カテゴリー「中東」の53件の記事

2019年3月24日 (日)

◆ゴラン高原、イスラエルの主権容認のインパクト 2019.3.24

 中東情勢の争点の一つであるゴラン根源について、米国がイスラエルの主権を容認した。既存の国際秩序を一方的に覆す決定。地域に新たな不安定の材料を生み、グローバルガバナンスの基本をも揺るがす恐れがある。

▼第3次中東戦争で占領

 イスラエルの主権容認は、トランプ大統領が21日ツイッターで表明した。ボルトン大統領補佐官もツイッターで「イスラエルの立場を支持する」と応答。イスラエルのネタニヤフ首相は謝意を返した。

 ゴラン高原はイスラエルとシリアの国境にある地域で、レバノンとも接する。1973年の第3次中東戦争でイスラエルがシリアから奪い、占領を続けている。

 国連は1967年の決議でイスラエルに対し占領地からの撤退を求め、イスラエルの主権を認めていない。しかしイスラエルは1981年に一方的に併合を宣言していた。

▼新イスラエル・反イラン

 この時期に主権容認を表明した背景には、いくつかの理由が考えられる。

 一つは現地情勢。ゴラン高原周辺では、シリアのアサド政権と近いイランが勢力を拡大していると(主に米メディアなどにより)伝えられる。また、アサド政権やイランに近いイスラム原理集団のヒズボラも活動を活発化しているという。

 トランプ政権の中東政策の基本は、親イスラエル(とサウジアラビア)で、対イラン強硬スタンスだ。今回も親イスラエル・反イランを鮮明にした。

▼国内支持基盤強化

 イスラエルが4月9日に総選挙を予定していることも影響した可能性がある。ネタニヤフ首相は汚職疑惑を抱え、逆風が吹いている。ゴラン高原の主権容認は、協力関係にあるネタニヤフ政権を側面支援になる。

 さらに米国内の事情だ。対イスラエル支援強化は、支持基盤であるキリスト教福音派の支持確保につながる。ロシア疑惑などの問題を抱える大統領にとって、支持基盤の再強化は優先課題だ。

▼既存国際秩序を無視

 既存の国際秩序を無視する形で、突然、一方的に重要政策を変更するのは、いかにもトランプ流だ。2017年末に突然、駐イスラエル米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転を決定した時もそうだった。この時は、国連総会による批判決議を全く無視する形で、翌年、実際に大使館を移した。

 イランの核合意離脱、パリ協定離脱なども突然かつ一方的な判断。トランプ大統領の行動パターンに従来の常識が通用しないことは改めて明確になった。

▼世界の基本理念揺さぶる

 問題はその影響だ。ゴラン高原についてイスラエルの主権を容認するのは、武力による国境の変更を認めるのに等しい。しかし、国連の決議に反しての決定だ。

 2014年のロシアによるクリミア併合などを、国際社会は容認せずに非難してきた。背後にあるのは、武力による国境変更を認めないという基本認識だ。これは現代の世界秩序の基本理念だ。

 超大国米国の大統領であるトランプ大統領は、こうした理念をいともあっさり捨てているようにも見える。それは中東情勢など地域の問題にとどまらず、世界の在り方そのものに問いを投げかける。

◎ 覇権国 作ったルールを「チャラにする」
◎ 呟き(ツイート)が 何万の民をもてあそぶ

2019.3.24

2018年8月19日 (日)

◆トルコ・ショックが意味するもの 2018.8.19

 米国とトルコの対立を引き金に、トルコ経済の混乱が深まりリラが急落。その影響が世界に波及して新興国経済を揺るがしている。 NATO同盟国だったはずの両国の亀裂は、地域安保や中東情勢も揺さぶる。トルコ・ショックは世界が直面する様々な課題を浮かび上がらせる。

▼深まる対立

 米・トルコの対立がのっぴきならぬ状況になったのは7月末から。その後3週間の経緯は以下の通りだ。

・7月末 トルコが拘束している米牧師の解放を巡る交渉が決裂。
・8月1日  米国が制裁第1弾。トルコの閣僚の資産凍結など。
・4日 トルコが対抗措置。
・6日 トルコ・リラが下落。1ドル=5.2リラ水準に。
・10日 トルコが中期経済計画発表。中身は具体性を欠く。
    リラが一時前日比2割下落(1ドル=6.8リラに)。
    エルドアン大統領が国民にリラ買い支え要求。
    トランプ米大統領が制裁の第2弾(鉄鋼・アルミ関税上乗せ)発表
・13日 リラが一時1ドル=7.2リラまで下落。
    中銀・当局が銀行の準備金引き下げ。先物取引規制強化などの措置
    米がF15の売却禁止
・14日 ラブロフ・ロシア外相がトルコ訪問。
・15日 トルコが報復第2弾を発表。米からの自動車、ウィスキー関税強化など
    カタールがトルコに資金支援(150億ドルの投資) 
    エルドアン大統領が独メルケル首相と電話会談
・16日 エルドアン大統領が仏マクロン大統領と電話会談
    ムニューシン米財務長官が追加制裁示唆
    トルコが拘束していたアムネスティの事務局長、ギリシャ兵士解放
・17日 トルコ裁判所が牧師解放申請改めて却下
    S&P、ムーディーズがトルコ国債格下げ(投機的の中で一段下げ)
・18日 トルコ大型連休入り

 さながら報復が報復を呼ぶチキンレースの様相だ。強烈な個性の2人の指導者の争いは、劇ならば面白い。しかし世界の平和と安定をゆるがすようなら、冷笑しているわけにもいかない。。

▼新興国経済への波及

 トルコ・リラ下落の影響は新興国経済に波及した。主な事例は以下の通りだ。

・アルゼンチン ペソが下落。8月13日に40%→45%に利上げ。
・インドネシア ルピアに下落圧力。8月15日に利上げ。今年4回目。
・インド: ルピーが下落。8月1日に利上げ。

 米国は2017年に3回の英上げを実施した後、2018年も3月。6月に利上げを実施。さらに年内に1-2回の利上げが見込まれる。米利上げ加速の観測を背景に、新興国から資本流出の圧力が強まっている。

 そんな地合いのなかでトルコ・ショックが起きた。影響はまず、経常赤字が多額であるなど経済条件の弱い国を直撃。アルゼンチンやインドネシア、インドの通貨が下落した。

 中国の人民元は、米中貿易戦争激化への懸念もあり下落基調が続いている。世界経済への影響とおいう面では、この動きも不気味だ。

 世界経済はここ数年、3%台の成長を実現。「適温経済」とも呼ばれてきた。このバランスを崩すシナリオとして懸念されてきたひとつが市場の混乱だ。貿易戦争激化による経済減速も懸念される。

 混乱は今のところ、一部新興国に限定されている。しかし、トルコ・ショックは、世界経済がそうしたリスクを抱えている現実を改めて浮かび上がらせた。

▼安全保障への影響

 トルコ・ショックの影響は経済にとどまらない。地域の安全保障や中東の枠組みへの影響も重要だ。

 米トランプ政権が今回、トルコに対して強硬姿勢を崩さないのは、中東戦略全体の一環というより、11月の中間選挙をにらんだ面が大きい。拘束(自宅軟禁)されている牧師は、米福音派。選挙で支援を求めるためには、強い姿勢が必要との判断だ。しかし、その影響は(多分)意図に反して広範囲に拡散する。
 
 2011年のアラブの春以降の中東情勢は複雑に動いた。シリア内戦、「イスラム国」の台頭、イラク戦争後の同国情勢の変化、イラクやシリア、トルコのクルド人の自治拡大の動きなどがあり、それぞれが微妙に川見合う。こうした中で米国はイラクからの戦闘部隊撤退など関与の縮小を進めた。

 トランプ政権の発足後はイスラエル寄りへの傾斜、対イラン強硬姿勢などを鮮明にした。しかし、中東への関与縮小の流れは変わらない。

 トルコとは対「イスラム国」では共闘したが、クルド人への姿勢などでは立場が異にする。ただ米国とトルコがNATO加盟国である事実は重いはずえだ。

 そうした微妙なバランスだったところに、今回の亀裂の表面化。今後の手打ちの行方も見えない。中東情勢は今後どんな方向に転んでもおかしくなく、不確実性は一段と高まった。

▼中ロの中東戦略とトルコ・欧州関係

 行方は読みがたいが、注目すべきポイントはいくつかある。

 一つはロシアや中国だ。ロシアはシリア内戦の仲介などを通じ中東への影響力を拡大する姿勢を見せている。シリア問題ではトルコやイランと一部で協力している。今回もラブロフ外相をトルコに派遣し、米国の姿勢を批判した。トルコに接近する姿勢を隠さない。

 中国は中東各国と経済面でのつながりを強化し、影響力の拡大を狙っている。今後トルコと米国の関係が冷えれば、その隙間を狙いトルコとの関係強化に動くのは自然だ。

 もうひとつは欧州との関係だ。トルコのエルドアン政権が2010年代以降強権色を強めたのに対し、EUは人権侵害を批判。EUとトルコの関係は冷却化した。トルコのEU加盟交渉も完全にストップした。

 しかし2015年の欧州難民危機以降、状況に変化が生じている。EUはこの問題でトルコの協力を仰がざるを得ず、事実2016年に難民問題で合意をまとめた。人権問題などでトルコ批判をしつつ、水面下では手を握る複雑な関係だ。

 今回もメルケル独首相やマクロン仏大統領がエルドアン大統領と電話協議して協力を確認。関係維持の姿勢を見せつける。トルコ側も、スパイ容疑で拘束していたギリシャ兵を解放したり、アムネスティ・インターナショナルの事務局長を釈放するなど欧州への配慮を示した。

 米牧師の釈放という一つの問題から、各方面に展開を見せてる今回の動き。中東情勢、世界経済、難民危機、米国と中ロ、欧州の国際戦略など、大きな課題が複雑に絡み合う構図を示す。

◎ 通貨危機? 牧師の話だったのに
◎ 個性派のケンカといつまで笑えるか

2018.8.19

2018年8月12日 (日)

◆中東の新・リスク相次ぎ表面化 2018.8.12

 中東が揺れている。前週には(1)米国のイラン制裁が復活。(2)米・トルコ関係が急激に悪化し、トルコ経済に影響、(3)サウジアラビアとカナダの軋轢が突然表面化、という動きがあった。同地域では昨年「イスラム国」が拠点を失ったものの、シリアやイエメンの内戦、サウジとイランの対立など不安定の材料が尽きない。そんなところに、突然のように新たなリスクが表面化する。

▼対イラン制裁復活

 米トランプ大統領がイラン核合意からの離脱を表明したのが5月。その後米国は制裁復活の準備を進め、8月6日にトランプ氏が大統領令に署名。7日制裁を復活した。第1弾は自動車などの取引を禁止する内容。米企業だけでなく、欧州や各国に停止を求める。違反した企業には、米国内の金融決済から締め出すなどの罰則を科す。

 11月に予定している第2弾では、原油や石油製品の取引禁止を盛り込んでいる。イラン経済の生命線ともいえる分野の締め付けだ。

 制裁はイラン経済に影響し始めた。仏トタルは新規投資プロジェクトを中止。デンマークのマースクは石油輸送取引の中止を決めた。イランの通貨リアルは連日のように史上最低値を更新。

 イラン経済は2015年の核合意後発展を速め、2016年は2桁成長を実現している。自動車や鉄鋼の生産も拡大した。そんなとこ後に突然の逆風だ。この先、ボディブローのように効いてくる制裁に対し、どこまで耐久力があるか。当面問われるポイントだ。

 政治的には国内で恐慌派が発言力を拡大。「米国はやはり信用できない」という主張が支持を得やすくなっている。革命防衛隊はホルムズ海峡封鎖の演習を実施した。サウジやイスラエルなど周辺国との一触即発のリスクも高まっている。

▼トルコ・米国関係の悪化

 トルコと米国の関係悪化が進み、経済に影響を及ぼしている。

 米・トルコ関係悪化の理由はトルコによる米国人牧師の拘束。トルコ政府は2016年のクーデター未遂に牧師が関わったとして拘束していた。米国は解放を求めてトルコと交渉を続けたが。7月に決裂。これを受けて米国は対トルコ制裁発動に踏み切った。トルコも対抗措置を講じた。

 両国は以前も批判合戦などをしたことがある。しかしNATO同盟国内の制裁合戦はこれまでにない事態だ。

 米国との緊張が高まる中、トルコ経済は悪化。通貨リラは年初から30%も下落した。6月の消費者物価上昇率は前年比15%増と、過去10年で最悪になっている。

 エルドアン大統領は7月に2期目に就任。改正憲法の下で、強権色を益々強めている。経済では中銀の独立性に異議を追う仕立て、政策介入の姿勢を見せている。中東情勢を巡っては、ロシアや中国と接近するそぶりも見せている。この先どんなサプライズがあってもおかしくない。

▼サウジ・カナダの軋轢

 サウジアラビアとカナダの対立は突然表面化した感がある。

 きっかけはサウジによる女性の権利拡大を求める活動家(サマル・バダウィ氏)拘束に対するカナダ外相の解放要求。これに怒ったサウジが、謝罪供給やカナダ大使の国外追放、サウジ航空機のカナダ乗り入れ中止などの策を相次ぎ打ち出し、対立はエスカレートした。

 サウジはムハンマド皇太子の下で「脱石油依存」を目指して経済改革を進めている(その成果はなかなか上がらないのが現実)。

 政治・外交綿では強硬姿勢を進めている。イエメンの内戦に介入。昨年6月にはイランとの関係を維持するカタールと断交した。政策の基本にあるのは、イランへの対抗。ただし、政策は極端で唐突なことも多い。

▼複雑な対立構図

 中東にはもともと、複雑な対立構図が絡み合う。情勢は不安定だ。イラク戦争後のイラク情勢は混とんとしたまま。シリアは内戦が続く。「イスラム国」は領土を失ったとはいえ、依然テロ組織として活動を続ける。イスラム教スンニ派とシーア派の対立を背景にサウジアラビアとイランの対立は深刻化。イスラエルとイランの関係も緊張が高まる。トルコのエルドアン政権は強権職を強める。サウジでは経済改革+強権化が並立して進む。行方は不透明だ。

▼米トランプ政権登場で混乱に拍車

 こうした混乱に拍車をかけるのが、米トランプ政権の政策だ。同政権はイラン核合意からの離脱やイスラエル大使館のエルサレム移転を強行。新たな対立の材料を生み出している感じだ。

 米中東政策の傾向を示せば、親イスラエル、反イラン、一貫性の欠如、コミットメントの軽減などが挙げられよう。一貫性を書くから、具体的な動きは当然予測しがたい。

▼キーワード

 中東の動きにかかわるいくつかのキーワードを挙げれば、強権化(トルコ、サウジ、エジプトなど)、イランとサウジの対立、イランとイスラエルの対立、経済悪化の懸念、シリア内戦、イエメン内戦、代理戦争(イエメン、レバノンなど。イランとサウジなどの代理戦争の色彩)などがある。

 世界の安全保障にとって最も不安定な地域が中東いう指摘は多い。アラブの春(2011年)や「イスラム国」の勢力縮小(2016年)など”好ましい”動きもあった。しかしそれが変化の本流となることはなく、この地域では「何が起きてもおかしくない」状況が続く。世界が中東発のサプライズに揺れすケースは、今後も繰り返されるだろう。

◎ 春到来「いいね」と押した日懐かしい
◎ 混乱にトランプ・ドミノも加わった

2018.8.12

2018年5月21日 (月)

◆新世界無秩序 2018.5.20

 中東情勢や通商問題など、既存の秩序を覆す変化が連鎖反応的に進んでいる。震源地は米トランプ政権。イラン核合意からの離脱、イスラエルへの大使館移転、中国に対する多額の関税決定などを引き金に、様々な枠組が変わっている。現状をどう見たらいいのか。

▼核合意離脱:国際協調から対イラン姿勢に

 中東情勢が揺れている。問題の一つは米国のイラン核合意からの離脱だ。トランプ大統領は5月8日に離脱を表明。同時にイランに対する制裁を再開する大統領令に署名した。

核合意はイランとP5+ドイツの間で2015年に成立した。イランが核濃能力の削減などを通じ、核兵器開発の可能性を少なくする一方、米欧などはイランに対する経済制裁を撤廃する内容。中東における安保上の懸念の一つを緩和するものだった。

 トランプ政権は合意内容が不十分で、イランが約束を十分に順守していないなどと批判。合意から離脱し、制裁再開を決めた。イランや英独仏など欧州、ロシア、中国などは離脱を批判。イランとEUは米国に気でも合意の枠組みを維持するよう協議を始めた。

 一方、イスラエルやサウジアラビアは米国の判断を支持・歓迎する。両国はイランと敵対する。オバマ政権時代に米国の中東戦略は、国際協調とイスラエルに対し距離を置く姿勢を基軸にしていた。これがトランプ政権で逆転した。

▼危険なドミノ

 インパクトは強烈だ。イランとEUは枠組み維持を模索するが、容易ではない。逆にトランプ政権は、21日に対イラン新戦略を発表すると表明した。これにイランが理解を示すとは思い難い。

 米国の対イラン制裁再開は、イランとの直接取引に留まらない。同国との取引を行う欧州などの企業にも及ぶ。このため、仏トタルやエアバスは、イランでのプロジェクト中止や輸出停止に追い込まれる可能性がある。核合意で再開したイランとのビジネスが停止状況になりかねない。

 ビジネス中止が避けられなくなれば、イランが再び強硬姿勢に転じる懸念がある。そうなれば、核開発の再開→中東での核開発のドミノや、新たな紛争・戦争の勃発につながるリスクが生じる。極めて危険なドミノが始まりかねない。

▼エルサレム大使館のインパクト

 5月14日はイスラエルの建国記念日だ。しかしパレスチナ人にとってその日は、大惨事(ナクバ)の日になる。1948年のイスラエル建国の際に、70万人のパレスチナ人が故郷を追われた。パレスチナ紛争はその後も解決の方向が見えないまま、中東紛争の火種であり続ける。

 イスラエル建国70年に当たる今年の5月14日、米国は大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。トランプ政権は昨年末、エルサレムをイスラエルの首都として認める決定をした。

 過去数十年にわたり、パレスチナ和平の基本となる考え方がイスラエル、パレスチナの2カ国共存。そしてエルサレムを双方の首都とする案だった。1990年代に一時、和平ブームを高めたオスロ合意も、こうした考えに沿うものだ。イスラエルがエルサレムを首都として既成事実化する事態を避けるべきだというのは、国際社会のコンセンサスだった。

 トランプ政権はいとも簡単にそうした既存概念をひっくり返した。国際社会からは当然、大きな批判が湧き出た。国連総会が反対決議をしたのも一例だ。

▼パレスチナの動乱

 パレスチナのガザでは14日、大使館移転に反対する抗議デモが拡大。イスラエル治安当局と衝突し、50人以上の死者が出た。騒乱は各地に広がる。

 イスラエルvsアラブの対立構図が単純明快だった20世紀後半と異なり、今回の抗議活動はアラブ全土に広がったわけではない。サウジアラビアなどはイスラエルとの対立よりむしろイランとの対抗を重視し、今回の大使館移転に対する動きも、政府の言動としてはそれほど目立たない。

 それでも、今回の決定がパレスチナ和平の進展を益々難しくし、アラブ・中東地域での反米感情をまた一つ強めたのは否定できない。米国は中東における仲介者の立場というより、親イスラエル、サウジ寄りの色彩を一層濃くした。

▼米中貿易戦争

 トランプ政権は3月に入り正面でも強硬策を強めた。中国に対しては知的財産権侵害があるとして、500億ドルの制裁関税を表明。各国からの鉄鋼・アルミ製品への関税導入も決定した。一方的な措置であるともに、保護主義的な色彩の強い政策だ。

 米中はその後通商協議を開催。米国はここで両国間の貿易赤字の大幅削減などを求めた。交渉は今のところ進展が少なく、合意のめどは見えてこない。

 決裂となれば、相互に制裁関税を導入する事態にもなりかねない。貿易戦争の勃発だ。米中はじめ世界の経済は相互依存が進み、貿易や投資の自由が後退すれば経済にも悪影響が及ぶ。1920年代の保護主義→世界恐慌の再現を懸念する声もある。

▼トランプ政権の原点回帰

 トランプ政権は2017年1月の発足直後、TPPからの離脱、NAFTAの再交渉、中東からの移民規制、メキシコとの国境への壁建設などの政策を相次ぎ打ち出した。政策は選挙戦で打ち出したもので、「米国第1」を前面に打ち出しているところが特徴。既存の常識を覆すものだ。

 その後、動きはやや収まっていたが、この3月以降再び加速した。イラン核合意離脱、エルサラムへの大使館移転、対中など関税はいずれも選挙公約で掲げたものだが、インパクトは大きい。この時期には同時に、ティラーソン国務長官の解任・ポンペオ新国務長官の任命など人事も実施した。

 11月の中間選挙をにらみ、支持基盤を固めるために原点回帰したとの見方が強い。それが世界に多大な影響を与えている。

▼世界の枠組み変化

 第2次大戦後の歴史を振り返ると、実は10年単位で大きな地殻変動が起きている。1950年代のスエズ動乱やハンガリー動乱、米マッカーシズム。1960年代のキューバ危機や仏アルジェリア危機、ベトナム戦争、文化大革命、1968年の反体制運動。1970年代のニクソンショックや石油危機、ベトナム終戦。欧州の動脈硬化。1980年代のレーガン・サッチャー革命、チェルノブイリ原発事故、ベルリンの壁崩壊と冷戦終結、天安門事件。1990年代のソ連崩壊、インターネット革命、グローバル化の進展、アジア通貨危機。2000年代の9.11、イラク戦争、世界金融危機、中国の台頭。200年代のアラブの春、イスラム国、欧州難民危機といった具合だ。

 世界の枠組みは安定には程遠いし、枠組み変化は常に起きている。昨日までの常識が覆されることも常だ。

 ただ現在の変革は、覇権国米国の基本姿勢の変化に伴う点に留意する必要がある。米中間で覇権国と挑戦国のせめぎ合いが厳しくなっているのも現実だ。さらに、IT革命で世界の経済や社会の仕組みが根本的に変わり、世界的なテロなど過去の時代にはなかった要素も背後に存在する。

▼見取り図なき破壊

 トランプ政権は現状に不満を持つ米国の所得者などの支持を背景に成立した。背景には世界的な格差拡大、グローバル化への警戒、ポピュリズムの高まりなどがある。そしてトランプ政権の位置づけは、第2次戦後の世界秩序の再構築にあるとの指摘がある。

 再構築と言っても、次の方向が見えているわけでは全くない。覇権国の大統領という世界の最高権力者が、落としどころが見えないまま既存秩序を破壊している。それが、米国内政治である中間選挙対策上にあるところが厄介だ。

 英FT紙は月日付けの紙面で、”The World New Disorder”’(新世界無秩序)と書いた。世界の現状をよく表す表現だ。

◎ 覇権者が秩序破壊のドミノ押す
◎ しきたりも朝令暮改 新世界
◎ 「米国の平和」が過去になっていく

2018.5.20

2017年12月11日 (月)

◆エルサレム首都承認とトランプ大統領の1年 2017.12.10

 トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都として承認した。国際社会のコンセンサスに挑戦するかのような決定で、中東情勢を不安定にするとの懸念も強い。ただ、この決定は突然出てきたものではなく、トランプ政権の過去1年弱の政策の延長線上ともいえる。トランプ政権のこれまでを整理してみる。

▼常識を覆す決定

 トランプ大統領が実施した主な政策を並べると以下の通り。移民規制、パリ条約からの脱退などそれまでの常識を覆すような決定が多い。ロシアゲート疑惑や政権の内紛も繰り返す。一方で、トランプ相場の継続など新聞の大見出しにはならない出来事もある。

・2016.1.20 トランプ大統領就任
・1.23 TPP離脱、NAFTA再交渉を表明
・1.25 NYダウが2万ドル突破。トランプ相場
・1.27 イスラム7カ国からの入国禁止令。入国規制問題がこの後争点に。
・3.24 共和党オバマケアの代替案撤回。共和党内の分裂。
・4月  北朝鮮情勢緊迫。朝鮮半島近海に空母派遣。
・5.9  コミーFBI長官を解任。ロシアゲート疑惑深まる。
・5下旬 欧州訪問。NATO首脳会議など。欧州との亀裂が明白に。
・6.1 パリ協定離脱表明 
・7.28 フリーバス首席補佐官解任(後任ケリー氏)。ホワイトハウスの内紛深刻。
・8.12 シャーロッツビル事件。トランプ氏の人種発言に批判。
・8.18 バノン氏解任。
・9月  政権と与党が30年ぶりの現在案を提案。法人税35→20%。議会で法案作成へ。
・10.12 米ユネスコ脱退表明
・11.20 北朝鮮をテロ指定国家再絞め
・12.6 エルサレムをイスラエルの首都として認める。

▼通商2国間、外交は一貫性を欠く

 主だった政策を政策分野ごとに分けてみる。通商政策は選挙戦の公約に挙げられた中国への高率関税などは実現していないが、2国間主義を前面に出す。外交は一貫性を欠き、読みにくい。

(1)移民規制
・就任早々にイスラム圏からの入国制限などを打ち出すが、裁判所の差止めなどで実現は一部のみ。
・Visa波及などは厳格化している。
・メキシコ国境への壁設置は進んでいない。

(2)通商
・TPPからの脱退、NAFTA再交渉を公約通り実現。
・中国やメキシコに対する高率関税の導入は進んでいない。
・多国間→2国間交渉への傾斜を進める。保護主義への懸念は強い。

(3)経済政策
・当選以来のトランプ相場で株高。背景に減税や公共投資への期待がある。
・減税改革案を議会が審議中。法人税35%→20%など。上下院で別々の法案成立、今後調整に。
・大規模なインフラ投資計画は財源問題から進展せず。
・オバマケア改革は共和党内で代替案がまとまらず、棚上げ状態。
・パリ協定から離脱。概して環境よりエネルギー産業重視の政策。

(4)社会政策
・大統領は8月のシャーロッツビル事件で人種主義者に甘い発言。批判を浴びる。

(5)外交
・対中:当面良好。北朝鮮問題で圧力を期待。ただし中国が米要求に応えているとは言い難い。
・対ロ:当初改善模索の動きがあったが、ロシアゲート疑惑もあり進まない。
・対アジア:明確な戦略見えない。
・北朝鮮問題:概して強硬姿勢。具体的な行動は揺れる。
・対欧州:移民規制、通商、環境問題などで亀裂。エルサレム承認では欧州首脳が明確に批判。
・中東:サウジのバックアップ、イラン批判など従来路線を変更。

▼混乱・先行き不透明

 1年近くを経過してなお不明な点が多いが、明確になってきた点を挙げれば、(1)米国第1が基本。世界全体の利益より米国の利益を優先させる場合が多い、(2)オバマ政権の政策否定が基本。それのみならず、既存エスタブリッシュメントが築いたシステムや政策体系を否定しがち、(3)政策が明確でなく、行き当たりばったり、などがあるだろう。

 国内的には、政権基盤は安定せず、連邦政府の人事もまだ空席が多く残る。すでにこれまでに何度も政権内部の権力闘争が表面化し、高官が政権を去った。最近ではティラーソン国務長官の辞任報道が重ねて流れる。

 ロシアゲート事件は、フリン元補佐官の起訴や罪状を認めたことで、12月に入り新たな段階に入った。混乱は収まらない。政権発足以降、一貫して明らかなのは「先行き不透明」という事だ。

▼米国の影響力後退と世界の不安定化

 米国はオバマ政権の時代に、すでに「世界の警察官でない」と明言していた。トランプ政権下でその傾向はさらに強まっている。

 大統領は「米国第一」の公約の下、米国の利益を世界秩序維持に優先させる姿勢を明確にする。米国はこれまで多くの局面で世界のアンカー役を果たしてきた。いまやそれは望むべくもない。

 それどころか、米国自身が世界秩序の破壊者になっている。パリ協定離脱やTPP離脱、事前予告もない移民規制の強化などは、世界を揺るがし混乱をもたらした。

 中東政策の変更は、サウジアラビアの過激な行動を促す結果に繋がった。その影響は、サウジとイランとの緊張拡大やイエメン情勢の悪化、サウジとカタールの対立表面化などに及んだ。これが地域の不安定を増幅させている。

 アジアでは、フィリピンなどが対米不信感を拡大。その間隙をぬうかのように、中国が影響力を広げている。ASEAN諸国は南シナ海の領土問題などを巡り、対中批判を明らかに後退させている。

▼エルサレムの首都承認

 今回、エルサレムをイスラエルの首都として認めた方針転換も、延長線上にある。イスラエル・パレスチナ問題は過去何世紀もの歴史を背景にしたこじれにこじれた案件。エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、その帰属問題は問題の核心の一つだ。

 ちなみにエルサレムにはユダヤ教の聖地の嘆きの壁、キリストが十字架を背負って歩いた悲しみの道(ヴィア・ドロローサ)、イスラム教の聖地岩のドームなどがある。

 国際社会がたどり着いたコンセンサスが、エルサレム問題を当面棚上げし、その帰属は和平交渉の中で解決するという知恵だった。だからこそ世界の各国はエルサレムをイスラエルの首都として認めず、大使館をエルサレムでなくテルアビブに置いてきた。

▼中東・欧州の反発

 トランプ大統領の決定は、こうした過去の経緯をあっさり覆すものだ。ここまでイスラエル寄りの姿勢を明らかにすると、仲介者としても機能しにくくなる。トランプ大統領は中東和平の新アプローチと強調するが、事態はかえって悪い方に動くとの見方が多い

 パレスチナやアラブ諸国は当然反発。激しい抵抗運動を広げている。欧州諸国も英国のメイ首相、ローマ法王などがはっきりと批判した。

 大統領は、落としどころを見据えたうえで新政策を打ち出したのか?そう受け取っている人は極めて少ない。むしろ、ロシア疑惑などで国内基盤が揺らぐ中、中核の支持層を固めるために決断したとの見方が多い。落としどころのない破壊、と言えるかもしれない。

▼新しい現実

 トランプ大統領が当選した2016年11年以降、米国の内向き化、保護主義、世界的な反グローバリズムなどのが繰り返し指摘された。世界は先行き不確実になり、不安定になる、との心配も強まった。それから1年を経過し、そうした懸念の少なくとも一部、現実のものとなっている。

 エルサレム承認問題は、そうした課題や懸念を改めて突き付けた感じだ。それを演じているのはトランプ大統領だ。しかし、同氏を選んだのは米国民である事実もまた重い。

◎ 聖地とも 流血の地とも エルサレム
◎ 「タブーなし」と 責任とらずに 言われても
◎ 法王も 友国も気にせず トランプ流

2017.12.10

2017年6月25日 (日)

◆サウジ皇太子交代と同国情勢 2017.6.24

 サウジアラビアのサルマン国王がムハンマド・ビン・ナエフ皇太子を解任。実子のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を皇太子に指名した。突然の交代劇に波紋が広がる。

▼新皇太子に期待と不安

 新皇太子は31歳。副皇太子兼国防相としてすでに強大な権力を握っており、経済改革、対イラン強硬外交などで辣腕を振るっている。

 特に経済改革では、石油に依存しないでも持続できる経済を志向。行政改革や税制改革、膨大な資金を利用した産業の育成などを、スピード感もって推進してきた。その改革姿勢には、海外からも期待の声が大きい。

 一方で性急な改革や、強引な外交に「危うさ」を感じる向きも少なくない。原油価格の下落で、同国の財政は急速に悪化。当面は増税か、国民へのサービス低下かを迫られる状況にある。産業育成が、そう簡単に進むかは疑わしい。急激な改革が、人々の不満を生み社会の安定を損なうとの懸念もある。

▼絶対君主と

 1932年建国のサウジはワッハーブ主義に基づくイスラム教を根幹に据える。イスラム教の聖地メッカを抱え、イスラムの本家を自任する。

 政治形態はサウド家の絶対君主国家だ。欧米の基準から見れば民主化は全く進んでいないと言っていいほど。しかし、欧米が表立って批判をすることは少ない。

 同国は長らく世界一の石油産出・埋蔵国で、その安定は中東・世界の安定に直結するためだ。

 女性の自動車運転が禁止されるなど、欧米の常識から見れば時代錯誤の点も多い。多くのミステリーを抱えた国と言ってもいい。

▼一気の若返り

 建国以来85年の間に、国王の座は2世代の人々の間で受け継がれてきた。初代国王のブドゥルアズィーズ・イブン=サウードが1953年に死亡し、その後は国王の息子6人が王位を継承している。53年間で6人の強大が国王に就任、若返りは進んでいない。現在のサルマン国王は81歳だ。

 新皇太子が国王になれば、一気に50歳の若返りになる。これまでにない人事に、王族内での勢力争い、国の将来展望への強い危機感など、様々な憶測が出ている。

▼イランと対決

 新皇太子は外交で、イランとの対決姿勢を特に鮮明にする。サウジはイエメンで、イランが後押しするシーア派勢力への空爆を実施。カタールに対しては、テロ支援などを理由に突然断交に踏み切った。その背後にいるのが新皇太子だ。
 
 サウジとイランという大国の対立は、地域安保全体の大きな危険要因となる。

 今回強引に皇太子交代を強行したことで、国内ではサウジ王族内の対立に火をつけるとの指摘もある。

▼思惑

 サウジの動揺は、欧米の安保関係者が表の議論にしたがらないテーマの一つ。同国はアラブの春の後の中東混乱の時期も安定は揺るがなかったが、いつまでも平穏という訳にはいかないだろう。

 そしてひとたびことが起きれば。問題は中東全体に飛び火し、世界を揺るがす。突然の皇太子交代は、様々な思惑に火をつける。

◎ 中東は「何でもあり」を思い出す
◎ コーランの下の改革大丈夫か

2017.6.24

2017年6月12日 (月)

◆サウジのカタール断交:不確実要因またひとつ 2017.6.11

 サウジアラビアなど6カ国がカタールと断交した。カタールが対テロ組織支援をしていたなどを理由に挙げるが、説明に不透明な所も多く真相はなお不明だ。サウジとイランの対立激化などで混迷が深まる中東情勢に、また一つ不確実要因が加わった格好だ。

▼輸入物資の搬入もブロック

 断交は突然の発表だった。外交関係が悪化した時、通常ならまず大使召還などの措置を取るが、そうしたこともなく断交に踏み切った。

 断交後、サウジなどはカタールへの航空便の運航を禁止。サウジはカタールと橋でつながっている陸路を遮断し、輸入品が入らないようにした。中東の航空網は混乱に陥っている。

 断交の理由としてテロ組織支援のほか、カタールがイランに対して協力的な姿勢に出ていることなども指摘される。ただ、カタールはイスラム教スンニ派が多数で、サウジなどと同じ。シーア派のイランが支援するイエメンの反政府組織への攻撃には、少なくとも最近までサウジなどと共に加わっていた。宗教的には、サウジとカタールの対立は不自然だ。

 サウジなどは2014年にもカタールと一時断交をしている。またサウジは2016年、テヘランでサウジ大使館が襲撃された際にイランと断交した。その意味では、断行は外交オプションの一つなのかもしれない。

▼天然ガスの富・アルジャジーラ

 カタールは人口約220万人。天然ガス資源に恵まれ、1人当GDPは6万ドルと中東トップクラスだ(サウジの3倍)。人口の約6割は外国人だ。

 カタールは首長が治めるが、国のトップはしばしば無血クーデターで交代してきた(1972、95年には一族内で無血クーデター)。2013年には父親から4男への譲位が行われた。

 1996年にはアルジャジーラを設立。中東としては自由な報道で視聴者を拡大し、影響力を強めてきた。2022年にはサッカーのW杯の開催が決まっている。

 米国はカタールに軍治基地を開設。中東の軍事的拠点としての意味合いが大きくなっている。トランプ大統領は今回の断交でサウジなどを支持する旨を語ったが、ティラーソン国務長官は対話を促した。米国とカタールの関係も、単純ではない。

▼中東の不透明さ

 中東情勢は激しく揺れ動いており、背景に不透明な要素も多い。国際社会の常識では不可解な出来事も多い。またサウジをはじめ多くの国で専制君主制を敷いており、態勢の正統性には常に疑問符が付きまとう。

 この地域が世界の不安定要素である状況は、変わらない。断交は方程式をまた一つ複雑にした。

2017.6.11

2017年4月10日 (月)

◆米国のシリア攻撃が投げかけるもの 2017.4.9

 米国がシリアに対してミサイル攻撃を実施した。シリア政府の化学兵器使用疑惑に、何はともあれ行動することを選択。トランプ大統領は内外に「必要なら行動を取る」というメッセージを発した。ただ、シリア情勢の混迷は一段と拡大する可能性がある。

▼2日間の決断

 攻撃の前段になったのはシリア政府軍による4日の反体制派攻撃。北部の反体制派拠点を空爆した際に、科学兵器を使ったとの疑いが広がった。現地からは、呼吸困難に苦しみながら死を迎える子供らの様子が流れ、世界にショックを与えた。
 
 トランプ大統領がシリア攻撃に踏み切ったのはそのわずか2日後。地中海の駆逐艦から、シリア中部の軍事基地にミサイル59発を発射した。一部は軍事施設を破壊。米国によれば化学兵器の一部を使えなくしたという。

 トランプ大統領はシリアが化学兵器を使用したと断言して攻撃を命令した。ただし、強い疑惑があるとはいえ、シリア政府が化学政府を使った証拠が明らかになったわけではない。国連安保理の決議もなく、米国単独の攻撃だ。

 しかも、米政府高官によれば攻撃を継続する計画を今のところなく、単発にどろまる見通し。大統領の決断には、必要なら行動を取る」とのメッセージを送る示威行為的な側面もあるように見える。

 攻撃の先にシリア和平などのシナリオを描いた、計算ずくの行動とは到底思えない。

▼多くの疑問

 そもそも一連の動きには不明な点が多く残る。シリア政府が化学兵器使用に踏み切ったとすればなぜか。シリア内戦は昨年末に政権側が反体制派の拠点だったアレッポを奪回し、情勢は政権側に傾いている。そんな時に化学兵器を使って、国際社会を敵に回すのは通常考えたら利点がない。

 アサド大統領が米国など国際社会の出方を読み間違えたのか。それとも政権内に対立があるのか。政権側有利に傾いているという分析そのものが、言い過ぎなのか。不明な点は多い。

 米国が軍事的にシリア情勢をどう分析しているのか。「イスラム国」打倒優先の姿勢は、どこまで強いのか。化学兵器の問題がなければロシア主導の和平をかなりのところまで受け入れるつもりだったのか。疑問のオンパレードだ。

▼混迷

 シリア情勢を巡っては、米ロ接近の動きもあった。しかし今回の攻撃で少なくとも一時的な関係悪化が避けられないとの見方が多い。差し当たり利するのは「イスラム国」、などということにならないのか。

 イスラエル、イラン、サウジアラビア、トルコなど周辺国はどう動き、シリア情勢にどう絡んでくるのか。

 確実なのは、シリア情勢の混迷が当面再び増大しそうなこと。そして真相はなかなか明らかになってこないこと、などだろう。

 国連難民高等弁務官事務所によれば、シリアからの難民は2011年の内戦開始から2017年3月30日までに500万人を超えた。国難避難民は630万人と予想される。同国の人口は2000数百万人。内戦による死者は32万人を上回るとされる。

 内戦6年目の現実は重い。そして、子供の被害者の映像や、ミサイル攻撃でもなければ、シリアの悲劇が世界のニュースのヘッドラインにならなくなっているのも、厳しい現実だ。

◎ この地にも国があったか6年前
◎ 半数の民が流民を正視すべし
◎ シナリオがなくても攻撃、いつか見た?

2017.4.9

2016年12月18日 (日)

◆アレッポ陥落が映す新しい現実 2016.12.18

 シリアの反体制派の拠点だったアレッポを、政府軍が制圧した。ロシアやイランの支援を受けた政府軍が、何カ月にも及ぶ包囲の結果拠点を奪い取った格好だ。

▽5年の内戦

 2011年に始まったシリア内戦は、すでに40万人以上が死亡し、人口2200万人のうち1000万以上が家を失った。アサド政権側にはロシアやイラン、反体制派はサウジなど中東諸国や米欧が支援し、代理戦争と化した。そこに過激派の「イスラム国」(IS)が入り込み、秩序は崩壊した。街は破壊され、自爆テロが日常化している。

 アレッポはそうした凄惨な状況を映す象徴。その映像でも世界に伝わり、内戦の様子を世界に伝えた。

▽米欧の影響力崩壊 

 人道的な立場で見れば改めて怒りをふつふつとさせるのみだが、冷徹な国際情勢からも今回の事態を見つめる必要がある。

 アレッポ陥落は、5年続いたシリア内戦でも節目の出来事と位置付けるべきだろう。政府軍の優位が決定的になり、今後はアサド政権側有利で情勢が推移する可能性が大きい。また、今後の和平や調整は、ロシア主導になるとの見方が強い。

 米欧の後退は明白。英Financial Time紙は社説で「アレッポ陥落は米欧の影響力の崩壊を意味する」と指摘したが、的を射た表現だろう。

▽厳しい現実

 そもそもシリア内戦を振り返ると、アサド政権の圧政に反対するのは大義がある。しかし、反体制派は寄り合い所帯で、政権に変わる統治の受け皿になる図式は描けなかった。しかも、反体制派には過激派が紛れ込んでいた。米欧の戦略は、当初から落としどころがないものだったと言われても仕方がない。

 5年の内戦の結果は、少なくとも当面はアサド独裁政権の継続と、中東における米欧の後退。そして国の荒廃。数百万人の難民、ISなど過激派の跋扈などを生んだ。

 トルコやヨルダンなど周辺諸国には、百万人単位で難民が流出する。欧州難民危機が発生し、初めて欧州や先進国が事態の深刻さに、正面から本気で向き合うようになった。

 不条理に溢れ、やりきれない気持ちになる話だ。しかし、これが「新しい現実」だ。

 世界が一方的に悪くなっているなどという気はさらさらない。しかし、世界の一部の地域では情勢は人間としての最低限の生活ができないほど悪化している。アレッポはそんな状況を映している言わざるを得ない。

◎ 人道の言葉が空しいシリアの地
◎ 殺戮の地、米欧の秩序崩れ行く
◎ まず直視 新しく厳しい 新世界

2016.12.18

2016年7月19日 (火)

◆トルコ・クーデター未遂の影響 2016.7.17

 トルコでクーデター未遂が発生した。軍の一部による動きは、1日あまりで鎮圧。その後政権は、兵士のみならず反体制派6000人余りを拘束した。エルドアン大統領はここ数年、強権的な姿勢を強化しているが、事件を機に一層強まる可能性がある。

▽1日で鎮圧

 クーデター未遂の真相はいまだ不明だが、軍の一部が政権に対し不満を持ち行動を起こしたのは間違いない。クーデター派はHPで、大統領の強権政治を批判した。

 クーデター派はイスタンブールとアンカラの主要地点を占拠し、国営放送を把握した。これに対しエルドアン大統領は、休暇先からスマホの動画を通じて国民にクーデターに対抗するように呼びかけ、大統領支持派がそれに従った。結果、クーデターの試みは短時間で失敗した。

▽反体制派を拘束

 事件後、大統領は兵士3000人余りに加え、反体制派の裁判官などを含め合計6000人を拘束。さらに事件の背景に、もともと大統領支持だったがその後決裂したイスラム運動の「ギュレン運動」があると主張し、米国に滞在する指導者ギュレン師の引き渡しを要求した。

 反体制メディアの閉鎖などにも動いている。事件を機に、大統領は基盤をさらに強化しようとしているように見える。

▽強権職
 
 エルドアン大統領は2003年に首相に就任。もともと強い指導力で経済成長を率いてきたが、ここ数年は強権的な姿勢を強めている。

 2013年にはイスタンブールの都市開発計画に端を発する反政府運動を武力で鎮圧(その結果、2020年の五輪誘致は失敗)。エルドアン支持から対立するようになったギュレン運動を批判し、反体制の政治家やメディアに弾圧を加えている。2014年に大統領に就任した。

 クルド労働者党に対しては対話路線から対決に転じ、2015年には戦闘が再開。大統領権限を強める憲法改正を目指し、元朋友のギュル元大統領らとも袂を分かった。今年5月には改憲に新潮だったダウトオール前首相を事実上解任した。

▽テロや難民の課題

 もちろん、エルドアン氏が強権的な姿勢を強めているのには事情もある。

 トルコ周辺ではシリア内戦が都築「イスラム国」(IS)が勢力を拡大。ISやクルド人過激派によるテロが頻発している。シリアからは大量の難民が流入し、その数は250万人を超える。

 こうした危機に対応するためには、強い指導力が欠かせない。

▽地域安定の要

 欧州や米国も、エルドアン氏の強権姿勢は批判しつつも、同氏の力に頼らざるを得ないのが現実だ。

 トルコは人口約7500万人の地域大国。NATO加盟国で兵力は50万人を超え、米欧を中心とした安全保障体制には欠かせない。エルドアン体制になってからイスラムの色彩が強まったとはいえ、周辺国に比べれば世俗主義・民主主義の伝統もある。対ISの空爆でも協力は欠かせない。

 欧州にとっては、難民問題でトルコとの協力関係は死活問題だ。欧州には昨年、シリアなどから120万人の難民が流れ込んだ。多くがトルコ経由だった。

 今年に入り、トルコに対する支援拡大と引き換えに難民管理の強化を求めることで合意。結果、流入数は減少している。エルドアン政権は、安全保障上からも難民問題の観点からも欠かせない状況だ。

▽究極のジレンマ

 エルドアン政権支持は、強権政治を黙認することにもなりかねない。しかし、中東の混乱や難民問題に対応するため、他の選択肢もなかなか見つからない。究極のジレンマともいうべき状況だ。それが世界の現実といえばそれまでだが、欧米が主導してきた民主主義の足元を揺るがす危機であるともいえる。

2016.7.17

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