方や経済発展を志向する傾向を強めている。2008年の世界金融危機以降は特にそうだ。そして、経済成長の持続や人々が豊かになるという面では、結果を出している。

 国際社会における存在感を拡大し、中国式モデルが新興国などから支持を拡大しているのも事実だ。

 香港問題は、自由や民主主義、国家のあり方に関わるこうした問題に改めて問いを突き付ける。香港住民受入れなど、個別問題についても総論では答えにならない疑問を投げかける。

 

◎ コロナの夏1国2制度黄昏時
◎ 「自由の死」を呆然と見つめ盛夏来る
◎ 嫌われても中国伸長この事実
◎ 「頑張れよ」声だけ声援空虚なり

2020.7.5

 

 

2020年6月30日 (火)

◆コロナ「感染確認者1000万人」の風景 2020.6.28

 新型コロナウイルスの感染確認者が1000万人を超えた。「確認者」の信頼性や意味には議論があるが、節目の数字としては重要だ。

▼大台到達

 新型コロナの感染が本格的に始まったのは1月。同月23日に中国の武漢が都市封鎖されたころから世界的な関心事になった。

 感染はその後、欧州から米国、さらに新興国に広がった。確認感染者数は、2月末に約10万人、3月末100万人、4月末300万人、5月末600万人、そして6月末に1000万人突破だ。

 実は確認の方法は国により異なるし、感染しても確認されない人も多い。実際の感染者は10倍という見方もある。そうだとすれば、現在の感染者は1億人だ。

▼感染拡大の風景~新興国・米国

 現在はブラジルなど新興国で感染拡大しているほか、米国では南部や西部の州を中心に感染の再拡大が始まった。

 ブラジルやインドなど、新興国の様子が映像で流れて来る。その人込みの風景をみると、感染拡大はもっともな感じがする。

 米国からはフロリダなどのビーチがにぎわい、人々が集会にマスクなしで集まる映像が流れる。マスクの共用は自由の侵害という人もいる。お国柄の違いと言えばそれまでだが、ここでも感染再拡大もうなずける。

 感染再拡大を受けて、テキサス州やフロリダ州では経済再開の中断に追い込まれ、逆に一部規制の再導入に踏み切った。

▼スペイン風邪との比較

 当初は新型コロナの感染をSARSや2009年の新型インフルエンザと対比して議論することもあったが、すでに感染規模はケタ違いになった。

 今では1910-20年代のスペイン風邪との比較が参考になる。スペイン風邪は感染者数億人、死者1700-5000万人と推定される。今のところはまだ背中を見ている状況だが、距離は接近している感じがする。

 ちなみにペストとの比較は規模的にも死亡率からみても、まだ遠い。今のところは話のための話で済む。

▼経済に打撃・基本システムは維持

 ワクチンや治療薬開発のニュースはあれこれ入ってくるが、メドは依然立っていない。新興国などでは第1波の拡大、欧米やアジアでは第2波、第3波の懸念が消えない。

 経済活動は打撃を受け、4半期ベースで見れば1-3月の中国のGDPが前年比マイナス6.8%、インドの4-6月GDPの推計は前年比約20%の落ち込みと推定される。ユーロ圏の1-3月は前4半期期比年率(前年比ではない)で10%以上落ち込んだ。

 ただ、少なくとも主要国では物流システムのマヒや食料不足など、経済崩壊をもたらす状況には陥っていない。

 コロナにより各国の政治、経済、社会の仕組みなどに様々な変化が起きている。テレワークやオンラインの活用が拡大し、政府の強権化の動きも目立つ。コロナの影響は始まったばかり、と認識すべきだろう。

◎ 月ごとに桁数繰り上げ感染者
◎ SARS並みからスペイン風邪級視野に入り
◎ 海水浴一時(いっとき)の歓声コロナの夏
◎ 「自由か死か」民主化ならば響くけど

2020.6.28

2020年5月31日 (日)

◆米中対立・新ステージに 2020.5.31

 中国が香港国家安全法制定を決めたことに対し、米国は対中国・香港制裁措置を発表した。新型コロナの感染拡大を巡っても、対立がエスカレートする。米中対立は、新ステージに入った。

▼香港国家安全法

 中国の全人代は28日、「香港国家安全法」の制定を決議して閉幕した。香港の反体制活動を禁じる内容で、中国が直接取り締まるようにする点がこれまでと異なる。

 香港は1997年の中国への返還以来、「1国2制度」の下に運営されてきた。香港の法律は、基本的に中国の法律と別のものだった。その下に、企業の自由な活動や言論の自由(程度については色々な議論がある)が維持されてきた。

 今回の決定について、香港の民主派や欧米各国は、1国2制度を骨抜きにすると懸念する。

▼米国が制裁措置

 米国は中国の決定を批判。トランプ大統領は29日、一連の制裁措置を発表した。内容は、(1)米国が香港に対して認めてきた関税やビザ発給の優遇措置を廃止、(2)中国や香港の当局者への制裁、(2)中国からの大学院生の一部の入国停止、などである。

 同時にトランプ大統領は、かねて中国寄りと批判してきたWHO(世界保健機関)からの脱退を表明した。

 コロナ問題で米国は、中国が初期の段階で情報公開を十分に行ってこなかったなどと批判。さらには、新型コロナウイルスが武漢の中国の研究所から流出したなどの批判もしている。これに対しては中国が根拠のない批判などと反論する。

▼ハイテク、企業上場、人権でも

 ここに来て米国が対中批判を強めているのは、香港問題だけではない。ハイテクや金融、人権など様々な分野で措置を打ち出している。

 ハイテクでは5月、通信大手のファーウェイに対する禁輸措置を一段と強化した。米国製の半導体装置を使った製品は、たとえ外国製でも輸出を認めないようにする内容。これにより、台湾のTSMCはファーウェーからの新規受注を停止した。

 ナスダックは新規上場企業のルール厳格化を決めた。中国企業の新規上場のハードルを高くする。米上院は、米国に上場する外国企業の透明性強化を求める法案を可決した。

 米上下院は中国がウイグル人の人権侵害批判するウイグル人権法を採決した。

▼コロナと大統領選

 2017年の米トランプ政権の発足以来、米中関係は緊張が高まった。トランプ氏は「米国第1」を掲げ、自国産業保護を優先させる姿勢を鮮明にし、2018年以降中国からの輸入品に高率の関税を課た。米中貿易戦争が勃発した。

 その後中国のハイテク産業が米国の技術を不当に盗んだり、知財権を侵害しているなどとして制裁などの措置を導入した。

 米中の貿易・ハイテク摩擦は、今年1月に第1段階の合意を締結し、一時休戦したかに見えた。

 そこにコロナの感染拡大で、状況が変わった。米政権はコロナを巡り中国への不信を強めた。トランプ大統領が秋の大統領選をにらみ、対中強硬姿勢を強めるのが得策と判断したとの見方も強い。

▼中国は勢力拡大の動き

 中国側は、コロナでは「マスク外交」とも呼ばれる感染国支援などで影響力を拡大。一方で領土問題を抱える南シナ海で実効支配を強化するなど、勢力の拡大に余念がない。香港国家安全法の制定決定も、コロナ問題で国際社会の香港への関心が弱まった機を利用したとの見方がある。

▼覇権を巡る対立

 米中の対立は、背景には覇権を巡る争いがあるとの分析も多い。中国経済の規模はすでに米国の3分の2に達し、購買力平価で比較すれば米国より大きい。数年前から一帯一路などの世界戦略を打ち出し、21世紀半ばには米国と並ぶ世界の強国になるとの目標も打ち出した。

 2000年代までの米国は、中国が経済発展を実現すれば民主化するとの見方にも届いていた。今や、そうした観測は後退している。共産党1党独裁の異形の国家が、米国の覇権国の地位を脅かそうとしているとの警戒は、トランプ政権のみならず野党民主党でも強まっている。

◆デカップリング

 トランプ政権が打ち出した自国優先、対中警戒の政策は、米国と中国の経済を分断するdecoupling(デカップリング)につながるとの見方が、以前からあった。振り返れば、東西冷戦時代の世界は2つに分断していた。コロナの流行拡大は、そうした傾向に拍車をかける可能性がある。

 コロナ感染が生み出す新常態は、経済システム、生活、政治の枠組みなど様々な分野に及ぶ。新常態への移行の多くは、スムースに行われるわけではないだろう。様々な軋轢や混乱があると考えるのが自然だ。

 その中でも、米中関係の変化は規模の大きいものの一つだろうし、覇権を巡る争いとなれば地球規模の地殻変動になるだろう。

 

◎ 新常態 やわらか表現中身は混乱
◎ そういえば 世界は割れてた世代前
◎ 疫病下の戦線拡大、またですか

 

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