« 2011年4月 | トップページ | 2011年6月 »

2011年5月

2011年5月28日 (土)

◆G8サミットが映す世界 2011.5.28

 G8首脳会議がフランス北西部のトービルで開かれた。G20発足後、G8の影響力低下は否定しようがない。それでも世界の現状と課題を考える定点観測の場としての意味はある。

▼首相宣言の項目

 日本のメディアでは震災や津波、原発関連の報道偏重になるが、必ずしも会議の実態を反映しているものではない。今回の首脳宣言は全部で93項目。そのpreamble(前置き)は、以下の通り。会議開催などを記録した1項、12項以外の10項目が、G8にとっての課題と問題意識を映している。

1.会議の開催の記録。
2.中東・北アフリカの民主化支援。「アラブの春宣言」を採択。
3.アフリカとの連携(コートジボアール、ギニア、ニジェールなど)
4.東日本大震災:日本との連帯など
5.インターネット:基本原理として自由、プライバシーの尊重、知的財産保護、安全など
6.世界経済
7.環境、地球温暖化
8.原発の安全。安全基準の必要性など
9.世界の安全保障への努力
10.リビア、シリア、パレスチナ問題
11.NPT、核不拡散
12.次回G8サミット米国開催。

 議長国フランスの思惑から、アフリカが前面に押し出され、反原発色が出ないように構成された可能性がある。しかし、現在の世界の関心が、中東・北アフリカの民主化、原発問題、ネット社会、核拡散問題などにある。個別問題としては、リビア、シリア、パレスチナ、アフリカなどが焦点だ。

▼経済はG20などに

 G8(前身のG5)は1975年に始まり、今年で37回目。当初は経済サミットという位置付けで、経済宣言に注目が集まった。

 しかし、2008年の金融危機後は世界の経済問題を議論する場がG20に移った。目下の重要案件であるギリシャ財政危機なども、議論の場はIMFやG20財務相・中銀総裁会議などに移っている。

 欧米や新興国メディアの報道も限定的。G8そのものにも世界の変化は投影されている。

2011.5.28

2011年22号(5.28-28 通算570号)   国際ニュース・カウントダウン

◎国際ニュース・週間カウントダウン: 2011年5月23-28日
 

◆G8首脳会議、中東民主化や原発安全を強調(26-27日)☆
・G8の首脳会議が仏北西部のドービルで開催した。
・首脳宣言は中東・北アフリカの民主化支援を表明。別に「アラブの春宣言」も採択した。
・原子力の安全促進も強調。安全基準の厳格化などを求めた。
・インターネットについても宣言で初めて言及。情報の自由や知的財産保護を強調した。
・IMFは26日、中東・北アフリカの石油輸入国に3年で1600億ドルの支援が必要と報告した。
・G8の場で米欧は支援を発表したが、10億ドル単位にとどまっている。

◆パキスタンの軍事施設に攻撃(22日)☆
・最大都市カラチで武装勢力が海軍の航空基地を襲撃。治安部隊10人以上が死亡した。
・パキスタンのタリバン運動が犯行声明を出した。ビンラディン殺害の報復とする。
・同国では13日に北西部の治安組織施設襲撃事件があったばかり。
・警備の堅いはずの軍施設攻撃は、内通者の存在も指摘される。

◆セルビア、ムラディッチ元司令官の身柄拘束(26日)☆
・セルビア当局はボスニア紛争でセルビア人司令官だったムラディッチ氏の身柄を拘束した。
・タディッチ大統領が発表した。
・同司令官は旧ユーゴ国際戦犯法廷に起訴されていた。
・ボスニア紛争でイスラム教徒数千人虐殺を指揮した容疑。
・08年の拘束されたカラジッチ被告とならぶ大物戦犯だった。
・EUはセルビアの加盟交渉開始の条件として同被告の拘束を挙げていた。
・このため、EU加盟に追い風になるとみられる。

◆イエメン、衝突激化
・イエメンのサレハ政権と反体制派の衝突が激化した。
・反体制派には同国最大級の部族が加担。首都サヌア郊外の基地を選挙した。
・これに対し政権側は空爆を実施。10人以上が死亡した。内戦の懸念が強まっている。
・サレハ大統領はGCC(湾岸6カ国)の退陣調停案受け入れをいったん表明後に拒否。
・1月から始まった反政府運動は、これまでになく拡大している。

◆金正日総書記が胡錦涛国家主席と会談(25日)☆
・訪中中の金正日総書記が北京で胡錦涛国家主席と会談した。
・北朝鮮への経済支援、核問題などを協議。6カ国協議再開などで一致した模様。
・総書記は26日に帰国した。後継者の地位を固めた金正恩氏は同行しなかった。
・金総書記の訪中は温家宝首相の訪日に合わせて日程だった。
・中国側は会談を金総書記の帰国前に発表するなど、中朝関係の変化も表れた。

 ─────────────────────────────
 │INCDの採点
 │ ☆☆☆ 世紀の大ニュース                  
 │ ☆☆  世界史の年表に載るようなニュース         
 │ ☆   国際情勢を理解するのに知っていた方がいいニュース  
 │ 無印  興味のある方は。知らなくても困ることはないでしょう
 ─────────────────────────────
 

◎寸評:of the Week
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 【中東民主化と原発のG8】 仏ドービルでG8が開催。中東民主化と原発の安全を中心に議論した。

 【オバマ大統領の欧州訪問】 G8に先立ってオバマ米大統領はアイルランドと英国を訪問。アイルランドでは祖先の出身地とされる村を訪ね、ギネスビールを味わうパフォーマンスを見せた。初のアフリカ系ばかりが印象付けられる同大統領だが、アイルランド系でもある。民族のるつぼである米国社会(米国人)を改めて印象付けられた格好だ。英国ではキャメロン首相と会談、米英が特別な関係であるのみならず、世界にとって最も重要な関係であると強調した。

 【くすぶるギリシャ・南欧問題】 EUやIMFのギリシャ支援から1年を経たが、同国問題は依然くすぶっている。市場では財政再建の実現性な見方が強く、同国国債の利回りは上昇。デフォルト(債務不履行)やリスケ(債務返済再調整)の懸念が消えない。ポルトガル、スペイン、イタリアなど南欧諸国の国債利回りも上昇。財政懸念が繰り返される状況は変わらない。

 
◎今週の注目(2011.5.29-6.4)&当面の注目
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

・イエメン情勢が緊迫している。サレハ政権は持つのか。目が離せない。
・IMFの専務理事人事の調整が進む。フランスのラガルド財務相が名乗りを上げ、支持が拡大している。中国は副専務理事のポジションを狙っているとも伝えられ、他の幹部人事も注目。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 incd-club は国際問題に関係する内外のジャーナリストやビジネスマンらのグループです。「国際ニュース・カウントダウン」は、世界のニュースから週刊単位でベスト5を選び、解説したもの。日本のメディアの報道とは異なる視点から、面白くかつ分かりやすく地球を鳥瞰しています。
 ブログは毎週発行のメールマガジンを元に作成しています。

 ------------------------------------------------
 メールマガジンの登録変更・解除は次のアドレスから。(『まぐまぐ』を利用)。
 http://www.mag2.com/m/0000056121.htm
 ------------------------------------------------

 Copyright(c) 2011 INCD-club

2011年5月22日 (日)

2011年21号(5.15-22 通算569号) 国際ニュース・カウントダウン

◎国際ニュース・週間カウントダウン: 2011年5月15-22日

◆IMF専務理事を逮捕(15日) ☆(^^)
・NY市警察はIMFのストロスカーン専務理事を逮捕した。
・滞在先ホテルの女性従業員への性的暴行未遂などの容疑。同氏は容疑を否認している。
・事件の真相は不明な部分が残るが、国際機関高官の逮捕は異例。
・専務理事は17日に辞任。IMFは6月中に選任の方針で、後任人事の調整を始めた。
・専務理事は歴史的に欧州出身者が就任してきたが、途上国からはポストを求める声がある。
・欧米主導だった第2次大戦後の統治システムの問い直しにつながる可能性も否定できない。
・IMFはギリシャ危機など通貨危機への対応で、重要な役割を果たしている。
・ストロスカーン氏は次期仏大統領選の有力候補の1人でもあった。

◆米が中東政策。パレスチナ提案はイスラエルが拒否(19-20日)☆
・オバマ大統領は19日、中東政策について演説した。
・中東民主化の推進と支持を強調。エジプトなどへの支援策も示した。
・パレスチナ問題は1967年の国境線を基本とする方針を明言。イスラエルに譲歩を求めた。
・大統領は20日ネタニヤフ・イスラエル首相と会談。67年ライン軸の調停案を示した。首相は拒否した。
・イスラエルは第3次中東戦争でヨルダン川西岸を占領。その後入植を続けている。
・米はかねて67年ライン、イスラエル・パレスチナ2国併存を基本にしてきたが、改めて迫った格好だ。
・パレスチナ和平交渉は昨年9月に2年ぶりに再開したが、入植継続などから頓挫した。
・オバマ大統領は局面打開に思い切った提案をぶつけた形。しかしイスラエルの反発は強い。

◆北総書記が訪中、後継固め狙いか(20日)☆
・北朝鮮最高首脳の乗った列車が中国に入国した。目撃情報などから金正日総書記と見られる。
・昨年9月に金正恩氏の後継が固まってから初の訪中。
・体制について中国のお墨付けを得るのが狙い、との見方が出ている。

◆エリザベス英女王がアイルランド訪問(17日)
・エリザベス女王がアイルランドを訪問した。
・英君主の訪問は1911年以100年ぶりで、1937年の同国独立以来初めて。
・和解を演出する訪問で、独立闘争の犠牲者らに献花した。
・訪問時にはアイルランドのカラーである緑のコートを着ていた。

◆日中韓首脳会議(21-22日)
・日中韓の首脳会議が日本開催。日本の震災後復興への協力などを話し合った。
・原子力の安全対策の協力強化で一致した。
・3首脳は会議前に福島県を訪問。避難所などを視察した。

 ─────────────────────────────
 INCDの採点
  ☆☆☆ 世紀の大ニュース                  
  ☆☆  世界史の年表に載るようなニュース         
  ☆   国際情勢を理解するのに知っていた方がいいニュース  
  無印  興味のある方は。知らなくても困ることはないでしょう
 ─────────────────────────────

◎寸評:of the Week
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 【IMF専務理事逮捕というハプニング?】 IMFのストロスカーン専務理事が性的暴行容疑で逮捕された。「そんなことがあるのか」という感じのニュース。真相にはナゾも多く、後味の悪さは否定できない。それでも、こうしたハプニングともいえる事件をきっかけに、世界が変わることもある。
 逮捕を巡っては、陰謀説を含め様々な情報やウワサ話が飛び交う。同氏は以前にも同様の行動があったという証言がある一方、同氏を陥れる陰謀という声もある。事実はなお藪の中だし、将来真相がすべて解明されるかどうかも定かではない。
 事件の影響については、数々の「真面目な」解説が示されている。IMF専務理事は第2次大戦後、欧州出身者が就任し、米出身者による世銀総裁とともに戦後の欧米主導体制の象徴だった。それに新興国が異議を唱え始めている。
 IMFの機能も改めて注目される。金融危機以降、多くの国がIMFの融資で破綻を回避した。目先もギリシャやアイルランド、ポルトガルの危機、エジプトなど中東諸国の危機など案件は目白押しだ。
 仏国内政治への影響も指摘される。ストロスカーン氏は次期フランス大統領選の有力候補でもあった。事件でほぼ脱落した。
 そうしたオーソドックスな認識はもちろん重要だが、高尚な話とは程通いハプニング(あるいは陰謀)が引き金になって世界が変わる。それを改めて認識することも同じくらい重要だ。

 
 【オバマ大統領の中東政策】 オバマ大統領が19日、中東政策について演説した。チュニジア、エジプトの革命後初めての包括演説だけに注目されたが、全体的に驚きは少ない。民主化の促進と支援、リビアでの反体制勢力支援などはこれまでの路線。具体的支援策も、大きなインパクトを与えるほどのものではない。
 そんな中で目立ったのは、パレスチナ問題で67年の国境を基本に和平交渉を進める方針を改めて表明したこと。翌20日にはワシントンを訪れたネタニヤフ首相に提案したが、首相は拒否した。イスラエルは67年の第3次中東戦争でヨルダン川西域を戦力。以後、国際世論を無視して入植地の建設を続け、支配を既成事実化している。
 米国はブッシュ政権末期にパレスチナ和平の調停を再始動。オバマ政権に代わってからはミッチェル特使中心に仲介を進めたが不調に終わっている。ミッチェル氏は今月辞任した。
 米大統領は国内のユダヤ人勢力への配慮などから、イスラエル寄りの姿勢を取り続けている。今回のオバマ大統領の政策は、従来に比べてイスラエルへの配慮よりスジ論を強調した内容になっている。事態膠着への大統領の憤りという解説もある。
 新提案がかえって物事をこじらせ、和平の速度を遅くするという批判も出ている。しかし、従来に比べてオバマ色が出たという印象を受ける。 

 
◎今週の注目(2011.5.23-28)&当面の注目
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

・G8首脳会議が26日からフランスのドービルで。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 incd-club は国際問題に関係する内外のジャーナリストやビジネスマンらのグループです。「国際ニュース・カウントダウン」は、世界のニュースから週刊単位でベスト5を選び、解説したもの。日本のメディアの報道とは異なる視点から、面白くかつ分かりやすく地球を鳥瞰しています。
 ブログは毎週発行のメールマガジンを元に作成しています。

 ------------------------------------------------
 メールマガジンの登録変更・解除は次のアドレスから。(『まぐまぐ』を利用)。
 http://www.mag2.com/m/0000056121.htm
 ------------------------------------------------

 Copyright(c) 2011 INCD-club

2011年5月14日 (土)

2011年20号(5.9-14 通算568号)  国際ニュース・カウントダウン

◎国際ニュース・週間カウントダウン: 2011年5月9-14日

◆欧州中銀総裁にドラギ氏確定(11日)☆
・欧州中銀の次期総裁にイタリア中銀のドラギ総裁が内定した。
・独メルケル首相が支持を表明。仏伊と合わせ、主要国が一致した。
・10月末に任期切れとなるトリシェ総裁の後任となる。
・ギリシャ危機以降続くユーロ不安への対応が最大の課題となる。

◆パキスタンで報復テロ(13日)☆
・パキスタン北部のチャルサダの治安部隊訓練施設で連続爆弾テロが発生。
・80人以上が死亡、多数が負傷した。
・パキスタン・タリバン運動が犯行声明を発表。ビンラディン殺害への報復としている。
・米政府の発表によると、ビンラディンの潜伏先からはテロ計画の情報などが発見された。
・オバマ大統領は8日のTV番組で、パキスタン内に支援網があったと指摘した。

◆マイクロソフトがスカイプ買収(10日)
・米マイクロソフトはインターネット通話のスカイプを買収した。
・買収金額は85億ドル年。スカイプはMSの一部門となり、MSのゲームなどと連携する。
・スカイプは03年設立。05年にイーベイに買収され、09から投資銀行傘下。
・IT業界の合従連衡でも注目を浴びる買収の1つ。

◆米中戦略・経済対話(9-10日)
・米中の閣僚級戦略・経済対話がワシントンで開かれた。第3回。
・米益不均衡、人民元相場、投資環境改善などを協議。
・テロなど安保問題でも意見交換。米国は中国の人権問題で圧力を強めた。
・特に見出しになる大きな合意や対立はなかったが、米中G2の定点観測の場として重要。

◆ミシシッピ川で洪水
・米ミシシッピ川が歴史的な増水を起こしている。
・テネシー州など各地で宅地や農地が冠水。多大な被害が出ている。

 ─────────────────────────────
 INCDの採点
  ☆☆☆ 世紀の大ニュース                  
  ☆☆  世界史の年表に載るようなニュース         
  ☆   国際情勢を理解するのに知っていた方がいいニュース  
  無印  興味のある方は。知らなくても困ることはないでしょう
 ─────────────────────────────
 

◎寸評:of the Week
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 【ビンラディン殺害の余波】 事件から1週間を経て、余波が続いている。パキスタンではイスラム過激派が報復テロを実施。オバマ米大統領はパキスタン国内にビンラディンの潜伏を支援したネットワークが存在したと述べた。パキスタン国内では、米国の通知なしの作戦実施を主権侵害と反発する声が高まった。

 【中東情勢】 引き続き混乱が続く。シリアでは治安当局による反政府デモの弾圧が拡大。戦車による制圧なども報道されている。リビアでは政府・反政府勢力の対立が続く中、EUは反政府勢力拠点のベンガジに事務所を設置する意向を示した。

 
◎今週の注目(2011.5.15-21)&当面の注目
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

・ビンラディン殺害の余波、中東情勢は引き続き要注意。
・日本の原発問題は長期戦となっているが、福島1号機からの汚染水大量流出、浜岡原発の運転停止など節目の動きが次から次に起きている。展開から目を離せない。
・日中韓首脳会議が21日に日本で。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 incd-club は国際問題に関係する内外のジャーナリストやビジネスマンらのグループです。「国際ニュース・カウントダウン」は、世界のニュースから週刊単位でベスト5を選び、解説したもの。日本のメディアの報道とは異なる視点から、面白くかつ分かりやすく地球を鳥瞰しています。
 ブログは毎週発行のメールマガジンを元に作成しています。

 ------------------------------------------------
 メールマガジンの登録変更・解除は次のアドレスから。(『まぐまぐ』を利用)。
 http://www.mag2.com/m/0000056121.htm
 ------------------------------------------------

 Copyright(c) 2011 INCD-club

2011年5月 8日 (日)

◆テロの時代とビンラディンの位置付け 2011.5.8

 良い意味でも悪い意味でも、ウサマ・ビンラディンは9.11以降の「テロの時代」を象徴する人物だった。

▼ビンラディンの生涯

 ビンラディンは1957年、サウジの建設業を営む富豪の家に生まれた。80年代にアフガンで対ソ連の聖戦に参加。その後、湾岸戦争時に米軍の駐留を許したサウジ王室を批判し、1991年に国籍をはく奪された。

 その後ソマリアに移動しテロ活動に関与。96年にはアフガニスタンのタリバンに招かれた。98年にはケニアとタンザニアの米大使館の爆破事件を指揮。自身の富と、アフガンでの麻薬栽培の収入などを資金にしたといわれる。

 そして2001年の9.11で、世界に名を知られ、対米テロの象徴的存在になった。93年のNY世界貿易センタービル爆破、96年のサウジ・ダーランの米軍私設爆破、2000年のイエメンでの米口艦爆破などへの関与も疑われる。

 9.11後もビデオなどを通じて世界にメッセージを発し続けた。

▼不平を聖戦に転嫁

 英EconomistはLeaders(冒頭記事)で、ウサマ・ビンラディンの位置付けや殺害の影響を論じている。

 その中で、ビンラディンは、イスラム世界にあった貧しさや不平を世界的なレベルの聖戦(ジハード)というブランドに転化する役割を果たしていたと指摘。結果、キリスト教文明とイスラムの対立のような「文明の衝突」が問題になったと分析している。

 しかし、9.11から10年を経てビンラディンの神通力は低下したとも指摘している。アフガンやイラクでは、米国をはじめとする多国籍軍が戦闘面では勝利、非イスラム教徒の軍隊が駐留週続ける。ヨルダンやパレスチナでの世論調査では、ビンラディンへの支持率は確実に低下していた。

▼呼称とイメージ

 ビンラディンの呼称と、それが与えるイメージは言葉によってかなり異なる。英語では基本的にMr.の表現。善悪の判断を排除して、男性であることを示しているだけだ。一方日本語では、ビンラディン容疑者という報道が多いが、この表現にはどうしても「犯罪者」のイメージばかりが付きまとう。かといって「氏」では敬称になってしまう。こうした呼称も、無意識のうちにイメージ形成に影響している。

2011.5.8

◆ビンラディン殺害と世界 2011.5.8

 米同時多発テロから10年、米国がウサマ・ビンラディン容疑者を殺害した。突然のニュースは世界に驚きを与え、今後の世界の安全保障や国際情勢に大きな影響を与えることは確実。ただ、不明な点も依然多く、事件の分析や意義づけにはなお時間を必要とする。

▼経緯と事実関係

 米特殊部隊がイスラマバード郊外のビンラディンの隠れ家を急襲したのは現地時間2日未明。部隊は ビンラディンの頭部を撃って殺害したほか、家族などが死亡した。妻など数人が負傷し、病院に運ばれた。
 ビンラディンの死体は水葬。米国は聖地になることなどを懸念し、場所を明らかにしていない。イスラムの伝統を尊重したというが、これには異論も出ている。
 ビンラディンの死亡について、タリバンやアルカイダは当初確認を避けていたが、数日後には事実としてを認めた(その上で米国への戦いなどを呼び掛けている)。
 遺体の映像写真などはないが、ビンラディンの事実として受け入れられた格好だ。

▼15年越しの作戦

 オバマ大統領は作戦直後の米東部時間1日深夜に緊急記者。「正義が達成された」と述べた。同時に、ビンラディンについてイスラムのリーダーではなくテロリストであると強調した。
 大統領はその後、NYのグラウンド・ゼロを訪問。テロとの戦いを訴えた。

 説明によると、米国がビンラディンの行方についての情報をつかんだのは2年前。その後の調査で、所在地を突きとめた。空爆などいくつかの選択肢の中から、大統領が最終的にヘリを使った特殊部隊の急襲というオプションを選び、実行を指示した。

 ビンラディンは2001年の9.11を指揮した人物としてあまりに有名。しかし1998年のケニアとタンザニアの米大使館爆破事件も、ビンラディンが指揮したといわれている。米国はそれ以来、ビンラディンを追っていた。その意味では、15年あまりの追跡といえる。

▼国際社会への影響=(1)パキスタン

 事件の余波や国際社会への影響は様々だが、当面焦点が当たるの以下の3点だ。

 第1にパキスタンだ。パキスタンの情報機関はかねてタリバンやアルカイダと関係が深いと指摘されている。今回も、ビンラディンが首都近郊に長期潜伏していたのを知らないのは不自然、などという疑念が指摘される。

 米政府は作戦をパキスタン政府に事前通告をしなかった。これも、通知したら情報が漏れるとの懸念が強かったためだ。インドなどパキスタンと対立を繰り返し、同国のテロ対策などを疑問視する国は、警戒を隠さない。

 ただ、国際社会のパキスタン・バッシングともいえる風潮に、行き過ぎ警戒の動きも出ている。EUはパキスタンが対テロで欧米と協力してきた事を評価する声明を発表した。

 いずれにしろ、パキスタンのテロ対策やアルカイダ、タリバンとの関係を巡る疑惑はくすぶり続ける。

▼(2)米国の作戦=正当性巡る論議

 第2に米国の行動の正当性を巡る問題だ。

 当初、米国は銃撃戦の結果ビンラディンを殺害したと説明した。しかしその後、武器を持たないビンラディンを射殺したと説明を変えた。遺体の写真の公表についても、未公開にすると変更。所在地の捜査の過程では、拘束しているテロリストに対し拷問を行ったことも認めている。

 国際社会は最初、米国の行動を支持、あるいは理解を示した。しかしその後、米国の行動が国際法違反でなかったかという声が出始めた。

 米国政府はビンラディンなどテロリストとは「戦争状態にある」などと説明。国際法の枠を出ていないと主張する。しかし、疑問を挟む人々と、議論が噛み合っているとは言い難い。

 対テロなど非対称戦争の時代における国際法の枠組みと解釈は、まだ整備されているとは言い難い。今後もこうした問題は問われ続ける。
 

▼(3)テロの脅威=継続

 第3のテロの脅威については、今後も続くという見方でほぼ一致する。

 ビンラディンは対米テロの象徴的な存在。その死が時代を画する事は間違いない。

 ただ、アルカイダはすでにビンラディンが直接指示するような組織から、緩いネットワーク組織に変わっている。アルカイダに代わるテロ組織も誕生している。

 テロがの脅威がなくなるわけではない。アルカイダやタリバンは、すでに対米報復を呼び掛けた。短期的にはむしろ報復テロが増えるという見方も強い。

 一方で、今後のテロは小規模化するなどの見方もある。 

▼不透明な点

 今回の殺害の影響は、政治、社会、文化、宗教などにも及ぶだろう。パキスタンの説明などによっては、国際社会に変化を起こす事も考えられる。今後の行方は、真実の解明によっても変わる。潜伏先解明のプロセス、パキスタンの関与、ビンラディンの潜伏中の活動など不明な点も多い。当面は1つ1つの事実の解明に注目だ。

2011.5.8

 

2011年19号(5.1-8 通算567号)  国際ニュース・カウントダウン


◎国際ニュース・週間カウントダウン: 2011年5月1-8日

◆米、ビンラディン殺害(2日) ☆☆☆
・米国の特殊部隊は2日未明(現地時間)、パキスタンでウサマ・ビンラディンを殺害した。
・オバマ大統領が米国時間1日深夜発表した。
・イスラマバード近郊アボタバードの潜伏先を急襲、射殺した。遺体は直後に水葬した。
・ビンラディンはアルカイダの指導者で9.11の首謀者とされる。
・イスラム過激派によるテロの象徴的存在として、大きな存在感・影響力を維持してきた。
・9.11以降テロ戦争の時代に入ったといわれる世界にとって、殺害は重要な節目になる。

◆世界の人口170億人突破(3日)☆
・国連が発表した人口推計によると、世界の人口は10月末に70億人に達する。
・60億人突破から12年で大台超えする。2025年には80億人を突破する見込み。
・ただ、その後は増加率が低下。100億人に達するのは2080年代とみている。
・今後はアフリカの人口増加が急速に進む。アジアは中国の人口抑制などで伸びが鈍る。
・人口増により、食料や水不足などが深刻な課題になっている。

◆パレスチナ統一政府正式合意(4日)☆
・パレスチナのファタハとハマスは統一政府の立で正式合意した。
・アッバス自治政府議長が仲介したエジプトで会見。近く統一政府の閣僚を発表する。
・1年以内に議長と議会選を実施する計画。
・パレスチナは2007年にイスラム原理主義のハマスがガザ゙を制圧。分裂に陥った。
・ハマスを含む統一政府樹立にイスラエルは反発。中東和平交渉は遠のく可能性がある。
・合意の背景には、シリアの反政府デモによる動揺もある。同国はハマスを支援してきた。

◆英国民投票、現行選挙制度を維持(5日)
・下院選挙制度の改革を巡る国民投票が行われ、単純小選挙区制継続が決まった。
・小政党が議席を得やすい優先順位付連記投票制が問われたが、否決された。
・国民投票は第3党の自民党が、昨年5月に保守党と連立を組む条件として求めていた。
・英国は小選挙区制の下に、長い間2大政党制が定着。
・小政党は得票率ほど議席を得られず、改革を求めてきた。
・当面は現行制度が続くことになる。

◆カナダ総選挙、与党勝利。ケベック分離党は大敗(2日)
・総選挙が行われ、与党・保守党が308議席中過半数超の167議席を獲得。
・ハーパー首相の続投が決まった。
・最大野党には新民主党が躍進。中道の自由党は第3党に後退した。
・ケベック連合は43議席から4議席に大幅後退した。ケベック分離運動も後退しそうだ。

 ─────────────────────────────
 INCDの採点
  ☆☆☆ 世紀の大ニュース                  
  ☆☆  世界史の年表に載るようなニュース         
  ☆   国際情勢を理解するのに知っていた方がいいニュース  
  無印  興味のある方は。知らなくても困ることはないでしょう
 ─────────────────────────────
 

◎寸評:of the Week
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 【歴史的なニュース】 米特殊部隊によるウサマ・ビンラディン殺害という大ニュースが入った。9.11の首謀者で、それ以降世界中で認識されるようになった「テロの時代」の象徴的な存在。殺害の影響は安全保障面のみならず、政治、社会、文化にも及ぶ。

 【中東情勢:パレスチナ、イエメン、リビア】 パレスチナのファタハ(アッバス議長の母体)とハマス(イスラム原理主義)が統一政府の樹立で正式合意した。パレスチナは2007年のハマスによるガザ武力制圧以来、分裂状態に陥っていた。それが再び統一される。
 一方、前週に「1カ月以内の退陣」というGCCの調停案受け入れを表明していたイエメンのサレハ大統領は調印文書への署名を拒否。イエメン情勢は再び混迷している。
 リビアではNATO軍空爆でカダフィ大佐の6男らが死亡。カダフィ政権側は反発している。

 【連関する動き】 中東情勢は、民主化の動き野影響を大きく受け、相互に連関している。同時に、「対イスラエル」「テロ」などのキーワードで、アルカイダやビンラディンともつながっている。
 パレスチナの統一政府合意は、エジプトやシリア情勢の混迷が影響している。エジプトは革命後親米・新イスラエルよりもパレスチナでの仲介を前面に出した。ハマスはシリアから支援を受けており、シリア情勢混迷で支援を失うことを恐れたハマスが統一政府樹立に向け従来以上に積極的に動いた。
 イエメンはソマリアなどと並んでアルカイダの拠点になっている国。同国情勢の行方は、世界のテロの行方に大きく影響する。

 
◎今週の注目(2011.5.9-14)&当面の注目
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

・ウサマ・ビンラディン殺害を巡る新事実がいくつか明らかになる。アルカイダなどは報復テロを宣言しており、目が離せない。
・中東情勢も引き続き注目。
・米国と中国の戦略対話が9日からワシントンで。人民元の引上げなどが問題になる。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 incd-club は国際問題に関係する内外のジャーナリストやビジネスマンらのグループです。「国際ニュース・カウントダウン」は、世界のニュースから週刊単位でベスト5を選び、解説したもの。日本のメディアの報道とは異なる視点から、面白くかつ分かりやすく地球を鳥瞰しています。
 ブログは毎週発行のメールマガジンを元に作成しています。

 ------------------------------------------------
 メールマガジンの登録変更・解除は次のアドレスから。(『まぐまぐ』を利用)。
 http://www.mag2.com/m/0000056121.htm
 ------------------------------------------------

 Copyright(c) 2011 INCD-club

« 2011年4月 | トップページ | 2011年6月 »

2019年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ

ウェブページ