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2020年7月26日 (日)

◆EU復興基金合意の意味 2020.7.26

 EU首脳会議が21日、7500億ユーロの復興基金設立で合意した。新型コロナ被害が深刻な南欧諸国支援などに活用するものだが、(1)EUとして初めて共通債を発行し資金を調達する(2)支援の一部は融資ではなく、返済義務のない補助金となる、などこれまでにない特徴を備える。

 合意によりEUは、コロナ危機で亀裂が深まった危機を回避する。さらに、財政面での協調を一層深め、EUの歴史にとっても重要な節目になる。

▼歴史的な決定

 今回のEU首脳会議は7月17日に開幕。総計5日のマラソン会議を経て21日に合意に達した。

 主な合意内容は、(1)総額7500億ユーロの復興基金を設立する(2)そのうち3900億ユーロは返済義務のない補助金、3600億ユーロは融資とする、(3)基金の原資は欧州委員会が債権を発行して市場から調達する、(4)復興基金は2021-27年のEU中期予算に組み込む、(5)援助を受けた国が適切に使っていない場合はEU首脳会議で協議するーーなど。

 復興基金は、新型コロナ被害の大きかった国の支援を目的としており、総額3900億ユーロはEUのGDPの3%程度に相当する。イタリアやスペインはGDPの5%程度程度の支援を受ける見通しだ。

 欧州委員会がEU共通の債務となる債権を発行するのは初めてで、財政面での協調が進む。これが将来の財政統合への第1歩となる可能性もある。

 そうした意味合いを踏まえ、欧州のメディアは歴史的(ロイター通信)、画期的(landmark)(FT紙)などと報じた。

▼EUの危機を回避

 新型コロナの感染拡大で、EUは深刻な危機に直面した。2月下旬-3月にかけ、まず感染が拡大したイタリアやスペインは医療崩壊など深刻な事態に陥った。しかし他のEU諸国は伊西への支援より自国の感染拡大防止を優先。両国が医療品の支援要請をしても十分に応じない状況だった。

 イタリアやスペインは「何のためのEUか」と批判。マスクなど医療機器支援で外交的攻勢をかける中国に接近する動きも見せた。EU内の亀裂が深まり、南欧などでは反EU感情が高まる危機が強まった。

 EU共通債券を活用した支援は、かねてイタリアなどが要求していたもの。今回の決定で反EU感情の高まりなどの危機はひとまず回避できる情勢になった。

▼メルケル首相の決断

 今回の決定のベースになったのが、5月18日のメルケル独首相とマクロン仏大統領の合意(テレビ会議)である。両者はコロナで被害を受けた経済復興のために、5000億ユーロ規模の基金設立で合意した。

 復興基金は簡単に言えば、「借りる(資金調達する)のはEU、使うのは各国」という仕組み。放漫財政になるリスクも指摘される。

 ドイツは元々財政規律に厳しい立場で、こうした仕組みの基金には慎重だった。2010年代前半-中盤のユーロ危機の際に、ギリシャなどに対し安易な援助を行うことに反対し、支援の際には厳しい条件をつけるよう主張してきた。

 しかし、今回のイタリアやスペインなどの危機は放漫財政から起きたものではなく、新型コロナという予期しない災害から生じたもの。EUが支援を渋れば、南欧などで反EU感情が拡大し、EUそのものの危機にもつながりかねない。メルケル首相はこんな状況を的確に嗅ぎ取り方針転換した、との見方が多い。

▼財政統合への一歩

 復興基金合意には、EUの危機回避の他に、財政面での協調が一歩進んだ意味がある。EU主要国は1999年に共通通貨ユーロを導入し、通貨統合を実現した。しかし、財政面の統合は進まず、「金融政策は共通だが財政策はバラバラ」という状況が続いていた。

 これが2010年代のユーロ危機の一因になったという指摘は多い。EUが将来さらに統合を進め、経済の安定的発展を維持していくためには、財政統合が欠かせないとの見方は根強い。

 今回の復興基金は、EUが共通で債務を負うもので、財政面の協調を一歩進めたものになる。将来の財政統合に向けた一里塚になるという見方もできる。

▼EU内の対立も

 ただ、首脳会議はEU内の対立にも改めて焦点を当てた。財政規律を重視するオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンは、返済義務のない補助金にするとモラルハザードが起き、放漫財政が進むと懸念。補助金ではなく融資にするよう主張した。これらの国は「倹約4カ国」呼ばれた。

 ポーランドやハンガリーなど、東欧諸国の一部が民族主義的な色彩を強め、反民主主義的な傾向を強めていることに対する懸念も指摘された。オランダやデンマーク、フィンランドなどは復興基金からの支援ん決める際、「法の支配」が守られているかを条件にすべきだと主張した。

 会議は倹約4カ国の立場にも配慮し、当初計画より融資の割合を拡大したり、援助が適切に使われていない場合はEU首脳会議で協議する、などの条件を加えた。法の支配を重視する姿勢も打ち出した。

 合意にはこぎつけたものの、北対南、西対東などの対立が改めて浮き彫りになった。

▼EUの将来戦略と世界

 EUはこれまでも、危機をばねに統合を深め、発展してきた。1970-80年代の経済低迷をバネに、1980年代後半の市場統合計画を推進し、1993年に単一市場を発足した。1989年の東西冷戦終了と欧州の流動化を受けて、1990年代に統合を強化し、通貨統合(1999年)や加盟国拡大(2004年の東方拡大など)を実現した。

 英国のEU離脱(2016年の国民投票で決定)を受け、EUは将来に向けた新たな統合戦略を求められているところだった。そこに現在のコロナ危機だ。EUはその機能、能力、統合の将来戦略を問われている。

 復興基金設立では、とりあえず危機のばねが働いた。メルケル独首相らのリーダーシップも発揮された。しかし今後も、困難な課題が相次ぐのは間違いない。

 EUは既存の国民国家の枠組みを超えた歴史的な実験でもある。現在は世界の枠組みが大きく変わり、米国も中国も、国家のあり方や世界における役割を問われている時代。EUの行方は、将来の国際システムや国のあり方といった視点からも興味深い。今回の復興基金合意の意義もそうした脈略の中で捉えたい。

◎ コロナ下でかろうじて利いた危機のばね 
◎ 独宰相の転身に知る危機の淵
◎ 見えぬ未来まずは統合の補強から
◎ 同床異夢で進むしかない新時代

2020.7.26

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