フランス大統領選は5月6日の決選投票で、緊縮より成長を訴えた野党・社会党のオランド候補が現職のサルコジ大統領を破り当選した。同日に行われたギリシャの総選挙では、反緊縮財政の政党が伸長。ギリシャ危機再燃の懸念が高まった。2つの選挙結果は、経済(財政改革の必要性)と政治(痛みを嫌う有権者)の狭間で悩む欧州の現況を映している。ユーロ危機の行方に黄信号が灯り、さらには欧州統合の未来も左右しかねない。
▼仏大統領選:反サルコジで政権交代
フランス大統領選は事前の世論調査予想の通り、社会党のオランド氏勝利となった。社会党政権はミッテラン大統領以来17年ぶり。現職大統領の敗北は、ジスカールデスタン大統領以来31年ぶりだ。
オランド氏処理の理由を1つだけ挙げれば、「国民の反サルコジ感情」だ。サルコジ氏は経済改革を唱えて2007年に大統領に就任。市場機能を重視した競争力強化策を打ち出した。
ところが2008年にリーマン・ショックが発生。さらに2010年以降はユーロ危機が表面化して経済・金融市場が混乱。大統領はその対応に追われた。
危機に対しサルコジ氏は、財政再建重視の姿勢で臨んだ。財政支出を削減する一方、今年には消費税引き上げを決定(オランド大統領誕生で覆される見込み)。メルケル独首相と協力してユーロ防衛策に奔走し、税制規律を重視するEUの新条約もまとめ上げた。
しかし、経済悪化で失業率は上昇(4月10.2%)。格差も拡大した。これが国民の反サルコジ感情を高め、今回の選挙結果につながった。大統領選は国民がオランド氏を支持したというより、サルコジ大統領にノンを突き付け、「変化」を求めたと理解すべきだ。米WSJはフランス大統領選も含めた選挙結果を、Voter Anger Sweeps Europeと評した。
▼ギリシャ:反緊縮政党が躍進
ギリシャ総選挙のメッセージはさらに明白だ。選挙では連立政権2党の議席が200超→149議席と過半数割れ。特に第1党だったPASOK(中道左派)は、129議席から41議席へと大敗した。英BBCの表現"Greek voters spurn major parties"が状況をよく示している。 両党は2月に緊縮財政計画をまとめ、EU・IMFからの支援を引き出した。
代わって伸びたのが、緊縮財政に反対した各政党。中でも極左のSYRIZAは約50議席を獲得して第2党に躍進した。左派系、極右政党も議席を増やした。
第1党となったNDは連立政権樹立の調整に入るが、難航は必至。工作が上手く進まなければ、再選挙というシナリオもあり得る。いずれにしろ、同国政局が混乱するのは必至だ。英FTはGreeks face fresh political turmoil と表現した。
▼ギリシャ危機再燃の懸念
選挙ではポピュリスム的な主張が目立った。ギリシャのSYRIZAは「EUとの合意を無効にする」などと主張。緊縮財政と経済悪化に苦しむ国民の人気をとらえた。他の野党はそこまで過激ではないが、緊縮財政反対では同じだ。
ただ、危機にどう対応するか、具体的な処方箋を示しているわけではない。「悪いのは金融機関」などと敵を作ったり、富裕層への増税など耳障りのいい主張はするが、それだけで機器を克服できるわけでは到底ない。ユーロ圏からの離脱など別の傷みを伴う選択肢も、正面から取り上げられる事はなかった。
ポピュリズムが広がる背景には、ギリシャ経済の深刻な現状がある。ギリシャ経済は2008年以来5年連続でマイナス成長となり、2012年は-6.9%の見込み(中銀)。失業率も20%前後に上昇した。経済はまさに破綻状態。ポピュリズム的な主張が受け入れられやすい土壌がある。
選挙結果を受けて、市場ではギリシャ危機再燃の懸念が高まった。
▼ポピュリズムと現実主義
フランス大統領選はギリシャほどではないが、それでもポピュリズム的な要素があった。オランド氏は選挙戦を通じ、財政緊縮一辺倒でなく成長と雇用を重視する姿勢を強調。教育分野で6万人の雇用増などの政策を打ち出した。さらに、EU新条約の見直しも訴えた。
サルコジ氏の「財政再建重視」ではなく「財政も成長も」を訴える姿勢だ。ただ、こうした政策は財政支出を伴うが、財源は必ずしも明らかではない。国民もその辺の弱さは十分に承知していた(最終得票が52%と、サルコジ氏とそれほど開きがなかったのもそうした面の反映か)。それでも、サルコジ政権からの「変化」を望んだと解釈すべきだろう。
ただ、オランド氏は堅実な現実主義者でもある。大統領就任の後に、現実的な政策に軌道修正する可能性は十分にある。対EU政策でも、EU重視や対独関係重視の姿勢はサルコジ氏と変わらない。市場もその辺を織り込み、当面様子見の感じが強い。英FTはRisk assets shunned after eurozone votesと、市場がリスクを避けて様子見になる状況を表している。
5月6日には独地方選も行われ、ここでも与党に厳しい結果が出た。
▼ユーロ危機再燃の懸念
それにしても、今回の一連の選挙から透けてくるのは、欧州の抱える構造的な問題だ。
ユーロ危機は、2010年の表面化からすでに3年目。この間、当面の処理と再燃が繰り返され、出口が見えない状況が続いている。
金融緩和を進めてセーフティネットを強化する一方、特定国や金融機関で危機が起こると救済策をまとめてしのぐというパターンだ。しかし、根本にある経済・財政改革はなかなか進まない。財政赤字削減には、社会保障の切り下げや増税など傷みを伴うためだ。
選挙結果は、経済改革の難しさを改めて示した。先にあるのは、ユーロ危機の再燃懸念。さらにその向こうには、ユーロの構造そのものの変更(一部加盟国の離脱など)もあるかもしれない。ユーロを巡る環境は、一層波乱含みになった。
▼見えない未来志向
もうひとつ印象的なのは、選挙から未来志向の面が見えてこなかったことだ。
1970年代に国際競争力の低下や高失業に直面し、「欧州の動脈硬化」に陥った欧州は、「EU統合」と「サッチャー革命」という2つのビジョンを軸に再生の道を模索した。EU統合は市場統合から通貨統合、EU拡大へと進み、2008年の世界金融危機の時期までの成長を支えた。
欧州統合論者は、ユーロ危機の処方箋として一層の統合を主張する。「金融政策は統合したが財政はバラバラ」というユーロの持つ構造的問題を克服するには、財政まで含めた一層の統合という理屈だ。逆に、ユーロを柔構造にする案などもある。
選挙からはそうした未来志向のアイデアより、近視眼的なポピュリズム的意見が目立った。世界情勢や経済事情は今後また変わる。どこかのタイミングで状況打破する新たなアイデアが出てくることもあるだろう。しかし、少なくとも今回の選挙からその兆候すらうかがえなかった。
2012.5.7