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2018年5月13日 (日)

◆マレーシア政権交代の意味 2018.5.13

 マレーシア総選挙で野党連合が勝利し、1957年の建国以来初めて政権交代が実現した。事前の予想を覆す結果。92歳のマハティール元首相の再登板も異例だ。政権交代は同国が直面する多くの課題に改めて焦点を当て、東南アジアの周辺国にも問いかけを投げかけた。。

▼驚きの結果

 選挙はナジブ首相(当時)が4月6日に議会を解散し、5月9日投票の日程を決めた。ナジブ首相の与党連合の国民戦線に対し、マハティール元首相の新党などから成る野党連合の希望連盟が挑む形となった。

 結果は下院222議席のうち、希望連合が過半数の113議席を獲得(連携する地域政党を含めると122議席)。マハティール氏が10日首相に就任した。

 事前の世論調査では、与野党の支持率は拮抗していた。しかし同国の選挙は小選挙区制で、区割りは与党に有利にできている。このため政権維持の見方が多かった。マハティール氏の勝利は予想外の結果(unexpected victory)と受け止められた。世界のメディアはまた、マハティール氏の就任を「選挙で選ばれた世界最年長の首相」という観点から、多少面白おかしく伝えた。

▼与党有利の体制

 政権交代は同国の建国以来初めてだ。同国は独立直後に民族衝突を経験したことなどもあり、
権威主義的な政治体制を維持。経済発展優先で推移してきた。1981-2003年の22年間首相の座にあったマハティール首相の手法は、開発独裁の典型とも指摘された。

 選挙制度は与党に有利に作られ、UMNO(統一マレー人国民組織)中心の与党が建国以来権力を維持してきた。こうした体制下でナジブ首相は2009年に就任。

▼強硬策vsSNS

 2015年に国営投資会社の1MDBを巡るスキャンダルが発覚。元首相のマハティール氏が政権批判に転じ、2016年の新党を結成した。

 マハティール氏は選挙戦で、かつて自分の政権の副首相でその後解任したアンワル氏の政党などと手を組み、野党連合の希望連盟を結成した(ちなみにアンワル氏は同性愛などの罪でマハティール時代に一度収監されたのち、ナジブ政権下で再度収監された。本人は容疑を否認している)。

 ナジブ首相は選挙戦前に、与党にさらに有利になるよう区割り変更法案を成立。フェイクニュース対策法で言論規制を強め、マハティール氏への捜査も実施した。選挙戦では運動妨害なども強行。英FT紙は「権威(独裁)主義のテキストに載っているあらゆる手段」を使ったと揶揄した。地元主流メディアの論調も概して与党寄りだった。

 これに対し野党連合は各地で、汚職体質を批判する演説などで対抗。SNSを使った運動も展開した。

▼汚職体質への怒り、中進国の罠

 投票分析はまだ十分に進んでいなく、野党勝利の本当の理由は分からない点がある。ただ、都市部などを中心に与党の長期政権への飽きや汚職体質への批判が蓄積していたとの指摘は多い。

 もう一つ見逃せないのが経済だ。同国は最初のマハティール首相時代に、外資の導入などをテコに発展。シンガポールを除く東南アジアの周辺国に比べ高い経済成長を実現した。2000年代には1人当たり国民所得約1万ドルと、先進国の仲間入りを目指すレベルにまで来た。

 しかし、自国の産業は思うように育たず、「中進国の罠」に陥る懸念に直面する。右肩上がりだった時代と違い、国民の間には閉塞感が漂う。物価上昇で、経済成長に見合う生活水準上昇の実感が得られないとの指摘も多い。こうした経済状況が、人々の政権批判を強めたとの指摘もある。

▼新政権の課題

 選挙戦では与野党ともにばら撒きの政策を掲げた。マハティール氏の野党連合は、ナジブ政権が2015年に導入した消費税の撤廃を訴えた。税率は6%で政府歳入の約2割を占める。選挙では様々な支出の拡大も約束した。

 実際の政策がどうなるかは不明だが、市場では財政悪化の懸念が出ている。

 マレーシアは1997年のアジア通貨危機時に、マハティール氏の主導で資本移動規制を導入した。当時のIMFの政策理念とは相反する決定だった。危機時の資本規制導入についてはその後、必要な政策手段として容認する見方が増えてきたが、海外投資家はマハティール氏に対する警戒を忘れない。

 外国為替や金融市場が混乱するような事態になれば、マレーシア経済の安定を損ないかねない。

 中心国の罠からの脱出は抜本的な課題だ。同国はこれまでも先端産業の育成、教育を通じた国民の人的資源の質向上などに取り組んできた。しかし、成果は一定の範囲にとどまる。マハティール氏あ再度この課題に取り組むことになる。

▼多様で複雑な方程式

 マレーシアは人口3100万人で、マレー系と華人系、インド系などが共存する。宗教もイスラム教(人口の約6割)のほか、仏教、ヒンズー教など多様だ。

 同国では長らく地元マレー系を優先するブミプトラ政策を採用してきたが、見直しの声も出ている。経済発展や社会の安定を維持する上でも、民族や宗教の多様性に対する配慮が欠かせない。問題は複雑だ。

▼民主化と強権化――東南アジアの政治の2つの流れ

 東南アジア政治はここ数年、民主化の流れと権威主義的な政権の強まりという2つの流れの中で動いてきた。ミャンマーでは2016年、軍事政権→文民政権が発足した。一方、タイでは2014年のクーデターの後、軍事政権が長期化。フィリピンではドゥテルテ大統領が権威主義的な色彩を強めている。カンボジアではフン・セン政権が野党の活動を停止した。

 背景には、米国のこの地域への関与縮小と、中国の存在感拡大もある。米欧流の民主主義は政治体制の基本原理として底流を流れる一方、中国流の権威主義的統治が影響力を増している。

▼世界の関心とマレーシア

 「世界」の視点から今回の選挙を眺めると、民主化の定着と周辺国への影響、中進国の罠の問題のほか、イスラム教徒多数の国家における民主主義の定着と経済発展などの関心もある。それは、世界が抱える課題にそのまま跳ね返るテーマでもある。

◎ 経済に民主化も脚光マレー式
◎ あの熱意卒寿のカリスマ世界(よ)を揺らす
◎ 寺院にてコーランを聞く多様の地

2018.5.13

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