◆トランプ大統領コロナ感染の衝撃 2020.10.4
トランプ米大統領が新型コロナに感染。ワシントン近郊の軍の病院に入院した。世界最高の権力者のコロナ罹患は、世界に大きな衝撃を与え、1か月後に迫った大統領選の行方を左右する。
▼容体は不透明
トランプ大統領の感染が発表されたのは現地時間2日朝。大統領がツイッターで発信し、その後ホワイトハウスなどが説明した。大統領は当初、ホワイトハウスで自主隔離しながら執務を続けるとしたが、同日ワシントン近郊の軍の医療施設に入院した。3日付けで病院からビデオメッセージを発表し、回復ぶりをPRした。医師団も大統領が回復していると強調した。
ビデオ出演では、回復は順調とPRした。しかし11月の大統領選を控え、不利な情報を流せないのは当然。本当のところの容体は分からない。
▼コロナ軽視のツケ?
トランプ氏は米国でコロナ感染が拡大し始めた今春から、感染防止よりも経済活動の維持を重視。マスクの着用などにも消極的な姿勢を示してきた。
自身も大統領選のキャンペーンで大規模集会の開催を重視。支持者などに直接呼びかけ、握手など接触する場面も多かった。本人がマスクを着用することもまれだった。
今回の感染は、こうしたコロナ軽視のツケという指摘もある。ただし、米国内で700万人以上の感染が確認されている中、こうした見方を受け入れない人も当然いる。
▼ホワイトハウスで感染拡大、統治危機のリスク
メラニア夫人も同時に感染。またホワイトハウスの高官や、大統領と接触する機会が多い与党共和党の国会議員らも感染が報告された。「ホワイトハウスでクラスターが発生」と報じたメディアもある。
世界の最高権力機構である米政府の中核での感染拡大は、由々しき事態という他はない。統治機構のリスク管理に問題があったという見方も当然だ。
ただし、ペンス副大統領やポンペオ国務長官などは陰性が発表され、当面統治危機が表面化するような事態は回避されている。
▼世界に多大な影響
世界の最高権力者である米大統領の感染は、国際情勢にも多大な影響を与える。入院先から執務を行うと言っても、処理案件は通常より絞らざるを得ない。ポンペオ国務長官は、モンゴルや韓国訪問をキャンセルした。
それ以上に、テロや紛争、サイバー攻撃などの緊急事態が生じた場合の対応に、制約が出る可能性がある。入院先で、スタッフから十分な情報を受け、適切な判断を下せるのか。世界全体の統治機能や危機管理機能が、一時的に低下しているという見方が適切だろう。
▼大統領選に甚大な影響
国内的には、大統領選への影響が甚大だ。感染前まで、世論調査では民主党のバイデン候補がトランプ氏をリードしていた。トランプ氏は今後、全国的に大規模集会を繰り返し開き、挽回を狙っていたと伝えられる。
感染により少なくとも2週間は隔離を余儀なくされる。大規模集会を中心にしたキャンペーンは、白紙に戻さざるを得ない。オンライン中心に戦略立て直しができるか、見通しは立たない。
大統領候補によるテレビ討論(10月15日2回目、10月22日3回目)もどうなるか不透明だ。オンラインで参加するのか、そもそも開催を変更するのか。今のところ断定できる材料はない。
バイデン氏がますます有利になったという見方はもちろんある。ただ、大統領の容体を含め本当のところは全く分からない。
大統領感染を受けて、英国などのブックメーカーは、大統領選の勝者を当てる賭けのサービス提供を停止した。ブックメーカーにして、先が読めない状況だ。
▼オクトーバーサプライズ
大統領選直前の10月に、予期しなかった出来事が起きて、選挙の行方を変えた例はこれまでにもある。オクトーバーサプライズと呼ばれる。トランプ氏感染はまさにその例だ。
ただ、これでサプライズが終わりと言う訳ではもちろんない。国際的な紛争、テロ、自然災害、コロナの新展開、サーバー攻撃、経済の急変、候補者の(さらなる)健康問題など、予測不能なことが起きる領域はいくつもある。
「選挙はバイデン勝利で終わり」と単純に読むのは大きな誤りになる可能性がある。
▼偶然で動く世界
今回の選挙では、サイバー攻撃やフェイクニュースなどが注目されていた。いずれもしばらく前までの伝統的な枠ではとらえきれない、新しい要因だ。しかし今回、驚きはまずコロナで表面化した。
選挙は正統な政策論争だけではなく、偶然の出来事で勝敗が決定することも多い。そして世界は偶然で動く面があり、予測不能なことも多い。大統領感染は、そんな現実を改めて見せつけた感じだ。
◎ 人格も議論も脇にコロナかな
◎ トランプ罹患びっくりとやっぱり同居する
◎ 世界史は偶然と必然の積み重ね
2020.10.4