◆IS指導者殺害と中東情勢を眺める姿勢 2019.11.3
米国が「イスラム国」(IS)指導者のバクダディ容疑者を殺害した。トランプ大統領が27日発表した。
▼世界を震撼
ISはシリア、イラクの混乱の中から生まれてきたテロ組織。バクダディ容疑者は元々アルカイダ出身で、ISの指導者となりカリフを自称した。2014年にはイラクのモスルを制圧。バクダッドまで迫るかという勢いを見せた。一時はシリアからイラクに広大な地域を支配した。
中東や世界各地から志願兵を募り組織を維持した。残虐な行為を繰り返し、捕虜を斬首する映像など拡散。世界を震撼させた。
▼IS後も消えないテロの温床
中東情勢で利害対立を続けてきた国際社会も、まずはIS打倒で一致。シリア、イラク政府軍や米国など国際社会の反攻で、2017年までにISの主要拠点を奪還した。容疑者の死亡でISの活動は一つの転機を迎える。
ただし、中東の混乱が続き、テロを生む構造は変わらない。ISは新しい指導者の下で活動をPRする。各地でテロ組織が活動を続ける状況は変わりがないし、第2、第3のIS登場の可能性も消えない。
▼米国のクルド人への裏切り
IS打倒ではシリアの反政府勢力のクルド人組織(SDF)が大来な役割を果たした。米国はSDFをを支援してきた。しかし、ここにきてSDFと敵対するトルコがシリア北部で軍事行動に出てSDFを国境地帯から排除。米国はトルコの行動を黙認する姿勢をとった。
トランプ米大統領は中東からの撤退、配備縮小を優先させる。しかしクルド人勢力からすれば米国の裏切りにしか映らない。中東における米国への不信は募る。
▼敵味方の構図が変化
米国やイスラエル、サウジとイランの対立は激化する。ロシアは中東での影響力拡大を狙う。サウジの石油施設への攻撃など新たな脅威も現実のものとなった。敵味方の構図がくるくる変わり、偶発的な紛争のリスクも増えているように見える。
▼少ない正面からの議論
トランプ米大統領はバクダディ容疑者殺害の様子を自慢げに米国民に報告した。あたかも「悪い奴をやっつけた」という西部劇風の感じだ。それに対し米国の少なからぬ国民が喝采を叫んだのも事実だ。
民族や宗教、歴史が複雑に絡み合う中東問題。その問題点や対応策を真剣に論じるより、バクダディ殺害のような出来事をお祭り騒ぎのように取り上げる現実。米国や世界の現状を映す風刺画風の縮図にも見える。
◎ 中東も西部劇と見る超大国
◎ 「悪者を殺った(やった)」の喝采に「ちょっと待て」
2019.11.3
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