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2013年8月11日 (日)

◆ワシントンポストの身売りとメディアの変化 2013.8.11

 アマゾン創業者のベゾス氏がワシントンポスト社の新聞部門を買収した。同紙はウォーターゲート事件の報道でも知られる同国を代表する新聞。新興ネット企業による買収は、メディア業界の変遷と主役交代を象徴する事はもちろん、メディアと権力の関係や世論動向にも影響する。

▼世界に波紋

 ワシントンポスト社はワシントンポスト紙のほかに外交専門誌のフォーリン・ポリシーや教育事業部門などを保有している。今回売却するのは新聞部門。買収価格は2億5000万ドル。ベゾス氏はアマゾンを通じてではなく、個人としてポスト紙を買収する。

 8月4日付のポスト紙は"Grahams to sell The Post"という見出しで売却を報道。ニュースは米国はもちろん世界に波紋を投げかけた。

▼調査報道の金字塔

 ワシントン・ポストは1877年創刊。1930年代からグラハム家が経営を握ってきた。1970年代初めのウォーターゲート事件報道は、ニクソン大統領辞任につながった。

 同事件巡っては、政権からの圧力を社主のキャサリン・グラハム氏らが退けて報道を継続。米調査報道の金字塔とも言われる。こうした歴史に支えられ、同氏はNYタイムズと並び米国を代表する新聞と評されてきた。世論形成への影響力も大きい。

 一方でネット化などの影響で部数は減少。90年代の70万部から最近は40万部台に落ち込んでいた。

▼ネットの雄

 アマゾン・ドット・コムはネット時代を代表する新興企業の1つ。1994年にジェフリー・ベゾス氏が設立した。ネットを通じた書籍の販売という新しい市場を開拓し、その後書籍以外の通販、電子書籍端末のKindleの発売などに事業を拡大した。

 アマゾンの登場により世界の書籍販売の市場は一変。人々の生活を変えた。同社ビジネスモデルを説くキーワードの一つであるロングテールという言葉も広く使われるようになった。1997年にはナスダックに上場した。

 ベゾス氏はアマゾン開始当初から数年間は利益を出せないことを見通し、その上で長期的視点から事業を成功させた。現在アマゾンがGoogleやアップル、フェイスブック、マイクロソフトなどと並びネット時代を先導する企業の1つになっているのも、同氏のビジョンとリーダーシップ抜きには考えられない。

▼メディアの風景一変

 米国を中心とする世界のメディアは、過去20年あまりで風景が一変した。原動力になったのは、IT・ネット技術の発展と事業の国際化だ。

 90年代半ばからのインターネットの急速な普及で、世界の情報の流れは革命的に変化した。それ以前のニュース報道はテレビや新聞が中心だったが、今では「ニュースはネットや携帯から」という人は多い。2011年のアラブの春は、フェイスブックなどのSNSやツイッターが起爆剤になった。ネット広告市場は先進国ではすでに新聞を上回った。

▼加速する再編

 変化の中で、メディアの再編は加速している。

 1990年代には米国中心にテレビ局と映画制作スタジオなどの統合が進んだ。バイアコムのパラマウント買収(93年)、ディズニーのABC買収(95年)、バイアコムのCBS買収(99年、その前の95年にウェスチングハウスが買収したのを再度買収)、2000年のAOLとタイムワーナーの合併などが代表だ。

 21世紀に入ると、伝統的な新聞や報道機関を巻きこむ再編が加速した。2007年のニューズ社によるダウジョーンズ買収(ウォールストリートジャーナル紙発行)やトムソンによるロイター買収などが代表だ。

 米大手新聞社の経営危機が表面化し、シカゴ・トリビューン紙やロサンゼルス・タイムズ紙を発行するトリビューン社が経営破たんした。2009年のクリスチャン・サイエンスモニター紙に見られるように、紙の新聞発行を停止し、電子版だけにする動きも続いた。

 2010年代に入っても、この動きは基本的に変わらない。2013年からニュースウイーク誌は紙の発行を停止し、完全デジタル版に変わった。タイムワーナー社は出版子会社タイムの分離を発表した(実施は14年)。そして、今回のワシントンポストの売却だ。

▼体制は当面変えず

 2007年のニューズ社によるダウジョーンズ(WSJ)買収の際には、ニューズ社のマードック会長による編集介入などへの懸念が声高に叫ばれた。それに比べると、今回の買収への抵抗感などは少ないように見える。

 ドナルド・グラハムCEOはベゾス氏の人柄や手腕が決め手になったとコメント。ベゾス氏は買収後も当面ワシントンポストの経営や編集体制を変えず、編集に直接関与することもないとの姿勢を示した。

 一方で社員向けのメッセージで、「インターネットにより報道業界は様変わりしている」と指摘。時代の変化に応じた変革の必要性を訴えた。

▼EPIC2014の予言

 アマゾンと報道というテーマでは、10年前の2004年にネット上に公開された「EPIC2014」というビデオが話題になったことがある。このビデオは2014年から過去10年のメディアを解雇するという形をとったもの。

 その時には2008年にGoogleとアマゾンが合併して「Googlezon」が誕生。ニュース価値などまでを判断できるプログラムを開発し、優れたニュースサイトを作って市場を席巻していく。その結果、NYタイムズはネットの世界から撤退し、少数部数の紙媒体のみを発行するこじんまりとして存在になっている、という筋立てだ。

 ビデオの中では、SNSとネットサービスの発展、著作権、メディア再編など様々な問題が提起されている。そして何より「Googlezon」という言葉が、ネット時代の新勢力を象徴する言葉として広まった。

 実際の世界はビデオとは異なる展開になっているが、問いかけた問題の本質は変わっていない。

▼問われる報道機関の役割

 買収は報道の役割や国家と報道の関係という、古くて新たしい問題に改めて問いを投げかけた。

 買収決定後、ポスト紙オピニオン・ライターのEugene Robinsonは"Thanks, Graham family"と題する記事で同紙が果たした役割を強調。この他にもワシントンポストのこれまでの業績と、報道機関として求められる役割などに焦点を当てた記事がポスト紙をはじめ各紙に多数掲載された。

 「権力のチェック」という報道機関の伝統的かつ最重要の役割を語る上で、ウォーターゲート事件報道は欠かせない。スクープした記者、調査報道をリードした編集幹部はもちろん、権力との対立というぎりぎりの局面でリスクを負う決断ができた当時の社主キャサリン・グラハムが果たした役割は大きかった。

 ネット革命で情報の流れは変わり、報道機関の役割も問い直されている。アラブの春でみたように、いまやネットの世論形成力は時には新聞など伝統的メディアをしのぐ。しかしネットは情報の洪水になるだけのこともある。

 ネットと紙のコラボレーション、ビジネスモデルの組み替え、新しい企業形態--。伝統メディアは生き残りと時代に即した新しい役割を模索して試行錯誤している。

▼ネット時代のメディア

 従来想定外だった新たな問題も、次々に突きつけられる。米安全保障当局による個人情報の収集問題は、国家だけでなくネット企業やメディアに対しても「安全保障vs個人の権利」「個人情報管理」などの問いを突き付けた。2010年に起きたWikileaks問題も、本質は変わらない。

 中国などでは、ネット規制が一段と強まっている。サイバー攻撃はもはや一部専門家の話ではなく、皆の問題になった。問題意識は、ネット時代のメディア、ネット時代の社会という課題にも及ぶ。

 容易に答の出る問題ではない。買収は、そんなメディアを取り巻く実態や変化を改めて考えさせる。

2013.8.11

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