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2011年7月18日 (月)

◆ニューズ社スキャンダルの問うもの 2011.7.17

 英国で発覚した盗聴スキャンダルの余波が拡大。マードック氏率いるニューズ・コーポレーションの経営を揺さぶっている。メディアのあり方、ジャーナリズムのあり方など投げかける問題も多い。

▼事件の経緯

 ニューズ傘下の大衆日曜紙、ニュース・オブ・ザ・ワールドの盗聴スキャンダルが発覚したのは2006年。その時点では盗聴は政治家や有名人のみとされ、事件は同紙の陳謝でいったん収まった。

 しかし2011年になって一般人にも盗聴をしかけていた事が判明。その中に殺人事件の被害者が含まれていたことも分かり、英世論の批判は沸騰した。また、ブラウン前首相の家族の健康情報などの情報も不正入試していたことが明らかになった。こうした情勢の中でニューズ社は同紙の廃刊を決定した。

 しかし英当局の捜査は続き、18日にはニューズ・オブ・ザ・ワールドの元編集長で英部門であるニューズ・インターナショナルのCEOを務めるレベッカ・ブルックス容疑者を逮捕。英議会はマードック氏を含む関係者の召喚を検討している。

▼BスカイBの買収撤回

 ニューズ社は英国最大の衛星放送会社BスカイBの完全子会社化を計画していた(現在の持ち株は39%)。しかしスキャンダルをきっかけにニューズ社への批判が拡大。議会は買収を求め内容政府に求める動きを表面化させた。ニューズ社はBスカイB買収を断念した。

 組織防衛のためにひたすら身を低くして、批判の嵐が通り過ぎるのを待つかのような姿勢だ。

 ニューズ社はスキャンダル直前にも2005年に買収したSNSのマイスペース社を安値売却したばかり。ネット戦略の失敗と見られている。相次ぐ痛手が、ニューズ社の経営に与える影響は大きい。

▼ニューズ社の発展:伝統的秩序破壊の革新性

 ニューズ・コーポレーションは豪州出身の新聞経営者、ルパード・マードック氏が一代で育てた帝国。1970年代から英国の新聞買収を加速。高級紙の代表とされたタイムズや大衆紙のサン、日曜大衆紙のニューズ・オブ・ザ・ワールドなどの買収でビジネスを拡大した。

 1980年代にはタイムズ紙で労働争議を制圧し、労働組合が強かった経営体制を一新。価格引き下げ競争でライバル紙との競争に勝ち抜き、一大勢力を築き上げた。18世紀以来の英新聞界の伝統的な秩序を破壊し、新時代の経営を取り入れたとも言える。

 その後事業をテレビや映画、コンテンツ作成などに拡大。米国ではFOXテレビを3大ネットワークに匹敵する第4のネットワークに育て、映画では20世紀フォックスを傘下に収めた。また英国では90年代、他社との衛星放送競争を痛み分けの形で生き抜き、BスカイBの39%の株式を把握。アジアでも衛星放送事業を育てている。

 2007年には米国でウォール・ストリート・ジャーナルを抱えるダウ・ジョーンズ社を買収。SNSなどネット事業にも果敢に乗り出し、世界を代表するメディア企業に育てた。本社は豪州から米国に移転、英国は子会社のニューズ・インターナショナルが担当する体制を整えた。マードック氏はメディア王と呼ばれる事がすっかり定着した。

▼ジャーナリズムよりビジネスの論理優先

 ただ、ニューズ発展に対する批判は従来から多い。代表的なのはジャーナリズムの論理からの批判だ。

 英国を代表する高級誌だったタイムズは、マードック氏の買収の後大衆路線辺の転換が進んだ。マードック紙の政治スタンスは保守的でありながら、政治状況に応じて勝ち馬に接近する姿勢が強い。権力へのチェック機能に欠けるとの批判は強い。アジアでの衛星テレビビジネスでは、中国政府への迎合的な姿勢を示した。概して権力を批判するより、権力に取り入る姿勢が強いといわれる。2007年のダウ・ジョーンズ買収の際にも、米国のジャーナリズムにとって打撃になるとの批判が表面化した。

 今回のスキャンダルも、ニューズ・オブ・ザ・ワールド独自の問題というより、ジャーナリズムの論理を軽視するニューズ社の体質に起因するとの指摘もある。

▼問われる20世紀の成功モデル

 ネット革命でここ数年のメディアの変化は著しい。グーグルなどの検索サービスは、既存のメディアから広告を奪い取り、SNSなどの新サービスが急速に発展している。2008-09年には米国や欧州で伝統的な新聞が何紙も廃刊に追い込まれた。

 2010年のウィキリークスによる情報公開は、新時代のメディアの機能に改めて問題を突き付けた。今年に入っての中東での革命は、ネットやSNSのもたらした力を示した。同時に中国での新たなメディア規制など、権力とメディアの関係も変わっている。

 マードック氏のニューズ社は、伝統的秩序の破壊と政治権力との新たな関係構築、ビジネス優先と割りきった新たな経営で、新たなビジネスモデルを示した。それは20世紀末の成功モデルと言えるかもしれない。しかし、今回の事件で状況は一変した。

 事件はニューズ社特有の問題であると同時に、21世紀のメディアのあり方を問う問題でもある。

2011.7.17

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