カテゴリー「アメリカ」の102件の記事

2019年7月23日 (火)

◆トランプ氏のGo Back発言の波紋 2019.7.21

 トランプ米大統領が野党民主党急進派の女性議員らに「国に帰ったら」とツイッターで発信。これに内外で批判が高まり、波紋を広げている。ドイツのメルケル首相は公然とトランプ氏を批判、米欧の首脳間で価値観を巡る対立が公然化するなど、事態は尋常ではない。

 ツイッター発信は14日に行われた。Huffington Post日本語版によれば、ツイートは「興味深いことがあります。いわゆる“進歩的“な民主党の女性議員たちはもともと、政府が完全に崩壊していて、最悪で、腐敗していて、世界中のどこにあっても機能しない国の出身です。(もしそれが政府と言えるならの話ですが…)」

 「そんな議員たちが、地球上で最も偉大で最も強力な国家であるアメリカ合衆国の人々に、私たちの政権運営への悪口を吹聴しています。なぜ彼女たちは政府が崩壊して犯罪が蔓延している出身地に戻って、手助けしないのでしょう?」

 「その後戻ってきて、どうやって解決したのか教えて欲しい。そうした国は、あなた方の援助をひどく必要としているから、簡単には戻って来れないがね。(民主党の)ナンシー・ペロシ下院議長が喜んで無料の旅券を手配してくれると確信しています!」

▼民主党4議員

 女性議員の名指しはしなかったが、幼少期にソマリアから移住したイルハン・オマル氏、プエルトリコ系のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏、パレスチナ系のラシダ・タリーブ氏、アフリカ系のアヤンナ・プレスリー氏の4人とみられている。

 ツイートは直ちに世界に拡散。トランプ氏の"Go back to your country"発言として認識された。

 4人は15日会見し白人至上主義の考えであるなどと批判。下院は16日大統領批判の決議を採択した。海外ではメルケル独首相が会見でトランプ発言(発信)を批判、自分は4人の議員側に寄り添うと表明した。

▼白人至上主義の影

 トランプ支持者は集会で発言を歓迎。トランプ氏の"Go back"をさらに強めて"Send back"などと連呼する動きも出た。これにはさすがにトランプ氏も距離を置いた。

 言葉の細かいニュアンスなどについては議論が分かれるところがあるだろう。しかし、米大統領がここまで人種差別に無警戒な発言をし、社会にインパクトを与えた例は少ない。トランプ支持層に、本音では白人至上主義の人々が多く含まれている表れと見ることも可能かもしれない。メルケル独首相が論争に参加するのも異例だ。

 トランプ氏はビジネスマン時代、テレビ番組で"You are fired"の発言で一段と有名になった。私企業(のモデル)ならとにかく、国が”Go Back"と言ったら基本的人権に抵触する問題だ。

 

 トランプ発言の一つとして、歴史的にも記録されるものになるだろう。しかし後味はかなり悪い。

 

◎ 「米国第1」も「国に帰れ」もはや定着
◎ "Go Back" トランプの姿に重なりぬ

2019年7月 1日 (月)

◆米中休戦とプーチン発言―G20周辺発のニュース 2019.6.30

 G20首脳会議が大阪で開かれた。会議には世界の首脳が集合し、会議本体もさることながら、重要な2国間会談多数開催された。世界的なニュースがG20周辺発で流れた。

▼米中貿易協議再開

 世界の注目が集まったのが29日の米中首脳会談だ。貿易やハイテク分野を巡る米中の対立は、過去1年の世界のニュースのヘッドラインを提供し続け、世界経済に多大な影響を与えてきた。

 トランプ大統領は昨年3月、中国が知的財産権を侵害しているとして対中関税を引き上げると発表。その後3段階に分けて、今年5月までに合計2500億ドル分の中国からの輸入品に対する関税を25%に引き上げた。対象は米国の対中輸入総額のほぼ半分に相当する。

 加えて米国は中国のハイテク企業を狙い撃ち。昨年はZTEとの取引を禁止し、同社に対し多額の罰金や経営陣後退などの条件を呑ませた。昨年末からはファーウェイに狙いを定め、G5市場からの締め出しや事実上の取引の禁止などを打ち出してきた。

 米中は昨年12月のアルゼンチンでの首脳会議で、貿易協議に入ることで合意した。しかし協議は今年5月に事実上決裂。それを受けて米国は制裁関税の第4弾計画(2500億ドル=1-4弾合計で米国の中国からの輸入のほぼ全量)を発表するなど、米中摩擦の日は益々激しくなった。

▼見えない先行き

 大阪での首脳会談で米中は協議の再開を決定。米国は第4弾の関税引き上げを見送った。ファーウェイに対する取引も、一部容認する姿勢だ。

 ただ、米中対立を解くのは容易ではない。米国は技術的な優位を維持するために中国に対し知的財産権保護を保証するシステム導入を求める。一方中国は米国流ルールの押し付けに対抗する。その底流には、安全保障や経済での覇権争いがある。問題は構造的だ。

 世界経済はすでに、米中摩擦激化の深刻な影響を受け始めている。アジアからは輸出が減退。景況感も低下している。世銀やIMFなどは経済見通しを相次ぎ下方修正した。経済減速は金融市場の不確実性拡大にも繋がりかねない。

 米中首脳会談の結果はそうした懸念を一服させた。しかし先行きが見えてきたわけでは全くない。

▼波紋広げるプーチン会見

 G20首脳会議に先駆けて、ロシアのプーチン大統領が英FT紙と行ったインタビューが物議を醸している。プーチン氏は自由主義が時代遅れになっている(obsolete)と指摘。トランプ米大統領の一方的な政策を批判した。

 また2015年の欧州難民危機の際に独メルケル首相が判断した寛容な移民政策が間違いであり、後に問題を大きくしたなどと批判。リベラル派は影響を及ぼせなくなったと語った。

 インタビューは多くのメディアが引用。EUのトィスク大統領(首脳会議議長)は強く反発した。

 プーチン大統領の発言は意図的に刺激的な部分がある。しかし、ここ数年の難民危機やトランプ米大統領の誕生、英国のEU離脱決定(Brexit)など、寛容な精神に裏付けされた自由民主主義(リベラル・デモクラシー)の存在価値と力が問われているのは間違いない。そんな環境だからこそ、プーチン大統領の発言が波紋を広げているのだろう。

▼驚きの米朝首脳会談

 トランプ米大統領は大阪で北朝鮮の金正恩委員長との会談の可能性に言及。2日後には板門店で会談を実現した。米大統領が軍事境界線を越えて北朝鮮領に入ったのは初めてだ。

 トランプ大統領の予期しがたい行動が、ここでも現れた。同時に、周到な準備よりスピードを重視する同氏の特性が現れた格好だ。

 G20会議本体は、公正貿易などの理念や海洋プラスチックごみの2050年までの廃止などを盛り込んだ大阪宣言を採択して閉幕した。ただ、貿易については昨年に続き保護主義に反対する文言はなく、環境でも地球温暖化問題への言及はなかった(議長国日本が米国に配慮したためと、英FTなどは批判的に報じた)。

 G20が始まった2008年は、リーマンショックの直後。最初のうちは世界恐慌防止と金融危機の拡散防止に、各国が必至で取り組む姿勢が伝わってきた。その後、会議は「集まること」が重要になり、周辺の2国間協議にむしろ注目が集まる。

◎ ボス集う 何かが動くこともある
◎ 先は不明 それでも安堵の米中休戦
◎ 自由批判 饒舌を許す 辛い時世
◎ 自由主義「古い」に「それなら」と質したい

2019.6.30

 

 

2019年5月12日 (日)

◆米中貿易戦争再燃 2019.5.12

 

 休戦状況にあった米中の貿易戦争が再燃した。米中の貿易協議は難航し、米国は10日、中国からの輸入品2000億ドル相当に対し、関税を10%→25%に引き上げた。米国はさらに、対象を中国からの輸入品全品に拡大する制裁関税の「第4弾」を導入する方針を示した。中国は対抗措置を講じると表明した。

 貿易戦争には経済的利害はもちろん、ハイテク分野の競争や国家の覇権争いが絡む。行方は世界経済の行方にも大きく影響する。

▼広範な課税

 米中の貿易戦争が始まったのは2018年。トランプ米大統領は、中国が知的財産権保護に違反しているなどとして制裁関税の発動を表明。同年中に3段階にわたって追加関税を導入した。第1弾は340億ドルに25%(7月)、第2弾は160億ドルに25%(8月)、第3弾は2000億ドル分に10%(9月)だった。

 関税を引き上げた合計2500万ドルは、米国の中国からの輸入のほぼ半分に当たる。

 米国はさらに2000億ドル分の関税を10%→25%に引き上げる方針を打ち出し、12月から中国と貿易協議に入った。

▼産業補助金などで対立解けず 

 協議では中国側が外国企業に対して課してきた技術移転義務をなくすなど、歩み寄りもあった。しかし、米国は中国の産業補助金廃止や、知財保護の強化などを要求。対立が解けなかった模様だ。

 対立の背後には構造的な問題が横たわる。中国の産業補助金は、国有企業の存続に直結し、「国家資本主義」の経済モデル根幹にも関わる。中国としても簡単には譲れなかったとみられる。

 トランプ大統領はさらに、報復関税の対象を中国からの輸入品全品目に広げる方針を示した。追加分は3000億ドル。詳細は13日にも発表する。

 米大統領は同時に、今後も中国と協議を続ける点を強調した。同時に、交渉は急がずゆっくり進む姿勢を示した。先行きは予断を許さない。

▼風景様変わりの1年

 トランプ米大統領が対中制裁関税や、世界各国からの鉄鋼・アルミ製品への課税を打ち出したのが2018年3月。それから1年強で、関税引き上げは対象・金額とも急速に広がった。この現実の前に、「自由貿易に反する」などという(まっとうな)批判は埋没しがちだ。

 米国が中国に対して仕掛けている貿易戦争は、単なる経済上の利益を巡る紛争ではない。ハイテク分野での主導権争いや、国家の覇権争いが背後に控える。この点は最も重要なポイントだ。

 米中貿易関係や世界の通商体制は、すでに1年前に比べて全く異なる光景になった。交渉の行方がどうなるか不透明だが、さらに大きな変化が予期されることだけは確実だ。

 良きにせよ悪しきにせよ、トランプ米大統領が「ゲーム・チェンジャー」(ルールを変える人)。その認識を改めて想起させる。

◎ 自由貿易 つい昨日まで「いいね!」だった
◎ 関税に練り込む覇権と面子かな

2019.5.12

 

2019年3月31日 (日)

◆ロシア疑惑:モラー報告の衝撃 2019.3.31

 米トランプ政権のロシア疑惑を巡るモラー特別検察官の調査が終了。報告書をまとめてバー司法長官に提出し、長官は24日概要を公表した。内容をひとことで言えば「クロではない」。トランプ氏は意気を高め、議会での大統領弾劾の動きはしぼんだとの見方が多い。影響は大きい。

▼2年近くの捜査

 ロシア疑惑の争点は、(1)2016年の大統領選時にロシアが行ったとされる選挙妨害や世論誘導にトランプ陣営が共謀したか、(2)トランプ大統領による捜査妨害があったか、の2点が中心。

 モラー氏は2017年5月に特別捜査官に就任。捜査を続けてきた。捜査の過程では2800を超える召喚状を発行し、約500人の証人にインタビューしたという。また、捜査に関連し30人以上の個人や団体(ロシア人も含む)が訴追された。

▼トランプ氏勝利の内容

 モラー氏は報告書をバー司法長官に提出。バー氏がその概要を公表した。それによると、報告書は共謀について確認ができなかったとした。また、捜査妨害については「大統領が罪を犯したと結論付けるものではないが、彼の無実を証明したものでもない」と判断を保留した。

 事前の予想では、モラー氏の報告書はトランプ大統領にとってさらに厳しい内容になるとの見方が多かった。それもあり米メディアは、政権に批判的なNYタイムズなども含め、多くがトランプ大統領の勝利と評した。

▼弾劾に向けた動き、勢い削がれる

 民主党は疑惑が解明されたわけではないとし、モラー報告の全文公開を求めるとともに、議会に舞台を移して追及を続ける構え。ただし、大統領弾劾を目指す動きは勢いを削がれた。

 トランプ氏は「無罪が証明された」とし、野党民主党に対する攻撃を強めるなど政治的に攻勢に出る構え。2020年大統領選に向けたキャンペーンを始動させた。

▼米政治、新しい局面

 ロシア疑惑はトランプ政権発足以来、政権にとってのアキレス腱となり、米政治を揺らす材料になってきた。メディアは関係するニュースを連日のように大々的に報じ、民主党は政権の攻撃材料として表に出してきた。醜聞スキャンダルは絶好の話題となった。

 ただ、関心は大統領との共謀に向き、そもそもロシアによる選挙妨害疑惑にどう対応すべきかという問題が深く論じられたことは少ない。この問題は専門家の関心事にとどまり一般国民に共有されたとは言い難い。
 
 モラー報告で疑惑が片付くわけではない。しかし一つの節目を超えたことは間違いない。米政治は一つの節目を超え、新しい局面に入っていくとみていいかもしれない。

▼トランプ氏へのけん制材料減少?
 
 トランプ大統領は就任後、「米国第1」の政策を前面に掲げ、米国内政治、経済政策、外交各面で旧来のルールにとらわれないGame Changerとなってきた。移民規制の強化、メキシコ国境への壁建設のための非常事態宣言、中国に対する高率関税、中東でのイラン核合意からの離脱やエルサレムへの駐イスラエル米大使館の移転などが典型だ。

 こうした政策は、米国内の分断を一層拡大させた。そして、世界は大統領に振り回されている。

 ロシア疑惑は政治的には、トランプ大統領に対するけん制材料の一つになっていた。この意味合いが縮小すれば、世界への影響も出て来かねない。

▼疑惑の位置付け

 大統領弾劾につながる動きが終了するならば、疑惑としては尻すぼみになっていくかも知れない。ニクソン大統領のウォーターゲート事件はもとより、クリントン大統領の不倫疑惑と対比しても、後世話題になることは少なくなる可能性がある。

 ただし、Game Changerであるトランプ政権の歴史的役割や、大統領と議会の関係、大統領の機能などを考える場合、疑惑は欠かせない材料になる。含むところは多いだろうが、全貌はまだ全く総括されていない。
 
◎ 灰色に高笑いする大統領
◎ 「証拠なし」大国の政治を思う夜

2019.3.31

2019年3月24日 (日)

◆ゴラン高原、イスラエルの主権容認のインパクト 2019.3.24

 中東情勢の争点の一つであるゴラン根源について、米国がイスラエルの主権を容認した。既存の国際秩序を一方的に覆す決定。地域に新たな不安定の材料を生み、グローバルガバナンスの基本をも揺るがす恐れがある。

▼第3次中東戦争で占領

 イスラエルの主権容認は、トランプ大統領が21日ツイッターで表明した。ボルトン大統領補佐官もツイッターで「イスラエルの立場を支持する」と応答。イスラエルのネタニヤフ首相は謝意を返した。

 ゴラン高原はイスラエルとシリアの国境にある地域で、レバノンとも接する。1973年の第3次中東戦争でイスラエルがシリアから奪い、占領を続けている。

 国連は1967年の決議でイスラエルに対し占領地からの撤退を求め、イスラエルの主権を認めていない。しかしイスラエルは1981年に一方的に併合を宣言していた。

▼新イスラエル・反イラン

 この時期に主権容認を表明した背景には、いくつかの理由が考えられる。

 一つは現地情勢。ゴラン高原周辺では、シリアのアサド政権と近いイランが勢力を拡大していると(主に米メディアなどにより)伝えられる。また、アサド政権やイランに近いイスラム原理集団のヒズボラも活動を活発化しているという。

 トランプ政権の中東政策の基本は、親イスラエル(とサウジアラビア)で、対イラン強硬スタンスだ。今回も親イスラエル・反イランを鮮明にした。

▼国内支持基盤強化

 イスラエルが4月9日に総選挙を予定していることも影響した可能性がある。ネタニヤフ首相は汚職疑惑を抱え、逆風が吹いている。ゴラン高原の主権容認は、協力関係にあるネタニヤフ政権を側面支援になる。

 さらに米国内の事情だ。対イスラエル支援強化は、支持基盤であるキリスト教福音派の支持確保につながる。ロシア疑惑などの問題を抱える大統領にとって、支持基盤の再強化は優先課題だ。

▼既存国際秩序を無視

 既存の国際秩序を無視する形で、突然、一方的に重要政策を変更するのは、いかにもトランプ流だ。2017年末に突然、駐イスラエル米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転を決定した時もそうだった。この時は、国連総会による批判決議を全く無視する形で、翌年、実際に大使館を移した。

 イランの核合意離脱、パリ協定離脱なども突然かつ一方的な判断。トランプ大統領の行動パターンに従来の常識が通用しないことは改めて明確になった。

▼世界の基本理念揺さぶる

 問題はその影響だ。ゴラン高原についてイスラエルの主権を容認するのは、武力による国境の変更を認めるのに等しい。しかし、国連の決議に反しての決定だ。

 2014年のロシアによるクリミア併合などを、国際社会は容認せずに非難してきた。背後にあるのは、武力による国境変更を認めないという基本認識だ。これは現代の世界秩序の基本理念だ。

 超大国米国の大統領であるトランプ大統領は、こうした理念をいともあっさり捨てているようにも見える。それは中東情勢など地域の問題にとどまらず、世界の在り方そのものに問いを投げかける。

◎ 覇権国 作ったルールを「チャラにする」
◎ 呟き(ツイート)が 何万の民をもてあそぶ

2019.3.24

2019年3月 4日 (月)

◆米朝首脳会談の眺め方 2019.3.3

 ベトナムのハノイで27-28日に行われた米朝首脳会談は、合意文書の署名なしで終わった。朝鮮半島の非核化などに関する何らかの合意があるとの期待もあっただけに、いささか拍子抜け。会談の位置づけも難しい。

▼合意なし

 今回の会談は、2018年6月の「歴史的」な会談に続く2回目の会談。前回会談の後に行われた事務レベルや閣僚級の協議でも、朝鮮半島の非核化の道筋が見えてきたわけではない。それでも首脳会議が開催される以上、何らかの部分合意が発表されるとの観測が事前にはあった。

 しかし蓋を開けてみれば合意もなければ共同記者会見もなかった。金正恩委員長の仏頂面ばかりが目立った印象だ。

 米国が求めた全核施設の廃棄に北朝鮮が応じなかったとの情報が流れている。北朝鮮が求めた経済制裁の全面解除には米国が応じなかった模様。後講釈では、そもそも合意なしは当然のようにも見えるが、詳細はなお不明だ。

▼緊張から対話

 北朝鮮の核問題は2017年に緊張が高まった。同国は断続的に核実験やミサイル発射を実施。これに対し米トランプ政権は北朝鮮周辺海域に空母などを派遣するなど圧力を高めた。経済制裁も強化した。

 この年にはマレーシア、クアラルンプールでの金正男氏暗殺事件もあり、北朝鮮に対する国際的な批判が強まった。

 状況が変わったのが翌2018年。韓国で開かれた平昌冬季五輪を契機に対話ムードが強まり、同年6月のシンガポールでの米朝首脳会談につながった。

 しかし朝鮮半島の非核化に向けた米朝の思惑は異なり、シンガポール会談の共同声明も同床異夢の面があった。

▼パフォーマンス

 そして今回の会談。金正恩委員長は北朝鮮からハノイまで遠路鉄道で移動。世界の注目を浴びた。開催地のベトナム・ハノイでは歓迎パフォーマンスやトランプ氏、金正恩氏の髪型を模倣した人が出てくるなど、話題は万歳だった。

 しかし会談の成果に見るものはなかった。北朝鮮側の会談後の対応は、朝鮮中央通信などで断片的に情報を流すというお定まりのパターンだ。

▼不透明な今後

 会談をどのように位置づけるかには、世界のメディィアや専門家も苦労しているようだ。英BBCは”From enemies to frenemies”(敵から友人と敵の混じった関係)と表現していた。面白いが、分かったような分からないような。そもそも、この個性的な2人の間でどんな会話が成り立ったのか(あるいは成り立たなかったのか)、興味深い。

 ただ、1年前には米朝首脳会談の開催自体が「(当面は)あり得ない」話だった。会談があってもおかしくない状態になったのは、重要な状況変化だ。北朝鮮のミサイル発射や核実験もとりあえず止まっている。ただ、これがいつまで続くかは別の話だ。

 今後も引き続き対話路線が維持されるのか。それとも新たな緊張へと動くのか。事実関係の不明な部分も多いので予断は許さないが、目は離せない。

◎ 「2度目だと見出しは取れぬ」の例になり
◎ 兎に角に会談はありの世になれり
◎ 個性派コンビ 政治も旅も髪型も

2019.3.3

2019年2月21日 (木)

◆米非常事態宣言と国境の壁 2019.2.17

 トランプ米大統領が非常事態を宣言した。メキシコ国境の壁建設費を国防予算から賄うためだ。前例のない奇策は、様々な問題点を投げかける。

▼奇策

 非常事態宣言は1月からのねじれ議会との折衝の末に生まれた。大統領は壁建設を公約に掲げており、次年度予算で57億ドルを計上、234マイル(370キロ)の建設を目指していた。

 しかし民主党主導の下院は反対。次年度予算に壁建設費を盛り込まない案をまとめた。大統領は署名を拒否。2018年度末から1カ月以上、一部政府機関が閉鎖された。

 下院の共和・民主両党は2月に入り妥協案で合意。壁建設の費用は14億ドルのみ計上した。トランプ大統領はこれに署名をし、政府機関の再閉鎖を防いだうえで、非常事態を宣言した。

 暴動や自然災害が起きていないときに非常事態を宣言するのは異例。民主党は当然のごとく、権力の乱用の批判を強め、メインストリームのメディアなども同調している。

 民主党は提訴も辞さない構えで、宣言の是非の判断は法廷の場に進む。戦時と平治、大統領権限、移民規制のあり方など、様々な問題に問いを投げかける。

▼増加する壁

 今回の動きもあり、国境の壁に改めて脚光が当たる。米国・メキシコ国境は3145キロで、そのうち1100キロ余りはすでに壁やフェンスなどがある。トランプ大統領が当面建設を目指すのは残りのうち一部。大統領の建設計画に対する反対は野党民主党などから強いが、そもそも国境の壁をなくせという声はほとんど聞かない。

 イスラエルとパレスチナの間には、過去20-30年で頂戴なフェンスの建設が進んだ。2015年の欧州難民危機の際には、ハンガリーとクロアチアの国境などにフェンスが建設された。

 東西分断の象徴だったベルリンの壁が崩壊したのは1989年。その後30年で、世界には新たな壁が登場している。分断の時代象徴と言っていいだろう。

 トランプ米大統領の壁には話題が集中する。しかしこの壁を、特殊な大統領の異例の産物として片付けるのは、あまりに楽観的だろう。根は深い。

◎ 国境(くにざかい)いつの間にやら壁だらけ
◎ 壁崩壊 歓喜に酔った30年前
◎ また壁か当たり前になる日が怖い

2019.2.17

2018年9月30日 (日)

◆国連演説が映すトランプ氏の世界観 2018.9.30

 トランプ米大統領が9月25日に国連演説を行った。米国第1を前面に打ち出し、一部の国には悪意をむき出しにした内容。自画自賛の演説には顰蹙モノの中身も多いが、トランプ氏の世界観を描き出している面がある。

 トランプ演説は国連としては異例の注目を浴びた。報道では批判や揶揄が先立つものも多いが、実際何を語ったのか。整理する。

▼演説の内容

 演説はA4版で20ページ程度。内容を項目別に整理すれば、以下の通りだ。

(1)理念・国際関係に関係する分野
・国の主権を重視
・米国は国益を守るために行動する
・グローバリズムのイデオロギーを拒絶する
・米国の国際支援は友好国のみに使われるべきだ。
・愛国主義を強調

(2)外交
・北朝鮮との対話を評価。金正恩委員長に何度も言及。
・中東:新アプローチが効果を生んでいると強調。
・サウジアラビア、UAE、カタールのシリアやイエメン問題での関与を評価。
・シリアのアサド政権が化学兵器を使用すれば断固たる措置を取ると警告。
・イランを腐敗した独裁体制と批判。
・イスラエルの米大使館のエルサレム移転を「重要な一歩」と位置付け。
・ベネズエラのマドロ政権を非難。
・偉大な歴史などを称える国として、インド、サウジ、イスラエル、ポーランドを列挙。

(3)移民問題
・米国は中南米諸国と共に無秩序な移民、不法民問題に取り組んでいる
・不法移民は犯罪組織を支援し麻薬問題などを引き起こしている。
・国境管理の強化や犯罪組織の壊滅によってのみ、この問題を解決できる。
・米国民が甘受できない国際機関に、移民問題を任せるべきではない。

(4)経済・通商問題
・米国経済:減税効果などで好調と強調。
・通商は公正で相互的でなければならないと主張
・米・メキシコの通商合意や米韓自由貿易協定を評価。
・対中貿易の赤字や中国による知的財産権侵害などを看過できないと主張。

(5)エネルギー
・エネルギー安保は米国、同盟国にとって重要
・エネルギーのロシア依存を高めているとしてドイツを批判

▼米国第一、自画自賛

 演説内容は、トランプ氏が2016年の大統領選以来主張してきた内容が多い。米国第1を前面に出し、自由貿易より公正で相互的な貿易を求める姿勢だ。

 同時に、大型減税による米経済好調や、北朝鮮との対話など期間中のめぼしい動きを強調。自画自賛の内容だ。

▼通商と移民問題

 通商問題では対中貿易赤字や中国による知的財産権の侵害、技術移転を強引に求める姿勢などが許容できないとし、そんな行動が許されていた時代は終わったと断言した。

 目下話題になっている対中制裁関税を正当化する内容だ。対中完全などの政策が、決して思い付きなどで行っているわけでないことを裏付けた。

 移民問題への強硬な姿勢も正当化下。移民が犯罪や麻薬問題を引き起こしている決めつけ、国境管理強化は当然とした。グローバリズムより国家主権や愛国主義を優先している点も改めて鮮明にした。

▼敵・味方

 外交面では、自分の価値観に立脚して敵・味方を明確に線引きしている。中東ではイスラエル、サウジに明確に肩入れし、イラン敵視を改めて鮮明にした。欧州ではポーランドを持ち上げ、ドイツに厳しい姿勢を見せつけた。

 中南米では各国と移民問題などでの協力を呼びかける一方、ベネズエラのマドゥロ政権を酷評した。

▼語られなかった部分

 演説が「語らなかった」内容も重要だ。自分にとって都合のいい内容だけを語りるのは、この手の演説の常。しかし、通常は穏やかな物言いなどである程度のバランスを取るものだが、今回のトランプ大統領演説はそうした配慮が少ないように聞こえた。

 世界を揺るがしている格差の問題や環境問題、技術革新などの問題には触れなかった。世界の新たな問題になっている巨大IT企業の規制や、国家による情報独占などは、関連事項という形でもほとんど触れていなかった。ロシアについても触れず終いだった。

 テロの問題もさわりに触れる程度だった。米欧の同盟関係や、アジアの安全保障などもほぼ素通り。現在の貧困問題や格差が植民地主義など歴史に根付いたものであることは、意識の片隅にもないような印象を与えた。

▼古い秩序否定

 トランプ大統領の登場の際に、キッシンジャー米元国務長官は政権の目指すものについて、第2次大戦後の世界秩序の再編と分析した。演説にもその面はある。

 トランプ政権はすでに、従来の秩序を覆す政策をいくつも進めてきた。NATOを中心とした米欧安保体制の軽視、WTO体制を覆すな通商政策(制裁関税など)、エルサレムへの米イスラエル大使館の移転などだ。

 演説はそれを再度確認した。パレスチナ問題について、従来の立場からの批判を「古いドグマ」(Old dogmas)と着り捨てた。

 旧秩序の否定・新秩序の模索は、早計に結論を求めるような軽いテーマではない。しかし国連演説が、トランプ氏の世界観を掻い巻きさせたのは間違いない。まずはきちんと把握する必要がある。

◎ 国連のトランプ劇場言い放題
◎ 面白く破壊的なり世界観
◎ 極論と冷笑するのは容易だが

2018.9.30

2018年9月18日 (火)

◆リーマン・ショック後10年の世界 2018.9.17

 リーマン・ショックから10年を経過した。世界経済は恐慌を回避したが、金融緩和によるカネ余りは今に至る。金融暴走防止の対応は決定打を欠き、新たなバブルの発生も指摘される。危機後に焦点が当たった資本主義システムの見直しは、事実上棚上げされた。過去10年の間に、IT革命が加速、中国が伸張し、貧富の格差拡大が進むなど世界経済の構造は大きく変わる。リーマン・ショック後10年の世界経済を整理する。

▼ショックの推移

 2008年9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻。世界金融危機が表面化した。先進国の金融当局はまず、公的資金を使った金融機関の救済、市場への資金供給(金融緩和)、景気対策、監督の強化などの手を繰り出し、金融システムの崩壊→世界恐慌の防止に努めた。

 危機はあっと間に米国から欧州などに波及。欧州ではその後ユーロ危機(ソブリン危機)へとつながっていく。

 金融緩和や財政支出拡大の効果もあり、世界経済は2009年を底に回復に向かい、その後も起伏を繰り返しながらも成長を維持している。一方で金融緩和で供給された巨額の資金はカネ余り現象を生み、新興国や株式市場、先進国の不動産などに流れ込んだ。これが新たなバブルを形成しているとの指摘も多い。

 主な節目の出来事は以下の通りだ。

▼節目の動き
 
・2008.9.15 リーマン破綻。
・9.16   米政府とFRBがAIGを管理下に。
      その後、国家・当局による支援や国有化、民間企業の買収などによる欧米金融機関救済相次ぐ。
・9.18   米欧日6中銀が1800億ドルの資金供給。その後も資金供給措置。
・10.3   米議会が経済対策可決。国による金融救済、景気対策などの枠組みを徐々に打ち出す。
・10.8   米欧日の中銀が協調利下げ。
・10.25   IMFがアイスランドに緊急支援。その後小国などでソブリン危機表面化
・11.9   中国が4兆元の景気対策発表
・11.27   米FEDが量的緩和(QE1、2010年6月まで)。その後QE2(2010-11)、QE3(2012-14)
・12.16   米がゼロ金利、米欧で金融緩和進む
・2009年  先進国経済マイナス成長、世界経済の成長はゼロ前後
・2009.6  GMが破産法申請、破綻
・2009.10  ギリシャの政府債務の粉飾発覚、ユーロ危機の引き金に
・2010   中国が世界第2の経済大国に
・2010-12  ユーロ危機(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインの支援要請など数波に及ぶ)
・2011   アップル時価総額世界1に、スマホ、ネット活用加速
・2013.4  日本QQE(量的・質的緩和)
・2013.5-6 バーナンキ・ショック(世界市場の混乱)
・2014.6  ユーロ圏マイナス金利含む緩和策
・2014   資源ブーム→後半から原油価格下落。
・2014.10  米量的緩和解除(QE3終了)
・2015.1  欧州中銀が量的緩和
・2015.1-7 ギリシャ危機
・2015.12  米ゼロ金利解除、米金融正常化第1歩 
・2016.6  Brexit
・2016.11  米大統領選でトランプ氏当選
・2017   米株高(トランプ相場)、金融規制の緩和へ
・2018.8  トルコ・ショック。アルゼンチンなど新興国の市場動揺。

▼政策

 リーマン・ショック直後、各国はあらゆる政策を総動員して金融システムの崩壊、恐慌突入の回避に努めた。先進各国の協調による資金提供や金利引き下げなどを実施し、G20首脳会議も設定した。各国ベースでも、金融機関の監査強化や国有化の仕組み整備などを進めた。

 危機が一段落した後には、再発防止のために様々な策を検討した。「大きすぎて潰せない」を回避するための金融規制の強化、金融監督の新しい仕組み、各国間の相互協力の枠組み整備などが検討され、一部実施された。ただ、こうした策も将来の危機を完全に回避できるものではもちろんない。

 年月を経過するに従い、危機への意識が薄まり、ビジネス機会拡大を求める声が次第に強まっているのも見逃せない。

▼金融緩和の10年と新たなバブル

 リーマンショック後の金融緩和で、世界ではカネ余りが続いた。世界の政府、企業、金融機関、家計の債務の対GDP比は、2008年末の2.9倍から2018年3月末には3.2倍に拡大(IIF統計)。政府の債務残高は米国で2007年のGDP比65%→2017年108%(IMF統計)、日本は183%→236%、英国は42%→87%などと膨らんでいる。

 溢れた資金の一部は株式や不動産市場に向かい、株価を引上げている。世界の株式時価総額は2008年末の33兆ドル→2018年3月末の85兆ドルに2.6倍増した。別の一部は新興国に流れ込み、米欧の金融政策などを材料にそれが還流すると金融市場の動揺を生んだ。2013年のバーナンキ・ショック、2018年のトルコ・ショックなどはこうした構造の中で起きている。

 カネ余りの中で、新たなバブル形成を懸念する声は各方面から上がる。次の危機があるとすれば、従来の危機と同じ形ではなく、全く新たな分野から発生するだろうとの見方も多い。

▼10年間の世界経済の変化

 金融やマクロ経済面から見ると上記のようにカネ余りや新たな危機の懸念などが注目されるが、過去10年の世界経済を見ると別の分野でもっと重要といってもいい変化が起きている。

 一つはIT革命。2008年当時はスマホの普及の初期だったが、その後急速に発展。電子商取引が急速に拡大し、ライドシェアなどの新サービスが普及した。IT大手や中国など国家が個人の動きや財布の中身を(その気になれば)把握し、SNSが世論を形成する時代になっている。世界経済を主導する時価総額上位の企業は、GAFAや中国の大手IT企業だ。

 仮想通貨を初めとしたフィンテック技術も急速に発展している。中国では電子商取引による消費が全体の10%を超える。新しい金融危機は、フィンテックの分野が発生源になるという指摘もある。

 もう一つの重要な変化は中国などアジアの発展だ。米欧先進国や日本がこの10年間横ばいや微増の成長にとどまるのを横目に、中国やインド、東南アジア諸国などは5-10%の成長を実現。存在感を急速に拡大した。

 格差拡大も重要なポイントだ。米国では一部の大金持ちと没落する中間層以下の格差が拡大し、それが2016年のトランプ大統領当選の一因になったいわれる。英国のBrexitも、同様に取り残された人々の反乱という面がある。1990年以降進んだグローバリズムは、格差の拡大という問題を生み、先進各国はそれに対する有効手段を打ち出せなかった。グローバル化は逆流、あるいは見直しの局面にあるといってもいい。

▼ワシントン・コンセンサスvs北京コンセンサス

 金融危機後、金融機関中心の強欲資本主義が強く批判され、1980年代以降の市場原理主義の抜本改革を求める意見が強まった。しかし、その後の議論は思うように進まず、見直しも中途半端なものに終わっている。

 こうした中で磁力を強めたのが中国的な国家資本主義だろう。中国経済はこの10年、様々な問題を抱えながらも高成長を維持した。いまや経済規模は3位の日本の2-3倍に達し、アリババやテンセントなどの先端企業も育っている。アジアやアフリカの新興国には米欧ではなく中国の経済発展モデルをお手本にしようという声が強まる。

 リーマン・ショック10年の米欧のメディア報道では金融システムに焦点を当てるものが多い。しかし、経済体制のあり方や国家運営の価値観を巡るより大きな領域でも、様々な問題を提示している。その論議は、いまだ十分に深まっていない。

◎ 10年目「懲りてないな」と口に出す
◎ 強欲が頼りの経済に薄化粧
◎ 独裁制そろそろ破綻のはずなのに
◎ 世の怒りトランプ生むとは想定外

2018.9.17

  

 

2018年8月19日 (日)

◆トルコ・ショックが意味するもの 2018.8.19

 米国とトルコの対立を引き金に、トルコ経済の混乱が深まりリラが急落。その影響が世界に波及して新興国経済を揺るがしている。 NATO同盟国だったはずの両国の亀裂は、地域安保や中東情勢も揺さぶる。トルコ・ショックは世界が直面する様々な課題を浮かび上がらせる。

▼深まる対立

 米・トルコの対立がのっぴきならぬ状況になったのは7月末から。その後3週間の経緯は以下の通りだ。

・7月末 トルコが拘束している米牧師の解放を巡る交渉が決裂。
・8月1日  米国が制裁第1弾。トルコの閣僚の資産凍結など。
・4日 トルコが対抗措置。
・6日 トルコ・リラが下落。1ドル=5.2リラ水準に。
・10日 トルコが中期経済計画発表。中身は具体性を欠く。
    リラが一時前日比2割下落(1ドル=6.8リラに)。
    エルドアン大統領が国民にリラ買い支え要求。
    トランプ米大統領が制裁の第2弾(鉄鋼・アルミ関税上乗せ)発表
・13日 リラが一時1ドル=7.2リラまで下落。
    中銀・当局が銀行の準備金引き下げ。先物取引規制強化などの措置
    米がF15の売却禁止
・14日 ラブロフ・ロシア外相がトルコ訪問。
・15日 トルコが報復第2弾を発表。米からの自動車、ウィスキー関税強化など
    カタールがトルコに資金支援(150億ドルの投資) 
    エルドアン大統領が独メルケル首相と電話会談
・16日 エルドアン大統領が仏マクロン大統領と電話会談
    ムニューシン米財務長官が追加制裁示唆
    トルコが拘束していたアムネスティの事務局長、ギリシャ兵士解放
・17日 トルコ裁判所が牧師解放申請改めて却下
    S&P、ムーディーズがトルコ国債格下げ(投機的の中で一段下げ)
・18日 トルコ大型連休入り

 さながら報復が報復を呼ぶチキンレースの様相だ。強烈な個性の2人の指導者の争いは、劇ならば面白い。しかし世界の平和と安定をゆるがすようなら、冷笑しているわけにもいかない。。

▼新興国経済への波及

 トルコ・リラ下落の影響は新興国経済に波及した。主な事例は以下の通りだ。

・アルゼンチン ペソが下落。8月13日に40%→45%に利上げ。
・インドネシア ルピアに下落圧力。8月15日に利上げ。今年4回目。
・インド: ルピーが下落。8月1日に利上げ。

 米国は2017年に3回の英上げを実施した後、2018年も3月。6月に利上げを実施。さらに年内に1-2回の利上げが見込まれる。米利上げ加速の観測を背景に、新興国から資本流出の圧力が強まっている。

 そんな地合いのなかでトルコ・ショックが起きた。影響はまず、経常赤字が多額であるなど経済条件の弱い国を直撃。アルゼンチンやインドネシア、インドの通貨が下落した。

 中国の人民元は、米中貿易戦争激化への懸念もあり下落基調が続いている。世界経済への影響とおいう面では、この動きも不気味だ。

 世界経済はここ数年、3%台の成長を実現。「適温経済」とも呼ばれてきた。このバランスを崩すシナリオとして懸念されてきたひとつが市場の混乱だ。貿易戦争激化による経済減速も懸念される。

 混乱は今のところ、一部新興国に限定されている。しかし、トルコ・ショックは、世界経済がそうしたリスクを抱えている現実を改めて浮かび上がらせた。

▼安全保障への影響

 トルコ・ショックの影響は経済にとどまらない。地域の安全保障や中東の枠組みへの影響も重要だ。

 米トランプ政権が今回、トルコに対して強硬姿勢を崩さないのは、中東戦略全体の一環というより、11月の中間選挙をにらんだ面が大きい。拘束(自宅軟禁)されている牧師は、米福音派。選挙で支援を求めるためには、強い姿勢が必要との判断だ。しかし、その影響は(多分)意図に反して広範囲に拡散する。
 
 2011年のアラブの春以降の中東情勢は複雑に動いた。シリア内戦、「イスラム国」の台頭、イラク戦争後の同国情勢の変化、イラクやシリア、トルコのクルド人の自治拡大の動きなどがあり、それぞれが微妙に川見合う。こうした中で米国はイラクからの戦闘部隊撤退など関与の縮小を進めた。

 トランプ政権の発足後はイスラエル寄りへの傾斜、対イラン強硬姿勢などを鮮明にした。しかし、中東への関与縮小の流れは変わらない。

 トルコとは対「イスラム国」では共闘したが、クルド人への姿勢などでは立場が異にする。ただ米国とトルコがNATO加盟国である事実は重いはずえだ。

 そうした微妙なバランスだったところに、今回の亀裂の表面化。今後の手打ちの行方も見えない。中東情勢は今後どんな方向に転んでもおかしくなく、不確実性は一段と高まった。

▼中ロの中東戦略とトルコ・欧州関係

 行方は読みがたいが、注目すべきポイントはいくつかある。

 一つはロシアや中国だ。ロシアはシリア内戦の仲介などを通じ中東への影響力を拡大する姿勢を見せている。シリア問題ではトルコやイランと一部で協力している。今回もラブロフ外相をトルコに派遣し、米国の姿勢を批判した。トルコに接近する姿勢を隠さない。

 中国は中東各国と経済面でのつながりを強化し、影響力の拡大を狙っている。今後トルコと米国の関係が冷えれば、その隙間を狙いトルコとの関係強化に動くのは自然だ。

 もうひとつは欧州との関係だ。トルコのエルドアン政権が2010年代以降強権色を強めたのに対し、EUは人権侵害を批判。EUとトルコの関係は冷却化した。トルコのEU加盟交渉も完全にストップした。

 しかし2015年の欧州難民危機以降、状況に変化が生じている。EUはこの問題でトルコの協力を仰がざるを得ず、事実2016年に難民問題で合意をまとめた。人権問題などでトルコ批判をしつつ、水面下では手を握る複雑な関係だ。

 今回もメルケル独首相やマクロン仏大統領がエルドアン大統領と電話協議して協力を確認。関係維持の姿勢を見せつける。トルコ側も、スパイ容疑で拘束していたギリシャ兵を解放したり、アムネスティ・インターナショナルの事務局長を釈放するなど欧州への配慮を示した。

 米牧師の釈放という一つの問題から、各方面に展開を見せてる今回の動き。中東情勢、世界経済、難民危機、米国と中ロ、欧州の国際戦略など、大きな課題が複雑に絡み合う構図を示す。

◎ 通貨危機? 牧師の話だったのに
◎ 個性派のケンカといつまで笑えるか

2018.8.19

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