◆2014年の10大ニュース 2014.12.21
2014年も残すところ10日。年間を通じてウクライナ危機、「イスラム国」など安全保証の枠組みを揺さぶる動きが世界の関心を集めた。10大ニュースの形でレビューする。
▼10大ニュース
INCD Clubが選ぶ2014年10大ニュース次の通り。
(1)ウクライナ危機、クリミアのロシア編入
(2)「イスラム国」の台頭と中東の混乱
(3)エボラ出血熱が拡大
(4)中国の勢力伸長、南シナ海などで緊張
(5)香港で民主派が抗議活動、世界の注目集める
(6)米中間選挙でオバマ大統領与党大敗
(7)逆石油危機、世界経済に動揺
(8)インドで10年ぶり政権交代、モディ首相
(9)スコットランドで独立問う住民投票
(10)米国が量的金融緩和終了
▼「地政学リスク」表面化させたウクライナ危機
世界のメディアやシンクタンクが年初に示した「2014年の注目」として多かったのが、地政学リスク。それはウクライナ危機という形で表面化した。
ウクライナ情勢はヤヌコビッチ前政権が2013年11月にEUとの連合協定締結を先送りしたことから混乱していたが、2014年に入り2月月に親欧米派の抗議活動でヤヌコビッチ政権が崩壊した。ロシアのソチで冬季五輪が開催されていた最中だった。
ロシアは同国東南部の親ロシア系住民を支援する形で介入。3月にはクリミアが住民投票の結果、ウクライナから独立を宣言。その後ロシアが併合した。その後も西部の親欧米派のウクライナ政府と、東部の親ロ派の対立が続く。
欧米はクリミア編入による国境変更は認められないとして、対ロ制裁を実施。5月のG8首脳会議はロシアを排除し、冷戦後の世界秩序の枠組みの1つだったG8体制は事実上崩壊した。
欧米とロシアの新たな対立は「新冷戦」との指摘もある。7月には親ロシア派の誤射によるとみられるマレーシア航空機の撃墜事件も発生するなど、世界に衝撃を与えるニュースが続いた。問題はくすぶり続けて年を越す。
▼「イスラム国」と中東の混乱
イラク・シリアではイスラム過激派の「イスラム国」が勢力を伸張。6月にイラク第2の都市モスルを制圧し、世界に衝撃を与えた。イスラム国には欧米や中東各国から若者が流入している実態も判明した。米国などはイスラム国に対する空爆を実施したが、効果は限定的にとどまっている。
中東、アフリカではナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムが200人の少女を拉致・人質にするなど過激派による事件が相次いだ。エジプトでは5月の大統領選でシシ大統領が当選。事実上の軍主導の政権に戻った。シリアのアサド政権は、欧米の優先課題が対「イスラム国」に移った影響で勢力を回復。当面の崩壊を回避し、反体制派との対立が続く。
2011年のアラブの春から3年を経過した。チュニジアなど議会制民主主義の定着になお期待を残す国もあるが、概してむしろ混乱が広がっている。
▼習近平の中国:課題抱えながら拡張
中国の存在感と影響力の拡大は、年間を通して様々な形で表れた。2012年秋に党総書記、2031年春に国家主席に就任した習近平氏は、わずか2年弱で権力を把握。「ワントップ」と言う指摘が出るほどになった。
対外的には中国の拡張が目立ち、南シナ海では紛争となっている南沙諸島で石油掘削を強行。反対するベトナムと船舶がにらみ合う事態になった。ベトナム国内では大規模な反中デモが広がった。
国際金融分野でも中国の主導権発揮が目立ち始めた。ロシアやインドなどとBRICS銀行の設置で合意。秋にはアジアインフラ銀行の設立に20か国余りと合意した。
一方で中国は、国内に深刻な問題を抱える。格差の拡大や腐敗は社会を揺るがしかねない。習近平指導部は汚職対策に本気で取り組む姿勢を見せ、前政治局常務委員の周永康氏の逮捕を決定した。最高指導部経験者の汚職での逮捕は1949年の中華人民共和国中国以来初めてだ。
新疆ウイグルではテロが何度か起きた。少数民族、宗教問題などはくすぶり続ける。
▼香港の雨傘革命
香港では2017年の行政府長官選挙での普通選挙を求める学生らが、中央部を占拠する「雨傘革命」を展開した。運動は9月末から2か月半続いた後、当局の強制排除で収束した。しかし香港の動向とメッセージは世界に伝わり、「1国2制度」が改めて問われることになった。
台湾では学生が、親中路線を強める馬英九総統の路線に反対して立法院を占拠。政策の転換を飲ませた。周辺国では中国に対する警戒が広がっている。
▼米中間選挙とオバマ政権の求心力低下
11月の米中間選挙ではオバマ政権与党の民主党が大敗。オバマ大統領の政治的指導力は低下した。米国の指導力低下は、世界情勢にも影響する。
▼エボラ拡大
西アフリカでエボラ出血熱が流行。WHOは8月、緊急事態宣言を出した。感染は欧州や米国にも広がり、世界的な問題に拡大した。グローバル化時代の衛生管理体制やリスク管理などの課題を改めて突きつけた。米Time誌は恒例の「今年の人」に、エボラと戦う医療関係者を選んだ。
▼逆オイルショックと世界経済
7月以降原油価格が急速に低下。1バレル100ドル前後から12月には50ドル台にまで下がった。世界経済減速(中国の減速、ウクライナなど地政学的リスクの影響)や米国のオイルシェール革命の影響が出た。
産油国や資源国の経済は悪化。12月にはロシアのルーブルが急落した。逆オイルショックは世界経済を揺るがしている。
米国は10月、量的緩和の終了を決定。2008年のリーマンショックから6年続く金融緩和政策の「出口作戦」に差し掛かった。一方、欧州と日本は金融緩和を強化。方向性の違いが、世界の金融にとって不透明要因にもなっている。
▼政権交代
インドでは10年ぶりに政権が交代し、人民党のモディ政権が誕生した。経済改革が焦点。トルコではエルドアン首相が初の大統領直接選挙で当選。インドネシアには庶民派とされるジョコ大統領が誕生した。アフガニスタン大統領選は混乱の末ガニ氏が当選。タイはクーデターで軍事政権になった。
▼潮流
2014年は第1次大戦開始100年、ベルリンの壁崩壊25年の節目の年で、国家体制や世界の枠組みについても多くの議論が展開された。ウクライナ危機や「イスラム国」の問題は、まさにそうした時に発生した。
ICTを中心とする新産業革命は加速し、世界を変えている。2014年はビッグデータ流行やウエアラブル機器の登場のなどのニュースがあったが、iPadの登場(2010年)など「誰もの目に見えるニュース」は少なかった。中国をはじめとするアジア諸国の台頭、経済グローバル化の進展などは継続。格差の拡大や金融システムの不安定、それに伴う不満を持つ層の増加とテロの懸念の拡大など、全地球的な課題もそのまま残った。
2014.12.21
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