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2020年11月 8日 (日)

◆米大統領選をどう読む――トランプ時代の4年間と世界の今後 2020.11.8

 米大統領選は民主党のバイデン元副大統領の当選が確実になった。ただ開票を巡る混乱はなお続いている。選挙結果から読み取るべきものは何か。トランプ大統領時代の4年間で米国と世界はどのように変わり、今後どうなっていくのか。

▼バイデン氏当選の見通し、混乱は続く

 11月3日投票の大統領選は、まれに見る大接戦になった。勝敗の行方を左右するペンシルベニア、ジョージアなどの激戦区は、いずれも得票率の差が1%未満。投票から4日後の11月7日になって主要メディアは一斉にバイデン氏当確を打ち、同氏は勝利宣言をした。ドイツのメルケル首相や英国のジョンソン首相など海外の首脳はバイデン氏に祝電を送った。しかしトランプ氏は開票に不正があったとして裁判に訴える姿勢で、混乱はなお続く見通しだ。

 混乱の理由の1つが郵便投票。今回の選挙は新型コロナ流行拡大の影響で事前投票が多く、郵便投票は相当の割合を占める。しかし郵便投票のルールは、州により規程が異なり、例えば選挙当日の消印があれば選挙後でも受領する州がある。トランプ大統領は選挙前から郵便投票が不正の温床と主張し、実際不正があったなどと主張する。ちなみに、今回選挙は約1億6000万人が投票し、投票率は66%。事前投票は1億を超え、うち6500万が郵便投票だった模様だ。

▼トランプ氏の予想外の健闘

 事前予想ではバイデン氏が圧倒的にリードしていた。全米平均の世論調査では一時約10%、投票直前でも5%を大きく上回ってリードしており、民主党内には地滑り的な圧勝を期待する声もあった。

 しかし蓋を開ければトランプ氏が健闘。バイデン氏は民主党支持者が多く投じたと言われる郵便投票の上積みで、ようやく得票をひっくり返した格好だ。英FT紙は”Biden landslide hopes turn to nail-biting finish"(地滑り的勝利の期待は、ハラハラの結果になった)と描写した。議会選でも元々過半数を得ていた下院は制したものの、上院は困難だ(一部再決戦投票になるため、最終結果は現時点では未定)。

▼国民の分断

 バイデン氏勝利の理由を分析すれば、「反トランプ」の言葉に尽きる。中でもコロナ対策の失敗と、人種間の対立は批判の対象になった。しかし、それでも有権者の約半分はトランプ氏に投票した。米有権者はバイデン氏支持とトランプ氏支持に2分されたと言っていい。

 トランプ支持者は選挙後も、開票を巡り不正があったというトランプ氏の主張を支持し、抗議活動を展開する。衝突の懸念も消えない。米国では過去数十年間、社会の分断が指摘されてきたが、トランプ時代に亀裂が一層深まり、今回の大統領選でさらに深刻化したという分析が多い。

▼トランプ時代の4年間

 トランプ氏の4年間の政策やその影響を振り返ると、以下のような点を指摘できるだろう。

(1)米国社会の分断が加速
(2)米中対立が激化
(3)国際協調→自国利害優先への転換、世界のリーダーとして役割低下
(4)コロナへの不十分な対応(統治能力やリーダーシップの欠如)
(5)世界的に、民主主義が危機に直面

 トランプ大統領は就任時から「米国第1」を掲げ、自らの支持基盤である白人の保守層や貧困層らの利益を重視する政策を進めた。雇用確保の名の下に、移民規制の強化や関税の引き上げなどを実施した。一方で、人種差別問題への対応などには後ろ向きだった。結果、社会の内向き化傾向に拍車がかかり、米社会の分断が進んだ。

▼米中対立

 国際的には、米中対立激化のインパクトが最も大きいだろう。米国は1990年代-2000年代にかけて、中国を国際社会に受け入れることが世界の利益になるという「関与政策」を取ってきた。しかし、2010年代に入ると中国とを競争相手として捉える見方が強まってきた。トランプ氏はそうした変化を政策として具体化し、対中強硬策を相次ぎ打ち出した。

 2018年には中国からの輸入品に相次ぎ高率関税を導入し、貿易戦争を仕掛けた。その後ハイテク分野でも強硬策を強め、ファーウェイとの取引禁止などの措置に踏み切った。さらに南シナ海問題で中国の主張を違法と非難したり、欧州諸国に対中同盟を呼び掛けるなど、安保やイデオロギー面でも対中対立姿勢を明確にした。

 米中の対立が、経済面での分断を拡大していくという「デカップリング」の見方も強まってきた。米中の新たな対立を「新冷戦」と見る分析もある。

▼国際協調→自国利益、欧州、中東政策の変化

 米国は従来、国際協調や多国間主義を外交の基本にしてきたが、トランプ政権は自国利害優先に軸足を移した。イランとの核合意やパリ協定から離脱。欧州との関係は、第2次大戦後最悪とも言われるまでに冷え込んだ。

 中東では反イラン、親イスラエルの姿勢を強め、イスラエルの首都としてのエルサレム認定、イスラエルとUAE、バーレーンなどの国交樹立なども演出した。中東で築いた既成事実は、バイデン大統領になっても元に戻すのは困難だろう。
 
▼コロナが投げかけた問題ーー統治能力やリーダーシップ

 新型コロナの流行拡大は、トランプ政権と米国の問題を図らずも浮かび上がらせた。米国の感染確認者は間もなく100万に達し、死者は20万人を超えるなどいずれも世界最大。世界最高の医療技術を持ちながら、被害も最大という矛盾をさらけ出す。

 背景には、先進国でもまれな国民皆保険でない医療体制、特定の仕事に就く一部の人々に感染のリスクがのしかかる社会構造の矛盾、連邦政府と州政府の思惑の違い、国民の意識など様々な要因がある。しかし、トランプ政権の政策に問題があったのは否定できない。

 トランプ政権は、発足以来人事を巡りいざこざが絶えず、統治上の問題点が指摘された。またコロナ感染など非常時に最も問われるのは、トップのリーダーシップだ。コロナは統治能力やリーダーシップの問題点を露呈したと言っていいだろう。

▼「民主主義の危機」と「世界の枠組み変化」--トランプ時代の世界

 米国が世界のリーダーとして民主主義や開かれた経済などの価値観を守っていこうという姿勢は、トランプ時代に大きく後退した。内向き志向は世界的にも顕著になっている。

 コロナ流行という状況もあり、中国、ロシア、トルコなど強権国家の増加も指摘される。世界中で、民主主義の危機が叫ばれる。これに対し米国が歯止めになるのでなく、トランプ政権がむしろ民主主義の混乱を助長したとの批判が噴出する。

 米中関係の変化。世界の分断。米国のリーダーシップの後退。民主主義の危機ーー世界の枠組みは大きく変わろうとしている。第2次大戦後の世界の秩序がの変更と言ってもいいかも知れない。

 そうした点があらわになったのが、トランプ時代の4年間だった。

▼バイデン時代の課題ーー国際協調の姿勢

 こうした状況の中で、バイデン大統領が誕生する。

 国際的にはトランプ時代の米国第1主義から国際協調主義に軸足を戻し、対欧州関係の改善、パリ協定への復帰などを推進しそうだ。しかし対中関係を以前のような融和姿勢に戻すことはあり得ない。ハイテク摩擦など譲れない部分を守りながら、トランプ氏の強硬姿勢より有効な政策を打ち出せるのか。スタンスは難しい。

 国内的には分断の修復が大きな課題の1つ。バイデン氏は7日の勝利宣言でも国民に団結を訴えた。しかし、今回の大統領選派むしろ亀裂の深さを印象付けた。バイデン氏はトランプ氏と異なり、人種差別問題で人々を煽るような発言はしないだろう。しかし、それが逆に、白人の権利を重視する人などの不満を招可能性すらある。

▼問われるリスク管理能力

 目先、何より重要なのはコロナ対応。そしてコロナで悪化した経済対策だ。コロナについては、マスクの着用強化など簡単にできることもある。しかし、対応はその程度のレベルにとどまらない。

 今後、予測できないリスクが顕在化する可能性もある。感染の再拡大、医療崩壊、金融や経済危機の発生など様々だ。コロナが切っ掛けになって、国際的な紛争が起きる事態もあるかも知れない。そんな非常時にどうするのか。問題は、政策遂行やリスク管理の能力、そしてリーダーシップにかかる。

 大統領選で、国際情勢や非常時のリスク管理が議論されることはほとんどなかった。就任時に78歳となるバイデン氏に問われる責任の重い。そしてそれが、世界の枠組みや民主主義の行方にも直結する。

◎ 型破りと予測不能の4年過ぎる
◎ コロナ禍でもファンが離れぬポピュリスト
◎ 分断の時代が生んだか異端の士
◎ 「民主主義の戦線後退」「放置せよ」
◎ 米中が号砲なしに開戦す
◎ 地球儀の上塗り部分はもう消えぬ
◎ 政治的正しさ(political correctness)戻るか、ふと笑う

2020.11.8

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