◆トランプ時代の4年が残したもの 2021.1.24
米国にバイデン新政権が発足し、トランプ政権が終わった。米史上異例ずくめだったトランプ大統領の4年間はどんな時代だったのか。要点を整理する。
▼米国第1の外交
トランプ時代のレビューは、バイデン氏当選確定の際にもまとめている。
(◆米大統領選をどう読む――トランプ時代の4年間と今後の世界 2020.11.8)
ここでは、その後の動向も加え少し色彩を変えた切り口から眺めてみたい。
トランプ政権が4年間に行った政策や事件などへの対応を振り返ると、従来の政権とは一線を画すものが多い点に改めて気付く。
外交では「米国第1」を基本政策に据えて国際協調路線を後退。地球温暖化のパリ協定やイラン核合意から離脱した。G7首脳会議では合意したはずの宣言への署名拒否や途中帰国などが物議を呼んだ。
対中強硬姿勢を強め、貿易やハイテク、安保の分野で米中対立を激化させた。中国からの輸入品への関税は大幅に高まり(中国では米製品への関税が増加)、ファーウェイなどハイテク企業は米市場から締め出された。
同盟関係にある欧州との関係を冷却させた。中東では親イスラエル・反イランの姿勢を鮮明にした。エルサレムをイスラエルの首都として認め、イスラエルとUAEなどの国交樹立を支援した。イラン司令官を暗殺した。トランプ政権の4年間で、中東では従来の国際合意が覆され、後戻りできない既成事実が積み重ねられた。
▼分断と対立を助長
国内的に目立ったのは、社会の分断と対立を助長するような行動だ。トランプ氏は2017年の就任早々、厳格な移民政策を打ち出し、イスラム諸国などからの移民を禁止や規制した。メキシコ国境に新たな壁の建設に動き、不法移民に対する措置を厳格にした。
反人種差別運動などでは、白人警察などの肩を持つような発言をし、社会の対立を助長した。最高裁判事の人事などでは保守派の利益を貫いた。
経済的には景気刺激を優先。また環境保護よりエネルギー産業を優先する姿勢も目立った。
これらの判断は、支持基盤の宗教保守や白人労働者層などの利益を優先させていた面が強い。国民全体の利益を考えるというより、支持基盤を優先。これが分断を助長することにつながった。
民主主義の尊重を重視しないかのような姿勢も目立った。自身の納税情報などは、最後まで公開を拒否した。
▼統治能力の欠如とスキャンダル
政策の実行や統治面で欠陥を露呈する場面も多く、スキャンダルも目立った。
トランプ政権は発足当初から、ロシア疑惑、ウクライナ疑惑など相次ぐスキャンダルに見舞われ、2019年にはトランプ大統領がウクライナ疑惑で下院から弾劾訴追を受けた。
トランプ政権内はごたごたが続き、閣僚や政府高官の辞任や解任が相次いだ。政権の機能不全が指摘される場面も少なくなかった。
政策遂行能力の欠陥が露呈する形になったのが新型コロナ対策。政権は感染の押さえ込みに失敗し、米国の感染者、死者は世界で最大だ。これが結果的に、トランプ氏の再選を妨げることになった。
▼ポピュリスト的な手法
メディアの使い方も異例だった。伝統的なマスメディアよりツイッターなどSNSを重視し、国民に直接訴える手法を取った。SNSは複雑な事象を正確に伝えるというより、物事を単純に伝えがち。視聴者が受け止めやすい情報ばかりを流すポピュリスト的な色彩もある。SNSの視聴者は、自分の見たい情報ばかりを見るという特性もある。これが国民の分断を一層加速させる結果にもつながったとの指摘も多い。
ポピュリスト的な情報発信や政治手法は、政権の最終盤でトランプ氏自身にしっぺ返しで戻ってきた。1月6日にワシントンで選挙結果に抗議するデモを煽った結果、参加者の一部がトランプ氏の予想を超えて暴徒化。議会に乱入した。国民のトランプ氏への批判は強まった。
ツイッターやFBなどのSNSはトランプ氏のアカウントを停止。SNSとの関係は全く次元の異なる段階に入った。この辺の動きも、従来の大統領にはない異例のものだ。
▼トランプ政権の遺産
トランプ氏就任の際、政権の役割として第2次大戦後に作られた秩序の再編役になるとの分析があった。米中対立は「新冷戦」や「デカップリング」と呼ばれる状況になり、この路線はバイデン政権になっても大きく変わることはなさそうだ。中東情勢も、対イスラエル政策など後戻りができない政策をいくつも重ねた。
国内的に、トランプ流の影響がどこまで残るかは不透明。トランプ氏のポピュリスト的な手法が受け継がれる可能性はゼロではない。民主主義軽視と見られるような傾向が残るとすれば深刻だ。貧しい白人層に焦点を当てたトランプ氏の問題意識が受け継がれるかどうかも分からない。
トランプ氏への毀誉褒貶は分かれ、評価は今後も揺れそうだ。現時点で明確なのは、米中関係や中東政策の遺産だけは残るという点だろう。
2021.1.24
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