カテゴリー「アメリカ」の127件の記事

2021年3月29日 (月)

◆米欧の対中制裁と中国の対抗 2021.3.28

 米EU英カナダがウイグル問題で対中制裁を発動した。前週に米中外交協議で激しくやり合ったのに続く動きだ。米国を中心として西側の陣営と、中国(およびその陣営)の対立は、様々な外交戦を繰り返しながら深まっているように見える。

▼ウイグル問題で人権侵害を批判

 ウイグル問題での制裁は、EU、英国、米国、カナダが22日に相次ぎ発表した。中国のウイグル人の扱いが、人権侵害に当たるという理由だ。

 今年に入り、ウイグル問題は相次ぐ動きを見せた。

 米国は1月に中国によるウイグル人弾圧がジェノサイドと認定。新疆ウイグル自治区で生産された綿製品の輸入を禁止した。

 2月には中国が、ウイグル問題を報じた英BBCインターナショナルの放映を禁止。カナダやオランダの議会が、中国によるウイグルの扱いをジェノサイドとする決議をした。

 そして今回の制裁だ。制裁の対象はウイグル問題の関係者など。実際の効力は限定的だ。それよりも、中国に対する「強い姿勢」を示す意味合いが大きい。

▼米中対立

 米国はトランプ政権下で中国に対する強硬姿勢を強め、高率関税の導入やハイテクでの締め出しを図った。南シナ海問題で中国の主張を違法と断じるなど安全保障面でも対決姿勢を強めた。

 2020年に中国が香港国家安全法を導入し、香港の直接統治を強めると、米港は「香港自治法」を採択。当局者への制裁などを実施した。

 バイデン政権はトランプ政権時代と異なり、欧州など同盟国との協調を強調する。また、地球温暖化問題などでは中国に協力を呼びかけている。しかし、中国に対し強い姿勢で臨むことは変わらない。

 今回の制裁で、米国および欧州同盟国と中国の緊張が一層高まった。

▼中国外相の中東訪問
 
 一方中国は前週、王毅外相がトルコ、サウジアラビア、イランを訪問した。イランとは通商や安保協力で25年間の協定を結んだ。

 イランも核問題などを巡り、米国との対決が続く。協定には、中国とイランが協力して、共に米国に対抗する姿勢を示す狙いがあるとみられる。

 外相はトルコでは新型コロナのワクチン協力などを協議し、サウジとも経済などの協力を協議した。

▼マスク・ワクチン外交

 中国は昨年以降、マスクやワクチン外交で東南アジアやアフリカとの関係強化に努めてきた。今回の中東外交も、この脈略で捉えるべきだろう。

 中国はロシアとの関係強化にも余念がない。世界が米国を中心とした陣営と、中国を中心とした陣営に分かれいがみ合うーーこんな冷戦時代のような関係も、荒唐無稽ではない状況だ。

▼中国の存在感

 一連の動きからは、中国の存在感の拡大も改めて感じる。そもそも米国がこれだけ対中警戒を強めるのは、中国の経済力、国際的影響力が急速に拡大しているからだ。

 今回の中東外交も、中国の国際的な地位向上を感じさせる。王毅外相は楊チエチー中国共産党政治局員に次ぐ中国外交のナンバー2だが、25人いる政治局員でもなく中国内の序列は高くない。

 しかし今回の訪問で、トルコではエルドアン大統領、サウジではムハンマド皇太子、イランではロウハニ大統領と、いずれも国のトップと会った。米国務長官級の扱いと言っていいだろう。

 既存の外交秩序が変わっていることは、明らかに見て取れる。

◎ 中国をキーワードにして地球(よ)は回る
◎ 外相と元首の会談が大見出し

 

2021.3.28

 

 

2021年1月24日 (日)

◆バイデン新政権の行方 2021.1.24

 米国にバイデン政権が発足した。コロナ感染が続き、米社会の分断が一段と進む中での就任。米中対立など、外交上の懸案も山積だ。新政権はどんな方向に進むのか。

▼異例の就任式

 1月20日、ワシントンの連邦議会議事堂前で行われたバイデン大統領の就任式は異例ずくめだった。新型コロナの流行下で、人々の集合は制限。式場から続く広場(ナショナル・モール)に人々の姿はなく、何万本もの星条旗が代わりに立てられた。

 1月6日のトランプ支持派による議会占拠事件を受け、ワシントンは厳重警戒。市内のあちらこちらにバリケードが築かれ、2万5000人(米国がアフガニスタンやイラクに派遣する兵士より多い)もの州兵が招集され警備に当たった。

 コロナと抗議活動の暴徒化への警戒。就任式は米国の現状を図らずも映し出した。

▼結束を訴え

 就任演説で強調したのが、国民の結束だ。結束(Unity)という言葉を何度も繰り返した。民主党と共和党、保守とリベラル、地方と都市などの分断の克服を呼び掛けた。

 

 裏を返せば、それだけ米国の分断が深刻ということだろう。1980年代頃から指摘される米社会の分断は、経済的な格差などに加えイデオロギー的な面も加わり、トランプ時代の4年間で一層深刻になった。トランプ氏は152年ぶりに、次期大統領の就任式を欠席した。

▼コロナ、国際協調

 バイデン氏は演説でまた、コロナ禍克服への戦いを強調。国際的には、トランプ時代の米国第1政策を改め、同盟関係を修復すると力説した。

 ただし、具体的な政策に触れることはなく、米外交の最大の関心事である対中関係について語られることはなかった。

▼試される時

 演説は、現在が試される(testing)時であると指摘。具体的に民主主義と真実への挑戦、コロナ、格差(不平等)の拡大、人種差別、気候変動などに直面していると挙げた。世界における米国の役割も問われていると語った。米国や世界が直面する難問について、率直に語ったと位置付けられるだろう。

 就任式の後、バイデン大統領はパリ協定への復帰など15の大統領令に署名。政権が始動した。

▼熱狂から常識

 就任式から熱狂は感じられなかった。12年前のオバマ大統領就任時のような、明るい希望に満ちた雰囲気もなかった。

 一方で、演説はバランスがとれ、内容は極めて常識的で奇をてらったところはなかった。トランプ前大統領のような危うさは感じられない。バイデン政権の特徴を映していたと言えるかもしれない。 

▼今後4年間の行方

 バイデン政権がトランプ時代の極端な政策の一部を元に戻すことは確実だろう。トランプ政権時代に悪化した欧州など同盟国との関係を修復し、国際協調路線に戻るのは間違いない。パリ協定への復帰はその代表だ。民主主義を尊重する姿勢を強め、人種差別是正も強めるだろう。

 しかし、米社会の分断の流れを逆転するのは容易ではない。外交政策の中心となる対中政策の行方も不透明だ。ブリンケン国務長官候補は、トランプ政権の対中強硬姿勢は基本的に正しかったと議会証言した。トランプ政権時代からの基本線を変えずに、何を変えるのか。

 そもそも、バイデン政権は弱い政権になるとの観測も少なくない。ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏などが指摘する。バイデン時代を見る際、政権の弱さも要素になるかもしれない。

 バイデン政権は4年間で何をすることになるのか。何ができるのかーーこの基本的な問いを抱きながら、動向を眺める必要があるだろう。

 

・バリケードと無人の広場の就任式
・初演説 世界の課題はよく分かる
・熱狂消え 常識前面 新政権
・「結束」の声よく届く半数に
・平凡がマシと感じるトランプ後

 

2021.12.24

◆トランプ時代の4年が残したもの 2021.1.24

 米国にバイデン新政権が発足し、トランプ政権が終わった。米史上異例ずくめだったトランプ大統領の4年間はどんな時代だったのか。要点を整理する。

▼米国第1の外交

 トランプ時代のレビューは、バイデン氏当選確定の際にもまとめている。

 (◆米大統領選をどう読む――トランプ時代の4年間と今後の世界 2020.11.8)

 ここでは、その後の動向も加え少し色彩を変えた切り口から眺めてみたい。

 トランプ政権が4年間に行った政策や事件などへの対応を振り返ると、従来の政権とは一線を画すものが多い点に改めて気付く。

 外交では「米国第1」を基本政策に据えて国際協調路線を後退。地球温暖化のパリ協定やイラン核合意から離脱した。G7首脳会議では合意したはずの宣言への署名拒否や途中帰国などが物議を呼んだ。

 対中強硬姿勢を強め、貿易やハイテク、安保の分野で米中対立を激化させた。中国からの輸入品への関税は大幅に高まり(中国では米製品への関税が増加)、ファーウェイなどハイテク企業は米市場から締め出された。

 同盟関係にある欧州との関係を冷却させた。中東では親イスラエル・反イランの姿勢を鮮明にした。エルサレムをイスラエルの首都として認め、イスラエルとUAEなどの国交樹立を支援した。イラン司令官を暗殺した。トランプ政権の4年間で、中東では従来の国際合意が覆され、後戻りできない既成事実が積み重ねられた。

▼分断と対立を助長

 国内的に目立ったのは、社会の分断と対立を助長するような行動だ。トランプ氏は2017年の就任早々、厳格な移民政策を打ち出し、イスラム諸国などからの移民を禁止や規制した。メキシコ国境に新たな壁の建設に動き、不法移民に対する措置を厳格にした。

 反人種差別運動などでは、白人警察などの肩を持つような発言をし、社会の対立を助長した。最高裁判事の人事などでは保守派の利益を貫いた。

 経済的には景気刺激を優先。また環境保護よりエネルギー産業を優先する姿勢も目立った。

 これらの判断は、支持基盤の宗教保守や白人労働者層などの利益を優先させていた面が強い。国民全体の利益を考えるというより、支持基盤を優先。これが分断を助長することにつながった。

 民主主義の尊重を重視しないかのような姿勢も目立った。自身の納税情報などは、最後まで公開を拒否した。

▼統治能力の欠如とスキャンダル

 政策の実行や統治面で欠陥を露呈する場面も多く、スキャンダルも目立った。

 トランプ政権は発足当初から、ロシア疑惑、ウクライナ疑惑など相次ぐスキャンダルに見舞われ、2019年にはトランプ大統領がウクライナ疑惑で下院から弾劾訴追を受けた。

 トランプ政権内はごたごたが続き、閣僚や政府高官の辞任や解任が相次いだ。政権の機能不全が指摘される場面も少なくなかった。

 政策遂行能力の欠陥が露呈する形になったのが新型コロナ対策。政権は感染の押さえ込みに失敗し、米国の感染者、死者は世界で最大だ。これが結果的に、トランプ氏の再選を妨げることになった。

▼ポピュリスト的な手法

 メディアの使い方も異例だった。伝統的なマスメディアよりツイッターなどSNSを重視し、国民に直接訴える手法を取った。SNSは複雑な事象を正確に伝えるというより、物事を単純に伝えがち。視聴者が受け止めやすい情報ばかりを流すポピュリスト的な色彩もある。SNSの視聴者は、自分の見たい情報ばかりを見るという特性もある。これが国民の分断を一層加速させる結果にもつながったとの指摘も多い。

 ポピュリスト的な情報発信や政治手法は、政権の最終盤でトランプ氏自身にしっぺ返しで戻ってきた。1月6日にワシントンで選挙結果に抗議するデモを煽った結果、参加者の一部がトランプ氏の予想を超えて暴徒化。議会に乱入した。国民のトランプ氏への批判は強まった。

 ツイッターやFBなどのSNSはトランプ氏のアカウントを停止。SNSとの関係は全く次元の異なる段階に入った。この辺の動きも、従来の大統領にはない異例のものだ。

▼トランプ政権の遺産

 トランプ氏就任の際、政権の役割として第2次大戦後に作られた秩序の再編役になるとの分析があった。米中対立は「新冷戦」や「デカップリング」と呼ばれる状況になり、この路線はバイデン政権になっても大きく変わることはなさそうだ。中東情勢も、対イスラエル政策など後戻りができない政策をいくつも重ねた。

 国内的に、トランプ流の影響がどこまで残るかは不透明。トランプ氏のポピュリスト的な手法が受け継がれる可能性はゼロではない。民主主義軽視と見られるような傾向が残るとすれば深刻だ。貧しい白人層に焦点を当てたトランプ氏の問題意識が受け継がれるかどうかも分からない。

 トランプ氏への毀誉褒貶は分かれ、評価は今後も揺れそうだ。現時点で明確なのは、米中関係や中東政策の遺産だけは残るという点だろう。

2021.1.24

 

 

2021年1月17日 (日)

◆バイデン政権発足前夜ーートランプ弾劾で異例の空気 2021.1.17

 バイデン政権発足まであと数日。6日に連邦議会議事堂選挙時間があったワシントンは警戒態勢の下にある。

▼トランプ弾劾訴追

 米下院は13日、トランプ大統領を弾劾訴追した。議会占拠事件を、トランプ氏が扇動したという主張だ。野党民主党議員だけでなく、与党共和党からも10人が賛成に回った。トランプ維持は2019年12月にもウクライナ疑惑を巡り弾劾訴追を受けている。大統領が任期中に2回の弾劾訴追を受けるのは米史上初めてだ。

 政権終了まであと1週間。上院での弾劾裁判は、バイデン氏就任の後になる見込みだ。この時期の弾劾訴追はもちろん異例だ。

 民主党はトランプ氏退任後の影響力を削ぐ狙いとの観測がある。一方共和党内にも、トランプ氏の影響力排除を願う意見もあり、今後の展開は複雑な要素が絡む。

▼警戒態勢

 ワシントンは厳重警戒の下にある。多数の州兵などが集結され、ホワイトハウス周辺などはバリケードに囲まれた。

 20日の就任式に合わせて抗議デモが計画されているとの情報もある。雰囲気は重々しい。英BBCは、"America on alert"と表現する。

▼IT大手のトランプ氏へのサービス停止;それに対する批判

 ツイッターやFBなど大手SNSは、トランプ氏のアカウントを永久に停止した。アマゾン子会社のAWSは、トランプ支持者の利用が多い新興SNSパーラーへのサービスを停止した。グーグルやアップルは、パーラーを配信サービスから除外した。

 各社が停止を決めたのは、暴力を先導しているとの理由。しかし、判断が恣意的との批判もある。

 ドイツのメルケル首相は、サービス停止を決めるのは企業ではなく、法律に沿うべきだと主張。ツイッターを批判した。メルケル氏はこれまでトランプ米大統領の政策や手法を厳しく批判し、反トランプ色を強く打ち出してきた。そのメルケル氏によるツイッター批判だけに、重みがある。

 フランスのルメール経済相やロシア反体制派のナワルヌイ氏もツイッターなどの判断を批判する。SNSによるトランプ氏アカウント停止問題への反応は、米国と欧州でかなり異なる。

 ネットと表現の自由を巡る議論は複雑。簡単に結論が出るものではない。ただ、今回のサービス停止を機に、封印されていた問題が表面化したのは間違いない。トランプ氏支持者は大手SNSへの批判を強める。パーラーはAWSを独禁法違反で提訴した。社会の分断がまた拡大する懸念が強まる。

▼就任式への関心

 米大統領就任式は、これまで祝福と期待に満ちたものであることが多かった。今回は全く異なる。物々しさと緊張、社会の分断の空気が漂う中での就任となる。

 社会の分断、コロナ、対中関係――米国が抱える問題は数多く、根が深い。そこにトランプ氏弾劾の問題も加わった。

 米政治は当面、バイデン新大統領の政策とともに、トランプ維持や共和党の動きからも目を離せない状況が続く見通しだ。

 正常とは程遠い状況下での新大統領の就任式。世界にどんなメッセージを発し、それを世界がどう受け止めるか。極めて重要だ。

◎ 団結も弾劾も願う門出の日
◎ 弾劾を「またか」に変えた一時代

2012.1.17

 

 

2021年1月11日 (月)

◆米議会占拠の衝撃 2021.1.9

 米ワシントンでトランプ支持者が連邦議会を一時占拠した。社会に衝撃を与え、米民主主義に汚点を記したのはもちろんだが、影響はトランプ大統領への批判の急拡大、政治の力関係の変化、SNSによるアカウント停止など様々な方面に及ぶ。事態はなお流動的だが、現時点での情報を整理しておく。

▼約200年ぶりの議会攻撃

 連邦議会への乱入があったのは1月6日。議会では昨年11月の大統領選を受け、バイデン氏当選の最終確認を行うための審議が行われていた。

 数千人規模と言われるトランプ支持派が付近に集まり、抗議活動を展開した。トランプ氏も集会で演説し、議事堂に向かってデモ行進をするよう呼び掛けた。これが昼ごろの出来事だ。

 支持者は議会周辺に集まり、2時ごろに一部の過激派が突入。3時間以上にわたり居座り、破壊活動を行った。上下両院は一時休会。警察官がトランプ支持者を排除する過程で衝突。少なくとも5人が死亡した。混乱は夜まで続いた。

 米議会が攻撃対象となったのは、米英戦争時の1814年以来約200年ぶり。米民主主義に汚点を記す出来事になった。

▼トランプ氏への批判拡大

 事態を受けてトランプ米大統領への批判が野党民主党はもちろn、与党共和党からも高まった。

 トランプ氏は支持者に対し、活動を煽るような発言やSNS発信を繰り返した。SNSで「平和裏に」と呼び掛けたのは議会突入後30分以上たってから。「帰宅を」と呼び掛けたのは、その2時間後だった。ホワイトハウスは州兵の派遣を発表したが、トランプ氏は反対。ペンス副大統領が決断したと、米メディアは報じる。

 民主党はトランプ氏の罷免や弾劾を求める動きを示している。各国首脳も議会突入を厳しく非難、間接的にトランプ氏への批判をにじませた。

▼影響力に打撃か

 事件は政治力学のバランスにも影響している。共和党のトランプ支持派は議会の審議で、バイデン氏の当選に疑義を呈する発言を繰り返していた。しかし議会乱入を機にそうした議論は全く止まった。バイデン氏を次期大統領に選ぶ手続きが円滑に終了した。

 トランプ氏は7日の動画メッセージで、バイデン次期大統領への政権移行に協力することを表明した。事件を巡る批判が集中したのを受け、態度を軟化せざるを得なかった可能性がある。

 チャオ運輸長官など政権の幹部が相次いで辞任を表明。トランプ政権は最終盤にきて、求心力が一気に低下した。

 トランプ氏は退任後も共和党内に強い影響力を残し、2024年の大統領選出馬を探るとの見方もあった。その影響力が、急速に衰える可能性がある。

▼SNS・メディアとの関係にも一石

 事件を受けて、ツイッターとファイスブックはトランプ氏のアカウントを永久に凍結すると発表した。暴力を煽る内容があり、規約に違反したとの理由だ。

 ツイッターはトランプ氏が大統領選出馬時から情報発信のツールとして活用し、8000万人以上のフォロアーを持つ。トランプ氏は決定を、言論の自由に反すると批判。別のSNSなどを使って情報発信していく姿勢を示した。

 ツイッターなどの決定は、SNSのあり方やメディアと政治権力との関係についても物議を醸す。

 SNSや他のネットサービスは、ユーザーが発信する情報の内容に責任を持たないでいいという制度(米通信品位法230条)の下に発展してきた。情報の(取捨選択などの)編集権を放棄する立場は、ビジネスモデルの土台だった。

 しかしフェイクニュースやヘイトスピーチなどを見逃すような運営に世論の批判が高まり、規制の見直し議論が活発になっている。表現の自由と不適正情報の規制のバランスをどう取るかという問題と、プラットフォーマー(SNSやネットサービス運営者)の責任という問題が絡み、議論の行方は難しい。

 そこにトランプ氏のアカウント停止。議論がさらに広がりを持ち、国や民主主義の根底に関わる点に無縁ではいられない。それは、世界の表現の自由や、政治とメディアの関係にも関係してくる。

▼トランプ時代の終わり方

 トランプ氏が2016年に大統領選に当選した一因は、白人貧困層などの支持を得たため。その背景には、米社会の格差拡大や分断があったと指摘される。

 今回の事件で、トランプ支持層そのものへの批判が強まる可能性もある。トランプ現象があぶりだした社会の問題点が注目を失うとすれば、取り残された人々は別の扇動者や不満のはけ口を求めてさまようのか。

 トランプ時代の終わり方も、米社会の行方に影響する。

 

 

 

 

 

2020年11月29日 (日)

◆NY株3万ドル超が映す風景ーーカネ余り、IT、コロナ 2020.11.29

 米国はじめ世界の株式市場で価格上昇が進んだ。NYダウは24日、3万ドルを突破。2017年1月に2万ドルを超えてから4年弱で大台超えした。1万ドル→2万ドルに17年かかったのと比べると、極めて急ピッチだ。

▼コロナで再び金融緩和

 株高の背景にあるのがカネ余りである。トランプ政権は景気優先の経済政策を進め、株価上昇を後押しした。FRBは2018年までは金融正常化(リーマン・ショック後の緩和→引き締め)を模索したが、2019年から緩和に転じた。米中貿易摩擦激化などに伴う経済失速への対応を優先したためだ。

 そこに加わったのがコロナ。2020年に入ると先進各国はコロナ対策のため、金融緩和や財政出動を加速した。大量の資金が、株式や不動産などに流入している。

▼IT企業への資金集中
 
 株式市場では銘柄の選定が進んだ。特に上昇が顕著だったのが大手IT企業。GAFAにマイクロソフトを加えた大手5社の時価総額は、4年間で3倍に拡大(市場全体は1.5倍)し、時価総額の合計は7.1兆ドルと日本株全体の時価総額を上回る。

 コロナ流行でテレワークなどが普及。経済全体が縮小する中でITは拡大している。米国ビッグ5の他に、中国のアリババ、テンセントなどの株価も上昇した。

 IT以外でも、新技術などを背景に急成長する企業に資金が集まる。電気自動車のテスラの時価総額は5000億ドルを超え、自動車業界2位のトヨタの2.5倍以上だ。

▼実体経済との乖離

 株高にはリスクも潜む。世界の実体経済はコロナの影響で大幅なマイナス成長に陥っている。そんな中、株価だけは急上昇し、乖離は嫌でも目に付く。バブルの懸念は消えない。

 過去を振り返っても、世界経済は約10年ごとに危機を経験している。リスクは膨らんでいる。

 市場の危うさを感じながらも、コロナ対応で益々金融緩和や財政支出を進めざるを得ない。世界経済はそんな状況下にある。

▼時価総額ランキング

 ちなみに、2020年11月29日現在の世界の主要企業の時価総額は以下の通りだ(出所https://companiesmarketcap.com/、国名なしは米国企業)

1.アラムコ(サウジ)21(単位1000億ドル)
2.アップル 19.8
3.マイクロソフト 16
4.アマゾン 16
5.アルファベット(グーグル) 12
6.フェイスブック 7.9
7.アリババ 7.4
8. テンセント 7.1
9.テスラ 5.5
10.バークシャー 5.4
11.ビザ 4.6
12.TSMC(台湾) 4.4
13.ウォルマート 4.2
14.サムスン(韓国) 4.0
15.ジョンソン&ジョンソン 3.7
16.JPモルガン・チェース 3.6
17.P&G 3.4
18.マスターカード 3.3
19.エヌビディア 3.2
20. 貴州茅台酒(中国) 3.2
21.ネスレ(スイス) 3.2

◎ 疫病下、未曽有の不況に株ブーム
◎ バブルだろ?怖くて誰も言わないが
◎ まず補助金、ツケは後から考えよう
◎ 持続性!掛け声上げつつお金刷る

2020.12.29

 

2020年11月15日 (日)

◆米大統領選後の風景――混乱と対立続く 2020.11.15

 米大統領選で勝利宣言したバイデン氏が次期政権に向けた準備を始動した。しかし、トランプ大統領が依然敗北を認めないなど、混乱と対立は続き、異例の風景になっている。

▼次期政権の準備
 バイデン氏は11月7日に勝利宣言を行った後、欧州各国首脳などから祝辞を受けた。コロナ対策の専門家チームを立ち上げたほか、首席補佐官など人事を発表。英独仏など世界各国との電話会談を実施している。

 移行チームのHPを立ち上げ、優先課題としてコロナ対策、経済対策、人種問題、地球温暖化対策の4つを挙げた。ここでコロナや外交問題で相次ぎ情報を発信している。

 政権問題で期待を抱かせる面は少なくない。外交では米欧関係の改善を期待できるし、米国のパリ協定復帰は地球温暖化委問題の前進を期待させる。人種問題では、少なくともトランプ時代のように対立を煽ることは減るだろう。

 ただ、コロナ対策に加え、対中関係の行方、米社会の分断や格差問題への対応など、重要問題の行方・方向性は不透明だ。

▼米社会の分断一層鮮明に

 選挙で鮮明になった米社会の分断は、選挙の後に一層鮮明になった感がある。トランプ大統領は依然敗北を認めず、選挙結果に異議を申し立てる。14日には首都ワシントンでトランプ支持派の大規模な集会も開かれた。

 現政権からバイデン次期政権への政権移行の作業は全くない。予想したこととはいえ、嘆息ものだ。

 大統領選と同時に行われた議会選では、ジョージア州で上院の決着がつかず、来年1月の再投票に持ち込まれることになった。下院では民主党が過半数を維持したものの、議席を減らした。新政権の議会運営の行方も流動的だ。

▼混乱と対立の印象

 米大統領選は米国の様々な面を表面化させ、それぞれの時代の印象を残す。それが民主主義のこともあれば、社会の進歩のこともあった。混乱もあれば(2000年のブッシュvsゴアの法廷闘争など)、変化(1980年、1992年、2008年など)が印象的だったこともある。米国の若さやエネルギーが際立つこともあった。

 今回の大統領選のイメージは、民主主義や米国の底力とは言い難い。それよりも混乱と対立が際立つ。この印象が「今のところは」となれば世界のためにも好ましいが、客観情勢は楽観を許さない感じがする。

2020.11.15

 

 

2020年11月 8日 (日)

◆米大統領選をどう読む――トランプ時代の4年間と世界の今後 2020.11.8

 米大統領選は民主党のバイデン元副大統領の当選が確実になった。ただ開票を巡る混乱はなお続いている。選挙結果から読み取るべきものは何か。トランプ大統領時代の4年間で米国と世界はどのように変わり、今後どうなっていくのか。

▼バイデン氏当選の見通し、混乱は続く

 11月3日投票の大統領選は、まれに見る大接戦になった。勝敗の行方を左右するペンシルベニア、ジョージアなどの激戦区は、いずれも得票率の差が1%未満。投票から4日後の11月7日になって主要メディアは一斉にバイデン氏当確を打ち、同氏は勝利宣言をした。ドイツのメルケル首相や英国のジョンソン首相など海外の首脳はバイデン氏に祝電を送った。しかしトランプ氏は開票に不正があったとして裁判に訴える姿勢で、混乱はなお続く見通しだ。

 混乱の理由の1つが郵便投票。今回の選挙は新型コロナ流行拡大の影響で事前投票が多く、郵便投票は相当の割合を占める。しかし郵便投票のルールは、州により規程が異なり、例えば選挙当日の消印があれば選挙後でも受領する州がある。トランプ大統領は選挙前から郵便投票が不正の温床と主張し、実際不正があったなどと主張する。ちなみに、今回選挙は約1億6000万人が投票し、投票率は66%。事前投票は1億を超え、うち6500万が郵便投票だった模様だ。

▼トランプ氏の予想外の健闘

 事前予想ではバイデン氏が圧倒的にリードしていた。全米平均の世論調査では一時約10%、投票直前でも5%を大きく上回ってリードしており、民主党内には地滑り的な圧勝を期待する声もあった。

 しかし蓋を開ければトランプ氏が健闘。バイデン氏は民主党支持者が多く投じたと言われる郵便投票の上積みで、ようやく得票をひっくり返した格好だ。英FT紙は”Biden landslide hopes turn to nail-biting finish"(地滑り的勝利の期待は、ハラハラの結果になった)と描写した。議会選でも元々過半数を得ていた下院は制したものの、上院は困難だ(一部再決戦投票になるため、最終結果は現時点では未定)。

▼国民の分断

 バイデン氏勝利の理由を分析すれば、「反トランプ」の言葉に尽きる。中でもコロナ対策の失敗と、人種間の対立は批判の対象になった。しかし、それでも有権者の約半分はトランプ氏に投票した。米有権者はバイデン氏支持とトランプ氏支持に2分されたと言っていい。

 トランプ支持者は選挙後も、開票を巡り不正があったというトランプ氏の主張を支持し、抗議活動を展開する。衝突の懸念も消えない。米国では過去数十年間、社会の分断が指摘されてきたが、トランプ時代に亀裂が一層深まり、今回の大統領選でさらに深刻化したという分析が多い。

▼トランプ時代の4年間

 トランプ氏の4年間の政策やその影響を振り返ると、以下のような点を指摘できるだろう。

(1)米国社会の分断が加速
(2)米中対立が激化
(3)国際協調→自国利害優先への転換、世界のリーダーとして役割低下
(4)コロナへの不十分な対応(統治能力やリーダーシップの欠如)
(5)世界的に、民主主義が危機に直面

 トランプ大統領は就任時から「米国第1」を掲げ、自らの支持基盤である白人の保守層や貧困層らの利益を重視する政策を進めた。雇用確保の名の下に、移民規制の強化や関税の引き上げなどを実施した。一方で、人種差別問題への対応などには後ろ向きだった。結果、社会の内向き化傾向に拍車がかかり、米社会の分断が進んだ。

▼米中対立

 国際的には、米中対立激化のインパクトが最も大きいだろう。米国は1990年代-2000年代にかけて、中国を国際社会に受け入れることが世界の利益になるという「関与政策」を取ってきた。しかし、2010年代に入ると中国とを競争相手として捉える見方が強まってきた。トランプ氏はそうした変化を政策として具体化し、対中強硬策を相次ぎ打ち出した。

 2018年には中国からの輸入品に相次ぎ高率関税を導入し、貿易戦争を仕掛けた。その後ハイテク分野でも強硬策を強め、ファーウェイとの取引禁止などの措置に踏み切った。さらに南シナ海問題で中国の主張を違法と非難したり、欧州諸国に対中同盟を呼び掛けるなど、安保やイデオロギー面でも対中対立姿勢を明確にした。

 米中の対立が、経済面での分断を拡大していくという「デカップリング」の見方も強まってきた。米中の新たな対立を「新冷戦」と見る分析もある。

▼国際協調→自国利益、欧州、中東政策の変化

 米国は従来、国際協調や多国間主義を外交の基本にしてきたが、トランプ政権は自国利害優先に軸足を移した。イランとの核合意やパリ協定から離脱。欧州との関係は、第2次大戦後最悪とも言われるまでに冷え込んだ。

 中東では反イラン、親イスラエルの姿勢を強め、イスラエルの首都としてのエルサレム認定、イスラエルとUAE、バーレーンなどの国交樹立なども演出した。中東で築いた既成事実は、バイデン大統領になっても元に戻すのは困難だろう。
 
▼コロナが投げかけた問題ーー統治能力やリーダーシップ

 新型コロナの流行拡大は、トランプ政権と米国の問題を図らずも浮かび上がらせた。米国の感染確認者は間もなく100万に達し、死者は20万人を超えるなどいずれも世界最大。世界最高の医療技術を持ちながら、被害も最大という矛盾をさらけ出す。

 背景には、先進国でもまれな国民皆保険でない医療体制、特定の仕事に就く一部の人々に感染のリスクがのしかかる社会構造の矛盾、連邦政府と州政府の思惑の違い、国民の意識など様々な要因がある。しかし、トランプ政権の政策に問題があったのは否定できない。

 トランプ政権は、発足以来人事を巡りいざこざが絶えず、統治上の問題点が指摘された。またコロナ感染など非常時に最も問われるのは、トップのリーダーシップだ。コロナは統治能力やリーダーシップの問題点を露呈したと言っていいだろう。

▼「民主主義の危機」と「世界の枠組み変化」--トランプ時代の世界

 米国が世界のリーダーとして民主主義や開かれた経済などの価値観を守っていこうという姿勢は、トランプ時代に大きく後退した。内向き志向は世界的にも顕著になっている。

 コロナ流行という状況もあり、中国、ロシア、トルコなど強権国家の増加も指摘される。世界中で、民主主義の危機が叫ばれる。これに対し米国が歯止めになるのでなく、トランプ政権がむしろ民主主義の混乱を助長したとの批判が噴出する。

 米中関係の変化。世界の分断。米国のリーダーシップの後退。民主主義の危機ーー世界の枠組みは大きく変わろうとしている。第2次大戦後の世界の秩序がの変更と言ってもいいかも知れない。

 そうした点があらわになったのが、トランプ時代の4年間だった。

▼バイデン時代の課題ーー国際協調の姿勢

 こうした状況の中で、バイデン大統領が誕生する。

 国際的にはトランプ時代の米国第1主義から国際協調主義に軸足を戻し、対欧州関係の改善、パリ協定への復帰などを推進しそうだ。しかし対中関係を以前のような融和姿勢に戻すことはあり得ない。ハイテク摩擦など譲れない部分を守りながら、トランプ氏の強硬姿勢より有効な政策を打ち出せるのか。スタンスは難しい。

 国内的には分断の修復が大きな課題の1つ。バイデン氏は7日の勝利宣言でも国民に団結を訴えた。しかし、今回の大統領選派むしろ亀裂の深さを印象付けた。バイデン氏はトランプ氏と異なり、人種差別問題で人々を煽るような発言はしないだろう。しかし、それが逆に、白人の権利を重視する人などの不満を招可能性すらある。

▼問われるリスク管理能力

 目先、何より重要なのはコロナ対応。そしてコロナで悪化した経済対策だ。コロナについては、マスクの着用強化など簡単にできることもある。しかし、対応はその程度のレベルにとどまらない。

 今後、予測できないリスクが顕在化する可能性もある。感染の再拡大、医療崩壊、金融や経済危機の発生など様々だ。コロナが切っ掛けになって、国際的な紛争が起きる事態もあるかも知れない。そんな非常時にどうするのか。問題は、政策遂行やリスク管理の能力、そしてリーダーシップにかかる。

 大統領選で、国際情勢や非常時のリスク管理が議論されることはほとんどなかった。就任時に78歳となるバイデン氏に問われる責任の重い。そしてそれが、世界の枠組みや民主主義の行方にも直結する。

◎ 型破りと予測不能の4年過ぎる
◎ コロナ禍でもファンが離れぬポピュリスト
◎ 分断の時代が生んだか異端の士
◎ 「民主主義の戦線後退」「放置せよ」
◎ 米中が号砲なしに開戦す
◎ 地球儀の上塗り部分はもう消えぬ
◎ 政治的正しさ(political correctness)戻るか、ふと笑う

2020.11.8

2020年10月25日 (日)

◆グーグル提訴の衝撃 2020.10.25

 米司法省がグーグルを反トラスト法(独禁法)で提訴した。IT大手を巡る大型訴訟は約20年ぶり。大手IT企業に対する規制強化の流れを象徴する動きであり、世界のIT業界の地図を変える可能性がある。

▼競争阻害の疑い

 司法省は20日、首都ワシントンの連邦地裁に、テキサス州など11の司法長官と共に提訴した。グーグルがネットの検索・広告市場で競争を妨げる排他的な行為をし、独占を維持しようとしたと主張した。

 具体的には、(1)スマホメーカーに対し、競合の検索サービスの初期搭載を禁じる独占契約を結んだ、(2)アップルに毎年数十億ドル(最大120憶ドル)を払い、自社の検索サービスを標準搭載させたーーなどが反競争的な行為に当たるとしている。

 グーグルはスマホ利用者は他社の検索サービスも利用できるなどとし、司法省の主張に反論する。

▼GAFAの時代

 今回の訴訟は、大手IT企業に対する批判が強まっている中で起きた。

 IT業界ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)やマイクロソフトなど大手企業への集中が進む。グーグルの検索やユーチューブ、フェイスブックのSNSなどは世界で10億人単位の利用者を抱える。大手IT企業は膨大な顧客のデータを抱え、それをベースに新たなサービスやビジネスを展開している。

 データの蓄積が少ない中小の企業や新興企業は大手に対抗しにくく、GAFAなどへの集中がさらに進むという流れが加速した。

 大手IT企業は時価総額ランキングで世界の上位を独占し、2020年にコロナ感染が拡大すると世界の資金は益々IT業界に流れ込むようになった。

▼大手IT批判~EUから世界へ

 2018年にファイスブックからの大量の個人情報流出するなど、大手による情報独占の弊害も目立つようになった。将来競合になり得る新興企業が出て来ると、大手IT企業が巨額の資金を活用して買収し、競争の芽を摘んでいるという指摘も多い。

 こうした流れの中で大手IT企業に対する批判が拡大し、規制論も強まっていった。

 いち早く動いたのがEU。欧州委員会は2018年グーグルに対し、EU競争法違反で43億ユーロの制裁を科した。グーグルがスマホのOSアンドロイド端末に自社の検索ソフトを抱き合わせで搭載するように要求してるとの判断だ。欧州委員会はこれ以外にも、EU競争法を根拠にした巨大IT企業規制を強めた。

 また、2018年には一般データ保護規則(GDPR)を施行。個人情報の保護などを強化した。EUと取引をする世界中の企業がGDPRへの対応迫られた。

▼米国でも規制強化へ

 米国は従来、大手IT規制より育成を重視してきた。しかし2018年頃から徐々に流れが変わった。

 2019年7月には、司法省が巨大IT企業が独禁法の調査に着手。1年の調査を経て、今回のグーグル提訴につながった。

 2020年7月には、議会下院の司法委員会がGAFAのトップの出席を求めて公聴会を実施。10月には下院が報告書をまとめ、大手IT企業規制の必要性を強調した(ただし、報告書は民主党中心に纏められ、共和党議員は別の報告書を発表した。両者は規制強化で一致するものの、その内容については意見が異なる)。

▼20年ぶりの大型訴訟

 今回のグーグル提訴は、米産業界では約20年ぶりの大型訴訟となる。歴史的に重要な訴訟を振り返れば、以下の通りだ。

・1906年:スタンダード石油(1911年に34の会社に分割)
・1969年:IBM(司法省は分割を要求、1982年に和解)
・1974年:ATT(1984年に長距離会社と7つの地域会社などに分割)
・1998年:マイクロソフト(2004年に和解、技術情報開示など)
・2020年:グーグル

 1998年のマイクロソフト提訴では、企業分割の可能性なども指摘されたが、結局6年後にマイクロソフトが技術情報の開示を拡大することなどで和解した。

 しかし、訴訟の期間中マイクロソフトは競争力の強さを前面に出すような行動を取りにくく、グーグルはじめ他社の台頭を招くようになった。PCやソフトの分野でマイクロソフトが突出する状況が変わり、競合する新興企業が育った。その意味で、訴訟の影響は大きかった。

▼グーグル:技術革新の象徴

 過去約20年間、グーグルはIT産業の発展やダイナミズムを象徴する企業だった。革新的な技術力を武器に、検索からスマホのOSであるアンドロイド、TouTubeなどで次々新市場を育てた。自動車の自動運転など次世代の技術でも世界をリードする。

 「Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです」(Our mission is to organize the world’s information and make it universally accessible and useful)という分かりやすいメッセージを始め、様々なIT文化を発信。IT革命を先導する存在だった。

 そのグーグルが巨大なり、競争の阻害を糾弾されるようになった。時代の変化を物語る。

▼訴訟の行方

 訴訟の行方がどうなるかは分からない。司法省とグーグルの主張は真っ向から対立しており、専門家の見方もまちまちだ。ただ、決着までに数年はかかるという見方が多い。また、和解や罰金による決着の可能性も指摘される。

 ただ結果がどうなるにせよ、訴訟の期間中グーグルが活動に制約を受ける可能性が大きい。競合する新興企業の買収がしにくくなるなど、M&A戦略に影響が出て来るという見方がある。

▼規制はさらに拡大の可能性

 規制がグーグルだけに留まるとは限らない。ファイスブックなど他のIT大手も、ユーザー情報の囲い込みや競合企業の買収などをテコに成長している。同様の提訴があるとの予測もある。

 SNSに対する規制論も浮上してきた。プラットフォーマーと呼ばれるSNS運営会社(巨大IT企業も含まれる)は、利用者が投稿した内容に法的責任を負わないでいい、という条件の下で急成長してきた(米通信品位法230条)。投稿に虚偽の情報や差別用語が含まれていても、直接責任を負わなくていい内容で、メディアなどが掲載責任を負うのと対照的だ。

 しかし、巨大プラットフォーマーの社会的な影響力とが増加するのに伴い、世間の目は変わって来た。投稿内容への責任を問われるようになれば、今までのビジネスモデルは通用しない。

▼変わる業界地図

 IT業界はただでさえ急速に変化している。新型コロナの流行以降、Zoomなど新興企業が急成長している。通信やスマホは5G時代に入り、これまでにない新サービスが登場してくるだろう。中国は国が情報管理を強める一方、アリババなど巨大企業が世界的な影響を強めている。

 ATT分割やマイクロソフト訴訟の時代に比べ、IT業界の変化は遥かに速度を増し、大胆になっている。その変化の要因になるのは、技術、国家覇権、そして規制体系などだ。

 司法省によるグーグル提訴は、巨大IT企業規制という時代の潮流の象徴的事例であるし、米産業史という脈略でも特記される出来事となる。

◎ ベンチャーの成功、権威化 世のならい
◎ 産業史、流れの節目に規則の目
◎ 技術革新(イノベーション)時々規制の資本主義

2020.10.25

 

 

 

 

 

 

 

2020年10月 4日 (日)

◆トランプ大統領コロナ感染の衝撃 2020.10.4

 トランプ米大統領が新型コロナに感染。ワシントン近郊の軍の病院に入院した。世界最高の権力者のコロナ罹患は、世界に大きな衝撃を与え、1か月後に迫った大統領選の行方を左右する。

▼容体は不透明

 トランプ大統領の感染が発表されたのは現地時間2日朝。大統領がツイッターで発信し、その後ホワイトハウスなどが説明した。大統領は当初、ホワイトハウスで自主隔離しながら執務を続けるとしたが、同日ワシントン近郊の軍の医療施設に入院した。3日付けで病院からビデオメッセージを発表し、回復ぶりをPRした。医師団も大統領が回復していると強調した。

 ビデオ出演では、回復は順調とPRした。しかし11月の大統領選を控え、不利な情報を流せないのは当然。本当のところの容体は分からない。

▼コロナ軽視のツケ?

 トランプ氏は米国でコロナ感染が拡大し始めた今春から、感染防止よりも経済活動の維持を重視。マスクの着用などにも消極的な姿勢を示してきた。

 自身も大統領選のキャンペーンで大規模集会の開催を重視。支持者などに直接呼びかけ、握手など接触する場面も多かった。本人がマスクを着用することもまれだった。

 今回の感染は、こうしたコロナ軽視のツケという指摘もある。ただし、米国内で700万人以上の感染が確認されている中、こうした見方を受け入れない人も当然いる。

▼ホワイトハウスで感染拡大、統治危機のリスク

 メラニア夫人も同時に感染。またホワイトハウスの高官や、大統領と接触する機会が多い与党共和党の国会議員らも感染が報告された。「ホワイトハウスでクラスターが発生」と報じたメディアもある。

 世界の最高権力機構である米政府の中核での感染拡大は、由々しき事態という他はない。統治機構のリスク管理に問題があったという見方も当然だ。

 ただし、ペンス副大統領やポンペオ国務長官などは陰性が発表され、当面統治危機が表面化するような事態は回避されている。

▼世界に多大な影響

 世界の最高権力者である米大統領の感染は、国際情勢にも多大な影響を与える。入院先から執務を行うと言っても、処理案件は通常より絞らざるを得ない。ポンペオ国務長官は、モンゴルや韓国訪問をキャンセルした。

 それ以上に、テロや紛争、サイバー攻撃などの緊急事態が生じた場合の対応に、制約が出る可能性がある。入院先で、スタッフから十分な情報を受け、適切な判断を下せるのか。世界全体の統治機能や危機管理機能が、一時的に低下しているという見方が適切だろう。

▼大統領選に甚大な影響

 国内的には、大統領選への影響が甚大だ。感染前まで、世論調査では民主党のバイデン候補がトランプ氏をリードしていた。トランプ氏は今後、全国的に大規模集会を繰り返し開き、挽回を狙っていたと伝えられる。

 感染により少なくとも2週間は隔離を余儀なくされる。大規模集会を中心にしたキャンペーンは、白紙に戻さざるを得ない。オンライン中心に戦略立て直しができるか、見通しは立たない。

 大統領候補によるテレビ討論(10月15日2回目、10月22日3回目)もどうなるか不透明だ。オンラインで参加するのか、そもそも開催を変更するのか。今のところ断定できる材料はない。

 バイデン氏がますます有利になったという見方はもちろんある。ただ、大統領の容体を含め本当のところは全く分からない。

 大統領感染を受けて、英国などのブックメーカーは、大統領選の勝者を当てる賭けのサービス提供を停止した。ブックメーカーにして、先が読めない状況だ。

▼オクトーバーサプライズ

 大統領選直前の10月に、予期しなかった出来事が起きて、選挙の行方を変えた例はこれまでにもある。オクトーバーサプライズと呼ばれる。トランプ氏感染はまさにその例だ。

 ただ、これでサプライズが終わりと言う訳ではもちろんない。国際的な紛争、テロ、自然災害、コロナの新展開、サーバー攻撃、経済の急変、候補者の(さらなる)健康問題など、予測不能なことが起きる領域はいくつもある。

 「選挙はバイデン勝利で終わり」と単純に読むのは大きな誤りになる可能性がある。

▼偶然で動く世界

 今回の選挙では、サイバー攻撃やフェイクニュースなどが注目されていた。いずれもしばらく前までの伝統的な枠ではとらえきれない、新しい要因だ。しかし今回、驚きはまずコロナで表面化した。

 選挙は正統な政策論争だけではなく、偶然の出来事で勝敗が決定することも多い。そして世界は偶然で動く面があり、予測不能なことも多い。大統領感染は、そんな現実を改めて見せつけた感じだ。

◎ 人格も議論も脇にコロナかな
◎ トランプ罹患びっくりとやっぱり同居する
◎ 世界史は偶然と必然の積み重ね

2020.10.4

 

 

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