カテゴリー「グローバルガバナンス」の52件の記事

2020年6月30日 (火)

◆コロナ「感染確認者1000万人」の風景 2020.6.28

 新型コロナウイルスの感染確認者が1000万人を超えた。「確認者」の信頼性や意味には議論があるが、節目の数字としては重要だ。

▼大台到達

 新型コロナの感染が本格的に始まったのは1月。同月23日に中国の武漢が都市封鎖されたころから世界的な関心事になった。

 感染はその後、欧州から米国、さらに新興国に広がった。確認感染者数は、2月末に約10万人、3月末100万人、4月末300万人、5月末600万人、そして6月末に1000万人突破だ。

 実は確認の方法は国により異なるし、感染しても確認されない人も多い。実際の感染者は10倍という見方もある。そうだとすれば、現在の感染者は1億人だ。

▼感染拡大の風景~新興国・米国

 現在はブラジルなど新興国で感染拡大しているほか、米国では南部や西部の州を中心に感染の再拡大が始まった。

 ブラジルやインドなど、新興国の様子が映像で流れて来る。その人込みの風景をみると、感染拡大はもっともな感じがする。

 米国からはフロリダなどのビーチがにぎわい、人々が集会にマスクなしで集まる映像が流れる。マスクの共用は自由の侵害という人もいる。お国柄の違いと言えばそれまでだが、ここでも感染再拡大もうなずける。

 感染再拡大を受けて、テキサス州やフロリダ州では経済再開の中断に追い込まれ、逆に一部規制の再導入に踏み切った。

▼スペイン風邪との比較

 当初は新型コロナの感染をSARSや2009年の新型インフルエンザと対比して議論することもあったが、すでに感染規模はケタ違いになった。

 今では1910-20年代のスペイン風邪との比較が参考になる。スペイン風邪は感染者数億人、死者1700-5000万人と推定される。今のところはまだ背中を見ている状況だが、距離は接近している感じがする。

 ちなみにペストとの比較は規模的にも死亡率からみても、まだ遠い。今のところは話のための話で済む。

▼経済に打撃・基本システムは維持

 ワクチンや治療薬開発のニュースはあれこれ入ってくるが、メドは依然立っていない。新興国などでは第1波の拡大、欧米やアジアでは第2波、第3波の懸念が消えない。

 経済活動は打撃を受け、4半期ベースで見れば1-3月の中国のGDPが前年比マイナス6.8%、インドの4-6月GDPの推計は前年比約20%の落ち込みと推定される。ユーロ圏の1-3月は前4半期期比年率(前年比ではない)で10%以上落ち込んだ。

 ただ、少なくとも主要国では物流システムのマヒや食料不足など、経済崩壊をもたらす状況には陥っていない。

 コロナにより各国の政治、経済、社会の仕組みなどに様々な変化が起きている。テレワークやオンラインの活用が拡大し、政府の強権化の動きも目立つ。コロナの影響は始まったばかり、と認識すべきだろう。

◎ 月ごとに桁数繰り上げ感染者
◎ SARS並みからスペイン風邪級視野に入り
◎ 海水浴一時(いっとき)の歓声コロナの夏
◎ 「自由か死か」民主化ならば響くけど

2020.6.28

2020年5月31日 (日)

◆米中対立・新ステージに 2020.5.31

 中国が香港国家安全法制定を決めたことに対し、米国は対中国・香港制裁措置を発表した。新型コロナの感染拡大を巡っても、対立がエスカレートする。米中対立は、新ステージに入った。

▼香港国家安全法

 中国の全人代は28日、「香港国家安全法」の制定を決議して閉幕した。香港の反体制活動を禁じる内容で、中国が直接取り締まるようにする点がこれまでと異なる。

 香港は1997年の中国への返還以来、「1国2制度」の下に運営されてきた。香港の法律は、基本的に中国の法律と別のものだった。その下に、企業の自由な活動や言論の自由(程度については色々な議論がある)が維持されてきた。

 今回の決定について、香港の民主派や欧米各国は、1国2制度を骨抜きにすると懸念する。

▼米国が制裁措置

 米国は中国の決定を批判。トランプ大統領は29日、一連の制裁措置を発表した。内容は、(1)米国が香港に対して認めてきた関税やビザ発給の優遇措置を廃止、(2)中国や香港の当局者への制裁、(2)中国からの大学院生の一部の入国停止、などである。

 同時にトランプ大統領は、かねて中国寄りと批判してきたWHO(世界保健機関)からの脱退を表明した。

 コロナ問題で米国は、中国が初期の段階で情報公開を十分に行ってこなかったなどと批判。さらには、新型コロナウイルスが武漢の中国の研究所から流出したなどの批判もしている。これに対しては中国が根拠のない批判などと反論する。

▼ハイテク、企業上場、人権でも

 ここに来て米国が対中批判を強めているのは、香港問題だけではない。ハイテクや金融、人権など様々な分野で措置を打ち出している。

 ハイテクでは5月、通信大手のファーウェイに対する禁輸措置を一段と強化した。米国製の半導体装置を使った製品は、たとえ外国製でも輸出を認めないようにする内容。これにより、台湾のTSMCはファーウェーからの新規受注を停止した。

 ナスダックは新規上場企業のルール厳格化を決めた。中国企業の新規上場のハードルを高くする。米上院は、米国に上場する外国企業の透明性強化を求める法案を可決した。

 米上下院は中国がウイグル人の人権侵害批判するウイグル人権法を採決した。

▼コロナと大統領選

 2017年の米トランプ政権の発足以来、米中関係は緊張が高まった。トランプ氏は「米国第1」を掲げ、自国産業保護を優先させる姿勢を鮮明にし、2018年以降中国からの輸入品に高率の関税を課た。米中貿易戦争が勃発した。

 その後中国のハイテク産業が米国の技術を不当に盗んだり、知財権を侵害しているなどとして制裁などの措置を導入した。

 米中の貿易・ハイテク摩擦は、今年1月に第1段階の合意を締結し、一時休戦したかに見えた。

 そこにコロナの感染拡大で、状況が変わった。米政権はコロナを巡り中国への不信を強めた。トランプ大統領が秋の大統領選をにらみ、対中強硬姿勢を強めるのが得策と判断したとの見方も強い。

▼中国は勢力拡大の動き

 中国側は、コロナでは「マスク外交」とも呼ばれる感染国支援などで影響力を拡大。一方で領土問題を抱える南シナ海で実効支配を強化するなど、勢力の拡大に余念がない。香港国家安全法の制定決定も、コロナ問題で国際社会の香港への関心が弱まった機を利用したとの見方がある。

▼覇権を巡る対立

 米中の対立は、背景には覇権を巡る争いがあるとの分析も多い。中国経済の規模はすでに米国の3分の2に達し、購買力平価で比較すれば米国より大きい。数年前から一帯一路などの世界戦略を打ち出し、21世紀半ばには米国と並ぶ世界の強国になるとの目標も打ち出した。

 2000年代までの米国は、中国が経済発展を実現すれば民主化するとの見方にも届いていた。今や、そうした観測は後退している。共産党1党独裁の異形の国家が、米国の覇権国の地位を脅かそうとしているとの警戒は、トランプ政権のみならず野党民主党でも強まっている。

◆デカップリング

 トランプ政権が打ち出した自国優先、対中警戒の政策は、米国と中国の経済を分断するdecoupling(デカップリング)につながるとの見方が、以前からあった。振り返れば、東西冷戦時代の世界は2つに分断していた。コロナの流行拡大は、そうした傾向に拍車をかける可能性がある。

 コロナ感染が生み出す新常態は、経済システム、生活、政治の枠組みなど様々な分野に及ぶ。新常態への移行の多くは、スムースに行われるわけではないだろう。様々な軋轢や混乱があると考えるのが自然だ。

 その中でも、米中関係の変化は規模の大きいものの一つだろうし、覇権を巡る争いとなれば地球規模の地殻変動になるだろう。

 

◎ 新常態 やわらか表現中身は混乱
◎ そういえば 世界は割れてた世代前
◎ 疫病下の戦線拡大、またですか

 

2020年4月 6日 (月)

◆コロナ:3か月の現実と各国の動向 2020.4.5

 新型コロナウイルスの感染拡大から3か月。世界の確認感染者は4月2日に100万人を超え、世界で移動制限などの規制を受けている人は30憶人を超える。事実関係と各国の動向をまとめてみる。

▼感染拡大の経緯

 中国・武漢で新型肺炎が確認されたのが昨年12月。新型コロナウイルスが報告されたのが2020年1月初旬だった。1月23日には武漢を封鎖し、感染は世界の行方を左右する出来事になった。その後の経緯は以下の通りである。

・1月30日 WHOが緊急事態宣言
・2月2日 フィリピンで感染者確認、初の中国外(1月23日から10日目)
・2月11日 中国で死者1000人
・2月21日 イタリアで感染者確認(29日目)
・2月23日 イタリアが北部の11自治体封鎖
・2月26日 5大陸で感染者を確認(34日目)
・3月2日 日本が公立学校休校
・3月7日 欧米で感染者が拡大、NY州が非常事態宣言【感染者10万人】(44日目)
・3月9日 イタリア全土に移動制限
・3月11日 WHOがパンデミック宣言、米が欧州からの入国禁止(48日目)
・3月12日 中国がピーク超えたと宣言
・3月13日 米が非常事態宣言、スペインが非常事態宣言、WHO「感染中心は欧州」
・3月17日 EUが外国人入国禁止【感染者20万人】(54日目)
・3月19日 イタリアの死者>中国
・3月20日 NY、イリノイなど外出禁止【死者1万人】
・3月22日 【感染者30万人】(59日目)
・3月24日 東京五輪・パラリンピック延期
・3月25日 インド全国封鎖
・3月26日 米国の感染者>中国
・3月27日 【世界の感染者50万人】、米国の感染者10万人(64日目)
・4月2日 【世界の感染者100万人】、30億人以上が移動制限(70日目)
(感染者数などはジョンズ・ホプキンス大のデータによる)

 ちなみに、4月5日現在の世界の感染者は122万人。多い国は(1)米国31万人(2)(2)スペイン13万人(3)イタリア13万人(4)ドイツ(5)フランス(6)中国など。死者は6万6000人で、(1)イタリア(2)スペイン(3)米国などである。

▼各国の対応

 各国の対応はおおむね3通りに分かれる。

(1)行動の規制:入出国の制限(禁止)、外出制限、店舗の開業規制など。いわゆるロックダウンも含み、10人以上の集会の禁止、学校の休校なども含まれる。感染の爆発的な拡大を防ぐ「封じ込め」作戦で、時間を稼ぐ面がある。

(2)医療体制の整備:病床の確保など。ワクチンの開発支援も急ぐが、メドは立っていない。

(3)経済的支援: 経済的な打撃→恐慌や経済破綻を防ぐために、財政、金融面から政策を総動員している。職場封鎖などで働けなくなった人への所得保証、企業の負債返済猶予なども含まれる。究極のバラマキにも近い政策。長期的に後遺症が出るのは避けられないが、将来に気を回すことなどできない状況だ。

▼予測・見通し

 今後の行方は見えていないのが現状である。各国・企業はワクチン開発に取り組むが、1年程度かかるとの見方もある(ジョンソン&ジョンソンは2021年初めに新ワクチンんを提供すると表明)。患者や死者数の予測もまちまちだ。トランプ米大統領は、米国内の死者が10万-24万人に恐れがあると発言した。メルケル独首相は、国民の6-7割が長期的に感染する可能性があると警告した。

▼世界の変化:社会システム維持のリスク

 欧米などの都市からは人通りが消えた。国際旅行者はほとんどいなくなり、世界中の空港は閑散としている。欧米やアジアでテレワークの人々が増え(不便ではあっても何とかこなしている)、学校ではビデオ授業が拡大している。

 人の移動は減っても物流は何とか維持され、食料もガソリンも提供されている。主要国では社会秩序も一応は保たれている。一方で、患者の拡大による医療崩壊の懸念が強まる。

 仮に物流、医療などのほころびから社会システムが崩れたら、影響は現在のレベルとは比較できないほどになる。そうした事態は、歴史的には戦争や革命などの時に出現した。

 アフリカの一部の国や中東の難民キャンプなどでの感染拡大も気がかりだ。通常の国以上に、社会崩壊のリスクがある。こうした地が感染の温床となり、第2波、第3波の感染が世界に戻って来る可能性もある。

 内向き傾向が強まりがちな状況だが、グローバルな視点が通常以上に必要ともいえる。

◎ 感染100万 世界は何とか 持ってるが
◎ 紛争地 他人事など言ってると

2020.4.5

 

2020年3月15日 (日)

◆コロナ:パンデミック宣言と広がる衝撃波 2020.3.15

 新型コロナウイルスの感染拡大が、引き続き世界を揺るがしている。今週は節目となる重要な出来事が連続した。

▼欧州が新しい震源地に

 WHOは11日パンデミックを宣言した。発表時で感染者は12万人を超え、死者は4600人を上回った。感染国は世界5大陸全てに及ぶ。パンデミック宣言は2011年の新型インフルエンザ以来である。

 死者数は13日に5000人を突破。感染者はイタリアやスペイン、フランスなど欧州で拡大している。感染者の数は発症国の中国以外が約4割に達した。記者会見したWHOのテドロス事務局長は、「今や欧州がパンデミックの震源地」と語った。

▼欧州各国で移動制限・レストラン営業停止

 イタリアが全国で移動を制限、レストランやバーの閉店を命じた。

 スペインはサンチェス首相が非常事態宣言を発令。外出も制限した。

 フランスは学校の休校を命じ、レストランやバー、映画館などの営業を禁止した。

 ドイツのメルケル首相は国民の6-7割が感染する恐れがあると、警戒を呼び掛けた。

 各地でまるで戦争時のような、非常態勢がとられている。

▼米欧の往来禁止

 米国のトランプ大統領は11日、欧州からの渡航を禁止すると発表した(当初は英国、アイルランドは除いたが、その後対象に加えた)。事前に欧州側に説明等もなく、いきなりTV会見で発表だった。いかにもトランプ流といえばその通りだが、事態を深刻に受け止めている表れともいえる。13日には連邦レベルで非常事態宣言を出した。

 米国ではプロバスケットやアイスホッケーがレギュラーシーズンの残り試合を中止。野球の大リーグもオープン戦を中止し、公式戦の開幕を延期した。NY州やカリフォルニア州は非常事態を宣言。ここ1-2週間で、急速に「巣ごもり」状況になった。

▼世界が分断

 世界各国が渡航制限や禁止、移動の制限、イベントの禁止などを発表し、人の移動が大幅に制限されている。これまで自由移動だった世界が、分断されている状況だ。

 経済活動も当然のことながら深刻な打撃を受けている。市場ではリスクからの逃避が起こり、株や新興国通貨などが下落している。急激な金融収縮である。「リーマン・ショック以来」という表現が連発される。

▼経済対策、新たなバブルの芽にも

   観光業やレストラン、スポーツ産業などが受ける影響は深刻だ。特に中小企業は資金繰りにも窮するようになり、悲鳴が上がる。

 各国政府や金融当局は、減税、財政支援、金融緩和などあらゆる手を使った支援を約束する。トランプ米大統領は11日、中小企業支援などに500億ドルの措置を提案。給与税の免除にも意欲を示した。

 財政出動や金融緩和は、経済の底抜けを防ぎ、社会不安を抑えるためには必要だろう。しかし財政赤字はさらに拡大し、金あまりはますます膨れ上がる。新たなバブルを生んでいるようにも見えるが、目をつぶらざるを得ない状況なのだろう。

▼昨日までと異なる常識

 前週の寸評で、「1か月半で、世界の風景は一変した」と書いたが、この1週間で風景はまた一変した。

 とにかく先行き不透明。昨日までの常識が通用しない局面に入っていることは、心すべきだろう。

◎ 感染の震源転々パンデミック
◎「米欧の行き来禁止」とさりげなく
◎ 支援策未来の懸念も今は無視

2020.3.15

2020年1月26日 (日)

◆中国・武漢発新型ウイルスの衝撃と問いかけ 2020.1.26

 

 中国・武漢から新型のコロナウイルスによる肺炎が拡散。世界を揺るがしている。

▼武漢封鎖、中国団体旅行禁止

 感染は2019年末から始まった模様で、今年に入り感染に拍車がかかった。1月25日までに中国国内で1300人が感染、死者は41人に達した。

 武漢市は23日から主要公共交通の運行を停止。人口1000万人を超える同市は封鎖された格好になった。あたかもSF映画の世界のようだ。

 中国は24日から春節の休暇に入ったが、各地でチェックを強化。中国ではこの時期、延べ30億人の移動が予想されていた。万里の長城や故宮は休業となった。中国国内の団体旅行は24日から停止された。

▼SARSの教訓

 WHOは新型ウイルスが人から人に感染していると指摘。一方で23日、緊急事態宣言は見送った。感染がまだ中国国内中心であるためだ。

 アジアでは2003年にSARSが香港中心で流行。1000人近い死者を出した。その際に、香港や中国が情報開示を渋ったとして、国際社会から強い批判を浴びた。SARSの場合、感染者の致死率は10%程度だった。

 中国政府は今回、その時の経験も踏まえて情報公開と対応を急いでいる模様だ。

 中国による武漢封鎖、団体旅行の停止などは、ある意味強権国家でなければ取りにくい。中国はいったん方針が決まれは動きは速いとの指摘もある。

▼世界に課題を突き付ける

 現時点では情報も限られ、今後事態がどう進展するかは予断を許さない。肺炎の感染拡大の速度はもちろん、経済や社会・生活への影響も予測しがたい。

 確実なことは、今後しばらく世界の関心の中心一つとなり続けること。そして世界を揺り動かすことだ。

 中国のみならず、国際機関や国際社会の対策、情報管理や情報規制の是非なども関心事。国家や政治のあり方も重要だ。

 パンデミックという危機の突然の顕在化は、世界が潜在的に抱えるリスクと課題を意図せずに突き付ける。

 

◎ 春節や世界に飛び出すコロナかな
◎ 千万人の都市封鎖され春が来る  
◎ 危機管理強権国家の光と影

 

2020.1.26

2019年9月 8日 (日)

◆INCD1000号:この20年の世界の変化 2019.9.8

 INCDは2000年7月の創刊から1000号に達した。この間20年弱の世界の変化は、予想を超えるものだった。

▼グローバル化とIT革命、国の形の変化

 20年前に世界をどう見ていたのか。2000年12月30日号のINCD(年間回顧)は、『冷戦後の世界は、経済的には「新産業革命」や「グローバリゼーション」、政治的には「国の形の変化」をキーワードに動いてきた』と指摘している。世界の潮流を見るキーワードは、現在にそのまま通じる。

 ただ具体的な変化の内容となると、当時は想像できなかった形で世界は動いた。2001年の同時多発テロ、2008年のリーマン・ショック、スマホやSNSの普及、アラブの春、中国台頭のスピードなどは予想を超えていた。格差拡大などグローバル化の矛盾は、Brexitやトランプ米大統領の登場、難民危機などの形で顕在化した。

▼世界の枠組み:米国1強→「警察官」不在、テロ、中東混乱の時代

 2000年当時は「米国の1極支配」が論じられた。冷戦後の1990年代を通じ米国の軍事力やハイテクの力は突出。旧ユーゴ紛争などで米国が世界の安保を仕切る姿が目立った。

 しかし翌2001年9月11日の同時テロを契機に局面は変わっていく。世界はテロ戦争の時代に突入。米国はアフガン戦争、イラク戦争を仕掛けるが、中東情勢は泥沼化。米国の権威と指導力は揺らぐ。米国は次第に海外での役割を軽減する姿勢に転じ、「世界の警察官」の役割から降りていく。

 2011年のアラブの春で、中東の混乱の渦は拡大した。シリアやリビア、イエメンなどで内戦が拡大。混乱の中から「イスラム国」のようなテロ集団も台頭した。

 混乱の背景には、世界の安全保障体制とグローバルガバナンスの問題、格差、文明の衝突など様々な問題が指摘される。2019年の今は、イラン問題など新たな紛争リスクが持ち上がる。

▼IT革命

 ITを中心とした新産業革命は潮流としては20年前に予測されたものの、具体的中身は想像を超えた。2000年当時、すでにインターネットは普及していたが(Windows95の登場から5年目)、携帯は一部のユーザーが使うだけだった。Goodleなど検索サービスはまだ初期段階で、iPod(2001年発売)もWikipedia (2002年開始)もYouTube(2006年)もなかった。

 2000年代にはFacebookをはじめとするSNSが発展。2007年にはアップルがiPhoneを発売してスマホの時代に入る。UberやAirbnbなどシェアリングサービスも本格的に始まった。

 2010年代になるとこうしたサービスが急速に浸透。世界の過半数を超える人々がネットでつながり、様々なサービスを受けられる時代が到来した。

 一方でGAFAに代表される大手IT企業が情報を独占し、中国など国家が個人の情報や行動を厳しく監視するようになっている。SNSを通じた情報の流れは世論形成のメカニズムを変え、アラブの春や香港での抗議運動の原動力となる一方、フェイクニュースが横行しトランプ米大統領流の政治を拡大させた。光と影の両面を持って、IT革命は世界を変えている。

▼グローバル化新段階

 1990年以降、グローバル化は貿易や投資の拡大を通じた新興国経済の発展など、明るい面に光が当たった。しかし2000年代以降、負の側面も注目されるようになっていく。

 2001年の同時テロで焦点が当たった「格差」の問題は、その後も解決されることなく推移。「勝ち組」や「負け組」という言葉は世界でも強く意識された。紛争やテロの拡散(グローバル化)は各地の安定を揺るがし、地域紛争は大量の難民を生んだ。2015年の欧州難民危機はその代表だ。

 格差は世界各地でテロの温床となり、先進国ではポピュリズムや反移民・難民運動が横行するようになった。トランプ米大統領は中国に対し貿易戦争を仕掛け、関税引き上げ合戦が加速する。

 グローバル化は明らかに新段階に入った。これが一時の踊り場なのか、見極めは重要だ。

▼リーマン・ショックと世界経済

 2008年のリーマン・ショックとそれに続く世界金融危機を契機に、資本主義体制のあり方が問われた。世界経済を巡っては1980年の米レーガン大統領、英サッチャー首相の時代以降、新自由主義的な考え方が支配的だった。

 しかし世界金融危機では大手金融機関救済に大量の公的資金が使われ、市場万能主義の限界が明確になった。危機直後には資本主義の見直しが必要と強調されたが、議論は進まないまま年月が経過している。

 金融危機後、米国や欧州などは経済立て直しに大胆な金融緩和を実施した。その結果世界恐慌に陥る事態は防止したが、世界経済は大量の緩和資金を抱える構造になった。景気回復後もその資金は回収されず、新たなバブルが発生しているという指摘は多い。

▼中国の台頭

 中国経済はこの20年の間に急速に発展した。期間を通じ年率10%近い成長を維持。2010年には世界第2の経済大国に発展し、2020年代には米国を追い抜く可能性がある。

 1人当たりのGDPは1万ドル近くに到達し、アリババやテンセントなど世界的なハイテク企業も育った。

 リーマン・ショックで新自由主義やそれを中心としたワシントン・コンセンサス信頼が失われた。それに代わるかのような形で、開発独裁的な国家資本主義の元で急速な成長を続けた中国式のモデルが魅力を増した。

 その中国経済も、米トランプ大統領の仕掛けた貿易戦争で局面が変わる可能性がある。今後どう推移するか、注目点の一つだ。

▼環境、社会の変化

 この20年を振り返ると、その他にも重要な変化がある。地球温暖化などの環境問題が世界共通の問題という認識が広がり、様々な取り組みが進んだ。パリ協定など国際的な枠組みはトランプ米政権の離脱など曲折がある。しかし、電気自動車の開発や普及は加速し、欧米など先進国では食の安全(オーガニック食品の普及)やプラスチックごみの規制、エコシティの拡大など実体のある動きが広がっている。

 社会規範も変わった。LGBTの権利は着実に拡大。欧米では同性婚の受け入れが拡大する。安楽死は受け入れが広がり、女性の社会進出は曲折あるものの進展している。ネットの発展で、文化の変化も顕著だ。

▼新たな変化の方向は

 今後に向けた変化の兆しは多様で材料も多い。トランプ米政権は、貿易や安全保障、米中関係など他分野で従来のルールを否定し、新しいルール作りを目指している。第2次世界大戦後秩序の見直しとも言ってもいい。米中の争いは新たな派遣争いかもしれない。

 国家の姿も変わっていく。BrexitやEUの行方は、国民国家の行方を占う。中東の混乱やテロは、イスラムとの共存という問題を突き付ける。

 IT技術の発展は社会の仕組みを変えようとしているが、そのインパクトは未知数。歴史学者のハレリが指摘するような「ホモ・デウス」の時代に進むのであれば、その変化は人類というの存在にも関わる。

 変化は未知数だが、少なくとも、従来の変化を延長する「未来年表」的な予測で見通せるものではない。次の20年の変化が、過去20年の変化より大きいであろうことは間違いないだろう。

◎ メルマガに綴った「リーマン」「テロ」「スマホ」
◎ ネットありウーバーは想像外のふた昔
◎ アメリカの時代が続くと思ってた

20190908

2019年8月27日 (火)

◆G7首脳会議が映した世界の変化 2019.8.26

 G7首脳会議が24-26日、仏南西部ビアリッツで開かれた。会議は米トランプ大統領に掻き回され、通商や環境など多くの問題で意見の違いが際立った。40年以上に渡る会議で初めて包括的な首脳宣言の採択を見送るなど、世界の変化を映した。

▼包括的首脳宣言なし

 今年の会議は包括的首脳宣言の採択を見送った。採択見送りは前身のG5首脳会議が1975年に始まって以来初めてだ。

 首脳宣言は世界が直面する経済・政治問題全体をカバーし、G7首脳の共通認識や、協力して取り組むべき政策などを示してきた。向こう1年の世界の針路を示すものともいえた。内容は詳細で、2016年の伊勢志摩サミットの場合32ページだった。

 これに対して今年のサミットの「宣言」(G7 Leaders’ Declaration)は1枚。内容は、通商、イラン、ウクライナ、リビア、香港情勢の5項目で、いずれも1-4行のとどまる。宣言というよりメモのような形だ。

▼トランプ時代のサミット

 トランプ米大統領が2017年に登場してから3年。大統領はそれまで米欧など先進国の共通認識だった保護主義反対や多国間主義重視に異を唱え、自国利益第一(米国第一)の立場を鮮明にした。米国は地球温高防止のパリ条約や、イラン核合意からも脱退した。

 G7首脳会議に対しても懐疑的な姿勢を取り、不要論を公然を唱える場面もあった。昨年(2018年)のカナダでのサミットは首脳宣言にいったん合意したが、終了後に署名を拒否、混乱に陥らせた。

 こうした「トランプ時代の現実」を踏まえ、議長国フランスは最初から包括的首脳宣言の採択を前提としないで準備を進めた。その結果が包括的首脳宣言なしだ。

▼「保護主義反対」を言わない世界

 G7首脳会議は元々、世界経済を議論するために始まった会議。その世界経済を揺り動かすのが米中貿易戦争だ。会議で各首脳は米中貿易戦争に懸念を示したが、それ以上の具体的な議論は進まなかった。

 宣言には世界経済の安定希望など常識論を盛り込んだ。また米国の立場に配慮してWTOの抜本的な改革の必要性を指摘した。一方、トランプ大統領の登場以降、主要な国際会議の宣言から消えた「保護主義反対」の表現は今回もなかった。それどころか議論も行われなかった。

▼地球温暖化問題とアマゾン火災

 地球温暖化問題も米国と仏独などが対立したままだった。議長国フランスのマクロン大統領は温暖化問題を正面から取り上げて、トランプ米大統領と衝突するのを避け、からめ手で環境問題の議論を進めた。

 焦点を当てたのがアマゾンの火災。アマゾンは地球全体の酸素の5分の1を生み出していると推測されるが、今年に入り火災が急増している。ブラジルのボルソナーロ大統領が自然保護より開発優先の政策を打ち出し、その結果、農地開発や牧畜のため森林焼却が増えているためとされる。

 G7で取り上げたことから、この問題を巡る国際的な報道が急増。ブラジルに対する国際世論の批判が高まった。G7としても2000慢ドルの緊急支援など支援策を表明した。ボルソナーロ氏は支援を拒否したものの、国際世論に配慮し、軍隊を派遣し消火活動に動き出した。

▼イラン外相の電撃訪問

 マクロン氏はイラン問題でも独自色を出した。会議の場所にイランのザリフ外相を招き同氏の電撃訪問を実現。イラン核問題に新たな議論を引き起こした。訪問は、米国との事前調整などなしに進めたと報じられる。

 首脳会議にはアジアや中東、アフリカの首脳も招き、G7の枠組みの会合のほか、拡大版の会合も多数開催した。

▼首脳間の相性

 G7サミットの中継からは、首脳間の関係の良し悪しや相性も伝わってきた。夫人とともに各国首脳を迎えたマクロン氏は、メルケル独首相、トルドー・カナダ首相らとは親密に抱き合った上で話をし、良好な関係を示した。

 トランプ米大統領とはぎこちない握手の一方、会話に努めているように見えた。ジョンソン英首相とは、冷めた感じの握手ばかりが目立った。日本の安倍首相は緊密に迎えたが、直接の会話が難しいせいか共にいた時間は少なかった。

▼変化を映す場面

 米CNNは首脳会議について、"Trump's Chaos on full display at G7" (トランプが引っ掻き回したG7)と論じた。トランプ時代の現実をよく表現する。一方で、中国やロシアが不在であるのもG7の現実だ。

 今年のG7首脳会議は例年以上に話題が多く、見えてくるものも多かった。

◎ G7昔は世界を仕切ってた
◎ トランプで会議ゴタゴタ織り込み済み
◎ 「価値観を共有」と言った4年前
◎ アマゾンの火災に唸る10億人

2019.8.26

 

 

2019年7月 1日 (月)

◆米中休戦とプーチン発言―G20周辺発のニュース 2019.6.30

 G20首脳会議が大阪で開かれた。会議には世界の首脳が集合し、会議本体もさることながら、重要な2国間会談多数開催された。世界的なニュースがG20周辺発で流れた。

▼米中貿易協議再開

 世界の注目が集まったのが29日の米中首脳会談だ。貿易やハイテク分野を巡る米中の対立は、過去1年の世界のニュースのヘッドラインを提供し続け、世界経済に多大な影響を与えてきた。

 トランプ大統領は昨年3月、中国が知的財産権を侵害しているとして対中関税を引き上げると発表。その後3段階に分けて、今年5月までに合計2500億ドル分の中国からの輸入品に対する関税を25%に引き上げた。対象は米国の対中輸入総額のほぼ半分に相当する。

 加えて米国は中国のハイテク企業を狙い撃ち。昨年はZTEとの取引を禁止し、同社に対し多額の罰金や経営陣後退などの条件を呑ませた。昨年末からはファーウェイに狙いを定め、G5市場からの締め出しや事実上の取引の禁止などを打ち出してきた。

 米中は昨年12月のアルゼンチンでの首脳会議で、貿易協議に入ることで合意した。しかし協議は今年5月に事実上決裂。それを受けて米国は制裁関税の第4弾計画(2500億ドル=1-4弾合計で米国の中国からの輸入のほぼ全量)を発表するなど、米中摩擦の日は益々激しくなった。

▼見えない先行き

 大阪での首脳会談で米中は協議の再開を決定。米国は第4弾の関税引き上げを見送った。ファーウェイに対する取引も、一部容認する姿勢だ。

 ただ、米中対立を解くのは容易ではない。米国は技術的な優位を維持するために中国に対し知的財産権保護を保証するシステム導入を求める。一方中国は米国流ルールの押し付けに対抗する。その底流には、安全保障や経済での覇権争いがある。問題は構造的だ。

 世界経済はすでに、米中摩擦激化の深刻な影響を受け始めている。アジアからは輸出が減退。景況感も低下している。世銀やIMFなどは経済見通しを相次ぎ下方修正した。経済減速は金融市場の不確実性拡大にも繋がりかねない。

 米中首脳会談の結果はそうした懸念を一服させた。しかし先行きが見えてきたわけでは全くない。

▼波紋広げるプーチン会見

 G20首脳会議に先駆けて、ロシアのプーチン大統領が英FT紙と行ったインタビューが物議を醸している。プーチン氏は自由主義が時代遅れになっている(obsolete)と指摘。トランプ米大統領の一方的な政策を批判した。

 また2015年の欧州難民危機の際に独メルケル首相が判断した寛容な移民政策が間違いであり、後に問題を大きくしたなどと批判。リベラル派は影響を及ぼせなくなったと語った。

 インタビューは多くのメディアが引用。EUのトィスク大統領(首脳会議議長)は強く反発した。

 プーチン大統領の発言は意図的に刺激的な部分がある。しかし、ここ数年の難民危機やトランプ米大統領の誕生、英国のEU離脱決定(Brexit)など、寛容な精神に裏付けされた自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の存在価値と力が問われているのは間違いない。そんな環境だからこそ、プーチン大統領の発言が波紋を広げているのだろう。

▼驚きの米朝首脳会談

 トランプ米大統領は大阪で北朝鮮の金正恩委員長との会談の可能性に言及。2日後には板門店で会談を実現した。米大統領が軍事境界線を越えて北朝鮮領に入ったのは初めてだ。

 トランプ大統領の予期しがたい行動が、ここでも現れた。同時に、周到な準備よりスピードを重視する同氏の特性が現れた格好だ。

 G20会議本体は、公正貿易などの理念や海洋プラスチックごみの2050年までの廃止などを盛り込んだ大阪宣言を採択して閉幕した。ただ、貿易については昨年に続き保護主義に反対する文言はなく、環境でも地球温暖化問題への言及はなかった(議長国日本が米国に配慮したためと、英FTなどは批判的に報じた)。

 G20が始まった2008年は、リーマンショックの直後。最初のうちは世界恐慌防止と金融危機の拡散防止に、各国が必至で取り組む姿勢が伝わってきた。その後、会議は「集まること」が重要になり、周辺の2国間協議にむしろ注目が集まる。

◎ ボス集う 何かが動くこともある
◎ 先は不明 それでも安堵の米中休戦
◎ 自由批判 饒舌を許す 辛い時世
◎ 自由主義「古い」に「それなら」と質したい

2019.6.30

 

 

2019年3月18日 (月)

◆NZテロ事件が投げかけるもの 2019.3.17

 ニュージーランド・クライストチャーチのモスクで乱射事件があり、移民のイスラム教徒ら50人が犠牲になった。世界でも平和で寛容な同国での事件は、世界に衝撃を与え、課題を突き付けた。

▼金曜礼拝の襲撃 

 犯行は15日昼に金曜礼拝が行われていたモスク2か所で行われた。押し入った男が銃を乱射。50人が死亡し、50人が負傷した。

 被害に遭ったのは、パキスタン、トルコ、サウジアラビア、バングラデシュ、インドネシア、マレーシアなどからの移民が多い。シリアからの難民もいた。NZは移民受け入れに比較的寛容な国として知られる。

 動向当局が逮捕した犯行の中心人物は、28歳の豪州人の男。本人の供述など詳細はまだ分からない。しかし、分かっている事実だけでもいくつかの重要な点がある。

▼反イスラム・反移民

 一つは容疑者がSNSサイトに、反移民や反イスラム、白人至上主義的内容の投稿していたという点だ。犯行の動機を反移民や反イスラムに短絡的に結び付けるのは、現時点では慎重であるべきだ。しかし、これらの言葉がキーワードであるのは間違いない。

 犯行後、様々なSNSやネット上に反イスラムなどを支持する投稿が寄せられた。世の中にそうした人々は、残念ながら少なくないようだ。そうした重い事実は、無視できない。

 世界金融危機と経済不況などを契機に、2010年代に入り世界的に反移民の動きが強まった。2016年の英Brexitや米トランプ政権誕生も、そうした流れの上に実現したとも指摘される。最近、欧州などで極右・反移民政党が台頭しているのも、そうした脈略でとらえられる。

 2001年の9.11以降、イスラム過激派によるテロが世界各地で起きた。そして「イスラム過激派」への対応は世界的な課題になった。欧米各国は、イスラム穏健派との協調などいくつかの課題を指摘するが、問題克服の展望は描けない。

 欧米などの一部には、反イスラムの感情をあからさまにする人々も表れ始めている。欧州の極右政党のいくつかは、反イスラムを公約に掲げる支持率を伸ばしている。

 今回の事件が今後どう解明されていくかは不明。しかし、反移民や反イスラムなど、現代の世界が抱える問題にイメージが重なるところがある点は否定できない。

▼犯行をネットで中継

 第2に容疑者が犯行の様子を、17分に渡りFB上に生中継した点も重要だ。ネットによる悪質な投稿の排除はここ数年、世界的に大きな課題になってきた。IT大手は対策の強化を強調する。

 しかし今回の事件では、極めて悪質といえる殺害の中継がそのまま映し出された。排除の難しさが改めて示されたともいえるし、FBはじめ大手ITがどこまで本気かを問いたくもなる。
 
 さらに、「銃」の問題だ。容疑者は銃を合法的な手段で取得していた。これが惨劇の一因にもなった。NZのアンダーン首相は早速、銃規制の強化を指示した。

 米国や欧州の一部、発展途上国の一部では、いまだに銃の野放しともいえる状態が続いている。こうした社会では、たびたび乱射事件が起きている。しかし本格的な規制は進まないのが現状だ。

▼問題の投影

 事件は、トランプ米大統領の言葉を使えば「頭のおかしい」人物が引き起こした問題かもしれない。しかし銃、イスラム、移民、ネットなどのキーワードが関連してくる。現在の社会が抱える重要な問題が投影されている。今後の展開に要注意だ。

◎ モスクの血 「平和の国」ではなかったか
◎ 移民、神、テロと繋がる言葉の連鎖
◎ 憎悪心広げるネット疾走中

2019.3.17

2018年5月21日 (月)

◆新世界無秩序 2018.5.20

 中東情勢や通商問題など、既存の秩序を覆す変化が連鎖反応的に進んでいる。震源地は米トランプ政権。イラン核合意からの離脱、イスラエルへの大使館移転、中国に対する多額の関税決定などを引き金に、様々な枠組が変わっている。現状をどう見たらいいのか。

▼核合意離脱:国際協調から対イラン姿勢に

 中東情勢が揺れている。問題の一つは米国のイラン核合意からの離脱だ。トランプ大統領は5月8日に離脱を表明。同時にイランに対する制裁を再開する大統領令に署名した。

核合意はイランとP5+ドイツの間で2015年に成立した。イランが核濃能力の削減などを通じ、核兵器開発の可能性を少なくする一方、米欧などはイランに対する経済制裁を撤廃する内容。中東における安保上の懸念の一つを緩和するものだった。

 トランプ政権は合意内容が不十分で、イランが約束を十分に順守していないなどと批判。合意から離脱し、制裁再開を決めた。イランや英独仏など欧州、ロシア、中国などは離脱を批判。イランとEUは米国に気でも合意の枠組みを維持するよう協議を始めた。

 一方、イスラエルやサウジアラビアは米国の判断を支持・歓迎する。両国はイランと敵対する。オバマ政権時代に米国の中東戦略は、国際協調とイスラエルに対し距離を置く姿勢を基軸にしていた。これがトランプ政権で逆転した。

▼危険なドミノ

 インパクトは強烈だ。イランとEUは枠組み維持を模索するが、容易ではない。逆にトランプ政権は、21日に対イラン新戦略を発表すると表明した。これにイランが理解を示すとは思い難い。

 米国の対イラン制裁再開は、イランとの直接取引に留まらない。同国との取引を行う欧州などの企業にも及ぶ。このため、仏トタルやエアバスは、イランでのプロジェクト中止や輸出停止に追い込まれる可能性がある。核合意で再開したイランとのビジネスが停止状況になりかねない。

 ビジネス中止が避けられなくなれば、イランが再び強硬姿勢に転じる懸念がある。そうなれば、核開発の再開→中東での核開発のドミノや、新たな紛争・戦争の勃発につながるリスクが生じる。極めて危険なドミノが始まりかねない。

▼エルサレム大使館のインパクト

 5月14日はイスラエルの建国記念日だ。しかしパレスチナ人にとってその日は、大惨事(ナクバ)の日になる。1948年のイスラエル建国の際に、70万人のパレスチナ人が故郷を追われた。パレスチナ紛争はその後も解決の方向が見えないまま、中東紛争の火種であり続ける。

 イスラエル建国70年に当たる今年の5月14日、米国は大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。トランプ政権は昨年末、エルサレムをイスラエルの首都として認める決定をした。

 過去数十年にわたり、パレスチナ和平の基本となる考え方がイスラエル、パレスチナの2カ国共存。そしてエルサレムを双方の首都とする案だった。1990年代に一時、和平ブームを高めたオスロ合意も、こうした考えに沿うものだ。イスラエルがエルサレムを首都として既成事実化する事態を避けるべきだというのは、国際社会のコンセンサスだった。

 トランプ政権はいとも簡単にそうした既存概念をひっくり返した。国際社会からは当然、大きな批判が湧き出た。国連総会が反対決議をしたのも一例だ。

▼パレスチナの動乱

 パレスチナのガザでは14日、大使館移転に反対する抗議デモが拡大。イスラエル治安当局と衝突し、50人以上の死者が出た。騒乱は各地に広がる。

 イスラエルvsアラブの対立構図が単純明快だった20世紀後半と異なり、今回の抗議活動はアラブ全土に広がったわけではない。サウジアラビアなどはイスラエルとの対立よりむしろイランとの対抗を重視し、今回の大使館移転に対する動きも、政府の言動としてはそれほど目立たない。

 それでも、今回の決定がパレスチナ和平の進展を益々難しくし、アラブ・中東地域での反米感情をまた一つ強めたのは否定できない。米国は中東における仲介者の立場というより、親イスラエル、サウジ寄りの色彩を一層濃くした。

▼米中貿易戦争

 トランプ政権は3月に入り正面でも強硬策を強めた。中国に対しては知的財産権侵害があるとして、500億ドルの制裁関税を表明。各国からの鉄鋼・アルミ製品への関税導入も決定した。一方的な措置であるともに、保護主義的な色彩の強い政策だ。

 米中はその後通商協議を開催。米国はここで両国間の貿易赤字の大幅削減などを求めた。交渉は今のところ進展が少なく、合意のめどは見えてこない。

 決裂となれば、相互に制裁関税を導入する事態にもなりかねない。貿易戦争の勃発だ。米中はじめ世界の経済は相互依存が進み、貿易や投資の自由が後退すれば経済にも悪影響が及ぶ。1920年代の保護主義→世界恐慌の再現を懸念する声もある。

▼トランプ政権の原点回帰

 トランプ政権は2017年1月の発足直後、TPPからの離脱、NAFTAの再交渉、中東からの移民規制、メキシコとの国境への壁建設などの政策を相次ぎ打ち出した。政策は選挙戦で打ち出したもので、「米国第1」を前面に打ち出しているところが特徴。既存の常識を覆すものだ。

 その後、動きはやや収まっていたが、この3月以降再び加速した。イラン核合意離脱、エルサラムへの大使館移転、対中など関税はいずれも選挙公約で掲げたものだが、インパクトは大きい。この時期には同時に、ティラーソン国務長官の解任・ポンペオ新国務長官の任命など人事も実施した。

 11月の中間選挙をにらみ、支持基盤を固めるために原点回帰したとの見方が強い。それが世界に多大な影響を与えている。

▼世界の枠組み変化

 第2次大戦後の歴史を振り返ると、実は10年単位で大きな地殻変動が起きている。1950年代のスエズ動乱やハンガリー動乱、米マッカーシズム。1960年代のキューバ危機や仏アルジェリア危機、ベトナム戦争、文化大革命、1968年の反体制運動。1970年代のニクソンショックや石油危機、ベトナム終戦。欧州の動脈硬化。1980年代のレーガン・サッチャー革命、チェルノブイリ原発事故、ベルリンの壁崩壊と冷戦終結、天安門事件。1990年代のソ連崩壊、インターネット革命、グローバル化の進展、アジア通貨危機。2000年代の9.11、イラク戦争、世界金融危機、中国の台頭。200年代のアラブの春、イスラム国、欧州難民危機といった具合だ。

 世界の枠組みは安定には程遠いし、枠組み変化は常に起きている。昨日までの常識が覆されることも常だ。

 ただ現在の変革は、覇権国米国の基本姿勢の変化に伴う点に留意する必要がある。米中間で覇権国と挑戦国のせめぎ合いが厳しくなっているのも現実だ。さらに、IT革命で世界の経済や社会の仕組みが根本的に変わり、世界的なテロなど過去の時代にはなかった要素も背後に存在する。

▼見取り図なき破壊

 トランプ政権は現状に不満を持つ米国の所得者などの支持を背景に成立した。背景には世界的な格差拡大、グローバル化への警戒、ポピュリズムの高まりなどがある。そしてトランプ政権の位置づけは、第2次戦後の世界秩序の再構築にあるとの指摘がある。

 再構築と言っても、次の方向が見えているわけでは全くない。覇権国の大統領という世界の最高権力者が、落としどころが見えないまま既存秩序を破壊している。それが、米国内政治である中間選挙対策上にあるところが厄介だ。

 英FT紙は月日付けの紙面で、”The World New Disorder”’(新世界無秩序)と書いた。世界の現状をよく表す表現だ。

◎ 覇権者が秩序破壊のドミノ押す
◎ しきたりも朝令暮改 新世界
◎ 「米国の平和」が過去になっていく

2018.5.20

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