カテゴリー「中国」の38件の記事

2019年10月 6日 (日)

◆中国建国70周年が映す現状 2019.10.6

 

 中国が10月1日に建国70周年を迎え、北京の天安門広場で盛大な式典が行われた。

 式典では雛段上に習近平国家主席以下幹部が並び、軍事パレードでは最新兵器を誇示した。習主席は中国が強国を目指す姿勢を改めて強調した。

▼大国の誇示

 会場の天安門広場は、1949年に建国が宣言され、1989年には天安門事件で民主派の弾圧が行われた場所だ。

 中国は1949年の建国の後、1970年代まで文化大革命やその後の政治闘争など混乱が続いた。しかし、鄧小平の指導の下に1978年の開放改革路線が始まってから、急速な経済成長を実現。その後約40年間の高成長を続け、今や世界の経済大国に成長した。

 影響力の拡大は経済にとどまらない。安全保障面では南シナ海などで軍事的な存在感を強めている。アフリカでは存在感と影響を拡大。一帯一路構想では中央アジアや中東などとの関係を強化する。

 式典ではこうした大国の誇示が随所に表れた。

▼中国型モデル

 10年ほど前までは、中国が経済成長すれば政治的な民主化も進むとの希望的観測が強かった。1党独裁の政治体制下で、経済成長がいつまで続くわけがないとの見方もあった。しかし、そうした見方は外れ続けた。

 1989年の天安門事件で、中国は政治的な民主化を徹底的に弾圧した。それにも関わらず、経済成長はむしろ加速した。「社会主義的資本主義」「国家資本主義」など、矛盾したような概念がまかり通る状況になった。

 アジアやアフリカの途上国などでは、中国的な開発独裁的経済発展モデルへの支持や受け入れが広がった。背後には、リーマン・ショックとその後の政治・経済の混乱により、欧米が誇示してきた「民主主義・自由経済」のモデルの魅力が減退したこともある。「北京コンセンサスvsワシントン・コンセンサス」の論争でも、必ずしも劣位ばかりでなくなった。

▼高度監視社会

 10年前と違うもう一つの面が、高度監視社会の実現だ。SNSやコンピューター・データの規制、監視カメラによるモニターなどを通じ、中国は世界でも先端を行く高度監視社会の一つになった。それが政治的な自由や民主化活動を妨げている面がある。

 SFに表現されるディストピア的な世界ともいえる図式。世界全体がその方向に向かう中で、中国は先頭を走る。

▼米中新冷戦

 もちろん、中国にとって都合の良い話ばかりではない。米国はトランプ政権の成立後、中国に対する警戒をむき出しにし、経済戦争を仕掛けた。ハイテク分野での規制も強化している。米中は新冷戦の時代に入ったとの指摘もある。

 貿易戦争の影響で中国経済は減速を強め、債務膨張などのリスクも拡大している。生産拠点の中国から東南アジアなどへの移転加速する。それでも中国経済が6%前後の成長を続けている点は、留意しておく必要がある。

▼香港問題の問い

 70周年式典に直接問いを投げかけたのが香港問題だ。同地では6月に始まった抵抗運動が続き、1日にもデモ隊と警官が衝突し、18歳の高校生が実弾で撃たれる事件が起きた。香港の混乱は長引き、収束の展望は見えない。

 1997年の香港返還の時には、その後50年間の1国2制度が約束された。しかし中国の支配強化が進み、1国2制度は有名無実化が進む。抵抗運動は、中国式の政治システムに対し香港の人々の懸念がいかに強いかを改めて示した。

 中国はその気になれば香港の抗議活動を力ずくで抑え込むことも容易だろう。しかしその場合、世界で中国への批判が強まり、中国型モデルの魅力が傷付く可能性が高い。

▼歴史の一幕

 ソ連は72年で崩壊した。それに比べ中国の体制が強固であることは間違いない。しかし、より長期的な将来がどうなるかは、分からないとしか言いようがない。

 2029年の建国80周年に、中国と世界がどんな姿になっているのか。そして建国70周年の映像はどのように見られることになるのか。世界にとって大きな命題だ。

◎ 祝賀の広場(ば)、建国、弾圧去来する。
◎ 自由なき発展に世界がまた唸る
◎ 香港の声押さえ込む記念の日

2019.10.6

 

2019年9月 1日 (日)

◆緊迫度増す香港情勢 2019.9.1

 

 香港情勢が緊迫度を増している。

 29-30日には警察当局が民主派指導者や議員を逮捕、31日に予定していたデモを不許可とした。これに対し市民が反発。31日には香港島中心部などで抗議活動を展開し、治安当局と衝突が発生した。9月1日にはデモ隊が空港バスターミナルを一時占拠するなど混乱が続いた。

▼デモ3か月

 逃亡犯条例をきっかけに6月に抗議活動が始まったのが6月。3か月(13週間)を経過するが、毎週末になると抗議活動が続く。事態は収束の兆しを見せるどころか、混乱を深めている。

 香港当局は民主派の求める条例の撤回などの要求を拒否し続ける。これに対し住民は8月18日のデモに170万人(香港人民は750万人)が参加するなど抗議活動を続けるが、落とし所が見えている訳ではない。一部のデモ参加者が過激派→警察との衝突も繰り返される。

▼1国2制度の実態

 香港政府は、中国の指示なしには何もできないように見える。林鄭月娥行政長官が先頭に立ってメッセージを発する機会も減った。これが返還から22年目の1国2制度の実態なのだろう。

 香港経済への影響は深刻だ。観光客は減少し、外資は他の地域に機能を移し始めている。香港がの地盤低下が決定的になるとの見方も強い。

▼あと1か月の勝負?

 手詰まり状況がどう動くのか。中国は香港との境界付近に治安部隊を送り、圧力をかける。中国は10月1日に建国70周年を迎え、それまでに事態収拾を狙うとの見方が強い。ただし、直接の派兵は国際世論上のマイナスの影響もあり、できれば避けたいとみられる。

 米国や欧州は中国の動きをけん制するが、口先の言動に留まる。台湾では中国に対する警戒が一層強まるが、アジア諸国の発言は少ない。

 今後1か月。流血事態を含め、何があってもおかしくない。

◎ 毎週末デモに100万 暑い夏
◎ 民主化は抑圧 都市は沈下する
◎ 正体がよく見えて来る1国2制度

2019.9.1

 

 

2019年7月 1日 (月)

◆米中休戦とプーチン発言―G20周辺発のニュース 2019.6.30

 G20首脳会議が大阪で開かれた。会議には世界の首脳が集合し、会議本体もさることながら、重要な2国間会談多数開催された。世界的なニュースがG20周辺発で流れた。

▼米中貿易協議再開

 世界の注目が集まったのが29日の米中首脳会談だ。貿易やハイテク分野を巡る米中の対立は、過去1年の世界のニュースのヘッドラインを提供し続け、世界経済に多大な影響を与えてきた。

 トランプ大統領は昨年3月、中国が知的財産権を侵害しているとして対中関税を引き上げると発表。その後3段階に分けて、今年5月までに合計2500億ドル分の中国からの輸入品に対する関税を25%に引き上げた。対象は米国の対中輸入総額のほぼ半分に相当する。

 加えて米国は中国のハイテク企業を狙い撃ち。昨年はZTEとの取引を禁止し、同社に対し多額の罰金や経営陣後退などの条件を呑ませた。昨年末からはファーウェイに狙いを定め、G5市場からの締め出しや事実上の取引の禁止などを打ち出してきた。

 米中は昨年12月のアルゼンチンでの首脳会議で、貿易協議に入ることで合意した。しかし協議は今年5月に事実上決裂。それを受けて米国は制裁関税の第4弾計画(2500億ドル=1-4弾合計で米国の中国からの輸入のほぼ全量)を発表するなど、米中摩擦の日は益々激しくなった。

▼見えない先行き

 大阪での首脳会談で米中は協議の再開を決定。米国は第4弾の関税引き上げを見送った。ファーウェイに対する取引も、一部容認する姿勢だ。

 ただ、米中対立を解くのは容易ではない。米国は技術的な優位を維持するために中国に対し知的財産権保護を保証するシステム導入を求める。一方中国は米国流ルールの押し付けに対抗する。その底流には、安全保障や経済での覇権争いがある。問題は構造的だ。

 世界経済はすでに、米中摩擦激化の深刻な影響を受け始めている。アジアからは輸出が減退。景況感も低下している。世銀やIMFなどは経済見通しを相次ぎ下方修正した。経済減速は金融市場の不確実性拡大にも繋がりかねない。

 米中首脳会談の結果はそうした懸念を一服させた。しかし先行きが見えてきたわけでは全くない。

▼波紋広げるプーチン会見

 G20首脳会議に先駆けて、ロシアのプーチン大統領が英FT紙と行ったインタビューが物議を醸している。プーチン氏は自由主義が時代遅れになっている(obsolete)と指摘。トランプ米大統領の一方的な政策を批判した。

 また2015年の欧州難民危機の際に独メルケル首相が判断した寛容な移民政策が間違いであり、後に問題を大きくしたなどと批判。リベラル派は影響を及ぼせなくなったと語った。

 インタビューは多くのメディアが引用。EUのトィスク大統領(首脳会議議長)は強く反発した。

 プーチン大統領の発言は意図的に刺激的な部分がある。しかし、ここ数年の難民危機やトランプ米大統領の誕生、英国のEU離脱決定(Brexit)など、寛容な精神に裏付けされた自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の存在価値と力が問われているのは間違いない。そんな環境だからこそ、プーチン大統領の発言が波紋を広げているのだろう。

▼驚きの米朝首脳会談

 トランプ米大統領は大阪で北朝鮮の金正恩委員長との会談の可能性に言及。2日後には板門店で会談を実現した。米大統領が軍事境界線を越えて北朝鮮領に入ったのは初めてだ。

 トランプ大統領の予期しがたい行動が、ここでも現れた。同時に、周到な準備よりスピードを重視する同氏の特性が現れた格好だ。

 G20会議本体は、公正貿易などの理念や海洋プラスチックごみの2050年までの廃止などを盛り込んだ大阪宣言を採択して閉幕した。ただ、貿易については昨年に続き保護主義に反対する文言はなく、環境でも地球温暖化問題への言及はなかった(議長国日本が米国に配慮したためと、英FTなどは批判的に報じた)。

 G20が始まった2008年は、リーマンショックの直後。最初のうちは世界恐慌防止と金融危機の拡散防止に、各国が必至で取り組む姿勢が伝わってきた。その後、会議は「集まること」が重要になり、周辺の2国間協議にむしろ注目が集まる。

◎ ボス集う 何かが動くこともある
◎ 先は不明 それでも安堵の米中休戦
◎ 自由批判 饒舌を許す 辛い時世
◎ 自由主義「古い」に「それなら」と質したい

2019.6.30

 

 

2019年6月17日 (月)

◆香港の抗議デモと世界への問いかけ 2019.6.16

 香港で「逃亡犯条例」改正を巡り市民らの抗議活動が拡大。行政長官は改正の延期を表明した。しかし今後事態がどう展開するか、予断を許さない。香港の事態は、民主主義体制の経つを米欧などが中国とどう付き合っていくかなど、世界への問いも投げかける。

▼100万人の抗議デモ

 条例改正は、香港で逮捕した容疑者などを中国本土に送れるようにする内容。英語ではExtradition lawと表記されることが多い。親中派が多数の立法会は、20日ごろまでに採決の構えを見せていた。

 民主派は条例が改正されれば、中国にとって都合の悪い人物が不当逮捕され大陸に送られると懸念。同派が呼び掛けた9日のデモには、主催者発表で103万が参加した。この規模は、2003年の固化安全条例反対(50万人)や、2014年の雨傘運動(10万人)をはるかに上回る。

▼揺らぐ1国2制度

 香港は1997年の返還後、50年間は1国2制度を認められるはずだった。しかし現実には中国の支配が次第に強まり、自由な言論や政治活動が抑制されている。今回条例改正が実現すれば、司法や警察でも中国による支配がさらに強まりかねない。

 そうなれば、香港の法律体系の上に回っている経済活動にも影響が出てくる。実際、外資系企業の撤退や拠点縮小がささやかれる。

 こうした心配があるから、抗議活動には民主派だけでなく、一般市民が加わり、経営者も理解を示した。

▼延期表明後→200万人デモ

 林鄭月娥行政長官は15日、対立緩和のために規制の延期を発表した。しかしあくまで撤回ではないと主張した。

 これに対し民主派は撤回を求め、16日も抗議集会を継続。参加者は主催者側発表で約200万人に達した。行政長官の辞任を求める声も上がった。

▼雨傘運動の記憶

 今回の抗議活動の舞台は、香港島の立法院前とその周辺の道路。2014年に雨傘運動の中心になった地と同じだ。雨傘運動は2017年の香港行政長官選挙に事実上親中派のみしか立候補できず、自由選挙でなくなることに抗議する学生らが始めた。同年9月26日から12月15日まで80日あまり続いたが、結局要求を聞き入れられることなく終結した。

 今回は雨傘運動に比べ、市民の参加者も多く、とりあえず条例改正の延期を勝ち得た。しかし、香港当局屋中国がこのまま撤回に応じると見るのは楽観すぎる。今後の行方は全く不透明だ。

▼天安門事件30年の年

 抗議活動は、天安門事件30周年に起きた。6月4日、香港や台北などでは追悼式典や様々な行事が行われたが、北京は全くの平穏だった。中国では、事件について何も語られなくなった。これが香港の未来図か、と不安を抱く人も多い。

▼世界への問い

 実際大きな流れとしては、中国による香港支配の強化が進んでいるのが現実だ。この先、再び強硬策が導入されても不思議ではない。

 条例改正は、1国2制度の行方(まやかし)、中国による自由社会支配のあり様、住民の生き方など様々な問題に問いを突き付ける。それは、世界が中国とどう付き合うかという問題にも関係する。奥は深い。

◎ 雨傘の記憶再生 もう5年
◎ 自由なき大国の膨張どう生きる
◎ 怖いけどただ飲み込まれてなるものか

2019.6.16

2019年6月11日 (火)

◆天安門時代30年の問いかけ 2019.6.9

 中国で1989年の天安門事件から30年が経過した。中国はその後、世界の予想を大幅に上回る高成長を実現し、国際社会における存在感と影響力を大きく高めた。一方、民主化や政治的自由はむしろ後退。欧米とは異形の大国になった。

 中国の台頭は、様々な面で世界を揺るがす。開発独裁的な中国型の成長モデルは、途上国にとって一つの見本になった。冷戦後の規範になると思われた米欧流の「民主主義+市場経済」モデルに、中国モデルが挑戦している図式だ。天安門事件後の中国の30年の歩みは、世界の価値観をも揺るがしている。

▼香港・台湾で追悼、北京は厳戒

 天安門事件から30年の6月4日、香港や台湾では民主派団体らが追悼集会を開いた。香港のビクトリアパークの集会には主催者発表で18万人(警察発表は3万7000人)が参加。犠牲者を追悼するとともに、政治犯の釈放などを求めた。台北の自由広場でも集会が開催された。

 米国のポンペオ国務長官は、中国を国際社会に組み入れればより開かれた社会になると期待したが「希望は打ち砕かれた」と表明。EUのモゲリーニ外交安保上級代表も中国で「表現、集会、報道の自由への抑圧が続いている」と批判した。

 一方、中国・北京の天安門広場では、普段より多数の警官を配備し、多くの監視カメラを配置するなど厳戒態勢が敷かれた。当日、広場には普段通り観光客らが集まり、あたかも「何もなかった」かのように1日が過ぎた。

 30周年を前に中国当局は、インターネットやパソコンの監視を強化し警戒を強化。そこには当局が平静をよそに、神経質になっている面もうかがわせた。

▼30年間で経済規模30倍

 天安門事件の後、米欧は中国に対し経済制裁を実施。中国経済の先行きを危ぶむ見方も強まった。

 しかし、実際には事件直後の成長率こそ実質4%程度に落ち込んだものの、その後実質10%前後の成長を実現。名目のGDP(米ドル換算)は、事件前の1988年の4110億ドルから2018年には13兆4570億ドルに30倍に増えた(IMFのWEO2018年10月推計)。購買力平価のGDPは、2014年から世界1だ。

 30年の間に中国経済は「世界の工場」から「世界の市場」へと発展。アリババやテンセントなどの世界的なIT企業も育ってきた。中国政府は「一帯一路」構想を打ち上げ、世界的なインフラ開発などのプロジェクトでも主導権を取ろうとしている。

▼政治的抑制、凄まじい監視社会

 一方で、政治的には抑圧が強まった。天安門事件に参加した学生や知識人は厳しい監視下に置かれたり、自ら中国を去ったりした。メディアに対する規制は強まり、政治的な批判を載せる場はなくなっていった。

 インターネットやSNS時代になると、ネットの監視や検閲、ネットを使った世論誘導を強めた。2017年に施行したインターネット安全法は、事実上当局に対しネットの内容を検閲したり規制することを認めるもの。ビッグデータや監視カメラを使い、国民一人一人の行動やネットでの活動履歴を追跡することも可能になり、中国は凄まじいまでの監視社会になりつつある。

▼政治・軍事的膨張

 国際的には経済でなく、政治、軍事的な膨張も目立つ。
 
 南シナ海では南沙諸島(スプラトリー諸島)に軍事基地を建設するなど、実行支配を拡大。ベトナムやフィリピンなど周辺国との緊張を繰り返しながら、勢力を拡大している。一帯一路戦略に沿って、スリランカやギリシャの港湾の利用・運用権を獲得し、米国などの警戒を呼び起こした。アフリカ諸国との経済・政治面での結びつき着々と強化している。

 サイバー分野での戦略も進む。人民解放軍はサイバー軍の強化に努め、軍が抱えるハッキング集団は強力だ。米国などへのサイバー攻撃がしばしばニュースになる。

 米トランプ政権が中国に対し、貿易と並んでハイテク戦争を仕掛けているのも、中国のこうした動向を警戒するためだ。

▼異形の大国

 冷戦終了後、欧米では民主主義と市場経済が世界の規範となるとの見方が広がった。フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」に代表された歴史観だ。中国も経済発展が進めば、政治的な自由化も徐々に進み、いずれ民主化されると、楽観論を唱える識者も多かった。

 実際に起きたことは別。経済面は市場経済ルールを活用して大いに発展した。しかし政治では民主化が進まないどころか、ますます抑圧が強まった。「政治は独裁・経済は自由」という欧米とは異なる、「異形の大国」に育ったと言っていいかも知れない。これが天安門事件後30年(1世代)の中国の歩みだ。

▼北京コンセンサス

 民主主義と言う価値観を共有しない一方で、経済発展著しい中国に対し、米欧は心穏やかではない。米トランプ政権は、中国の位置づけを協調する相手から「覇権を争う競争相手」へと明確に変えた。欧州諸国も中国を競争相手とする位置づけを強めている。

 しかし途上国の中には、中国式のモデルに魅力を感じる国は少なくない。特に、政治面で強権体制を敷いていたり、独裁的な政治指導者には都合がいい。この開発独裁的な、北京コンセンサスとも呼ばれるモデルが、価値観の面でじわじわ広がっているようにも見える。

 天安門事件は、こうした流れの出発点だった。

▼リベラル・デモクラシーの試練 

 英FT紙のギデオン・ラックマン氏は、6月4日付紙面で"Beijing, Berlin and the two 1989s"というコラムを掲載した。1989年は天安門事件が起きたとともに、ベルリンの壁崩壊で冷戦が終結した年だ。後者は自由主義体制が共産主義体制に勝利した節目として、世界史上の重要な事件に位置付けられてきた。

 しかし、欧米の経済と民主主義と経済はいま、重要な危機直面している。経済は成長が鈍化しているうえ、格差の拡大など深刻な問題が目立つ。

 民主主義に関係する動きとしては、欧州でも米国でもポピュリズムや極右政党の台頭が顕著。人々は内向き思考を強め、反移民政党が力を得ている。フェイク・ニュースが蔓延し、一部の国では権力者による情報操作も強まっている。トランプ大統領らは移民問題などで、しばしば強引(強権的)な手法を使う。

 ラックマン氏は、「未来の歴史家は、1989年の重要な出来事はベルリンの壁の崩壊ではなく、天安門事件だったと判断するかもしれない」と指摘する。

 米欧の近年のポピュリズムや反移民の動きの台頭や内向き思考、一部で見られる強権的手法への傾きの背景には、もちろん様々な事情がある。しかし、中国の成功に影響された面はないのか。そうだとしたら、経済や政治のみならず、価値観の面でも中国の影響拡大が、予想を超えて進んでいると言えるかもしれない。

▼知った気にならずに
 
 中国の天安門事件30年を語る時に忘れてはいけないのは、30年前に中国がこれだけ(経済的に)成功すると予想した人はほとんどいなかったという事実だ。現在から振り返って、「中国がなぜ成功したか」を明快に語れる経済学者もほとんどいない。我々は、実はあまり分かっていない。この点を謙虚に認めることは重要と、つくづく思う。

◎「こんな矛盾 持つわけない」と一世代
◎ 好調な独裁国家に「どうしよう」
◎ 自由より内向きが受けてる、正念場

2019.6.9

 

 

2019年5月12日 (日)

◆米中貿易戦争再燃 2019.5.12

 

 休戦状況にあった米中の貿易戦争が再燃した。米中の貿易協議は難航し、米国は10日、中国からの輸入品2000億ドル相当に対し、関税を10%→25%に引き上げた。米国はさらに、対象を中国からの輸入品全品に拡大する制裁関税の「第4弾」を導入する方針を示した。中国は対抗措置を講じると表明した。

 貿易戦争には経済的利害はもちろん、ハイテク分野の競争や国家の覇権争いが絡む。行方は世界経済の行方にも大きく影響する。

▼広範な課税

 米中の貿易戦争が始まったのは2018年。トランプ米大統領は、中国が知的財産権保護に違反しているなどとして制裁関税の発動を表明。同年中に3段階にわたって追加関税を導入した。第1弾は340億ドルに25%(7月)、第2弾は160億ドルに25%(8月)、第3弾は2000億ドル分に10%(9月)だった。

 関税を引き上げた合計2500万ドルは、米国の中国からの輸入のほぼ半分に当たる。

 米国はさらに2000億ドル分の関税を10%→25%に引き上げる方針を打ち出し、12月から中国と貿易協議に入った。

▼産業補助金などで対立解けず 

 協議では中国側が外国企業に対して課してきた技術移転義務をなくすなど、歩み寄りもあった。しかし、米国は中国の産業補助金廃止や、知財保護の強化などを要求。対立が解けなかった模様だ。

 対立の背後には構造的な問題が横たわる。中国の産業補助金は、国有企業の存続に直結し、「国家資本主義」の経済モデル根幹にも関わる。中国としても簡単には譲れなかったとみられる。

 トランプ大統領はさらに、報復関税の対象を中国からの輸入品全品目に広げる方針を示した。追加分は3000億ドル。詳細は13日にも発表する。

 米大統領は同時に、今後も中国と協議を続ける点を強調した。同時に、交渉は急がずゆっくり進む姿勢を示した。先行きは予断を許さない。

▼風景様変わりの1年

 トランプ米大統領が対中制裁関税や、世界各国からの鉄鋼・アルミ製品への課税を打ち出したのが2018年3月。それから1年強で、関税引き上げは対象・金額とも急速に広がった。この現実の前に、「自由貿易に反する」などという(まっとうな)批判は埋没しがちだ。

 米国が中国に対して仕掛けている貿易戦争は、単なる経済上の利益を巡る紛争ではない。ハイテク分野での主導権争いや、国家の覇権争いが背後に控える。この点は最も重要なポイントだ。

 米中貿易関係や世界の通商体制は、すでに1年前に比べて全く異なる光景になった。交渉の行方がどうなるか不透明だが、さらに大きな変化が予期されることだけは確実だ。

 良きにせよ悪しきにせよ、トランプ米大統領が「ゲーム・チェンジャー」(ルールを変える人)。その認識を改めて想起させる。

◎ 自由貿易 つい昨日まで「いいね!」だった
◎ 関税に練り込む覇権と面子かな

2019.5.12

 

2018年3月20日 (火)

◆中ロの新体制・米国の体制変更 2018.3.19

 世界の枠組みに影響する大きなニュースが相次いだ1週間だった。

▼中国・習近平体制2期目

 中国全人代は習近平国家主席を再任。同時に国家副主席に王岐山・前政治局常務委員を選んだ。同氏は昨年秋の共産党大会で党の役職を退任している。共産党が国家の上位に来る中国で、党の役職がない人物の国家副主席就任は異例だ。

 全人代は憲法改正も承認。5年2期までだった国家主席の任期を撤廃した。毛沢東元国家主席のような独裁の出現を防止するために鄧小平氏が導入した制度。その撤廃は、中国の統治システムの根幹にかかわる。憲法改正により、習近平氏の長期政権も理屈の上では可能になる。

 今回の全人代は、中国の枠組み変化を端的に示した。これまで常識として考えてきた前提が通用しないケースが増えてくると。そう考えた方がいいだろう。

▼ロシア大統領選挙

 ロシア大統領選も世界の枠組みに関係するニューだプーチン大統領の4選はもともと予想されたことで、焦点は投票率や得票率だった。得票率は77%と高率だった。しかし投票率は6割台にとどまったとの情報が流れており、政権が目標にしていた7割に達しなかった模様だ。

 2014年のクリミア併合以来の4年間のロシアは、米欧との対立が激化し、経済苦境が続いた。プーチン政権は国内的には締め付けを強化し、対外的には強硬姿勢を強めた。同国が関係しているとされる米欧へのサイバー攻撃やフェイク・ニュースの流出、英国でのスパイ毒殺事件、シリアなど中東での存在感拡大、核戦略の強化などはこの脈略で出てきた。

 4選でプーチン氏は2024年まで大統領の地位にとどまる。強力な権力を握る同氏の下でも経済改革は停滞しており、次の6年でどこまで改善できるかは不透明だ。2024年に71歳になる同氏の後継体制作りも見通せない。ロシアの今後も不透明要因は多い。

▼米国務長官解任

 米国務長官の解任は通常ならば「今週のNo1ニュース」だろう。そうでないのは、中ロなど各地で重要なニュースがあったため。世界的に大事なニュースが集中した影響だ。

 ティラーソン国務長官の辞任は昨年以来何度も観測に上っていた。背後には、外交を巡るトランプ大統領と国務長官の考え方の違いがある。トランプ氏が「米国第一」を前面に掲げ、国際協調の伝統を軽視し、強硬な政策を辞さなかったのに対し、ティラーソン氏は国際協調や伝統的な外交を尊重した。具体的にはイラン、北朝鮮、鉄鋼関税などで対立したと指摘される。国務長官が大統領をmoron(馬鹿)と言ったとの情報も流れた。

 それにしても驚いたのが、解任を本人に通告する前に、ツイッターで発表したという手法。トランプ流といえばそれまでだが、そこまで国務長官の地位を軽くして大丈夫かという感じもする。

 後任の国務長官は強硬派とされるポンペオCIA長官。大統領とのソリはいいとされる。米外交が従来以上に、強硬姿勢を強めるとの警戒もある。

 政策の是非については様々な意見があるが、世界1の強国である米国の外交が、従来以上にこれまでの伝統的な政策の延長線から離れていくことだけは確かだろう。

2018.3.19

2017年10月29日 (日)

◆中国新体制と世界への問いかけ 2017.10.29

 中国共産党大会が終了。習近平総書記の2期目がスタートした。注目の人事では最高指導部に後継者候補を入れず、習1強体制が一層強まったとの見方が多い。一方、党大会では21世紀半ばまでに中国が経済や軍事で世界の一流国になるという目標を掲げ、党があらゆる活動を指導するという共産党体制の維持を明確に示した。その行方は世界を左右する。

▼習1強体制

 共産党大会で最も注目されたのが人事。最高指導部である政治局常務委員の人選を巡っては、世界中のチャイナ・ウォッチャーから事前情報が飛び交った。結果は、(1)常務委員7人には、習氏に近い者が多く選ばれた、(2)次期最高指導者候補となる50歳台からの選任はなかった、(3)常務委員の下の政治局員25人(常務委員を含む)も、習派が過半を占めた――など。

 江沢民、胡錦涛大使絵が2期目に入る1997年、2007年の党大会ではある程度後継者が絞られる人事を行っていた。今回はそれがなく、習氏の求心力が保たれる形になる。党規約には「習思想」が盛り込まれた(中身はどこまで新鮮なものがあるか不明だが)。共産党機関紙の26日付の人民日報は、1面にかつてない大きさで習氏の写真を掲載した。

 習氏は当初、68歳以上は引退という党の内規を変更して王岐山常務委員の再任を狙っていたと伝えられる。これは見送った代わりに、側近を最高指導グループ入りさせた。人事の内情は本当のところ分かっていなく、したり顔の解説は禁物だ。しかし、習氏の権力が強化され、いわゆる週1極体制が強まったことは間違いないだろう。

▼大国志向明確に

 人事より注目度は少なかったかもしれないが、今後の中国と世界にとって負けず劣らず重要だったのが政策の方向に関する決定だった。党大会の初日の18日、習氏は3時間以上にわたって演説。共産党設立100年(2049年)となる21世紀半ばまでに、中国を米国と並ぶ強国にする目標を明確に述べた。

 習氏が演説で具体的に示した目標が、トップレベルの総合国力と国際的影響力、世界一流の軍事力など。中国は覇権を求めないとしながら、正当な国益は放棄しないと明言した。大国志向を明確にしたと言える。

▼共産党支配の強化

 もう一つ注目すべき点は、共産党による支配を改めて強調したことだ。「現代化した社会主義の強国」を目指すと宣言。党大会で採択した党規約では、「あらゆる活動を党が指導する」と明記した。

 習近平氏はこれまでも、共産党体制の維持を最優先する姿勢を明確にしている。2014年のベルギー・ブルージュでの演説では欧米型民主主義とは違う理念で進むことを明言している。2017年7月の香港での返還20周年の演説では、共産党支配の中央への挑戦は許さないと断言した。

 今年に入ってからは、国有企業をはじめとする企業に対し、定款に党の指導に従う旨を導入するよう働きかけた。6月にはインターネット安全法を導入するなど、情報統制も強化している。

 党大会での演説や決議も、こうした流れに沿ったもの。「共産党支配強化」に拍車をかけようとしている。

▼中国の存在感の拡大

 そもそも中国共産党大会が従来以上に注目されたのは、世界における中国の存在感が圧倒的に大きくなっているためだ。中国経済は過去30年以上、年率10%前後で成長し、2010年には世界第2の経済大国になった。購買力平価ベースにすれば、米国を抜いて世界1の経済大国だ。しかも、いまだに6%台の高成長を続けている。

 政治や軍事的な影響力も拡大した。南シナ海では南沙諸島の領有権などを巡り周辺国と対立。支配を既成事実化している。この地域の軍事的支配権を米国から奪おうという意図も透けて見える。

 習近平体制になった後には、One Belt One Road構想やAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立などで、米国主導の既存の国際金融・経済制度に挑戦するかのような動きも目立つ。

 アリババやテンセントなど世界的な革新力を持つ企業も増えてきた。深センはアジアで最も技術革新力のあるIT都市という見方も多い。

 途上国や中進国レベルにとどまっていた江沢民や胡錦涛時代と異なり、中国の行方が世界を左右する時代になっている。そんな時代に打ち出された「習1強」や、「共産党支配強化」の意味合いは大きい。

▼問われる米欧の価値観

 習近平の中国が問いかける問題は、米欧が抱える問題の裏返しでもある。中国の挑戦が、米欧中心の理念や国際体制への挑戦と広く受け止められるようになったのは、2008年のリーマン・ショック(世界金融危機)以降だ。

 それまで資本主義・市場原理に支えられた自由主義経済の理念は、世界でも「代わるものがない相対的に優れたシステム」として広く認識されていた。それがリーマン・ショックで決定的に揺らいだ。「グローバル資本主義の危機」への明確な答えは示されないまま、現在に至る。

 そんな中で、中国の経済は上手く回っている。経済成長のセットになっているのは、民主主義ではなく政府・党が必要に応じ介入する一党独裁の政治。途上国の中には、強権的体制維持の説明に使える意味合いもあり、中国型モデルへの支持が増えている。

 欧米各国では民主主義の機能不全が目立つ。格差拡大などの課題に政治が応えられず、ピュリズムが蔓延。トランプ米大統領の誕生や英国のEU離脱などが現実のものとなった。人権重視を訴えながら、欧州難民危機や国家による情報独占(スノーデン事件などに象徴)などの問題に直面すると、強権的な手法を辞さないあぶるスタンダード。こうした問題点も白日の下にさらされた。

 リベラル・デモクラシーの危機は、相対的に中国の成功の魅了を(少なくとも表面的には)高めている(蛇足だが、米欧中心の価値観は、もう一つイスラム世界からの挑戦も受けている)。

▼習近平体制への注目

 もちろん、中国も多くの矛盾を抱えている。国内の格差、汚職、環境問題など問題は枚挙に暇がない。中国各地で年間数十万件の暴動が起きているとも言われ、いつ国を揺るがすような時代があっても不思議ではない。

 それでも中国の影響、インパクトを過小評価すべきではない。中国の政治・経済モデルは、米欧中心の既存体制を揺るがすだけにとどまらず、場合によってはとって代わる状況になって。この事実は、従来と全く違う。

 中国と世界を見ていく上で、こうした事実を冷静に押さえておくことは、基本中の基本になる。

◎ 目指すのは世界の強国やっぱりね
◎「習思想」中身は知らねど大音響
◎ 米欧の独裁批判も力欠く

2017.10.29

2017年7月17日 (月)

◆劉暁波氏の死去と中国の民主化 2017.7.16

 中国民主化運動のシンボル的存在だった劉暁波氏が死亡した。中国の体制、民主化、人権などに改めて問いを投げかける。

▼民主化運動の象徴的存在

 1989年の天安門事件の前に帰国し、広場でハンストを実施。運動が党・軍に制圧された後も中国に残り、民主化運動をつづけた。2008年には1党独裁の廃止や民主化を求める「08憲章」を他の活動家と共に発表。その後逮捕→有罪判決と進んだ。

 2010年にノーベル平和章を獄中受賞。授賞式では空席の椅子にノーベル賞が置かれ、その映像は世界に伝わった。中国国内ではノーベル賞受賞などの情報はほとんど遮断された。一方中国国外では、劉氏の名前は民主化運動のシンボルとして定着した。

▼中国「内政干渉」

 同氏は肝臓がんを患い、国外での治療を希望したが。しかし中国政府は認めず、国内の病院で亡くなった。死亡後、欧米などは同氏の功績をたたえるコメントを表明。家族の事実上の軟禁解除など、中国に人権重視などを訴えた。これに対し中国は内政干渉などと反発した。

▼非民主化の大国

 中国の民主化は、世界にとって体制の根本にかかわる重要問題の一つだ。戦後の世界は欧米主導の民主主義を重視するという約束事の上に成り立ってきた。民主化が遅れた国も、経済発展が進めば民主化するという期待もある程度まで有効だった(韓国、フィリピンなど事例はある)。

 しかし中国は違う。共産党1党独裁を終始大前提とし、民主化は一定範囲に限定。それでいて、40年にわたり高度な経済発展を実現してきた。一見、経済発展→民主化という他国の方程式が通じないような状況だ。

 天安門事件の時には、事件が社会や経済に重要なダメージを与えるという見方もあった。しかしその後30年、経済は平均で2桁近い成長を遂げ、今や世界第2の経済大国だ。この間、国内の民主化運動の封じ込めはむしろ強まり、言論規制は強化されている。

▼弱まる?世界の批判

 中国の民主化規制、人権抑圧などに対する世界の批判も、相対的に弱まってきた感がある。米国や欧州は折に触れて民主化要求や人権抑圧批判を繰り返す。しかし、時の最大テーマとして中国に注文を突きつけたり、経済制裁に走ったりすることはここ20年ほどほぼ皆無だ。

 2008年にリーマン・ショックで世界経済が揺らいだのちは、むしろ中国に経済面での貢献を求める気運が強まった。

 足元の状況もそうだ。世界の目先の関心は、テロや中東の混乱、北朝鮮の核問題、反グローバル化の動きなど。米国にトランプ政権が誕生した後には、米政権そのものが世界の不安定要因になったとの認識が強い。

 ロシアやトルコなど強権色を強める国も増えている。そうした中、中国への正面切っての批判は目立ちにくくなっている。

▼中長期的な問い

 しかし、中長期的にはどうか。中国は人口の高齢化などが急速に進み、これまでのような経済の高成長がいつまでも続く状況ではない。成長が矛盾を飲み込む状況が崩れれば、人々の不満が政治に向かうことも十分考えられる。

 1党独裁の政治体制には、常に統治の正統性への問いがつきまう。ネットの時代、世界からの情報をずっと制御しきれるわけではない。中国から民主国家に移住したい人は多いが、その逆は例外的だ。民主化の要求を押さえ込むことはできても、なくすことは難しいのではないか。

 劉氏の死は、中国の民主化や人権問題について改めて目を向ける機会となった。そして天安門事件以来の中国の30年弱を考える材料にもなった。

 劉氏の死亡は中国国内の公的メディアでは無視されるものも多い。しかし時間を経過した後、中国史の年表に記述される日が来るだろう。それがどんな形になるかを考えるのも有意義だろう。

◎ 民主化の議論も封印30年
◎ 劉暁波 年表掲載 待機中
◎ 天安門 30年後も なおタブー

2017.7.16

2017年7月 2日 (日)

◆香港返還・アジア危機・スマホ 2017.7.2

 香港が英国から中国に返還されて1日で20年を迎えた。アジア通貨危機表面化からも20年。6月29日は、アップルがiPhoneを発売し、スマホの時代に入って10年目だった。記念の節目から振り返ると、過去10年、20年の世界の変化がいろいろ見えてくる。

▼中国の拡大

 香港返還の1997年7月、香港は中国のはるかに先を行く存在だった。香港のGDPは中国全体の18%、1人当たりのGDPは中国の35倍だった。香港ドルは人民元に比べ約7%高かった。

 世界と中国の貿易の少なからぬ量が(契約などで)香港を通して行われ、海外から中国への投資は香港経由で行われるものが多かった。海外企業が香港に設立した企業が、中国国内の工場を管理するケースも多かった。文字通り、香港は中国の窓口だった。

 現在(2016年)、香港のGDPは中国の3%以下。1人当たりのGDPも5倍程度に過ぎない。香港ドルの価値は約10年前に人民元より安くなり、現在は約20%低い。

 「中国の高成長はいつか限界が来る」と経済専門家などは指摘した。しかし中国は過去20年間10%近い成長を維持。GDPは2010年に世界2位になり、上海など先進地域の1人当たりGDPは中心国並みだ。アリババやテンセントなど世界的な企業が育った。AIIB設立や一帯一路構想、南アジアへの海洋進出など、中国の拡張は留まるところがない。

 返還後20年で、香港の中国に対する優位性や存在感は、経済規模で見る限り相当縮小した。

▼問われる1国2制度

 香港返還時、中国は香港に対し高度な自治を認める「1国2制度」を向こう50年間維持すると約束した。しかし政治的な動きなどがあるたびに、香港の自由が脅かされる事例が相次いだ。

 代表は2014年の雨傘運動だ。2017年の行政長官線をにらみ、学生ら民主派が自由選挙を要求。中国の意向を受けた当局は、これを力で封じ込めた。

 その後、香港では無力感が高まる一方、中国からの独立を目指す強硬派の台頭も表面化した。

 中国当局は、こうした動きに強硬姿勢を示す。習近平国家主席は1日の記念式典に参加。「中央の権力に対するいかなる挑戦も絶対に許さない」と明言した。中国政府が、「1国」を「2制度」に優先させる立場を改めて示したともいえる。

 香港が中国にない特徴として保持しているのは「法治」を基礎とした経済や社会システム。そして相対的な「自由」だ。今後もこうした特徴を生かし、独自の存在感を示していけるのか。それとも中国の中に埋没してしまうのか。返還20年の節目は、香港が重大な岐路にあることを改めて明示した。

▼通貨危機から成長へ

 タイがバーツのドル連動を断念し、アジア通貨危機が表面化したのは香港変化の翌日の1997年7月2日だった。タイと韓国、インドネシアがIMF監視下に置かれ、フィリピンなどの通貨が混乱した。インドネシア・ルピアは米ドルに対し80%、タイ・バーツや韓国ウォンは50%低下した(その後現在に至るまで、水準は大きく下がったままだ)。インドネシアではスハルト政権が崩壊し、韓国では財閥が解体した。

 通貨危機前、アジア各国は経済成長を追求して海外からの借り入れを急増。金融システムの危機管理はおろそかになった。これが通貨危機の一因だ。

 危機後、各国は金融監視などを強化。アジア国間でも通貨相互融資のチェンマイ・イニシアティブを導入(2005年)するなど危機管理強化に努めた。2008年の世界金融危機の際にもアジアの金融システムが揺らぐことはなかった。

 アジア経済はこの20年、少なくとも数字的には順調な成長を実現している。中国だけでなく、他の地域も高い成長率を維持。近年の成長率はインドが7%以上、中国が6%台、東南アジアが4-5%だ。アジアが世界の経済成長を引っ張る時代が続く。

▼成長を支えた平和、改めて問われる政治

 アジアが成長を実現してきた要因として、平和の維持が大きい。アジアでは1950-70年代のベトナム戦争、その後のカンボジア紛争など1990年代前半まで戦争・紛争が続いた。「紛争のアジア」という言葉が時代を映し、経済の発展は損なわれた。しかし1990年代後半以降大規模な紛争はなく、状況は変わった。

 ただ、現在の平和や政治の安定が危うさを抱えているとの指摘も少なくない。中国は共産党1党独裁の国家。シンガポールやマレーシアも事実上1つの政権が政治を支配する体制が続いている。タイは軍事政権下にある。フィリピンには強権のドゥテルテ大統領が誕生した。

 反グローバリズムの高まり、トランプ米政権の誕生など、世界の枠組みは変わろうとしている。テロの中東からアジアへの拡散の兆候など、新たなリスクも噴出している。

 アジア通貨危機は、経済モデル、金融システムの監視体制のほかに、政治や社会の安定などの問いも突き付けた。それは現在まで引き継がれる。

▼スマホ時代

 iPhone発売から10年の6月29日、アップルのクックCEOはツイッターで「世界を変えた」と発した。iPhoneの累計販売台数は12億台。2016年の世界のスマホの出荷台数は16億台だ。今では世界中の2人に1人以上がインターネットでつながり、フェイスブックの利用者は20億人を超えた。

 世界はICT革命の最中にある。スマホ時代10年目は、時代を考えるのにふさわしい節目だ。

◎ 1国2制度、元々詭弁と知るけれど
◎ 自由より「大中華」響く香港の空
◎ 豊かさは鄧小平の夢に近付くが

2017.7.2

より以前の記事一覧

2019年11月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ

ウェブページ