カテゴリー「グローバルガバナンス」の47件の記事

2019年9月 8日 (日)

◆INCD1000号:この20年の世界の変化 2019.9.8

 INCDは2000年7月の創刊から1000号に達した。この間20年弱の世界の変化は、予想を超えるものだった。

▼グローバル化とIT革命、国の形の変化

 20年前に世界をどう見ていたのか。2000年12月30日号のINCD(年間回顧)は、『冷戦後の世界は、経済的には「新産業革命」や「グローバリゼーション」、政治的には「国の形の変化」をキーワードに動いてきた』と指摘している。世界の潮流を見るキーワードは、現在にそのまま通じる。

 ただ具体的な変化の内容となると、当時は想像できなかった形で世界は動いた。2001年の同時多発テロ、2008年のリーマン・ショック、スマホやSNSの普及、アラブの春、中国台頭のスピードなどは予想を超えていた。格差拡大などグローバル化の矛盾は、Brexitやトランプ米大統領の登場、難民危機などの形で顕在化した。

▼世界の枠組み:米国1強→「警察官」不在、テロ、中東混乱の時代

 2000年当時は「米国の1極支配」が論じられた。冷戦後の1990年代を通じ米国の軍事力やハイテクの力は突出。旧ユーゴ紛争などで米国が世界の安保を仕切る姿が目立った。

 しかし翌2001年9月11日の同時テロを契機に局面は変わっていく。世界はテロ戦争の時代に突入。米国はアフガン戦争、イラク戦争を仕掛けるが、中東情勢は泥沼化。米国の権威と指導力は揺らぐ。米国は次第に海外での役割を軽減する姿勢に転じ、「世界の警察官」の役割から降りていく。

 2011年のアラブの春で、中東の混乱の渦は拡大した。シリアやリビア、イエメンなどで内戦が拡大。混乱の中から「イスラム国」のようなテロ集団も台頭した。

 混乱の背景には、世界の安全保障体制とグローバルガバナンスの問題、格差、文明の衝突など様々な問題が指摘される。2019年の今は、イラン問題など新たな紛争リスクが持ち上がる。

▼IT革命

 ITを中心とした新産業革命は潮流としては20年前に予測されたものの、具体的中身は想像を超えた。2000年当時、すでにインターネットは普及していたが(Windows95の登場から5年目)、携帯は一部のユーザーが使うだけだった。Goodleなど検索サービスはまだ初期段階で、iPod(2001年発売)もWikipedia (2002年開始)もYouTube(2006年)もなかった。

 2000年代にはFacebookをはじめとするSNSが発展。2007年にはアップルがiPhoneを発売してスマホの時代に入る。UberやAirbnbなどシェアリングサービスも本格的に始まった。

 2010年代になるとこうしたサービスが急速に浸透。世界の過半数を超える人々がネットでつながり、様々なサービスを受けられる時代が到来した。

 一方でGAFAに代表される大手IT企業が情報を独占し、中国など国家が個人の情報や行動を厳しく監視するようになっている。SNSを通じた情報の流れは世論形成のメカニズムを変え、アラブの春や香港での抗議運動の原動力となる一方、フェイクニュースが横行しトランプ米大統領流の政治を拡大させた。光と影の両面を持って、IT革命は世界を変えている。

▼グローバル化新段階

 1990年以降、グローバル化は貿易や投資の拡大を通じた新興国経済の発展など、明るい面に光が当たった。しかし2000年代以降、負の側面も注目されるようになっていく。

 2001年の同時テロで焦点が当たった「格差」の問題は、その後も解決されることなく推移。「勝ち組」や「負け組」という言葉は世界でも強く意識された。紛争やテロの拡散(グローバル化)は各地の安定を揺るがし、地域紛争は大量の難民を生んだ。2015年の欧州難民危機はその代表だ。

 格差は世界各地でテロの温床となり、先進国ではポピュリズムや反移民・難民運動が横行するようになった。トランプ米大統領は中国に対し貿易戦争を仕掛け、関税引き上げ合戦が加速する。

 グローバル化は明らかに新段階に入った。これが一時の踊り場なのか、見極めは重要だ。

▼リーマン・ショックと世界経済

 2008年のリーマン・ショックとそれに続く世界金融危機を契機に、資本主義体制のあり方が問われた。世界経済を巡っては1980年の米レーガン大統領、英サッチャー首相の時代以降、新自由主義的な考え方が支配的だった。

 しかし世界金融危機では大手金融機関救済に大量の公的資金が使われ、市場万能主義の限界が明確になった。危機直後には資本主義の見直しが必要と強調されたが、議論は進まないまま年月が経過している。

 金融危機後、米国や欧州などは経済立て直しに大胆な金融緩和を実施した。その結果世界恐慌に陥る事態は防止したが、世界経済は大量の緩和資金を抱える構造になった。景気回復後もその資金は回収されず、新たなバブルが発生しているという指摘は多い。

▼中国の台頭

 中国経済はこの20年の間に急速に発展した。期間を通じ年率10%近い成長を維持。2010年には世界第2の経済大国に発展し、2020年代には米国を追い抜く可能性がある。

 1人当たりのGDPは1万ドル近くに到達し、アリババやテンセントなど世界的なハイテク企業も育った。

 リーマン・ショックで新自由主義やそれを中心としたワシントン・コンセンサス信頼が失われた。それに代わるかのような形で、開発独裁的な国家資本主義の元で急速な成長を続けた中国式のモデルが魅力を増した。

 その中国経済も、米トランプ大統領の仕掛けた貿易戦争で局面が変わる可能性がある。今後どう推移するか、注目点の一つだ。

▼環境、社会の変化

 この20年を振り返ると、その他にも重要な変化がある。地球温暖化などの環境問題が世界共通の問題という認識が広がり、様々な取り組みが進んだ。パリ協定など国際的な枠組みはトランプ米政権の離脱など曲折がある。しかし、電気自動車の開発や普及は加速し、欧米など先進国では食の安全(オーガニック食品の普及)やプラスチックごみの規制、エコシティの拡大など実体のある動きが広がっている。

 社会規範も変わった。LGBTの権利は着実に拡大。欧米では同性婚の受け入れが拡大する。安楽死は受け入れが広がり、女性の社会進出は曲折あるものの進展している。ネットの発展で、文化の変化も顕著だ。

▼新たな変化の方向は

 今後に向けた変化の兆しは多様で材料も多い。トランプ米政権は、貿易や安全保障、米中関係など他分野で従来のルールを否定し、新しいルール作りを目指している。第2次世界大戦後秩序の見直しとも言ってもいい。米中の争いは新たな派遣争いかもしれない。

 国家の姿も変わっていく。BrexitやEUの行方は、国民国家の行方を占う。中東の混乱やテロは、イスラムとの共存という問題を突き付ける。

 IT技術の発展は社会の仕組みを変えようとしているが、そのインパクトは未知数。歴史学者のハレリが指摘するような「ホモ・デウス」の時代に進むのであれば、その変化は人類というの存在にも関わる。

 変化は未知数だが、少なくとも、従来の変化を延長する「未来年表」的な予測で見通せるものではない。次の20年の変化が、過去20年の変化より大きいであろうことは間違いないだろう。

◎ メルマガに綴った「リーマン」「テロ」「スマホ」
◎ ネットありウーバーは想像外のふた昔
◎ アメリカの時代が続くと思ってた

20190908

2019年8月27日 (火)

◆G7首脳会議が映した世界の変化 2019.8.26

 G7首脳会議が24-26日、仏南西部ビアリッツで開かれた。会議は米トランプ大統領に掻き回され、通商や環境など多くの問題で意見の違いが際立った。40年以上に渡る会議で初めて包括的な首脳宣言の採択を見送るなど、世界の変化を映した。

▼包括的首脳宣言なし

 今年の会議は包括的首脳宣言の採択を見送った。採択見送りは前身のG5首脳会議が1975年に始まって以来初めてだ。

 首脳宣言は世界が直面する経済・政治問題全体をカバーし、G7首脳の共通認識や、協力して取り組むべき政策などを示してきた。向こう1年の世界の針路を示すものともいえた。内容は詳細で、2016年の伊勢志摩サミットの場合32ページだった。

 これに対して今年のサミットの「宣言」(G7 Leaders’ Declaration)は1枚。内容は、通商、イラン、ウクライナ、リビア、香港情勢の5項目で、いずれも1-4行のとどまる。宣言というよりメモのような形だ。

▼トランプ時代のサミット

 トランプ米大統領が2017年に登場してから3年。大統領はそれまで米欧など先進国の共通認識だった保護主義反対や多国間主義重視に異を唱え、自国利益第一(米国第一)の立場を鮮明にした。米国は地球温高防止のパリ条約や、イラン核合意からも脱退した。

 G7首脳会議に対しても懐疑的な姿勢を取り、不要論を公然を唱える場面もあった。昨年(2018年)のカナダでのサミットは首脳宣言にいったん合意したが、終了後に署名を拒否、混乱に陥らせた。

 こうした「トランプ時代の現実」を踏まえ、議長国フランスは最初から包括的首脳宣言の採択を前提としないで準備を進めた。その結果が包括的首脳宣言なしだ。

▼「保護主義反対」を言わない世界

 G7首脳会議は元々、世界経済を議論するために始まった会議。その世界経済を揺り動かすのが米中貿易戦争だ。会議で各首脳は米中貿易戦争に懸念を示したが、それ以上の具体的な議論は進まなかった。

 宣言には世界経済の安定希望など常識論を盛り込んだ。また米国の立場に配慮してWTOの抜本的な改革の必要性を指摘した。一方、トランプ大統領の登場以降、主要な国際会議の宣言から消えた「保護主義反対」の表現は今回もなかった。それどころか議論も行われなかった。

▼地球温暖化問題とアマゾン火災

 地球温暖化問題も米国と仏独などが対立したままだった。議長国フランスのマクロン大統領は温暖化問題を正面から取り上げて、トランプ米大統領と衝突するのを避け、からめ手で環境問題の議論を進めた。

 焦点を当てたのがアマゾンの火災。アマゾンは地球全体の酸素の5分の1を生み出していると推測されるが、今年に入り火災が急増している。ブラジルのボルソナーロ大統領が自然保護より開発優先の政策を打ち出し、その結果、農地開発や牧畜のため森林焼却が増えているためとされる。

 G7で取り上げたことから、この問題を巡る国際的な報道が急増。ブラジルに対する国際世論の批判が高まった。G7としても2000慢ドルの緊急支援など支援策を表明した。ボルソナーロ氏は支援を拒否したものの、国際世論に配慮し、軍隊を派遣し消火活動に動き出した。

▼イラン外相の電撃訪問

 マクロン氏はイラン問題でも独自色を出した。会議の場所にイランのザリフ外相を招き同氏の電撃訪問を実現。イラン核問題に新たな議論を引き起こした。訪問は、米国との事前調整などなしに進めたと報じられる。

 首脳会議にはアジアや中東、アフリカの首脳も招き、G7の枠組みの会合のほか、拡大版の会合も多数開催した。

▼首脳間の相性

 G7サミットの中継からは、首脳間の関係の良し悪しや相性も伝わってきた。夫人とともに各国首脳を迎えたマクロン氏は、メルケル独首相、トルドー・カナダ首相らとは親密に抱き合った上で話をし、良好な関係を示した。

 トランプ米大統領とはぎこちない握手の一方、会話に努めているように見えた。ジョンソン英首相とは、冷めた感じの握手ばかりが目立った。日本の安倍首相は緊密に迎えたが、直接の会話が難しいせいか共にいた時間は少なかった。

▼変化を映す場面

 米CNNは首脳会議について、"Trump's Chaos on full display at G7" (トランプが引っ掻き回したG7)と論じた。トランプ時代の現実をよく表現する。一方で、中国やロシアが不在であるのもG7の現実だ。

 今年のG7首脳会議は例年以上に話題が多く、見えてくるものも多かった。

◎ G7昔は世界を仕切ってた
◎ トランプで会議ゴタゴタ織り込み済み
◎ 「価値観を共有」と言った4年前
◎ アマゾンの火災に唸る10億人

2019.8.26

 

 

2019年7月 1日 (月)

◆米中休戦とプーチン発言―G20周辺発のニュース 2019.6.30

 G20首脳会議が大阪で開かれた。会議には世界の首脳が集合し、会議本体もさることながら、重要な2国間会談多数開催された。世界的なニュースがG20周辺発で流れた。

▼米中貿易協議再開

 世界の注目が集まったのが29日の米中首脳会談だ。貿易やハイテク分野を巡る米中の対立は、過去1年の世界のニュースのヘッドラインを提供し続け、世界経済に多大な影響を与えてきた。

 トランプ大統領は昨年3月、中国が知的財産権を侵害しているとして対中関税を引き上げると発表。その後3段階に分けて、今年5月までに合計2500億ドル分の中国からの輸入品に対する関税を25%に引き上げた。対象は米国の対中輸入総額のほぼ半分に相当する。

 加えて米国は中国のハイテク企業を狙い撃ち。昨年はZTEとの取引を禁止し、同社に対し多額の罰金や経営陣後退などの条件を呑ませた。昨年末からはファーウェイに狙いを定め、G5市場からの締め出しや事実上の取引の禁止などを打ち出してきた。

 米中は昨年12月のアルゼンチンでの首脳会議で、貿易協議に入ることで合意した。しかし協議は今年5月に事実上決裂。それを受けて米国は制裁関税の第4弾計画(2500億ドル=1-4弾合計で米国の中国からの輸入のほぼ全量)を発表するなど、米中摩擦の日は益々激しくなった。

▼見えない先行き

 大阪での首脳会談で米中は協議の再開を決定。米国は第4弾の関税引き上げを見送った。ファーウェイに対する取引も、一部容認する姿勢だ。

 ただ、米中対立を解くのは容易ではない。米国は技術的な優位を維持するために中国に対し知的財産権保護を保証するシステム導入を求める。一方中国は米国流ルールの押し付けに対抗する。その底流には、安全保障や経済での覇権争いがある。問題は構造的だ。

 世界経済はすでに、米中摩擦激化の深刻な影響を受け始めている。アジアからは輸出が減退。景況感も低下している。世銀やIMFなどは経済見通しを相次ぎ下方修正した。経済減速は金融市場の不確実性拡大にも繋がりかねない。

 米中首脳会談の結果はそうした懸念を一服させた。しかし先行きが見えてきたわけでは全くない。

▼波紋広げるプーチン会見

 G20首脳会議に先駆けて、ロシアのプーチン大統領が英FT紙と行ったインタビューが物議を醸している。プーチン氏は自由主義が時代遅れになっている(obsolete)と指摘。トランプ米大統領の一方的な政策を批判した。

 また2015年の欧州難民危機の際に独メルケル首相が判断した寛容な移民政策が間違いであり、後に問題を大きくしたなどと批判。リベラル派は影響を及ぼせなくなったと語った。

 インタビューは多くのメディアが引用。EUのトィスク大統領(首脳会議議長)は強く反発した。

 プーチン大統領の発言は意図的に刺激的な部分がある。しかし、ここ数年の難民危機やトランプ米大統領の誕生、英国のEU離脱決定(Brexit)など、寛容な精神に裏付けされた自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の存在価値と力が問われているのは間違いない。そんな環境だからこそ、プーチン大統領の発言が波紋を広げているのだろう。

▼驚きの米朝首脳会談

 トランプ米大統領は大阪で北朝鮮の金正恩委員長との会談の可能性に言及。2日後には板門店で会談を実現した。米大統領が軍事境界線を越えて北朝鮮領に入ったのは初めてだ。

 トランプ大統領の予期しがたい行動が、ここでも現れた。同時に、周到な準備よりスピードを重視する同氏の特性が現れた格好だ。

 G20会議本体は、公正貿易などの理念や海洋プラスチックごみの2050年までの廃止などを盛り込んだ大阪宣言を採択して閉幕した。ただ、貿易については昨年に続き保護主義に反対する文言はなく、環境でも地球温暖化問題への言及はなかった(議長国日本が米国に配慮したためと、英FTなどは批判的に報じた)。

 G20が始まった2008年は、リーマンショックの直後。最初のうちは世界恐慌防止と金融危機の拡散防止に、各国が必至で取り組む姿勢が伝わってきた。その後、会議は「集まること」が重要になり、周辺の2国間協議にむしろ注目が集まる。

◎ ボス集う 何かが動くこともある
◎ 先は不明 それでも安堵の米中休戦
◎ 自由批判 饒舌を許す 辛い時世
◎ 自由主義「古い」に「それなら」と質したい

2019.6.30

 

 

2019年3月18日 (月)

◆NZテロ事件が投げかけるもの 2019.3.17

 ニュージーランド・クライストチャーチのモスクで乱射事件があり、移民のイスラム教徒ら50人が犠牲になった。世界でも平和で寛容な同国での事件は、世界に衝撃を与え、課題を突き付けた。

▼金曜礼拝の襲撃 

 犯行は15日昼に金曜礼拝が行われていたモスク2か所で行われた。押し入った男が銃を乱射。50人が死亡し、50人が負傷した。

 被害に遭ったのは、パキスタン、トルコ、サウジアラビア、バングラデシュ、インドネシア、マレーシアなどからの移民が多い。シリアからの難民もいた。NZは移民受け入れに比較的寛容な国として知られる。

 動向当局が逮捕した犯行の中心人物は、28歳の豪州人の男。本人の供述など詳細はまだ分からない。しかし、分かっている事実だけでもいくつかの重要な点がある。

▼反イスラム・反移民

 一つは容疑者がSNSサイトに、反移民や反イスラム、白人至上主義的内容の投稿していたという点だ。犯行の動機を反移民や反イスラムに短絡的に結び付けるのは、現時点では慎重であるべきだ。しかし、これらの言葉がキーワードであるのは間違いない。

 犯行後、様々なSNSやネット上に反イスラムなどを支持する投稿が寄せられた。世の中にそうした人々は、残念ながら少なくないようだ。そうした重い事実は、無視できない。

 世界金融危機と経済不況などを契機に、2010年代に入り世界的に反移民の動きが強まった。2016年の英Brexitや米トランプ政権誕生も、そうした流れの上に実現したとも指摘される。最近、欧州などで極右・反移民政党が台頭しているのも、そうした脈略でとらえられる。

 2001年の9.11以降、イスラム過激派によるテロが世界各地で起きた。そして「イスラム過激派」への対応は世界的な課題になった。欧米各国は、イスラム穏健派との協調などいくつかの課題を指摘するが、問題克服の展望は描けない。

 欧米などの一部には、反イスラムの感情をあからさまにする人々も表れ始めている。欧州の極右政党のいくつかは、反イスラムを公約に掲げる支持率を伸ばしている。

 今回の事件が今後どう解明されていくかは不明。しかし、反移民や反イスラムなど、現代の世界が抱える問題にイメージが重なるところがある点は否定できない。

▼犯行をネットで中継

 第2に容疑者が犯行の様子を、17分に渡りFB上に生中継した点も重要だ。ネットによる悪質な投稿の排除はここ数年、世界的に大きな課題になってきた。IT大手は対策の強化を強調する。

 しかし今回の事件では、極めて悪質といえる殺害の中継がそのまま映し出された。排除の難しさが改めて示されたともいえるし、FBはじめ大手ITがどこまで本気かを問いたくもなる。
 
 さらに、「銃」の問題だ。容疑者は銃を合法的な手段で取得していた。これが惨劇の一因にもなった。NZのアンダーン首相は早速、銃規制の強化を指示した。

 米国や欧州の一部、発展途上国の一部では、いまだに銃の野放しともいえる状態が続いている。こうした社会では、たびたび乱射事件が起きている。しかし本格的な規制は進まないのが現状だ。

▼問題の投影

 事件は、トランプ米大統領の言葉を使えば「頭のおかしい」人物が引き起こした問題かもしれない。しかし銃、イスラム、移民、ネットなどのキーワードが関連してくる。現在の社会が抱える重要な問題が投影されている。今後の展開に要注意だ。

◎ モスクの血 「平和の国」ではなかったか
◎ 移民、神、テロと繋がる言葉の連鎖
◎ 憎悪心広げるネット疾走中

2019.3.17

2018年5月21日 (月)

◆新世界無秩序 2018.5.20

 中東情勢や通商問題など、既存の秩序を覆す変化が連鎖反応的に進んでいる。震源地は米トランプ政権。イラン核合意からの離脱、イスラエルへの大使館移転、中国に対する多額の関税決定などを引き金に、様々な枠組が変わっている。現状をどう見たらいいのか。

▼核合意離脱:国際協調から対イラン姿勢に

 中東情勢が揺れている。問題の一つは米国のイラン核合意からの離脱だ。トランプ大統領は5月8日に離脱を表明。同時にイランに対する制裁を再開する大統領令に署名した。

核合意はイランとP5+ドイツの間で2015年に成立した。イランが核濃能力の削減などを通じ、核兵器開発の可能性を少なくする一方、米欧などはイランに対する経済制裁を撤廃する内容。中東における安保上の懸念の一つを緩和するものだった。

 トランプ政権は合意内容が不十分で、イランが約束を十分に順守していないなどと批判。合意から離脱し、制裁再開を決めた。イランや英独仏など欧州、ロシア、中国などは離脱を批判。イランとEUは米国に気でも合意の枠組みを維持するよう協議を始めた。

 一方、イスラエルやサウジアラビアは米国の判断を支持・歓迎する。両国はイランと敵対する。オバマ政権時代に米国の中東戦略は、国際協調とイスラエルに対し距離を置く姿勢を基軸にしていた。これがトランプ政権で逆転した。

▼危険なドミノ

 インパクトは強烈だ。イランとEUは枠組み維持を模索するが、容易ではない。逆にトランプ政権は、21日に対イラン新戦略を発表すると表明した。これにイランが理解を示すとは思い難い。

 米国の対イラン制裁再開は、イランとの直接取引に留まらない。同国との取引を行う欧州などの企業にも及ぶ。このため、仏トタルやエアバスは、イランでのプロジェクト中止や輸出停止に追い込まれる可能性がある。核合意で再開したイランとのビジネスが停止状況になりかねない。

 ビジネス中止が避けられなくなれば、イランが再び強硬姿勢に転じる懸念がある。そうなれば、核開発の再開→中東での核開発のドミノや、新たな紛争・戦争の勃発につながるリスクが生じる。極めて危険なドミノが始まりかねない。

▼エルサレム大使館のインパクト

 5月14日はイスラエルの建国記念日だ。しかしパレスチナ人にとってその日は、大惨事(ナクバ)の日になる。1948年のイスラエル建国の際に、70万人のパレスチナ人が故郷を追われた。パレスチナ紛争はその後も解決の方向が見えないまま、中東紛争の火種であり続ける。

 イスラエル建国70年に当たる今年の5月14日、米国は大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。トランプ政権は昨年末、エルサレムをイスラエルの首都として認める決定をした。

 過去数十年にわたり、パレスチナ和平の基本となる考え方がイスラエル、パレスチナの2カ国共存。そしてエルサレムを双方の首都とする案だった。1990年代に一時、和平ブームを高めたオスロ合意も、こうした考えに沿うものだ。イスラエルがエルサレムを首都として既成事実化する事態を避けるべきだというのは、国際社会のコンセンサスだった。

 トランプ政権はいとも簡単にそうした既存概念をひっくり返した。国際社会からは当然、大きな批判が湧き出た。国連総会が反対決議をしたのも一例だ。

▼パレスチナの動乱

 パレスチナのガザでは14日、大使館移転に反対する抗議デモが拡大。イスラエル治安当局と衝突し、50人以上の死者が出た。騒乱は各地に広がる。

 イスラエルvsアラブの対立構図が単純明快だった20世紀後半と異なり、今回の抗議活動はアラブ全土に広がったわけではない。サウジアラビアなどはイスラエルとの対立よりむしろイランとの対抗を重視し、今回の大使館移転に対する動きも、政府の言動としてはそれほど目立たない。

 それでも、今回の決定がパレスチナ和平の進展を益々難しくし、アラブ・中東地域での反米感情をまた一つ強めたのは否定できない。米国は中東における仲介者の立場というより、親イスラエル、サウジ寄りの色彩を一層濃くした。

▼米中貿易戦争

 トランプ政権は3月に入り正面でも強硬策を強めた。中国に対しては知的財産権侵害があるとして、500億ドルの制裁関税を表明。各国からの鉄鋼・アルミ製品への関税導入も決定した。一方的な措置であるともに、保護主義的な色彩の強い政策だ。

 米中はその後通商協議を開催。米国はここで両国間の貿易赤字の大幅削減などを求めた。交渉は今のところ進展が少なく、合意のめどは見えてこない。

 決裂となれば、相互に制裁関税を導入する事態にもなりかねない。貿易戦争の勃発だ。米中はじめ世界の経済は相互依存が進み、貿易や投資の自由が後退すれば経済にも悪影響が及ぶ。1920年代の保護主義→世界恐慌の再現を懸念する声もある。

▼トランプ政権の原点回帰

 トランプ政権は2017年1月の発足直後、TPPからの離脱、NAFTAの再交渉、中東からの移民規制、メキシコとの国境への壁建設などの政策を相次ぎ打ち出した。政策は選挙戦で打ち出したもので、「米国第1」を前面に打ち出しているところが特徴。既存の常識を覆すものだ。

 その後、動きはやや収まっていたが、この3月以降再び加速した。イラン核合意離脱、エルサラムへの大使館移転、対中など関税はいずれも選挙公約で掲げたものだが、インパクトは大きい。この時期には同時に、ティラーソン国務長官の解任・ポンペオ新国務長官の任命など人事も実施した。

 11月の中間選挙をにらみ、支持基盤を固めるために原点回帰したとの見方が強い。それが世界に多大な影響を与えている。

▼世界の枠組み変化

 第2次大戦後の歴史を振り返ると、実は10年単位で大きな地殻変動が起きている。1950年代のスエズ動乱やハンガリー動乱、米マッカーシズム。1960年代のキューバ危機や仏アルジェリア危機、ベトナム戦争、文化大革命、1968年の反体制運動。1970年代のニクソンショックや石油危機、ベトナム終戦。欧州の動脈硬化。1980年代のレーガン・サッチャー革命、チェルノブイリ原発事故、ベルリンの壁崩壊と冷戦終結、天安門事件。1990年代のソ連崩壊、インターネット革命、グローバル化の進展、アジア通貨危機。2000年代の9.11、イラク戦争、世界金融危機、中国の台頭。200年代のアラブの春、イスラム国、欧州難民危機といった具合だ。

 世界の枠組みは安定には程遠いし、枠組み変化は常に起きている。昨日までの常識が覆されることも常だ。

 ただ現在の変革は、覇権国米国の基本姿勢の変化に伴う点に留意する必要がある。米中間で覇権国と挑戦国のせめぎ合いが厳しくなっているのも現実だ。さらに、IT革命で世界の経済や社会の仕組みが根本的に変わり、世界的なテロなど過去の時代にはなかった要素も背後に存在する。

▼見取り図なき破壊

 トランプ政権は現状に不満を持つ米国の所得者などの支持を背景に成立した。背景には世界的な格差拡大、グローバル化への警戒、ポピュリズムの高まりなどがある。そしてトランプ政権の位置づけは、第2次戦後の世界秩序の再構築にあるとの指摘がある。

 再構築と言っても、次の方向が見えているわけでは全くない。覇権国の大統領という世界の最高権力者が、落としどころが見えないまま既存秩序を破壊している。それが、米国内政治である中間選挙対策上にあるところが厄介だ。

 英FT紙は月日付けの紙面で、”The World New Disorder”’(新世界無秩序)と書いた。世界の現状をよく表す表現だ。

◎ 覇権者が秩序破壊のドミノ押す
◎ しきたりも朝令暮改 新世界
◎ 「米国の平和」が過去になっていく

2018.5.20

2018年1月28日 (日)

◆2018ダボス発のメッセージ 2018.1.28

 ダボス会議が23-26日開催された。世界の政治やビジネス界のリーダーが参加したが、今年の注目は何といってもトランプ米大統領。大統領と政権幹部から通商や通貨政策について様々な発言があった。その内容には必ずしも統一性がなく、その度に世界や市場は揺れた。

▼トランプ演説

 ダボス会議へのトランプ大統領の参加は、様々な観点から注目された。就任から1年の間に、トランプ大統領はTPPやパリ協定からの離脱、イスラエルの首都としてエルサレム承認など、既存の国際秩序を覆す決定を相次ぎ下した。一方、大統領が自身の政策や戦略を世界に向かってまとめて話した機会は多くなかった。

 大統領の移民規制などの政策には世界各地で反対運動が発生。開催地スイスではダボス会議参加に抗議するデモが繰り広げられた。そんな中での演説だ。

 トランプ氏は、減税や規制緩和で米経済が活況を呈していると自賛した。そのうえで通商政策について、米国は自由貿易を支えると強調。ただし、相手国は公正な貿易を行う必要があると条件を付けた。TPPについては、現在の協定案が「ひどいものだ」としたうえで、内容が改善されるのであれば再加盟を検討する可能性があると示唆した。

 トランプ氏の通商政策には、保護主義的との批判が多い。演説内容を見ると、そうした従来の姿勢より多国間主義を尊重するかのような姿勢もうかがえる。米政治メディアのPoliticoは、"Elites get a dose of the Trump First message"(エリートは演説をひとまず落ち着いて受け止め)と報じた。しかし演説に具体的内容は十分でなく、政策を十分に練った上での内容にも見えない。不透明感はついて回る。

▼America first, not America alone

 大統領選以来のトランプ氏の一枚看板がAmerica First(米国第一)。演説の中でトランプ氏は米国第一を強調する一方で、「米国第一は米国だけを意味するのではない」(America first does not mean America alone)と述べた。エイBBCは「これが演説の基調であり、ホワイトハウスの主要メンバーからのメッセージ」(It was the key line of the speech, and a message echoed by other leading members of the White House power pack here)と解説した。

▼通貨安戦争?

 通商以外で物議を醸したのが通貨政策。ムニューシン財務長官は24日、記者団に対し「短期的に見ればドル安は貿易面で米国にとって良い」とドル安容認と受け止められる発言をした。これを受けて市場ではユーロ、円など主要通貨に対しドル安が進んだ。

 各国が通貨安競争に走れば、保護貿易の高まりやブロック経済化をもたらしかねない。2008年の世界金融危機の後にも、通貨安競争に対する懸念はたびたび主要国間で共有されてきた。

 そもそも通貨政策の責任者である財務相や中銀総裁が為替相場に関連する発言をすること自体が異例だ。ドラギ欧州中央総裁は25日の会見で、財務長官発言を取り上げ、異例ともいえる批判をした。

 トランプ米大統領は25日TV局とのインタビューで、強いドル政策を強調。財務長官発言を軌道修正した格好だ。しかし、政権からのメッセージの混乱が目立った。

▼エルサレム承認、より具体的に

 ダボス会議の直前、ペンス米副大統領が中東を訪問。イスラエルでは議会演説し、現在テルアビブにある米大使館のエルサレム移転を2019年中に実現すると述べた。米トランプ政権は昨年末、エルサレムをイスラエルの首都として認める政策を発表したが、より具体的な日程を示した。

 トランプ大統領も25日 ダボスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談。副大統領発言と同じ趣旨の内容を伝えた。パレスチナ問題で米国のイスラエル寄りの姿勢が一層鮮明になった。

 エルサレムの首都承認で、国際社会の大半は反対している。国連総会も昨年末に反対決議を採択。欧州諸国もこぞって反対を公式に表明している。米トランプ政権vs国際社会の見解の相違が際立った。

▼エスタブリッシュメントのダボス会議

 会議にはトランプ氏以外にも多数の世界の政治、経済の指導者が参加した。ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領は自由貿易の擁護を強調した。インドのモディ首相は、保護主義への警戒を訴えた。アリババのジャック・マー会長は技術革新が社会に及ぼすメリットについて話した。

 ダボス会議はもともと世界のリーダーが集まり、世界の課題や必要な政策について話し合い、情報発信をする場。1990年以降はグローバル化の先導役を果たした。世界金融危機以降は、第4次産業革命(Industry4.0)など技術革新を強調する。

 参加者は基本的にエスタブリッシュメント。既存秩序の抜本的見直しというより改革によって進歩を目指す傾向が強い。議論も技術革新やマクロ経済政策などでは具体性のある内容が多いが、世界的な格差是正や貧困問題などのように社会構造的な問題ではインパクトに欠くことも少なくない。

 昨年は中国の習近平国家主席が参加。自由貿易擁護などの発言をした。今年のモディ・インド首相の発言も同様だ。いずれもダボスの予定調和に沿うような、模範解答的な演説と言ってもいい。

▼メッセージ

 トランプ大統領は反エスタブリッシュメントの支持を背景に当選し、言動では既存秩序を否定してきた。ダボス演説にもその傾向維持しつつ、一部変化の兆しのような部分もあった。受け止め方は難しい。

 明確だったのは、米国が世界のリーダーとして国際秩序を維持するのではなく、うしろ従来秩序の変化を模索していること。米国と世界の間には、なお対立・相違が目立ったことだ。

 演説からは、トランプ政権の具体性の欠如や一貫性のなさがうかがえた。一方で存在感においては、トランプ氏が他のリーダーを圧倒した。

 未来展望のある明るい話は、技術革新の分野で多かった。格差、貧困など世界が抱える問題には、あまり具体的な情報発信はなかった。 

 ダボスのメッセージは、米国の変貌、世界の既存秩序の変化、先行きの不透明感の拡大などを映しているように見える。

◎ 世の中の半分が見えるダボスから
◎ アメリカ対世界を感じる冬の山

トランプ米大統領演説
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-president-trump-world-economic-forum/
ダボス会議HP
https://www.weforum.org/events/world-economic-forum-annual-meeting-2018

2018.1.28

2017年6月 4日 (日)

◆米国のパリ協定離脱が映すもの 2017.6.4

 トランプ米大統領が地球温暖化対策のパリ協定からの離脱を表明した。国際世論を無視する形の「米国第一」の決断。ある程度予想されていた事とはいえ、現実のものになると衝撃は大きい。

▼法王の忠告も無視

 離脱発表のタイミングは、欧州などからの外遊から戻って間もなく。欧州では各国首脳のほか、ローマ法王もパリ協定の重要性を強調。離脱しないよう訴えた。しかしそうした要望も無視された形だ。

 大統領の表明を読むと、「米国第一」や「米国の利益」が頻繁に登場する。一方、地球環境全体について語った部分は少ない。「米国第一主義」が改めて、しかも明確に打ち出された。

 パリ協定離脱はトランプ氏が選挙戦時から公約に掲げていた政策。一部エネルギー業界や炭鉱産業従事者などの要望に応えるものだ。米国内には科学者にも、温暖化に否定的な見方がある。

 しかし産業界を広く見渡せば、多くはむしろパリ協定推進派だ。離脱の決定に多数の企業が遺憾を表明。政府の方針にかかわらず、産業界として温暖化削減に取り組む姿勢を強調した。産業界の大統領助言委員会のメンバーであるテスラなどのイーロン・マスク氏は、辞任を表面した。

 世論調査によれば、共和党支持者であっても半分以上はパリ協定離脱に反対だ。こうした状況の中で大統領は離脱を決めた。

▼石炭増加にはつながらず?

 シェール革命の進展などで、エネルギーの分野では石炭→天然ガスや再生エネルギーなどの動きが加速中だ。米国がパリ協定を離脱したからといって、石炭が消費が拡大に向かう情勢ではない。再生エネルギーの拡大、エネルギー効率の上昇というトレンドは、長期的には変わらないとの見方が多数だ(原発の行方については、先進国における脱原発の動きと新興国での原発利用拡大の動きがあり、複雑だ)。

 パリ協定離脱が石炭産業などの雇用増加に実際につながる可能性はそれほど大きくないと見るのが自然だろう。

 石炭転換が進まないのであれば、米国で今後温暖化ガスがどんどん増えていくという状況ではない。今回の離脱がそうした点まですべて織り込んだ決断だったかは不明だが、政治的な狙いが大きかった可能性がある。不明な点がなお多く残るのは、トランプ流といえばそれまでだ。

▼トランプ政権vs国際世論

 独仏伊首脳は共同で声明を発表。遺憾を表すとともに、協定の再交渉は拒否した。中国の李克強首相、英国のメイ首相なども協定推進を表明した。この問題では、トランプ政権vs世界の大多数、という構図が明確になった。

 国際情勢の観点から見れば、離脱表明によりトランプ大統領の「国際協調より米国第一」の姿勢が改めて明確になった。トランプ大統領が世界の指導者が共有する危機を共有していないこと、世界がこれまで積み上げてきた秩序を(たとえ代替案がなくても)躊躇なく否定することも再度露呈した。

 米国はこれまで世界の警察官として、グローバルガバナンスを総合的な視点でとらえてきた。しかし、最早状況は異なる。世界全体より米国の利益を優先。問題を総合的に関連付けて解決策を探るというより、個々の問題に時にはばらばらに取り組む。そして時には既存秩序の破壊も厭わない。世界は指導者なき時代(G0)に入ったとの感を新たにする。

▼技術革新

 一方で、10年単位で経済や技術革新を見ると技術革新を改めて認識することも多い。全世界的に地球の気候温暖化に関心が高まり、リオで地球サミットが開かれたのが1992年。その後温暖化ガス削減が全地球的な課題として認識され、省エネや再生可能エネルギーの開発が進んだ。シェール革命も起きた。

 電気自動車が本格的に登場したのは約10年前。今日では先進国の各地に電気スタンドが整備され、テスラやグーグルなど先端企業が次世代の自動車開発を加速する。

 パリ協定など温暖化防止の動きが、こうした技術革新を促している面も見逃せない。

◎反環境 協定離脱で名を残す?
◎また一つ、リーダーなき世界を実感す
◎トランプ時代 EVの風景日常に

2017.6.4

2017年3月20日 (月)

◆変わる世界の枠組み―トランプ政権2カ月 2017.3.19

 トランプ政権発足から2カ月。世界の枠組みが色々な部分で変化している。

▼「保護主義対抗」消える

 独バーデンバーデンで17-18日に開催したG20財務相・中銀総裁会議は、共同宣言に「保護主義に対抗する」を盛り込まなかった。トランプ政権の保護主義的な姿勢が反映されたのと受け止め方が強い。英BBCが"G20 drops anti-protectionist pledge"と報道したのは、問題の革新を突く。

 米政権は不均衡是正などを含む「公正な貿易」を主張するが、自由貿易尊重が薄れた感は否めない。トランプ政権はすでにTPP離脱、NAFTA再交渉などを表明している。世界の貿易システムは確実に変わっている。

▼米欧の溝

 ワシントンでは米独首脳会談は淡々としていた。米独会談は2カ国関係にとどまらず、米欧関係の行方を左右するもの。会談では安保、通商、難民問題などを協議したとされる。

 終了後の共同記者会見は、いかにもぎこちないものだった。記者の前での握手はなし。

 安全保障ではトランプ氏がNATOの重要性を確認する一方、メルケル首相は2024年までに国防費をGDP比2%に拡大すると約束した。米国が「世界の警察官」をやめ、同盟国に負担を求める流れが鮮明になった。冷戦終了後、欧州などでは国防費軽減の流れが続いたが、潮流は変わっている。

 難民問題では、トランプ大統領が「国民の安全優先」を強調したのに対し、メルケル首相は難民保護の重要性を主張。溝は鮮明だった。トランプ大統領の1月の入国規制令に対しては、欧州各国が反対を表明している。その先頭に立ったのがメルケル氏であり、英国のメイ首相も続いた。欧州は2015年に100万人以上の念民が流入する難民危機を経験し、いまもいつ再燃してもおかしくない状況。難民問題を巡る現実と米欧の意見の違いは大きい。

 共同記者会見で、民主主義や人権など、戦後の米欧の世界観の基本だったキーワードは、ほとんど出現しなかった。理念や価値観の面でも、世界は転換点にある。

▼ポピュリズム、強権主義

 オランダの総選挙に世界の目が注がれた。反移民・反EUで支持率を伸ばしてきた極右自由党がどこまで票を伸ばすかが注目された。結果は議席を増やしたものの、第1党には届かず、勢力伸長はとりあえず限定的にとどまった形だ。

 ただ、与党自由民主党(VVD)が第1党を維持した(議席は減少)背景には、トルコ系住民のオランダ国内での政治活動に対し断固たる態度を取り、支持層が自由党に流れるのを防いだ影響もある。その意味では、オランダが移民監視を強めたともいえる。

 世界的な反移民やポピュリズムの流れが弱まったと見るのは早計だろう。

 トルコのエルドアン大統領はオランダを強く批判した。オランダなど欧州諸国とトルコの対立は一層深まった。トルコでは大統領の強権化が進み、4月には大統領権限を強化する憲法改正を問う国民投票が予定されている。

▼Brexitで変わる欧州

 英国の議会がメイ首相に対し、EU離脱の通告をする権限を与える法案を可決。英国は3月中にEUに対し離脱を通告し、いよいよ離脱交渉が始まる。

 こうした中でスコットランドのスタージョン首相が、独立を問う住民投票を再度要求すると表明した。スコットランドは先のEU離脱を問う国民投票では残留が多数を占め、EU離脱が決まった後も単一市場を維持するSoft Brexitを求めていた。メイ政権が移民規制などを重視するHard Brexitを選択したことで、改めてスコットランド独立の要求が高まってきた。

 住民投票を法的に有効なものにするには、英政府の同意が必要。メイ首相は今のところ応じる意向はないが、独立問題がくすぶり続けるのは確実だ。EU離脱に加え、地域分離の動きも絶えず、不確実性がさらに高まった。

▼玉突き

 Brexitやトランプ大統領誕生を契機に、第2次大戦後の世界の秩序を形成してきた枠組みが問われ、一部では変わっている。動きはあたかも玉突きのようだ。しかし新秩序の青写真はもちろん描けていない(その意味でトランプ政権に戦略がないというのは正しい)。不確実性が高まっている。

 エスタブリッシュメントの論調は、過激(無責任)な主張を控え漸進的な改革を訴える。しかし格差の拡大や紛争など、古い秩序に対し住民がNoと突き付けたのがBrexitやトランプ現象だ。このNoに対し、何ら魅力的な答え(代替案)は示されていない。

 トランプ政権発足2カ月の現状が映し出す世界の姿は、こんな感じなのだろう。

◎世界の家 設計図なしに 建て替え中
◎旧秩序 玉突きの如く 揺らぐ日々
 
2017.3.19

2017年1月 9日 (月)

◆2017年の世界展望(2) 経済と地政学のテールリスク メディアの論調・識者の意見 2017.1.9

 2017年の展望について、世界のメディアは例年以上に幅広い企画記事や識者インタビューを掲載した印象を受ける。背景にはトランプ米大統領誕生やBrexitに象徴される世界の構造変化がある。いくつか整理してみる。

▼共通する認識・キーワード

 見解には共通するものも多い。キーワードで整理すれば、次のようなものが挙げられる。

(1)世界の新しい現実
 事象として重要なのは、もちろんトランプ大統領、Brexit、テロリズム、難民問題などだ。
 その背景にある潮流として、反グローバリズム、ポピュリズム、反エリーティズム。格差拡大などがキーワードになっている。

(2)世界の枠組みの変化
 直接的な変化としては、不確実性の拡大や保護主義の台頭などが指摘される。
 覇権国である米国の変化や、世界のガバナンスの観点からみると、米国第一主義、孤立主義志向、パックス・アメリカナの終焉、Gゼロなどが挙がる。この辺の見方は、異なる見解もある。
 米欧の外から世界を眺めると、中国、ロシアの台頭、冒険主義なども重要なキーワードになっている。

(3)経済・技術の変化
 量的緩和や長期停滞は引き続きキーワードだ。技術では、IT革命、第4次産業革命、IoT、AIなどの言葉が並ぶ。
 2008年の性愛金融危機(リーマン・ショック)との関連についても様々な言及がある。資本主義の行き詰まりや変貌を指摘する見方も多いが、意見が収束しているとは言い難い。

(4)理念や政治思想の変化
 表面的な事象や目に見える動きだけでなく、理念や思想の変化も重要だ。こうした点の変化を重視する立場からは、自由主義的グローバリズムの終焉、liberal Democracyの危機、民主主義の失敗などの認識が指摘される。世界の底流の流れとして、意識しておく必要がある。

▼不安定な世界

 ジャック・アタリ氏は日本のマスメディア(毎日新聞、読売新聞)を含めいくつかのインタビューに登場している。トランプ現象などを生み出した世界の現状について、「経済市場は世界的規模だが民主主義は国家単位」であり、これが保護主義や反グローバリズムの背景にあると指摘。「我々は非常に不安定な世界で生きていくことを学ばなければ案らない」(毎日新聞インタビュー)と指摘する。同様の見方は少なくない。

▼ユーラシア・グループの2017年リスク

 リスク認識もこれまでとは異なる要素を含む。この分野で注目されるユーラシア・グループは、2017年の10大リスクを発表した。以下の通りだ。

(1)Independent America(独立したアメリカ) 米国第一主義、保護主義など
(2)China Overreacts(中国の動向) 秋の共産党大会などをにらみ
(3)A weaker Merkel(メルケル首相の弱体化) 欧州の安定にかかわる
(4)No reform (改革の遅れ) 
(5)Tecnology and the Middle East (技術革新と中東) 独裁政権に対する政治にSASなど技術が影響
(6)Central banks get political (中央銀行の政治化)新興国に加え欧米でも
(7)The White House vs Silicon valley (ホワイトハウスvsシリコンバレー)
(8)Turkey (トルコ)
(9)North Korea(北朝鮮)
(10)South Africa(南アフリカ)

▼経済と地政学リスク

 英Financial TimesのMartin Wolf氏は、世界経済を長期的に見た場合、(1) 大規模な戦争(2)インフレ(3)金融危機が大きなリスクになると指摘する。そのうえで、現在の世界は金融危機につながる2大リスクを抱えると分析する。それは(1)ユーロ危機と(2)中国の危機だ。

 さらに地政学的なリスクとして、トランプ米大統領やBrexitのほかに、(1)欧州の政治=仏大統領選でのルペン氏の当選など、(2)プーチン大統領のロシア、(3)米中軋轢、(4)イラン・サウジの対立、(5)サウジ王政の崩壊、(6)イスラム過激派による戦争行為を挙げる。そして北朝鮮とインド・パキスタンの紛争を例に、核戦争の脅威もリスクとして考慮すべきものであるとしている。いずれも起きる可能性は大きくない(テールリスク)としながら、配慮は欠かせないとする。

 ジャック・アタリ氏は地政学的なリスクとして、(1)米中(日米と中国)の紛争、(2)旧ソ連圏(ロシア対ウクライナなど)、(3)インド・パキスタン、(4)中東、(5)アフリカ中央部、(6)イスラム過激派(「イスラム国」)を列挙する。

 一方、経済のリスクとしては、(1)中国のバブル崩壊、(2)保護主義台頭、(3)ユーロ危機・欧州危機、(4)債務危機、(5)米国発金融危機 (6)原油価格、を挙げている。

▼FTの2017年展望

 英Financial Times紙は毎年恒例で、専門記者による「新年展望」を掲載している。2017年展望については、2016年12月30日に掲載した。ポイントは以下の通りである。

(欧州情勢)
・英国のEU離脱交渉を開始するリスボン条約50条は3月までに発動されるか=Yes
・仏国民戦線のルペン氏は大統領選に当選するか=No
・メルケル独首相は再選されるか=Yes
・英国の2017年の成長率は1%を割り込むか=No
・EUのインフレ率は年末までに1.5%を超えるか=No
(トランプ米大統領)
・メキシコとの国境に壁を建設するか=大したものでないものを建設
・トランプ氏とプーチン・ロシア大統領はシリア問題で取引をするか=Yes
(国際情勢)
・イラン核合意が崩壊するか=No
・「イスラム国」は国際的な影響力のある組織として粉砕されるか=No
・南アのズマ大統領は地位にとどまるか=Yes
・ベネズエラはデフォルトするか=No
・北朝鮮は核搭載可能なミサイル発射に成功するか=No
(世界経済)
・中国人民元は10%以上切り下げられるか=No
・米Fedレートは年末1.5%を超えるか=No
・原油価格は年末1バレル50ドル以上か=Yes
・アップルは2017年末に時価総額世界一を保つか=Yes
・ウーバーは上場するか=No
・欧州の主要銀行で破たんするところが出るか=Yes

2017.1.9

◆2017年の世界展望(1) 世界秩序の曲がり角? 2017.1.9

 2017年が始まった。昨年のトランプ米大統領の誕生、Brexitで既存の世界秩序が揺らぎ、不確実性とリスクが高まった。テロ、難民などの難問はそのまま引き継がれた。一方でITを中心とした技術革新は加速し、世界を変えている。2017年を展望する。

▼トランプ米新大統領の政策

 2017年の世界を展望するうえで、まず注目されるのが米トランプ新大統領の政策だろう。同氏の政策は、対ロや対中の外交、貿易、マクロ経済政策、移民政策、米国内の医療政策など多くの重要分野で不透明なところが多い。従来の政策を方向転換する可能性も大きく、その場合世界の行方に多大な影響を与える。

 保護主義台頭がさらに加速するか。米中関係が緊張するか。オバマケアは本当に廃止され、米国の医療保険制度はどうなるのか。イラン核問題にどう対応し、米国の中東政策はどう変わるのか。対ロ融和政策を打ち出すのか――。いずれも世界情勢にとって、多大なインパクトを与える。

▼Brexitと欧州情勢

 Brexitは3月に英国が離脱交渉発動の通知をする予定。今のところ英国の交渉戦略は見えず(定まっていないとの見方も多い)、難航は必至だ。経済などへの悪影響は2016年はまだ表面化しなかったが、2017年は顕在化する可能性がある。いずれにしろ、不確実性は大きいまま推移しそうだ。

 重要なのが仏大統領選(4-5月)や独総選挙(秋)などの選挙だ。仮に仏大統領選で極右国民戦線のルペン氏が勝利すれば、仏のEU離脱・EUの崩壊に結び付いてもおかしくない。独総選挙でも極右勢力の伸長が予想される。

 欧州ではオランダ総選挙なども予定されている。いずれの国でも、反EUや反グローバリズム勢力が勢いを増している。「欧州の政治」は、前年から引き続いて世界にとって大きなリスクになる。

▼テロ、難民、中東、ロシア、中国――前年から継続

 前年から引き継がれる問題は多い。テロ、難民、中東の混乱は、今年も世界を揺るがすだろう。中東はシリア紛争、「イスラム国」(IS)、サウジアラビアとイランの緊張、トルコ情勢の緊迫などの課題を抱えて推移する。楽観を許さない。

 ロシアは勢力を拡大を狙い様々な動きを続けるだろうし、ウクライナ問題など紛争はくすぶり続ける。

 中国は秋の共産党大会をにらみ、習近平主席による反腐敗運動の勢いは止まらない。国内で緊張は高まるだろう。それが対外的には強硬姿勢につながり、南シナ海を巡る緊張などが強まる。アジアでは北朝鮮の核問題、インドとパキスタンの紛争への懸念なども消えない。

▼グローバル化の軋みと紛争

 欧米における反グローバル化やポピュリズム、中東などでの紛争、難民・移民問題。現代社会が直面する問題の背景には、過去数十年続いたグローバル化による世界の構造変化がある。変化の恩恵を受けられなかった人々の不満は大きい。政治はそうした情勢変化への対応を打ち出せず、制度の改革も進まなかった。これが格差拡大を放置し、各地での怒りを増殖させ、紛争の温床を育ててる。こうした大きな流れは、今年も変わらないだろう。

▼世界秩序の曲がり角?

 トランプ氏当選やBrexitを受けて、2016年は「画期的な年」との指摘がある。確かにンパクトは大きかった。しかし、過去30年あまりの歴史を振り返ると、1989年の冷戦終結、2001年の9.11、2008年のリーマン・ショック、2011年のアラブの春(中東混乱)など、同様に大きな衝撃があった年も多い。

 トランプ氏当選とBrexitの衝撃の意味は、世界に与えた混乱そのものというより、米国中心の世界秩序が曲がり角を迎えたところにあるのかも知れない。パックス・アメリカーナの終焉が指摘され、Gゼロ時代の到来が唱えられる。開かれた経済と民主主義を根本原理としたリベラル・デモクラシーの終焉を主張する向きもある。それは保護主義台頭と表裏を成す。仮にこうした見方が正しければ、世界史の曲がり角の一つだ。2017年は、そこがどう進むかを定める年になる。

▼技術革新の重要性

 国際的なヘッドラインになるニュースを見ていると、どうしても紛争や混乱の動きが多くなる。しかし、世界が一方的に悪くなっているわけではない。見出しにはなりにくいが、経済発展や技術革新が人々の生活を豊かにし、世界のつながりを強化している面もある。こうした点も見逃してはいけない。

▼世界のメディアの論調・識者の意見

 トランプ米新大統領とBrexitを受けて、世界のメディアは例年以上に様々な展望企画や識者のインタビューを掲載した。その中から注目すべきものを、別稿でまとめてみたい。

2017.1.9

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