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2014年5月19日 (月)

◆インド総選挙と現状 2014.5.18

 インドの総選挙で野党の人民党が圧勝。10年ぶりに政権交代し、モディ首相が誕生する。勝利をもたらした新首相の経済改革への期待が注目されがちだが、人口13億人を抱えるインドの国情は複雑で、課題は多岐多様にわたる。選挙を機にインド情勢を整理する。

▼人民党圧勝

 4月上旬から5月12日まで10回に分けて投票されたインドの総選挙は、野党のインド人民党が議席の過半を獲得し圧勝した。10年ぶりに政権交代し、首相にはグジャラート州首相を務めてきたモディ氏が就任する。

 2004年から政権を維持してきた国民会議派は、議席を4分の1に減らし惨敗し下野する。シン首相はすでに、選挙の結果に関わらず退陣する意向を表明していた。

▼経済高成長→成長鈍化

 人民党圧勝をもたらした1つの理由が、モディ氏の経済改革への期待だ。

 インド経済は2000年代に入り成長軌道に乗り、BRICsの一員として脚光を浴び、中国と並ぶアジアの2大新興国に位置付けられた。バンガロールなどは世界のIT産業の新成長拠点として注目され、英語を武器にしたコールセンターなどの産業も発展。リーマンショック後の2010年も10%成長を実現している。

 しかしその後、成長が鈍化。2012年、2013年とも4%台の成長にとどまった見通しだ。

▼フラジャイル5

 インド経済は恒常的に財政赤字、経常赤字を抱える。市場は最近になり、成長性より構造的な問題に注目を移した。資金の流出、通貨の下落へとつながった。インドルピーは昨年あたりから、インドネシア、トルコ、南ア、ブラジルと並び、フラジャイル5と呼ばれている。

 ちなみに物価上昇立は8%前後。失業率は、都市部については3.7%などという数字があるが、信用できる統計はない。大卒者の失業率は都市部で26%、農村部では36%などという数字もある。 

 中銀はラジャン総裁が就任した昨年9月以降、3回にわたり利上げを実施した。景気刺激の必要もあるものの、インフレ警戒や通貨防衛などを配慮せざるを得ない状況だ。

▼構造的問題

 シン首相はこうした課題に対応するため、規制緩和や外資の導入などを進めようとした。しかし、保守派の抵抗、政権長期化による汚職などで改革は思うように進まなかった。

 また、国民会議派がもともと農村を基盤とし、農村への配慮を優先させざるを得ない事情もある。シン首相の経済政策は、分配(農村への利益配分)を重視しすぎたとの批判がある。

 インフラ整備は遅れ、各地で停電が頻発。また、法整備の不備や労働市場の硬直性などを理由に紛争も多発した。日本のNTTドコモや第一三共が事実上撤退に追い込まれたのも、こうした点が一因と言われる。

▼モディノミクス

 新首相になるモディ氏は、グジャラート州首相として経済改革に実績を残した。2001年に就任以来、外資の誘致や工業団地の整備を進め、同州をインド随一の高成長地域に育てた。グジャラートはインド内で唯一停電のない州ともいわれ、グジャラートの奇跡と(実態以上に)賞賛された。その手法はCEO的と言われ、経済政策はモディノミクスとも呼ばれる。

 選挙戦ではこうした実績を強調。インド全土でも経済改革・高成長を実現すると訴え、国民の支持を得た。

 ただ、グジャラート州で通用した手法が全国で通用する保証はもちろんない。懐疑的な見方もある。それでも市場はモディ首相誕生を歓迎する動きを示した。

 ちなみにモディ氏は下層カースト出身で、チャイ売りから身を立てた立身の人物。強力なリーダーシップを発揮する一方、手法が強引で敵が多いとの指摘もある。いずれにしろ、強力なインパクトを放つ人物であることは間違いない。

▼「ヒンズー至上主義」の懸念

 一方でモディ氏はヒンズー至上主義者として有名だ。自身もそれを隠さない。これが、インド国内の宗教対立を煽らないかと懸念する声も消えない。

 グジャラート州では2002年、ヒンズー教徒がイスラム教徒を虐殺する事件が起き、1200人が犠牲となった。この時に、モディ氏が州首相として適切な対応を取らなかったとの批判が浴びせられた。米国はこの件を理由に、モディ氏に対するビザ発行を停止している。

 選挙戦でもモディ氏はヒンズー教至上主義と受け止められかねないような発言をした。インドの首相に就任すれば立場は変わるだろうが、宗教対立がインド社会の抱える重要な問題であることは間違いない。処理を誤れば、経済不振などにとどまらず、国の安定を揺るがしかねない。

▼まだまだ貧しい社会

 近年は経済成長(そして直近は減速)が注目されたが、インドはまだ貧しい。2013年のGDPは1.8兆ドルで世界10位、購買力平価ベースでは世界3位との推定があり、規模は大きい。しかし、1人当たりのGDPは1500ドル程度で、日本の30分の1、中国の約4分の1に過ぎない。

 1日1.12ドル以下で暮らす貧困者の率(貧困率)は、2010年時点で30%以上。世界の貧困層の5分の1がインド人、という統計もある。衛生状況にも問題がある場所が多く、平均寿命は66歳(2011年)と世界で140位前後だ。農村などにはトイレのない家も多く、教育サービスのレベルは低い。

▼複雑な社会・古い因習

 インド社会が極めて複雑であることも、軽視してはならない。

 インドの人口は12億人強で、2015年には中国を抜いて世界最大になる見通し。民族は大きく分けてアーリア系約70%、ドラビダ系約25%などと言われるが、細かく分けると「多数」という表現がぴったり。地方公用語となっている言語は20を超える。

 古くからのカースト制度の伝統は、今なお各所に残る。男尊女卑などの伝統は農村のみならず都市部にも残り、2012年にはデリーで集団レイプ殺人事件が起き、世界を震撼させた。こうした事件がまだ起こる社会だ。

 赤子の誘拐や障害者にして物乞いをさせる行為、マフィアの暗躍など先進国の常識では信じられない話も残る。こうした状況は、映画Slumdog Millionaire(2008年)などに垣間見る通りだ。

▼国際的な影響

 政治面に限っても、テロ対応、対パキスタン関係など難問山積だ。

 昔のインドと違うのは、こうした問題への対応がインド1国にとどまらず、地域(南インド)や全世界への影響が大きくなっていることだ。G20やBRICS首脳会議など、発言が注目される機会も増えている。

 世界的な知性バランスで見れば、インドはアジアにおける中国への対抗勢力となる。NPTに入らない核保有国であるのにもかかわらず、米国などが原子力協定を結んだのもこうした事情画あるからだ。

▼世界最大の民主選挙

 インドは、経済成長や経済改革だけを重視して見るのではいけない。長い歴史、複雑な社会構造、宗教など様々な要素を踏まえてみないと、核心が見えて来ない。モディ氏の資質・手腕も、一面からだけ見ていたのでは判断を誤る。

 ただ、インドが多くの問題を抱えているといっても、冷戦終了後の四半世紀で国の近代化と経済成長うを実現してきたこと、世界の中で存在感を急速に拡大したことは重要だ。そして、有権者8億人もの「世界最大の民主選挙」を、大きな混乱もなく実現した事実も重い。

 インドを見る際には、まず事実や歴史をきちんととらえて、という当たり前のことが、他国以上に重要になる。

 
▼参考=インドの最近の経済指数などは以下の通り

・経済成長:2000年代は10%近い成長。2011年から減速が目立つ。
  2002-13の成長率=3.8、7.9、7.9、9.3、9.3、9.8、(08)3.9、8.5、10.2、(11)6.6、4.7、(13)4.3
・物価上昇率: 基本的に2ケタ近い高い上昇が続く。2013年12月のCPI上昇は9.1%。
・失業率: きちんとした統計はない。都市部の失業率3.7%とか、都市部大卒26%とかまちまち。
・財政赤字: 慢性的な赤字財政が続く。GDP比10%近い。2012年8.3%。
・政策金利: リーマンショック後の緩和→2011年秋には8.5%→景気対策で緩和→13年夏7.25%→
         通貨安対応などで2013年9月以降利上げ、2014年4月現在8%

2014.5.18

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